『えいごで旅する リトル・チャロ』
8. 最後の最後で命が吹き込まれて
- 岩田
- それにしても1月の時点で1万だったセリフが、
どうして最終的に1万8000にも増えることになったのですか? - 服部
- 本編で描かれていない部分をかなり入れたからなんです。
- 岩田
- それはどういうプロセスで入れることになったんですか?
- 服部
- もともとの原作は1本道のお話なので、
それだけだとゲームにしようがなかったりするんです。
そこで、たとえば物語中に「赤い星を手に入れてきました」
というシーンがあったとしたら、それをどうやって手に入れたのかを
ゲームにすることで展開をふくらませたんです。 - 岩田
- つまりオリジナルのストーリーを足したんですね。
- 服部
- はい。ですから、
番組の本編のお話のなかでは語られていない部分を、
こちらで足させていただいた部分がかなりあります。 - 岩田
- ただ、そうなると
番組の『リトル・チャロ』の展開にも影響が及んでしまうので、
関係するみなさんの了解をちゃんといただかなきゃいけませんよね。 - 服部
- はい。そこで監修をお願いしまして、
それでまた時間もかかってしまったんです。 - 村上
- あと、実際にゲームをつくっていく過程で、
ちょっと難易度が高すぎるところは、
後ろにずらすような変更をすることもあるんです。
そうするとチャロに付いている、とあるアクセサリーが、
付いてはいけないシーンで登場してきたりと
前後関係が崩れたりしましたので、
グラフィックを総見直しするようなこともありました。 - 岩田
- いろいろ細部にわたって見なおす必要があったことも
開発が予定通りにいかなかった理由のひとつなんですね。 - 村上
- そうですね。制作期間が長かったこともあって、
最初の頃につくったものが、後半につくったものと
合わなくなってしまうこともありましたので、
そこはモニターにたっぷり時間をかけるようにしました。
- 服部
- あと、時間がかかったのは英語への翻訳です。
もともと台本は日本語で書かれたこともあって、
絶対に英語に訳せないような表現があったり、
この冗談は英語では通用しないだろうという部分が
かなり多く出てしまったんです。 - 岩田
- しかも、センテンスの数は
1万から1万8000に増えてしまったわけですから・・・。 - 服部
- そうなんです。なので、石井さんたちといっしょに、
「こういう英語表現はありですか?」とか
「ここはどうしましょう?」とかいいながら、
長い期間をかけて確認を進めていきました。 - 岩田
- 英語への翻訳は
『リトル・チャロ』の番組制作をしている
先生たちにお手伝いしていただいたんですよね。 - 服部
- そうですね。
ただ、なるべく早くレスポンスを返すために、
任天堂側でも佐々木さんに翻訳や監修を手伝ってもらいました。 - 岩田
- 佐々木さんは、服部さんと同じ
企画開発部に所属している
海外育ちのバイリンガルの人ですね。 - 服部
- はい。彼はニューヨーカーなんです。
顔は完全に日本人なんですけど(笑)。 - 岩田
- 頭のなかはアメリカ育ちのアメリカ人で
ニューヨークの事情に精通しているので、
監修するのにもってこいの人だったそうですね。 - 服部
- はい。日本語よりも英語のほうが達者なんです。
しかもずっとニューヨークに住んでいたので、
「ニューヨークの人はこんなことは言わないよ」とか、
そのへんのギャップをいろいろ指摘してもらいました。
佐々木さんやNHKエデュケーショナルさんを通して
文化的な違いも、先生方に見ていただきました。
たとえば携帯電話を使うシーンがあって、
絵にはストラップが付いていたんです。
でも佐々木さんから
「アメリカではストラップを付けている人はあまりいません」
と指摘がはいったりもしました。
- 岩田
- 確かに、そういうことは向こうに住んでみないと、
なかなか指摘できないことですね。 - 服部
