『ゼルダの伝説 大地の汽笛』
4. “熟年ゲーマー”とのやりとり
- 岩田
- カプコンさんと『ゼルダ』が動いている頃、
青沼さんは何をしていたんですか? - 青沼
- 『ムジュラの仮面』が終わって、
『風のタクト』(※16)の開発がはじまっていました。
当時、僕らが3Dの『ゼルダ』をつくっていて、
携帯ゲーム機はカプコンさんといっしょにやっていくという、
2つのラインが並行して動いていたんです。 - 岩田
- カプコンさんといっしょに取り組んだ『ゼルダ』は
2作出たんですよね。 - 青沼
- 2001年に『ふしぎの木の実』が出て、
2004年に『ふしぎのぼうし』(※17)が出たんですけど、
『ふしぎのぼうし』のときは、
僕がプロデューサーになりたてだったころに
受け継いだんです。 - 岩田
- で、『ふしぎのぼうし』をつくりながら、
『トワイライトプリンセス』(※18)の準備をしていたんですね。 - 青沼
- そうです。
さらに続けると、『トワイライトプリンセス』をつくりながら、
DS版の『夢幻の砂時計』(※19)もつくってました。 - 岩田
- そして今回の『大地の汽笛』につながるんですね。
『風のタクト』=『ゼルダの伝説 風のタクト』。2002年12月に、ゲームキューブ用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
『ふしぎのぼうし』=『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』。2004年11月に、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。2006年12月に、Wii及びゲームキューブ用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
『夢幻の砂時計』=『ゼルダの伝説 夢幻の砂時計』。2007年6月に、『ゼルダ』シリーズ初のニンテンドーDS用タイトルとして発売された、ペンアクションアドベンチャーゲーム。
- 青沼
- はい。『夢幻の砂時計』が3年で、
今回は2年で完成しましたから、
『ゼルダ』のなかでは順調です(笑)。
- 岩田
- まあ、順調でしたね(笑)。
で、手塚さんや中郷さんは
今回の『大地の汽笛』の開発に直接関与するというより、
途中でモニターする役目だったと聞いたんですが。 - 手塚
- アドバイザーですね。
- 中郷
- 僕が最年長のアドバイザーです。
- 岩田
- (笑)
- 中郷
- 開発中のものを実際にプレイして、
感想をフィードバックしてました。
で、最後までクリアしたんですけど、
やっぱりよかったですね。 - 青沼
- 中郷さん、ダメですよ、ウソ言っちゃあ。
中郷さんは途中で「これ、アカンがな!」とか
けっこう言ってたじゃないですか(笑)。 - 中郷
- いやいや、でもそれは・・・。
- 青沼
- あの・・・それはこういうことなんです。
『ゼルダ』というのは、
初めて遊ぶ人に対して、とくに配慮が必要なんですね。
そこで、僕もプロデューサーですから、
宮本さんと同じような目線でそういうのを見ようとして、
序盤のほうからどんどん整理していったんですけど、
その整理が中盤まで進んだところで
最年長アドバイザーの2人が入ってこられたんです。
ただ、ゲームのモニターをするだけでしたから、
わたしが進めたところを、さっさと追い抜いちゃったんですね。 - 岩田
- 青沼さんが整理されてないところを見られたら
「これ、アカンがな」と言われるに決まってますね(笑)。 - 青沼
- 僕がまだ見ていないところを徹底的に言われて、
「ここまではいいけど、その後は最悪やね」とか。
そこからはもう追いかけっこになりました。 - 岩田
- でも、わたしも知っているんですが、
ホント強烈なんですよね、
“漫才トリオ”の2人がダメ出しするときの言葉づかいが(笑)。 - 手塚
- スタッフには言えないでしょ?
