『えいごで旅する リトル・チャロ』
6. ゲームオーバーのないゲームを
- 岩田
- そもそもどうして服部さんが
『リトル・チャロ』の担当になったんですか? - 服部
- わたしはもともと英語が得意なわけじゃないんです。
「服部さんは犬が好きだから、これを担当して」と
山上さんから言われました。 - 岩田
- ああ、それで、企画書を見たら
チャロのかわいさにひと目ぼれしてしまったんですね。 - 服部
- そうなんです(笑)。
- 岩田
- そのあとすぐにジュピターさんに相談したんですか?
- 服部
- はい。もともとジュピターさんの
グラフィックセンスがすごく好きだったので、
チャロを表情豊かに、かわいらしくしてくれるに違いないと思って、
最初にお話をさせていただきました。 - 村上
- ありがとうございます。
- 岩田
- 村上さん、『リトル・チャロ』の話が突然やってきて、
戸惑いませんでしたか? ゲーム屋さんとしては。 - 村上
- 実は僕、それまでにいくつかの学習ソフトの案件を
担当していましたので、最初はわりと
得意なジャンルだと思ってお受けしたんです。 - 岩田
- でも、今回の『リトル・チャロ』は
いわゆるこれまでの学習ソフトではありませんよね。 - 村上
- ええ。ですから、1回目の企画提案をさせてもらったとき、
「学習色が強すぎるからダメです」とNGが出たんです。
「そういうのではなくて、勉強をしたくないような人が
楽しめるソフトにしたいんです」と。
それがまず、ひとつ目の大きな壁でした。
- 岩田
- 「勉強をしたくないと思っている人が
できるようなソフトじゃないといけない」というのは、
第1部で長野さんが話してくれたコンセプトと
すごくかみ合っているんですけど、
服部さんは最初からそれをつかんでいたんですか? - 服部
- そうですね。というのも、いま放送中の
『リトル・チャロ2』のキャッチコピーに
「いい話を見るだけの英会話」というものがあります。
わたしはそれを聞いたとき、「夢のような話だなあ」と思いました。
つまり、いい話を見るだけで英語ができるようになるんだったら、
「そんなに素晴らしいことはないな」と思ったんです。 - 岩田
- 少なくとも英語への苦手意識や
嫌いな気持ちが減るという意味ではそうですよね、きっと。 - 服部
- はい。なので、ゲームもそういう方向でいくべきなんだろうと。
もともとわたしには、英語への苦手意識がありますし、
プロデューサーの山上さんはその気持ちがなおさら強いのですが、
同じような想いをしている人はいっぱいいると思うんです。 - 岩田
- たぶん、日本人の大多数はそっちですよね。
- 服部
- ですよね。で、DSでも『えいご漬け』(※11)だったりとか、
英語系のソフトはいっぱい出ているんですけど、
やっぱりちょっと敷居が高かったりですとか・・・。
『えいご漬け』=『英語が苦手な大人のDSトレーニング えいご漬け』。2006年1月に、DS用ソフトとして発売された英語トレーニングソフト。第2弾の『もっとえいご漬け』は、2007年3月発売。
- 岩田
- 『えいご漬け』は英語への学習意欲がある人に向いてますよね。
面白い要素はいろいろありますけど、
基本的にはストイックなソフトですから。 - 服部
- でも、『リトル・チャロ』はそうではなくて、
まさに「いい話を見るだけの英会話」じゃないですけど、
「面白いゲームを遊ぶだけで、英語に親しむことができたら、
こんなに素晴らしい話はないよね」
という発想からはじまっていますので、
ジュピターさんが最初に企画を出してくださったときに
「こんな修業みたいなことはできません」と、
そういう話からはじまりました。 - 村上
- そうでしたね。で、そのときに
もともとチャロが持っているかわいらしさをベースに、
「ゲームとしてとにかく面白いものをつくってください」
というお話をいただいたんです。 - 岩田
- それで、チャロが冒険する
アドベンチャーの構造になったんでしょうか。 - 村上
- その時点ではまだアドベンチャーではありませんでした。
ただ、そのときにもうひとつ言われたことがありまして、
「ゲームオーバーの仕組みを絶対に入れないでください」
ということがありました。 - 岩田
- 服部さん、
「ゲームオーバーを入れないで欲しい」という、
その心は何だったんですか?
- 服部
- やっぱりゲームオーバーになるというのは、
自分をちょっと否定されているような、
そんな感じがあるように思ったんです。 - 岩田
- 自分が努力して、ようやくここまで来たのに、
「ゲームオーバー」と言われると
「わたしは何だったの?」と意欲がそがれてしまうということですか? - 服部
- そうです。シンプルなゲームだったら、
それはモチベーションにつながったりすると思うんですけど、
自分が英語を頑張ろうとしているのに、
そこで「ゲームオーバー」と言われてしまうと・・。 - 岩田
- 「ゲームオーバー」と「いい話を見るだけの英会話」は
相容れないというわけですね。 - 服部
- はい。「見ているだけで、慣れ親しめるように」
というコンセプトからすると、
ゲームオーバーというのは違うんじゃないかという話を
最初からしていました。 - 岩田
- ちなみに、村上さんはゲームオーバーのないゲームを
これまでにつくったことはありましたか? - 村上
- いや、全くありません。
- 岩田
- じゃあ・・・どうしていいかわからないですよね。
- 村上
- はい。ですから、けっこう悩みました。
- 岩田
- そこからしばらく悩みの時期に入ったんですか。
- 村上
- のちにハードルが高くなる原因にもなりましたし。
- 岩田
- わたしが山上さんとの定例面談で、
「『リトル・チャロ』はどうなってますか?」と聞いたら、
「いや、あれはもうちょっと待ってください・・・」という感じで、
それ以上、詳しく聞こうとすれば
気まずくなるような雰囲気があったんです(笑)。
きっと、その時点では、先が読めてなかったんだと思います。
そんな期間がしばらく続いていたような記憶があるんですけど。 - 服部
- 1年くらいはそういう状態だったと思います。
- 村上
- そうですね。
- 服部
- 最初の1年間は、
わたしたちとNHKエデュケーショナルさんの間でも、
ちょっと気まずい感じがあったんです。
まったく何も進みませんでしたから、
「どうなっているんだろう?」
と思われていたのではないかと思います。 - 岩田
- 鵜川さん、不安になりませんでしたか?
- 鵜川
- 不安というか、ほとんど連絡を取り合っていない状態でした。
数カ月経ってから「若干進んでいます」みたいな連絡があって、
「・・・じゃあ一応、企画は生きているんだな」と。
- 服部
- (笑)
- 岩田
- 「この人たちは本気なんだろうか?」
とか思われませんでしたか? - 鵜川
- いやいや、本気だとは思っていました。
ただ、任天堂さんもいろんなソフトを何本も、
同時につくられているのはわかっていますから、
もしかしたら後回しになってるのかなと(笑)。 - 服部
- ぜんぜん後回しになんかしてません(笑)。
ちゃんと全力でやってたんですけど・・・。 - 岩田
- 確かに、ある時期の服部さんは
『リトル・チャロ』にかかり切りになっていましたよね。 - 服部
- はい、頑張っていたんですけど、
「進んでますよ」という連絡をしたいと思いつつも、
「ほとんど進んでいないから、とくに何も言うことないし・・・」
みたいな期間がずっと続いていたんです。 - 岩田
- お互い、東京と京都とに離れているだけに、
余計に様子がわかりにくいところもあったんでしょうね。