ゲームセミナー2009〜『トモダチコレクション』ができるまで〜
3. 「パンツを脱げ」と言われて
- 岩田
- さて、こうしてMiiは生まれましたが、
言ってしまえば、Miiを生み出すために
さんざん振り回された高橋さんたちは、ようやく開放されて、
『大人のオンナの占い手帳』改め
『トモダチコレクション』をつくることになったわけですが、
最初は何からはじめたんですか? - 高橋
- 最初は大人の女性に向けてつくろう、ということだったんですけど、
『似顔絵チャンネル』(※13)をつくっているうちに
DSが大人の女性にもどんどん普及してきましたので、
老若男女、誰でも遊べるようなゲームに
方針転換しようということになって、
Miiができてから、『みんなで投票チャンネル』(※14)を開発しながら、
坂本さんといろいろ相談していきました。
『似顔絵チャンネル』=Wii本体に内蔵されているWiiチャンネル。顔のパーツを組み合わせるカンタン操作で、家族や友人などの似顔絵キャラクターのMiiをつくることができる。
『みんなで投票チャンネル』=WiiショッピングチャンネルからダウンロードできるWiiチャンネルのひとつ(無料)。配信されるアンケートに投票し、投票結果を楽しむことができる。
- 岩田
- 高橋さんは、WiiでMiiを担当したそのあとすぐに
『みんなで投票チャンネル』も担当することになって、
帰ってくるのがさらに遅れてしまったんですよね。 - 高橋
- Wiiが発売されたのが2006年の12月で、
帰ってこられたのが、2007年の4月でした。 - 岩田
- で、そこで仕切り直したんですね。
- 高橋
- はい。その4月の時点では、
すでにコンセプトは固まっていまして、
「つい人に見せたくなる、究極の内輪ウケソフト」
ということで、開発をはじめました。 - 岩田
- でも、「究極の内輪ウケ」というのは、誤解されると、
ズレてしまいかねない、難しいキーワードですよね。
「人に見せたくなる」ということを足すことで、
みなさんのなかでイメージを共有させたということなんですか? - 高橋
- それは僕が答えるよりも
直接訊いていただいたほうが(笑)。 - 岩田
- じゃあ岡本さん、何を言っているのかわかりました?
「究極の内輪ウケ」とか言われて。 - 岡本
- はい。そもそも、わたしたちのグループ自体が
究極の内輪ウケで、ものをつくっているような
感じがありましたから。 - 岩田
- ああ、「こんなの、つくってみたんだけど、見て見て」と、
お互いにみんなで見せ合いっこしてるような、
そういうチームでしたよね。 - 岡本
- そうです。
それで、わたしはそういうのは嫌いではないので。 - 岩田
- まんざらでもなかったんですね。
- 岡本
- 楽しいなと思いました(笑)。
- 岩田
- (笑)。
伊藤さんはいつ頃巻き込まれたんですか? - 伊藤
- わたしは最後の半年間に入りました。
- 岩田
- じゃあ、わりと最後のほうですね。
- 伊藤
- はい、いちばん最後に入りました。
- 岩田
- その頃はどんなものでした?
もうけっこうかたちができていて、流れもできていたんですか? - 伊藤
- はい、コンセプトはすでに定まっていまして、
ロムを初めて見たときは、Miiがすでに動いていたんですけれど、
ありきたりのジーンズをはいたMiiが
『お料理ナビ』のピエール(※15)の無機質な声でしゃべっていて、
それがちょっとシュールだったんです。 - 岩田
- 音声合成エンジンの声でしゃべってたんですね。
- 伊藤
- はい。まずそれに度肝を抜かれました。
『お料理ナビ』のピエール=DS用ソフト『しゃべる!DSお料理ナビ』(2006年7月発売)に登場したコックさんのキャラクターのこと。音声で料理の手順を説明するようになっている。
- 岩田
- ゲームのサウンドというと
こういう世界観だから、こういう音楽をということで、
ふつうは開発していきますよね。
ところが今回は、何でもぐちゃぐちゃに入っているような、
雑食みたいなソフトでしたので、
それに音楽をつけてと言われて、
途方に暮れたりしませんでしたか? - 伊藤
- やっぱり苦労しました。
わたしが最後の半年間に入る前に、
すでにBGMは椎葉(大翼)さん(※16)という・・・
あ、椎葉さんはこのセミナーの卒業生ですね。 - 岩田
- はい。受講生のみなさんの先輩ですね。
椎葉大翼=『トモダチコレクション』の音楽を担当。企画開発部に所属し、『えいご漬け』や『もっとえいご漬け』などの音楽も担当。
- 伊藤
- その椎葉さんが手がけられたBGMが
すでに少し搭載されていたんです。
その曲が、とても不思議な感じで、
いままで聴いたことのないようなものでしたので
「これはとてつもない曲づくりを担当させられることになるんだなあ」
と思いました。 - 岩田
- その後、曲を坂本さんに聴いてもらうと
「気合いが入っている」という変なダメ出しを受けたり、
あげくにちょっと気取った曲をつくると、
「パンツを脱いでいない」と言われたりとか(笑)、
わたしはそういった話を「社長が訊く」のときに
椎葉さんから訊いたのですが、
伊藤さんはそのような言葉を理解できましたか? - 伊藤
- はい。坂本さんと椎葉さんのやりとりのメールは
転送していただいて読んだんですけど、
確かに「パンツを脱いでいない」と書いてありました。
- 受講生
- (笑)
- 岩田
- 会社のなかでの、業務上のメールだとは思えませんが(笑)。
- 伊藤
- そうですね(笑)。
- 岩田
- 女性相手だと、セクハラになりかねませんし(笑)。
- 伊藤
- でも、わたしは自分から言ってました。
「パンツの脱ぎ加減はいかがでしょうか?」と。 - 受講生
- (笑)
- 岩田
- ・・・はい。
違う表現ですると、『トモコレ』の世界における音楽とは、
何がポイントだったんでしょうか?