- 青沼
- いや、「こんなんアカンわ」とか、
厳しい言葉で言われるのはまだいいんです。
だんだん疲れてくると、
ただ「ハァ〜」とため息をつくだけなんです(笑)。 - 岩田
- わたしは“熟年ゲーマー”という言葉を聞いたんですが。
- 青沼
- はい。あえて言わせてもらいました。
やっぱりスタッフに伝えるときは、
かなりの追い込みで、みんな、
いっぱいいっぱいで余裕がないときに
「ここを直して」と言わないといけないので、
「やっぱりユーザー層拡大するのが大事やろ。
そのためには熟年の人もできなアカンやろ!」と。 - 岩田
- あははは(笑)。
- 青沼
- で、前回もお話させていただきましたけど、
今回の『ゼルダ』は謎解きの系統が違いますので。 - 岩田
- 理系的な謎解きが入っているんですよね。
- 青沼
- ええ。ですから、熟年ゲーマーの2人は
思ったよりも「わからない」と言ってまして、
この2人がわからないということは、
『ゼルダ』をずっとやってきた人もたぶん難しいだろうと。
だから、最終的に若干そのあたりを
調整することにしました。 - 中郷
- そこは大丈夫ですよ。
今回は宮本さんのちゃぶ台返しもなかったですし。 - 岩田
- 実はその点をわたしはすごく心配していたんです。
宮本さんは、長いこと『New スーパーマリオブラザーズ Wii』にかかりきりで、
なかなか今回の『ゼルダ』を見るチャンスがなかったみたいでしたから。
社内には、「発売が遅れることになるんじゃないか」と
心配している人もいましたし。
でも、宮本さんに聞いたら
「いい感じですよ」という返事が返ってきて、
すごくホッとしました。 - 青沼
- でも、熟年ゲーマーの2人が
宮本さんの席の横に来て、
3人でひそひそ話をしてることもあったんです。
僕の席からは、その光景が
狼煙(のろし)が上がっているように見えました。 - 一同
- (笑)
- 青沼
- で、「これはヤバイ」と思って
ピューッと駆けつけて「何ですか?」と聞くと、
中郷さんが解けない謎解きで相談していたんです。
だから僕、「中郷さん、あそこに置いてある
アレを見なかったんでしょう」と言ったら、
即座に宮本さんから
「用意しているのに、それを見なかったというのは、
お客さんも、そうなる可能性があるということなんだから
それは用意していないのと同じだよ」と。 - 岩田
- 世界をつくった側は、ついつい
「お客さんはこうしてくれるはずだ」と
思い込んでしまう傾向がありますからね。 - 青沼
- はい。ちゃんと用意しているから
それで安心、というのはやっぱりダメなんですよね。 - 岩田
- そこはやっぱり、いろんなお客さんのことを考えて、
キノコをとれない人のためには、
ちゃんと土管を置いて、跳ね返ってくる(※注)ように、
しっかり考えなさいということなんですね。
※注「『スーパーマリオブラザーズ』の最初のキノコは、どうやってもとれるようにできている」について、詳しくはこちら。(社長が訊く『New スーパーマリオブラザーズ Wii』)
- 青沼
- そう思います。
- 手塚
- でも最終的に遊んだ印象がすごくいいんですね。
つくってる人たちの姿勢が
遊んでいてもすごく伝わってきましたし、
おおもとの『ゼルダ』を、とても大事にしていて、
いいものはちゃんと継承しつつ、
新しいものをどんどん付け足しながら
つくられていることがよくわかりました。 - 中郷
- そうですね。
遊んだ感じとしては
前回の『夢幻の砂時計』のいいものを残していて、
古いものを捨ててないんです。
- 手塚
- 捨ててないです。
ヘタをすると、やっぱり肩に力が入るので、
前よりもいいものにするために、
古いからといって、いいものも捨てて、
そこに新しいものを足そうするんです。
新しいからといって、いいという保証はないのに。 - 岩田
- その話は『New スーパーマリオブラザーズ Wii』と同じですね。
- 手塚
- ええ。そういうことがふつうは起こるんですけど、
今回はぜんぜんそんな感じじゃなかったです。
それに、開発が終わって、
スタッフに話を聞いてみると、
みんな「今回の開発はすごく楽しかった」って言うんですよ。 - 岩田
- それは『夢をみる島』の感想に近いじゃないですか。
- 手塚
- ああ、そうかもしれないですね。
- 岩田
- でも、わたしの経験では、
作り手が「楽しかった」と言うときは
仕上がりもいいですよ。 - 青沼
- そういう意味では
幸せな開発現場だったんじゃないかなと思いますね。
手ごたえのあるものにちゃんとできあがっていて、
僕も遊んでいてうれしかったですから。 - 岩田
- “熟年ゲーマー”とのやりとりも含めて(笑)。
- 青沼
- 僕も熟年が入ってきてますから・・・、
そろそろ仲間入りさせていただきます(笑)。 - 一同
- (笑)