「スーパーマリオ25周年」
『スーパーマリオ』生みの親たち 篇
# 1. 十字ボタンを押してジャンプ
- 岩田
- 『スーパーマリオ』(※1)25周年インタビューの最終回は、
開発のオリジナルメンバーで、いまも『スーパーマリオ』シリーズの
開発にかかわっている4人のみなさんに集まっていただきました。
『スーパーマリオブラザーズ』がどのようにして生まれ、
誕生から25年経ったいまも、
どうして多くの人から支持していただけるのか、
そんな話をお訊きできればと思います。
今日はよろしくお願いいたします。 - 一同
- よろしくお願いいたします。
『スーパーマリオブラザーズ』=1985年9月に、ファミコンで発売された横スクロールアクションゲーム。
- 岩田
- ところで・・・目の前に並べられたこの資料は、
どなたの机の引き出しのなかに眠っていたものなんですか?
- 中郷
- わたしのです。
- 岩田
- 中郷さん、前回に引き続き、
また秘蔵の資料を発掘してくれたんですね(笑)。 - 中郷
- はい(笑)。
- 宮本
- 物持ちいいなあ。
- 中郷
- これが宮本さんの・・・。
- 岩田
- わ、すごい(笑)、これはすごい・・・。
- 中郷
- 宮本さんが最初に書いた『スーパーマリオ』の仕様書です。
- 岩田
- ああ、これは『スーパーマリオコレクション』(※2)の
ブックレットに載っていたものですね。
『スーパーマリオコレクション』=『スーパーマリオコレクション スペシャルパック』。スーパーファミコン用の同名ソフトをWiiで復刻。「スーパーマリオ25周年」を記念して、2010年10月に発売されたスペシャルパッケージ。マリオ25年間の歴史や開発資料などを掲載した「ブックレット」と、マリオの音楽が収録された「サウンドトラックCD」付き。
- 中郷
- はい。当時はまだ手書きで、
押されたハンコを見ると、クリエイティブ課なんです。 - 岩田
- 情報開発課ができる前の課のハンコで、
日付は・・・昭和60年(1985年)2月20日。
ということは、初代『スーパーマリオ』の発売の年に書かれたものですね。 - 宮本
- ですから、2月20日に仕様書を書いて、
その半年後にはロム出しをするという・・・。
- 岩田
- なんて仕事が早い(笑)。
- 宮本
- (笑)。実はこれの前にも、
1984年の12月に書いたテスト仕様書があるはずなんですけど。 - 中郷
- それが見つからないんです。
どこを探しても見つからないんです。 - 宮本
- 確か・・・最初に中郷さんに言ったのは、
「大きいのがぴょんぴょんはねるのをつくってみてよ」と・・・。 - 岩田
- それで、大きいマリオが登場することになったんですね。
- 宮本
- そこで、1984年の12月頃に
『マリオブラザーズ』(※3)の倍くらいの大きさのマリオが
ぴょんぴょん跳んだら、どんな手ごたえになるのか、
中郷さんの会社であるSRD(※4)のプログラマーさんに頼んで
テスト版をつくってもらったんです。
ボタンを押したら、ぴょんぴょんはねて、
連打したら、空中もぴょんぴょんとはねるようなものを。
そしたら、「いい感じよね」ということになって。
『マリオブラザーズ』=1983年にアーケード版が登場し、同年9月にファミコン版が発売されたアクションゲーム。
SRD=株式会社エス.アール.ディー。1979年に設立された、ゲームソフトのプログラムの受託開発や、CADパッケージの開発・販売などを行う会社。本社は大阪にあり、京都事業所は任天堂本社内にある。代表取締役社長は中郷俊彦氏。
- 岩田
- そのテスト版ではすでに空は青かったんですか?
- 中郷
- いや、まだです。
- 宮本
- え?青かったんじゃなかった?
- 中郷
- いや、まだ真っ黒でした。
- 岩田
- 「社長が訊く『NewスーパーマリオWii』」のとき、
中郷さんは、画面に映った青空を見て
「ファミコンでもこんな鮮やかな画面が出せるんや」と
驚いたことを語っていましたよね。 - 中郷
- それは背景がスクロールするようになってからのことなんです。
- 岩田
- 最初はマリオだけを動かすような感じだったんですか?
- 手塚
- いえ、四角いものだけが動いていたんです。
- 岩田
- 最初は四角いものを動かす実験からはじまったと。
- 宮本
- はい。四角いものをとりあえず動かしてみて、
「次はこういうのをつくろうか」とか言いながら、
なにか別のことをしていたんです。 - 中郷
- なにをやってたんでしょうね、あの実験のあと。
- 宮本
- 確か『ゼルダ』(※5)の元をつくったり・・・。
- 中郷
- ああ、そうでしたね。
『ゼルダ』=『ゼルダの伝説』。1986年2月に、ファミコンのディスクシステム用ソフトとして同時発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
- 宮本
- そうそう、思い出してきました。
四角いもので『マリオ』の実験をしたあと、
『ゼルダ』の元になる実験をはじめたんです。
これ(仕様書)を書いたのは翌年の2月でしょう? - 岩田
- ええ、2月です。
- 宮本
- なので、「いいかげん、そろそろ決めてください」と
中郷さんからせっつかれるように書いた仕様書がこれなんです。
12月につくったテスト版の動きを見ながら、
一発書きしたものなんです。 - 中郷
- だから、マリオも四角ですし、
コントローラのボタンの形も四角なんですよ。
- 岩田
- まだ丸ボタンになっていなかったんですね。
操作方法は・・・・・・あれ?
ジャンプは「十字ボタンの上」になってますよ、宮本さん。
- 宮本
- ああ・・・。
- 中郷
- ホントだ。
- 岩田
- Aボタンは道具による「アタック」・・・。
これ、『ゼルダ』ですかね。ひょっとして。 - 中郷
- え?
- 宮本
- おかしいな。
「十字ボタンの左右でマリオが2段階のスピードに・・・」。 - 中郷
- やっぱりマリオですよ。
- 手塚
- ふふふ(笑)。
- 岩田
- しかも「Aボタンは素手の場合はキックで、ライフル、ビーム銃」
とか書いてありますよ。本当に『マリオ』なんですか、これ(笑)。 - 一同
- (笑)
- 宮本
- きんと雲で飛んだとき、ビーム銃とかを使うつもりだったんです。
- 岩田
- 空を飛ぶことは最初からイメージしていたんですか?
- 宮本
- はい。しかもその時点では、きんと雲じゃなくて、
ロケットで空を飛ぶ予定だったんです。 - 岩田
- え?マリオがロケットで飛ぶんですか?(笑)
あ、確かに別のページにはそう書いてありますね。 - 宮本
- そこで地上と空とで、アクションを分けることにして、
あのときはたぶん、まだ迷っていたんでしょうね。
完成する6カ月前なのに(笑)。 - 岩田
- それにしても、最初の頃は
Aボタンでジャンプではなかったというのは驚きですね。 - 宮本
- 僕も知らんかった!
- 一同
- (笑)