- ええ。ただ・・・
そもそもニューヨークに野良犬はいないという話もありました(笑)。 - 一同
- (笑)
- 鵜川
- いや、あの・・・(笑)。
実はニューヨークにリサーチャーがいまして、
いろんなことがニューヨークで成立するかどうか、
アニメ化するときにひとつひとつ裏をとってはいたんです。
そしたら「もともとニューヨークには野良犬はいません」
という話になりまして、「え?どうしようか・・・?」と。
でも「まあ・・・・それはいいことにしよう!」と(笑)。 - 岩田
- まあ、アニメですしね(笑)。
- 鵜川
- そう、犬なのにチャロは英語をしゃべりますし(笑)。
あと、ドレッドとチャロが暮らしている
ねぐらみたいなものも出てくるんですけど、
ニューヨークではああいうことはあり得ないということなんです。
それに、チャロがある場所に移動するときも
「そこまで行くには、クルマを使わないとおかしい」とか。 - 岩田
- ああ、なるほど。
そういう意味では、考証はけっこうされているんですね。 - 鵜川
- そうですね。NHKで放送している番組ですので、
「これはあり得ないじゃないか」というお問い合わせがあったときに、
ちゃんとお答えできないとマズイので、そこは裏をとっています。 - 岩田
- そこはすごくNHKさんらしいですね(笑)。
- 鵜川
- でも、任天堂さんもそういうような・・・。
- 岩田
- そうですね・・・ええ、よく似てますね(笑)。
- 一同
- (笑)
- 服部
- 先ほどのシナリオの話に戻すと、
テレビでは5分で終わるお話をゲームにすると、
1時間とか2時間プレイしないといけませんので、
ゲームにするにはどうしてもいじらないといけなかったりしたんです。
わたしはもともとNHKさんに堅いイメージを持っていましたので、
そのへんのチェックはキビシイのかなと思っていたんですけど、
とても柔軟にいろいろ対応していただいて、
それはすごくありがたかったです。 - 鵜川
- いや、実はけっこうゆるゆるなんですよ(笑)。
- 一同
- (笑)
- 石井
- ただ、変にキビシイところもあるんですけど・・・。
- 鵜川
- でも、ゆるいところはゆるい(笑)。
細かい部分では、『リトル・チャロ』の物語は
テレビとラジオとでは完全にマッチしているんですけど、
その後小説(※12)になったりしている段階で、
微妙に細かいところで変わっていっているんです。
ただ、大筋の狙っているところが変わらなければ、
それでもいいだろう、というスタンスなので、
そこさえ崩れなければ、別に問題ない、という感じなんです。
小説=『小説 リトル・チャロ』。原作者わかぎ ゑふ氏が書き下ろした小説。NHK出版刊。小説のほかにも、絵本なども刊行されている。
- 岩田
- なるほど、わかりました。
さて、そのように長い時間をかけて
つくられてきた今作の『リトル・チャロ』ですが、
みなさんが手ごたえを感じたのはどんなときでしたか?
- 服部
- やっぱり純名さんたちの音声が入って、
さらに演出が入った状態になったときですね。
モニターに出したときに、泣く人が続出、
ということが起こりましたので。 - 岩田
- やっぱり泣く人続出、が手ごたえですかね。
- 服部
- そうですね。そこがいちばんです。
そういうことが起こることは、もとから確信していたのですが、
最初にモニターに出したときは、散々な評価だったんです。
ところが、泣く人が続出するようなことが起こって
やっぱり間違えていなかったんだということがわかりました。 - 岩田
- そういう意味では、声のパワーというのは
ものすごい力なんですね。 - 服部
- 大きいと思います、本当に。
- 村上
- でも、声が入ったのは最後の最後でした。
- 服部
- ギリギリでしたね。それまではドキドキでしたから。
- 村上
- でも本当にあれで、一気に生まれ変わりました。
命を吹き込まれたような感じを、開発現場でも実感しました。