『ニンテンドーDSi LL』
4. テーブルの上に置いてほしいから
- 岩田
- さて、そのように悪戦苦闘の末に
できあがったDSi LLですが、
3色のカラーバリエーションがどうやって決まったのか、
その話も訊いてみましょうか。 - 藤野
- いつも携帯ゲーム機の色を決めるときは
たくさんの試作品にいろんな色を塗れるんですけど、
今回は開発を急いでいましたので
モデル屋さんで20台のサンプルをつくっていただき、
どの色を塗ろうかと悩みに悩んで、
20色に決め打ちしてプレゼンしました。
そこで「再調整してください」と言われて、
最終的に提案したのが
「ナチュラルホワイト」と「ダークブラウン」です。 - 岩田
- 最初はこの2色だけでいく予定だったんですね。
- 藤野
- 量産できるのは2色だと言われてましたので。
- 岩田
- ところが、営業部門のほうから
「3色欲しい!」と強い要望が出されたんです。 - 藤野
- はい。
そこで「ワインレッド」を加えることにしたのですが、
いま考えると、3色にしてよかったと思います。 - 岩田
- がんばって3色にしてよかったですよね。
並べたときの見栄えがすごく変わりましたから。 - 藤野
- はい。
ただ、「ナチュラルホワイト」と「ダークブラウン」は
すんなり決まったんですけど、
「ワインレッド」はどんな色具合にすればいいのか、
すごく悩みました。
そこで、社内の人から意見を聞いたりしながら、
最終的にあのような色にしました。 - 米山
- 量販店などでお聞きすると、その「ワインレッド」は
シニアの方だけでなく、
若い女性も購入されているという話ですよね。 - 藤野
- 若い女性の方に受ける色は
「ナチュラルホワイト」だと思っていましたので
それはちょっと驚きでしたね。 - 岩田
- 実際「ワインレッド」は人気色だと思います。
- 藤野
- そうですね。ただ、ツートンにしたおかげで、
作業量が2倍になったのがしんどかったんですけど。
- 岩田
- 今回、ツートンカラーにしたのは、どうしてですか?
- 藤野
- もともとDS LiteやDSiのときから
ツートンカラーにしてみたいと思っていたんですけど、
ヒンジ(本体と上ぶたの接続部分)のところが複雑で
うまくできなかったんです - 岩田
- でも今回は、本体デザインを全部任されたので、
ぜひツートンをやってやろうということですか。 - 藤野
- はい。
ただ、3色ともシックな色合いになりましたので、
シニア向けの商品に見られる傾向があって・・・。 - 岩田
- そう感じておられるお客さんも
決して少なくないようですね。 - 藤野
- でも、それは
デザイナーとして納得できないんです。 - 岩田
- そもそもあのようなカラーリングにしたのは、
シニアのお客様だけをターゲットにしようと考えたからではなくて、
リビングやダイニングのテーブルの上に
DSi LLを置いてほしいという狙いがあったからなんですよね。 - 藤野
- はい。やっぱりビビッドな色だと
ずっと出しておいてはもらえませんし、
テーブルの上に置きっぱなしにするときに
どんな色だったら出しっぱなしにしても抵抗がないか、
それをじっくり考えて選んだ色なんですね。
そのために家具屋さんをずいぶん回りましたし(笑)。 - 米山
- 今回はヒンジが2段階で止まるようにしたのも、
テーブルの上でプレイしてほしいからなんです。 - 岩田
- 上ぶたを開くと、2段階で止まるんですね。
- 米山
- はい。DSiのときは
155度くらいで止まるだけだったんですけど、
DSi LLでは、それに加えて
120度くらいでも止まるようにしました。
ただ、実現するのはちょっと難しいところもあったんです。
2段階で止めるというのは、携帯電話でも・・・。 - 岩田
- ほとんどのものが1ヵ所しか止まらないですよね。
- 米山
- ええ。
開け閉めする回数の多い商品ですから、
耐久性のことなども考えて、
ふつうは1ヵ所でしか止まらないようにしているんですね。
でも、今回は液晶が大きくなって、視野角も広がって、
周りのみんなもいっしょに楽しめるようになったので、
120度でも止まるようにしたいと思ったんです。 - 岩田
- なるほど。
- 米山
