『トモダチコレクション』
3. Miiで「顔ハメ看板」
- 岩田
- 音づくりに関して、具体的に指示はしないは、
「気合いを入れすぎ」と言われるは、
挙げ句の果てに「パンツを脱げ」とまで言われて
椎葉さんもすごく困ったでしょう? - 椎葉
- はい、本当に困りました(笑)。
それで試しに
マップ画面の音楽をつくってみることにしたんです。
リコーダーがヘタな人が吹いてる様なメロディとか、
ブワァ〜というちょっとダーティな音を入れつつ、
でも、まるで島を散歩しているような、
ずっと聴いていたくなるような曲をつくって。 - 岩田
- ずっと聴いていても
不快に感じないようにする必要があったんですね。 - 高橋
- でも、ありきたりの曲にはしたくなかったですし。
- 岩田
- ところが、ありきたりじゃない曲は
だいたい不快に感じることが多いんですよね。 - 高橋
- そうなんです。だから
そのバランスにすごく苦労しましたね。 - 岩田
- で、その曲の評価はどうだったんですか?
- 椎葉
- 高橋さんから「安くていいですね」と(笑)。
- 岩田
- これまたすごいホメ言葉(笑)。
- 一同
- (笑)
- 高橋
- 『トモコレ』には独特の世界観がありますので、
まっとうなBGMではちょっと場違いなんですね。 - 岩田
- まっとうじゃダメなんですね(笑)。
- 高橋
- あえてそういう安っぽさみたいな。
- 椎葉
- 重厚長大では決してない、
かといって軽薄短小でもない、
僕は「軽濃短小」と勝手に呼んでるんですけど
そういうサウンドができたと思います。 - 岩田
- そうやってサウンド方面で試行錯誤する一方で、
開発が再開してから
ゴールの着地点を見つけるまでに
ずいぶん時間がかかりましたけど、
高橋さんに不安はなかったのですか? - 高橋
- 不安はやっぱりありました。
まず、Wiiと連動させたいと思っていたので、
「似顔絵チャンネル」でDSとWiiが
通信できる仕組みを入れておいたんですけど・・・。 - 岩田
- 『生活リズムDS』(※8)で
MiiのDSデビューは、先を越されちゃいましたね。 - 高橋
- まさか『トモコレ』よりも先に
Miiを使われることになるとは・・・。
『生活リズムDS』=『歩いてわかる 生活リズムDS』。同梱の生活リズム計を使い、1分ごとの歩数を記録するソフト。個人データの管理画面でMiiが登場。2008年11月発売。
- 岩田
- ショックでしたか?
- 高橋
- もちろんショックでした。
で、そうこうしているうちに、
頼んでもないのに
中川さんがつくった変なコンテンツが
大量に出てくるようになったんです。 - 岩田
- 頼んでもいないのに?(笑)
ゲームプログラマーは普通、
ディレクターが頼んだことをするものですけどね。 - 高橋
- 僕は中川さんに
ゲームの基礎の部分を頼んでいたんです。
ところが変なコンテンツがどんどん出てくるようになって。 - 岩田
- どんなコンテンツだったんですか?
- 高橋
- Miiが歌ってたりとか。
しかもカラオケとかで歌われる歌謡曲を歌ってて。
そういうのがいちいち面白かったんです。
- 岩田
- Miiは歌ったことがありませんから
インパクトがあったんですね。 - 高橋
- いちいち面白かったんですけど、
それらをゲームのなかにどう取り込んだらいいのか、
すごく悩むことになりまして。 - 中川
- その部分はお任せしてましたから。
- 岩田
- ゲームのなかでどう活かすかは考えずに、
とにかく面白そうな断片だけを次々と提案して、
「あとはよろしく」と?
勝手につくるだけつくっておいて(笑)。 - 一同
- (笑)
- 中川
- みんなが見られるようにしておけば
誰かが、こう使いましょうとか、
アイデアを出してくれると思っていたんです。 - 岩田
- 大胆ですねえ。
普通、プログラマーという人種は
自分がつくったものがどう使われるのか、
見えていないとすごく気持ち悪いはずなんですけどね。 - 中川
- やっぱりその、大人の・・・何でしたっけ?
- 岩田
- 『大人のオンナの占い手帳』(笑)。
- 中川
- それですそれです(笑)。
それをつくっていたとき、
似顔絵の部分が岩田さんのひとことで
Miiになったじゃないですか。
そんな感じでコンテンツをどんどんつくっていけば、
誰かがゲームに入れてくれるだろうと思ってたんです。 - 岩田
- いつもそうだとは限らないんですけど(笑)。
でも、いろいろ出してたらMiiが生まれたみたいに
誰かがうまいこと料理してくれると思ってたんですね。
- 中川
- そういうものかと思っていました。
- 一同
- (笑)
- 高橋
- まあ、中川さんにとって、
入社して初めて関わったソフトが
『大人のオンナの占い手帳』でしたから。 - 岩田
- そうですね。
- 高橋
- それに、うちのプロダクショングループでは、
『メイドインワリオ』(※9)もつくっていて・・・。
『メイドインワリオ』=2003年3月のゲームボーイ アドバンス版の発売以来、8作が登場した瞬間アクションゲーム。最新作は2009年4月発売の『メイドイン俺』(DS)と『あそぶメイドイン俺』(Wiiウェア)。
- 岩田
- あのシリーズも何でも入る、
いわば雑食性のゲームですよね。 - 中川
- そうなんです。
『メイドインワリオ』の開発現場も見ていたので、
僕のつくったものも入るのかなあと。 - 岩田
- あれを基準にされてもなぁ(笑)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- そんな中川さんの思いつきから端を発して
実際にゲームに入ったものは・・・? - 高橋
- さっき言った歌がそうですし。
Miiが歌うのはすごく面白かったので、
Miiをしゃべらせるようにすれば
もっと面白いんじゃないかということになって。 - 岩田
- えっ? 最初にしゃべらせたんじゃなくて、
歌のほうが先だったんですか? - 高橋
- 歌のほうが先でした。
で、しゃべらせたほうがいいということで
できあがってきたのが、
ジェットコースターのシーンだったんです。
ジェットコースターの乗客の写真に、
Miiの顔だけを貼り付けて、
「キャー!」と叫ぶだけのコンテンツだったんです。
それは最終的には製品に入らなかったんですけど。 - 岩田
- そのときに、観光地にあるような
「顔ハメ看板」みたいなアイデアが生まれたんですね。
でも、そもそも実写にMiiを合成するというのは
普通の感覚の人だったらなかなかできないですよ。
すごく勇気がいることですし。 - 高橋
- あれも中川さんの発案で。
- 岩田
- 中川さん、勇気があったんですね。
- 中川
- そうではなくて・・・。
- 岩田
- いや実際、いい発想だと思いますよ。
しかも、みんながあれを見て
「これはアリだ」と思ったわけですし。 - 高橋
- 本当に度肝を抜かれました(笑)。
- 中川
- 僕としてはただ、面倒なだけだったんです。
- 岩田
- 面倒?
- 中川
- 絵を描くのが面倒くさかったんです。
- 一同
- (笑)
- 中川
- それで、ジェットコースターの写真を
どっかから見つけてきて、
それにMiiの顔を貼り付けただけなんです。
そしたら、写真のところがやけに気に入られて。 - 高橋
- でも、そのようにたまたま生まれたものでも
中川さんの変なコンテンツはすごく面白かったんです。
変なコンテンツがなかに入っていくことで
ゲーム自体がどんどんよくなっていったんです。