『えいごで旅する リトル・チャロ』
1. まず面白い物語を
- 岩田
- 今日はわざわざ京都まで
足をお運びいただいてありがとうございます。 - 長野・純名
- いえいえ。
- 岩田
- 以前からNHKさんとはご縁があって、
これまでいくつかのソフトでご一緒させていただきましたが、
その中でも今回の『リトル・チャロ』では声の収録で
純名さんに、ものすごくお世話になったと聞いています。
本当にありがとうございました。 - 純名
- あ、いえ(笑)。こちらこそお世話になりました。
- 岩田
- 今回、第一部では
『リトル・チャロ』という番組(※1)がどうやって生まれ、
そして、女優として活躍されている純名さんが
どういうご縁でチャロの声優を担当することになったのか、
そういったお話をお訊きできればと思っています。
よろしくお願いいたします。 - 長野・純名
- よろしくお願いいたします。
『リトル・チャロ』という番組=2008年春から1年間、NHKのテレビ・ラジオで放送された、全編英語のドラマ作品。2010年春から続編の『リトル・チャロ2』が放送されている。原作は、わかぎ ゑふ氏。
- 岩田
- まず、プロデューサーの長野さんにお訊きしたいのですが、
『リトル・チャロ』のプロジェクトはどうやって
はじまったんですか? - 長野
- はい。えー、どこからお話ししたものか・・・
かれこれ3年以上も前の話になります。
その当時、NHKのなかで大きな動きがありまして、
クロスメディアを標語に、
「これからはテレビやラジオだけの時代ではない」
「いろんなメディアで多面展開できるような
力を持ったコンテンツを開発しなさい」という号令がかかったんです。
- 岩田
- もともとテレビは、メディアの王様で、
テレビだけで表現する時代がずっと続いてきたわけですが、
それ以外のメディアとも連携していくべきだということに
なったんでしょうか。 - 長野
- その通りです。
「テレビ以外にラジオやウェブ、それに携帯電話や紙媒体など、
いろんなメディアと連動する何かをつくりましょう」ということでした。
そこで、そのようなクロスメディアを展開するときに
親和性が高いのは語学番組だろうということで、
企画を考えることになったんです。 - 岩田
- では、最初はお題として降ってきたんですね。
でも、もともと長野さんは歴史番組をつくってこられた方だと
お聞きしました。 - 長野
- はい。『その時歴史が動いた』(※2)といった、
歴史のなかでドラマを紡いでいく番組をつくってきました。 - 岩田
- そのような長野さんに対して、
「語学番組をつくれ」という話は、
けっこう無茶な要求に聞こえるんですけど。 - 長野
- いえ、実は『その時歴史が動いた』のあとに、
『英語でしゃべらナイト』(※3)という番組に関わることになり、
英語の畑にもちょっと足を踏み入れることになったんです。 - 岩田
- ということは、
英語の番組にも、以前からご縁があったんですね。 - 長野
- はい。で、クロスメディアで語学をやろうという話が出たときに、
わたしがNHKエデュケーショナル(※4)の
語学部という部署に出向することになりまして、
そこで『リトル・チャロ』が生まれたんです。
『その時歴史が動いた』=2000年春から2009年度まで、NHKで放送された歴史情報番組。司会は松平定知氏。
『英語でしゃべらナイト』=NHKのレギュラー番組として、2003年春から2009年度まで放送された英語トークバラエティ。
NHKエデュケーショナル=語学番組や『おかあさんといっしょ』『きょうの料理』など、主にNHKの教育番組を制作する組織。1989年設立。
- 岩田
- 『リトル・チャロ』の放送は、確か2008年からでしたよね。
- 長野
- はい。2008年の春から放送がスタートしましたので、
『チャロ』の最初のアイデアが出たのは、
その前年の2007年の6月頃です。
わたしは5月末にNHKエデュケーショナルに出向して、
6月の頭にはだいたいの構想ができていましたから・・・。 - 岩田
- それってむちゃくちゃ早くないですか、仕事が。
- 純名
- そうですよね(笑)。
- 長野
- いや、えー、というのも
もともと『リトル・チャロ』の企画を考える前から、
「クロスメディアとは何なのか?」ということを
毎日のように考えては、アイデアを温めていたんです。
で、わたしには『英語でしゃべらナイト』という英語番組と、
歴史番組のなかで物語を紡いでいくという
2種類の仕事の経験がありましたので、
それらを合体させて、物語を通して、英語を学んでいくという
そんなコンテンツができないものだろうかと考えたんです。 - 岩田
- ああ、なるほど。
一見、関係ないようで、
これまでされてきた仕事と関係があるんですね。 - 長野
- もちろんそうです。
で、物語があると、当然そこには世界観があるわけです。
その世界観をキーコンセプトにして展開をすれば、
テレビだけじゃない、ほかのメディアでの展開も可能だろうと思いました。 - 岩田
- 最初に企画を考えたとき、番組の視聴者は、
どのような方々をイメージされていたんですか? - 長野
- あくまでも英語番組としてスタートするということでしたので、
まずは英語に何らかのかたちで興味のある方ですよね。
ただ、わたし自身、英語がまったくできない人間なので・・・。 - 純名
- え?そんなこと、ないですよね??
