「スーパーマリオ25周年」
『スーパーマリオ』生みの親たち 篇
# 5. “メモリ減らし”のために
- 岩田
- 近藤さんが『スーパーマリオ』の音楽をつくるとき、
最初にどのようなことを求められたんですか?
『スーパーマリオ』といえば、あの「地上のBGM」を
思い浮かべる人がすごく多いのですが、
あの曲はどうやって生まれたんでしょうか? - 近藤
- まず、実験段階のときから僕も遊んでいました。
最初に『スーパーマリオ』の試作を見たとき、
いままで見たこともないような
とても大きなキャラクターが動いていて、
そのことに強いインパクトを感じたのを覚えています。 - 岩田
- スーパーマリオになったときのマリオですね。
- 近藤
- というよりも、最初の試作段階では
通常のサイズのマリオはいなかったんです。 - 岩田
- そうでしたね。大きいキャラクターを動かすことが
テーマで実験がはじまったんですからね。
けっこう早い段階から
サウンドに取りかかっていたわけですか。 - 近藤
- はい。
- 岩田
- ファミコン黎明期のゲームづくりというのは、
完成の1カ月くらい前になってから
「音を付けてください」
みたいに言われるようなことが多かったですよね。 - 近藤
- そうでしたね、はい。
- 岩田
- でも、そういうつくり方ではなかったんですね、
『スーパーマリオ』の場合は。 - 宮本
- あとからサウンドを入れるとCPUが食われるから
エライことになる可能性があったんです。
なので、試作段階からダミーでもいいので
音を鳴らしておこうと。 - 岩田
- ああ、そうなんですね。
確かに、音を出すためにもCPUを使うので、
音を入れると、ぎりぎり間に合っていたCPUの処理が
間に合わなくなるということが、当時ときどきありましたよね。
スーパーマリオは“集大成”のソフトだったので、
音についても用意周到に進めたんですね。 - 宮本
- 音はそうやってましたね。
- 近藤
- それで曲をつくることになったんですけど、
最初にできたのは「地上BGM」じゃなかったんです。 - 岩田
- (仕様書を読んで)「地上BGM」の曲の指示は・・・
「地上、ウエスタン調、パーカッションにムチ風の音」
と書いてありますが・・・実際の曲とぜんぜん違うんですけど(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- でも、「地上を楽しい」とも書いてあって、これは合ってますね。
あと、「地下ちょっと暗く」「水中ぶくぶくが入る」と・・・。 - 近藤
- 「水中のBGM」はイメージが湧きやすかったので、
とてもつくりやすくて、いちばん最初にできた曲です。
そこで、「地上BGM」をつくったんですが、
「社長が訊く『スーパーマリオコレクション』」でも言いましたように、
最初につくった曲がものすごく不評でした。 - 岩田
- 最初につくった曲が「のほほんとした曲」だったので、
ボツにしたという話でしたよね。 - 近藤
- はい。背景の青空と緑に合わせようとしたんですけど、
マリオが走ったり、ジャンプするリズム感と
ぜんぜん合っていなかったので「気持ち悪い」と言われて。
- 岩田
- 最初は見た目のイメージで曲をつくったんですよね。
- 近藤
- そうなんです。それで実際に試作品を触ってみて、
いまの曲につくり変えました。 - 宮本
- 最初の曲のときは確かに「違うなあ」と言ってたんですけど、
その後にできた曲は一発で決まったんですよ。 - 近藤
- そうでした。
- 宮本
- それはもうピッタリで。
- 岩田
- 2曲目をつくった後で
大きく変えるようなことはなかったんですか? - 近藤
- はい。いまの曲のまんまです。
- 岩田
- もしかすると最初から試作品を触ることができたことが、
あの曲が生まれているひとつのキッカケなのかもしれないですね。 - 近藤
- そうですね。実際に触って、
リズム感を合わせることが、やっぱり重要だと思いました。 - 宮本
- ただ、もちろん僕も「地上BGM」はいい曲だと思ったんですけど、
「地下のBGM」ができたときは、それ以上にビックリしました。
というのも、効果音でつくっているのに
ちゃんと曲になってるというインパクトがあったんです。
だから「音楽を専門に勉強してきた人とやってよかったなあ」と、
あのときは本当にうれしかったですね。
- 近藤
- あの・・・。
- 岩田
- はい?
- 近藤
- 当時、宮本さんからあまりほめられた記憶がなかったので、
いま初めてほめられたような気がして、うれしいんですけど(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 25年経ってやっとほめられたんですか?(笑)
宮本さん、もうちょっとほめておいたほうがいい気もしますが(笑)。 - 宮本
- まあ、このように育っているわけですから・・・(笑)。
でも、この前ほめたばっかりだよね。
「『ヨッシーアイランド』(※14)のアスレチックの曲がいいね」と。 - 近藤
- はい(笑)。
- 岩田
- (笑)。
じゃあ、25年に1回じゃないんですね。 - 宮本
- 先週も2回くらいほめました。
- 一同
- (笑)
『ヨッシーアイランド』=『スーパーマリオ ヨッシーアイランド』。1995年8月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
- 岩田
- ところで、効果音についても訊きたいんですけど、
マリオが大きくなったりする変身音は、すぐにできたんですか? - 近藤
- あの音もいろいろ試行錯誤しました。
やっぱり頭のなかでイメージするだけでは
なかなかできる音ではありませんので。 - 岩田
- あの変身音は、ほかではあまり聞いたことのない音で、
しかもすごく耳に残る独特の音なんですよね。
- 近藤
- そうですね。
- 宮本
- あの音をつくるとき、「たとえばこんな感じの音に」とか、
そんな指示を、僕らはしたんでしたっけ? - 近藤
- そういう指示はなかったと思いますね。
- 宮本
- 「(音階をあげながら)♪ジャンジャンジャンジャン」とか、
それともファンファーレのように「♪パッパラッパラー」とか言ってました? - 近藤
- いえいえ(笑)、
「大きくなったときの効果音を」としか言われなかったなような・・・。 - 宮本
- やっぱり。
- 一同
- (笑)
- 近藤
- マリオはフラッシングしながら大きくなるので、
それに合わせて、あのような効果音にしたんです。
あと、メモリを節約するために
同じ音をいろいろ使い回す必要があって、たとえば
小さくなるときは土管に入ったときの音といっしょにしたりだとか。 - 宮本
- 土管に入っていくときは「コンコンコンコン」と言ってるし、
でもそのへんは、わからないでしょ。 - 岩田
- ああ、 確かに。
- 近藤
- カメを踏むときの「ふにゅ」という音も、
泳ぐときの「ふにゅ」という音もいっしょなんです。 - 岩田
- 脳のなかでは違う音でしたけど、確かにそうなんですね。
- 近藤
- それは全部“メモリ減らし”のためなんです。
- 宮本
- その“メモリ減らし”のおかげで
「これでブロックがあと3個は置ける」とか言って
よろこんだりしていました(笑)。