『ポケットモンスターブラック2・ホワイト2』
3. 『ポケモン』でスペースファンタジー
- 岩田
- ところで増田さん、先ほど
「『ポケモンブラック・ホワイト』で入らなかった仕組みがあった」
とおっしゃいましたが、それはなんですか? - 増田
- ゲームをクリアーしたときに“カギ”が手に入って、
もう一方のソフトに対して“カギを開ける”という仕組みです。
それによって、2本目を遊ぶとき、
違う印象で遊べるようになります。 - 岩田
- “カギ”を手に入れることで
遊ぶ動機と体験が変わるんですね。 - 増田
- はい。“ちょっと強いポケモンが出るカギ”みたいに、
1本遊んだあと、もう1本を違う深さで遊べるような
仕組みをつくりたかったんです。
- 海野
- たとえば、なかなかゲームをクリアーできないお子さんがいたら、
うまい人が「手伝ってあげるよ」と言って、
“カギ”でその世界を変えてあげることもできます。
それによって『ポケモン』の世界観が広がっていくところが、
“共鳴”という言葉と非常にマッチしていたんです。
その仕様自体は、“共鳴”という言葉が
出てくる前に聞いたんですけど。 - 岩田
- つまり、共鳴をテーマにしようと思ったら、
増田さんからもらっていたお題は、
「“共鳴”そのものじゃないか」と思ったんですね。 - 海野
- そうです。
ちょっと、できすぎていますけど(笑)。 - 岩田
- はい、できすぎていますね(笑)。
- 海野
- 多分、『ポケモンブラック・ホワイト』のあと、
「さらに発展させた遊びができるはずだ」という思いが、
スタッフみんなにあったのではないかと思います。
というのも、企画を考えてもらうとき、
上がってくる速度が非常に早かったんです。 - 岩田
- せっかく思いついても、
使うことができなかった仕組みがあったように、
『ポケモンブラック・ホワイト』で広げた土台で、
「使えていない要素やネタがいっぱい残っている」
とみんなが思っていて、もともとのエネルギーとして、
スタッフにたまっていたのかもしれませんね。 - 海野
- はい。それでおそらく、“共鳴”という言葉に
マグネットのように吸いよせられたんじゃないかと思います。 - 石原
- あとストーリー的にも、
『ポケモンブラック・ホワイト』が謎を残しつつおわったので、
「あいつはあのあと、どうしたんだ?」って、
つくっている側も答えを出したかったでしょうし。 - 岩田
- でも『ポケモンブラック・ホワイト』をつくっていたときは、
「あとで続編に活かそう」なんて思っていませんよね? - 増田
- まぁ・・・あえて、放っておこうかな・・・と(笑)。
- 一同
- (笑)
- 増田
- でも、ありがたいことに
今回の続編で活かしてもらえました。 - 岩田
- 確かに、物語はあらゆる謎が
解決しておわることはないですが、
つくり手として、自然と放っておけなくなるのかもしれませんね。
海野さんの目から見て、フェスミッション以外で
チャレンジした部分はどこでしたか?
- 海野
- “共鳴+世界を広げる”という意味では、
「ポケウッド」という『ポケモン』で映画が撮れる仕組みです。
これは企画スタッフ全体から出てきた案ですけど、
ポケモンを捕獲、対戦、通信、交換する以外にも、
「本編で『ポケモン』の世界観をもっと広げたい」という気持ちが、
グラフィックデザイナーとしてずっとあったんです。 - 岩田
- いままでは、『ポケモンスナップ』(※15)のように、
本編以外で『ポケモン』の新たな魅力を表現してきました。
でも、そういう要素を本編で入れてみたかったんですね。
『ポケモンスナップ』=1999年3月に、NINTENDO64用ソフトとして発売されたカメラアクションゲーム。岩田が制作にかかわっていた。
- 海野
- はい。そこで“映画”なら、
わりと“何でもあり”な世界観だから、
広がりを持てるんじゃないかと思ったんです。 - 岩田
- “何でもあり”とはどういうことですか?
- 海野
- 本来だったらイッシュ地方ではあり得ないような
スペースファンタジーだったり・・・。 - 岩田
- え? 『ポケモン』でスペースファンタジーですか?(笑)
- 海野
- 恋愛だったり・・・。
- 岩田
- ええっ? 『ポケモン』で恋愛ですか?!(笑)
- 海野
- はい(笑)。
ただ、どこまでやっていいのか、不安もありました。
ポケモンさんがずっと守ってきた世界観が当然ありますし、
ゲームフリークが大事にしてきたものもありましたので、
企画書を出すときには、かなりドキドキしました。 - 増田
- 仕様書の最初のページに、
アダムスキー型UFOといっしょにポケモンがいるんですよ。
「なんだこれはっ!?」って(笑)。 - 岩田
- ほおー・・・(笑)。
- 増田
- でもよく見ると、
UFOが上から糸で吊るされていたんです。
そういう感じがすごく面白かったし、
確かに何でもできそうだったので、
自由にやってもらいました。 - 岩田
- ただ、それを実際に遊べるものにするには
工夫が必要ですよね。 - 増田
- はい。でも、どういう遊びにするかは
非常に練り込まれていたんです。
映画には選択式のシナリオがあって、
ポケモンのタイプがわからないと、
シナリオがうまく進まないようになっています。 - 岩田
- それは『ポケモン』を遊び込んでいて
タイプに関する知識があれば、
それがちゃんとゲームに役立つようにできているんですね。 - 増田
- はい。くわしい人ほど順調に撮影が進むので、
知識がそのまま役に立つうえ、
わからない人にとっては、勉強になるんです。 - 海野
- じつは、対戦という面で、
「『ポケモン』はだんだんコアな方に特化してきている」
という問題が以前からありました。
ポケモンや技のタイプを覚えなきゃいけないから、
「バトルがわかりにくい」という意見もあります。
だから、はじめてプレイされる方に向けて、
「『ポケモン』の根幹部分をどう知ってもらうか?」
という議題が上がっていたんです。 - 岩田
- 時代とともにどうしてもバトルが複雑になってきたので、
覚えなきゃいけないことが増えていくんですよね。 - 海野
- はい。そこで「ポケウッド」の企画を考えていたとき、
「映画をつくる中で、セリフや技の選択を間違えると、
エンディングや観客の評価が変わってしまう・・・」
という遊びにすれば、
「『ポケモン』の仕組みを自然と学べるんじゃないか?」
と思いついて、アイデアが合体したわけです。
だから「ポケウッド」を遊ぶだけで、いつの間にか
バトルの面白さや奥深さを学べてしまいます。
- 岩田
- 思いついた面白いことと、別の問題が
ポンッとくっついたとき、物事は化けるんですよね。
「複数の問題を一度に解決するものがアイデアである」(※16)。
まさに宮本さんの言葉そのものですね。
「複数の問題を一度に解決するものがアイデアである」=この言葉は、「ほぼ日刊イトイ新聞」の糸井重里さんと岩田との対談、「アイデアというのはなにか?」で紹介されている。