- 長野
- いやいや、できないんです(笑)。
少なくともこの企画をはじめた当時はほとんどできなかったので、
やっぱり自分のレベルに合わせた人たちにもついていけるような
番組を提供したいという想いがありました。 - 岩田
- 英語が不得意な人にも
興味を持ってもらえるような語学番組をつくろうとされたんですね。 - 長野
- はい。そもそも英語ができるような人たちは、
放っておいてもマジメに勉強しますよね。 - 岩田
- 確かにそうかもしれませんね(笑)。
- 長野
- でも、「英語ができたらいいな」とか、
「英語の勉強をやってみようかな」とは思ってるけど、
いざはじめてみると、あまり続かなかったり、
途中で挫折してしまったりというような方々も
たくさんいらっしゃると思うんです。
そういう方たちに対して、
少しでも長く英語に触れていただけるような、
連続性のあるコンテンツができないかなと考えたんです。
すると、やっぱり中身が魅力的であることが重要だろうと。
たとえば、英語はそっちのけでもいいので、
ストーリーにハマりこむようなものをつくれたらと・・・。 - 岩田
- つまり、ちょっと極端な言い方をすると、
そもそも英語にはそれほど興味があるわけではないけれど、
面白い物語だから番組をずっと見続けることになって、
その結果、英語が知らず知らずのうちに身についていた、
というところをめざそうとされたんですね。 - 長野
- まさにその通りです。そこを狙った企画でした。
- 岩田
- でもそれって、NHKの語学番組からすると、
普通ではない考え方ということにはならなかったんですか? - 長野
- そうですね、あまり例がなかったかもしれません。
もちろん、楽しく、面白くしようというのは、
どのような番組をつくるときも考えることなんですけど、
語学番組でありながら、英語よりも
面白さのほうを優先するという発想は、
なかなかなかったんじゃないかなと思います。
でもわたしは、ストーリーをつくっているときは、
英語のことはいっさい考えずに、いかに面白い物語にするか、
いかに魅力的なキャラクターを立てるか、
ということばかり考えていました。
- 岩田
- でも、語学番組のプロデューサーが
すごいことをおっしゃいますね(笑)。
「英語はそっちのけでもいい」とか、
「英語のことはいっさい考えなかった」とか。 - 長野
- そうですね(笑)。
でも少なくとも、わたしのように英語ができない人間が
考えたからこそできた企画だろうとは思います。 - 岩田
- なるほど。
それでは純名さんにお訊きします。
純名さんがチャロの声を担当することになったのは、
どのようなご縁があったからなんですか?
そもそも「英語番組の声優に、なぜ自分が?」みたいに
疑問に感じられませんでした? - 純名
- いえ、わたし、実はずーっと語学番組をやりたいと思っていたんです。
- 岩田
- えっ、そうなんですか。
- 純名
- もともと英語が好きだったこともありますし、
両親が教師で、父は英語の教師だったんです。 - 岩田
- では、運命のようなものなんですね。
- 純名
- いや、そんなことでもないんですけど、
実際、父からはあまり習いませんでしたし(笑)。
ただ、わたしは宝塚(※5)に入ったものですから、
もともとミュージカルが大好きなんです。
ところが、本場のものはほとんどが英語なんですね。
それに、香港映画をやらせていただいたときも、
撮影現場での会話はすべて英語だったんです。
そこで「英語を身につけないと、今後はお仕事ができないな」と思って、
個人的に短期留学をすることにして、
ニューヨークに行ったりしてたんです。
宝塚=宝塚歌劇団。女性の団員だけで構成され、レビューやミュージカルを上演している。1913年に設立された宝塚唱歌隊が前身。花組トップ娘役をつとめた純名里沙さんは、1990年から6年間、宝塚歌劇団に在籍した。
- 岩田
- ニューヨークに行って、
事前にチャロの気持ちを味わっていたんですね(笑)。 - 純名
- そうですね(笑)。
それで、忘れもしないんですけど、
舞台公演のお稽古中にある日突然、
長野さんが稽古場にお見えになって・・・。 - 岩田
- プロデューサー自らが口説きに行かれたんですか?
- 長野
- はい。
- 純名
- (手を広げて)こんなにたくさんの資料をお持ちいただいて、
見てみると、すごくかわいいキャラクターでしょう?
ですから、何も迷うことなく、
「ぜひやらせてください」と言ったんです。 - 岩田
- 長野さんは、純名さんが語学番組に興味があることを
事前におわかりになったうえで楽屋を訪ねられたんですか? - 長野
- いえ、そのときは「興味を持っていただければいいな」
と思ったくらいで、「当たって砕けろ」の精神でした。
そもそもわたしが純名さんにオファーした理由をお話ししますと・・・。 - 純名
- あ、それ、聞きたいです!
- 岩田
- 今日初めて明かされるんですか?(笑)
- 純名
- そうです(笑)。