たぶん「パンツを脱げ」だけだと、
受講生のみなさんの頭のなかにクエスチョンマークが
どんどん増えていくだけのような気がしますので。 - 伊藤
- チープな感じ、と言ったらいいんでしょうか。
しかもあまり耳につかないような曲ですね。
そもそも、このソフトは
BGMで引っ張っていくようなものではありませんから・・・。 - 岩田
- でも、チープな感じで、
耳につくなという音楽を要求されるのは、
音楽をつくる人にとっては
たまらなく侮辱されてるような気持ちになりませんでしたか? - 伊藤
- 辛いです(笑)。
でも、わたしの場合はつくりこみがけっこう苦手でして、
オーケストラサウンドとか、なかなかつくれないんです。
ですから、それがコンプレックスだったのですが、
このプロジェクトでは、1トラックの曲とか、
ひとつだけのメロディとか、
手抜きとしか思えないような曲を提供すると、
喜んでいただけたんです(笑)。 - 受講生
- (笑)
- 伊藤
- 「あ、わたしでも提供できるんだ」と、
すごくしっくりきたのを覚えています。 - 岩田
- なるほど。苦手が逆に強みになるような感じですね。
- 伊藤
- はい。
- 岩田
- それでは海野さんが巻き込まれた話も訊きましょう。
海野さんは任天堂に入社して、配属が決まって、
最初の仕事がコレだったんですね。 - 海野
- 最初の仕事がコレでした。
- 岩田
- いいですね、入社早々に
いきなりダブルミリオンのソフトに当たるなんて。 - 海野
- でも恐いです、それはそれで(笑)。
- 岩田
- 最初にこれを見て、どう思いましたか?
- 海野
- 最初に見て、そのときはすでに
MiiがDSのなかで動いていて、
「あ、しゃべった!」という感じでした。
中川(正宣)さん(※17)のつくったミニコンテンツも
10個か20個くらいすでに入っていました。 - 岩田
- 中川さんというのは、
岡本さんと同期のプログラマーの人で、
彼が思いつきでいろんなものをどんどん開発して、
それをチームのみんなに見せて、ウケさえすれば、
誰かがゲームのなかに、なんとか入れてくれるだろうと考える、
かなり自由奔放なタイプのプログラマーの人です。
中川正宣=『トモコレ』では、似顔絵ツールやミニゲームなど、多くのプログラムを担当した。企画開発部所属。
- 海野
- その中川さんのコンテンツがたくさん入っていて、
高橋さんから「内輪ウケのソフトなんです」という説明を聞いて、
僕は最初、「お客さんが自分でコンテンツをつくって、
人に見せるゲームなのかな」と思ったんです。 - 岩田
- 最終的にどういう経緯で、
海野さんの担当範囲が決まっていったんですか? - 海野
- 僕は最初、お店だったり、
市役所のなかにあるトモダチリストだったり、
1年目ですから、そういうわりと地味な部分からはじめたんですけど、
2年目に入ったあたりから、
マンションのなかに入った部分も任せられまして、
そのときに「ここは重いところだけどがんばって」
と高橋さんから言われたんです。
- 岩田
- 確かにあそこは重いところですよね。
- 高橋
- はい。海野さんには
Miiの悩みごとを叶えてあげたり、
食べ物をあげたり、Miiとコミュニケーションをする部分の
すべてを担当してもらいました。
2年目の海野さんに任せたのは、
人手が足りなかったということで・・・。 - 岩田
- なんと正直な告白(笑)。
- 受講生
- (笑)
- 高橋
- ただ、海野さんはすごくしっかりした人なので、
きっちりした部分をちゃんとつくってくれると思っていました。