- さらに音がよく聞こえるようになりました。
- 岩田
- 実際に購入されたお客さんからも
「音がすごくよくなった」という声もお聞きしていますけど
どんな工夫をしたのですか? - 天野
- 実は今回のスピーカーは、
DSiと同じものを使っているんです。
ただ、DSiのときはスピーカーの穴が横長で・・・。 - 岩田
- 小さな穴が左右にひとつずつ開いてましたよね。
- 天野
- なんですけど、藤野さんと相談しながら、
左右それぞれ7個の小さな穴を開けることにしました。 - 藤野
- 今回の商品はわかりやすさもとても大事ですから、
これがスピーカーだというのが
すぐにわかるようにしたかったんです。
それに画面もデカくなることですし、
当然、音もデカくしたい、という思いがありました。
ただ、スピーカーはこれまでと同じものですので、
どうやったら大きな音になるか、ということを考えて
試行錯誤を繰り返した結果、
音も大きく聞こえるようになりました。 - 米山
- スピーカーが同じでも
スピーカーエンクロージャ(※5)の体積がありますので
音が大きく聞こえるようになったこともあるんですね。 - 岩田
- 先日、久しぶりに
『バンドブラザーズDX』(※6)を遊んだんですけど、
何か、妙にうれしく感じたんですね(笑)。 - 米山
- やっぱり音が大きく、豊かになりましたからね(笑)。
スピーカーエンクロージャ=エンクロージャとは筐体を意味し、この場合はスピーカーの箱のこと。低音が再生されることで豊かな音質になる。
『バンドブラザーズDX』=2008年6月発売のDS用ソフト『大合奏!バンドブラザーズDX』。
- 岩田
- あと、もうひとつうれしいのは、
DSi LLについてくる、大きなタッチペン。
わたしはアレ、隠れたヒットだと思っているんですが。
クラブニンテンドーのお客様のコメントを読んでいても、
評判がいいですよ。
- 藤野
- 実はアレ、ナイショでつくってたんです。
- 岩田
- 誰からも頼まれもせずにつくっていたんですか?
- 藤野
- そうです。絶対に必要になるだろうと思って、
ずっとナイショでつくっていました。
ただ、大きさが決められていないものですから、
どのくらいの大きさにしたらいいのか、けっこう悩みまして。 - 岩田
- DSi LLの本体に収納するものではないですから、
どんなサイズにしようと、藤野さんの自由だったんですね。 - 藤野
- はい。
自由すぎて、逆に困りました。
太さもどれくらいがいいのかとか、
長さもどれくらいがいいのかとか。 - 岩田
- 任天堂はペンをデザインする会社ではないですしね。
- 藤野
- (笑)。
だから、このときは
文房具屋さんをすごく回りました。 - 岩田
- 家具屋さんの次は文房具屋さんですか。
デザイナーは足でネタを集めるんですね(笑)。 - 藤野
- はい。そこでいろんなペンを参考にして
最終的にあのデザインにしたんですけど。 - 米山
- そもそもプラスチックで
太いものをつくるのはけっこう難しいんです。
そこで芯を、ボディで覆うようにして、
さらにペン先もありますから、
3つのパーツの組み合わせでつくったんです。 - 藤野
- それで本体の色に合わせて
ツートンにすることもできました。
さらに岩田さんにプレゼンしたときに
「転がらないようにしてくださいね」と
注文をいただいてましたので。 - 岩田
- だって、わたしたちは
「テーブルの上で使ってください」と言っているのに、
せっかくのペンがコロコロ転がるとイヤですからね。 - 藤野
- 僕も「確かにそうだ」と思いまして、
制作していただいている会社の方と話していたら、
芯の2ヵ所の部分を、ボディの外側に出さないと
成形できないことがわかったんです。
そこで、片方をペンのクリップみたいなデザインにして。
すると岩田さんのお題にも応えられて、
見た目もペンぽくなって、よかったと思ったら、
また、怒られたんです。 - 岩田
- また怒られたんですか?
- 藤野
- 見た目はペンぽいのに、
「どうしてポケットに指せないんだ?」と。
でもそこは、実際にペンじゃないので割り切ったんです。 - 米山
- ・・・それも僕が言ったんじゃないよね?(笑)
- 藤野
- 違います違います(笑)。
- 一同
- (笑)