『じぶんでつくる ニンテンドーDS ガイド』
1. DSを持ち歩けば、どこかでいいことが
- 岩田
- 今日は、“DSのパブリックスペース利用”、つまり
“公共の場所でDSを使っていただく”という、
任天堂の新しい提案に取り組んできた人たちに
集まってもらいました。
これまでにやってきたことを振り返りつつ、
順番におうかがいしていきたいと思います。
みなさん、よろしくお願いいたします。 - 一同
- よろしくお願いいたします。
- 岩田
- まずは宮本さんからおうかがいします。
いままでに、イクスピアリ(※1)、学校の授業、美術館や企画展など、
音声ガイドや教材として、さまざまな公共スペースで
DSが利用されるようになりつつありますが、
これを推進してきた宮本さんは、
どんなキッカケで考えはじめたんですか?
イクスピアリ=千葉県浦安市舞浜の東京ディズニーリゾート内にあるショッピングモール。なお、イクスピアリでの「ニンテンドーDSガイド」のサービスは、2010年1月11日をもって終了しています。
- 宮本
- そうですね・・・。
まずDSを開発したときに、
みんなにDSを持ち歩いてもらえるようにしたいと思いました。
そこで任天堂では『nintendogs』(※2)や『脳トレ』(※3)のような、
ペットや書籍のようなものを、
ゲームのように楽しめるソフトをつくってきたんです。
『nintendogs』=2005年4月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売。お気に入りの子犬たちとの触れ合いを楽しむコミュニケーションソフト。
『脳トレ』=『東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2005年5月発売。
- 岩田
- 当時、「ゲームの定義を広げたい」ということを
よく話していましたよね。 - 宮本
- その延長で今度は、もっと日常で使えるようにして、
“DSを持ち歩けば、いつでもどこかでいいことがある”
というふうにしたかったんです。
たとえば、ショッピングモールでお買い得情報を流すとか、
美術館などの公共の場で使えるようにできないかなぁ、と。 - 岩田
- 宮本さんは、そういったことを情報開発本部のなかで
どのように展開して、何を指導されるんですか? - 宮本
- ええと・・・よく覚えていないんですけど(笑)。
確か、情報開発本部のスタッフに提案するタイミングで
“DSのパブリックスペース利用”という名前をつけました。
そうこうしている間に、あちこちの病院や学校などから、
DSを使いたいという声が耳に入ってくるようになりました。 - 岩田
- 当時は、「DSをこんな用途に使ってみたい」という声を
いただいても、ご要望にお応えできない時期があったんですね。 - 宮本
- はい。そこで「もっと具体化したいな」と思っているときに
偶然、オリエンタルランド(※4)さんに
お会いしたことをキッカケに実現したのが
『イクスピアリ・ニンテンドーDSガイド』(※5)になります。
オリエンタルランド=株式会社オリエンタルランド。東京ディズニーリゾートを経営、運営している。
『イクスピアリ・ニンテンドーDSガイド』=2009年4月から2010年1月まで実施していた、任天堂と株式会社オリエンタルランドによる無料サービス。イクスピアリの所定の場所でソフトをダウンロードすると、ガイドブック機能、ナビゲーション、イクスピアリに関するさまざまな情報検索やオリジナルゲームなどが楽しめた。
- 岩田
- では清水さん、
自己紹介と、イクスピアリでどんなことをしていたのか、
紹介をお願いします。 - 清水
- はい、情報開発本部 東京制作部の清水です。
主にイクスピアリでのDSガイドを担当しました。
イクスピアリでは、DSにソフトをダウンロードすることで
ショップや映画館などの情報を検索したり、
目的地までのナビゲーションやゲームが楽しめたりする
無料のサービスをいろいろと展開してきました。
キッカケは、宮本さんからでしたね。
- 宮本
- ちょうど「DSをどこかで使いたい」という話をしていたときに、
東京ディズニーリゾートで比較的自由に実験できる場所ということで、
オリエンタルランドさんからイクスピアリを提案していただいたんです。 - 清水
- まずは京都本社でパブリックスペースについて会議があって、
「つづきは東京でよろしくね」と振られました(笑)。
そのとき、宮本さんから
「すべてのDSでサービスを受けられるように、
ダウンロードサービスにしよう」というお題が出されました。 - 岩田
- つまり、DSでダウンロードできるくらいの
コンパクトなサイズで実現しなければならなかったわけですね。 - 清水
- はい。そこで少ないメモリーでの地図表示や
位置推定について試作をしていたら、
宮本さんから「実際にイクスピアリで実験をしたい」と言われたんです。 - 宮本
- イクスピアリのひとつの特徴なんですが、
冒険をイメージして施設がつくられているので、道が複雑なんです。 - 岩田
- だからよく迷うんですよね(笑)。
(地図を見て)これ、どう見てもゲームのマップですよね(笑)。 - 宮本
- そうなんです、まるでダンジョンのような
ショッピングモールなんです。
だから探索するために、DSの地図機能を充実させて
オリエンテーリングが楽しめるようにしました。 - 清水
- 実際にイクスピアリの施設で実験したら、
DSでも、高い精度で位置推定ができることがわかったんです。 - 宮本
- GPS(※6)を使わずに、DSの電波強度(※7)だけで、
リアルタイムのマップ表示ができるなと。
しかも何階にいるかも判別する必要があります。
GPS=グローバル・ポジショニング・システム。GPS衛星から、受信者が自分の現在位置を知るシステム。
電波強度=電波の強さのこと。無線LANのアクセスポイントからの電波強度を見て距離を知ることができる。
- 清水
- ただ、各店舗さんにアクセスポイントを置いて実験したら、
店から店へ移動する際、となりや背後のお店に、
地図上ではひょいと移動してしまう問題が発生して・・・。
そういう問題点を直しながら、徐々に精度を上げていきました。 - 岩田
- でも、そのままだと、どんどんイクスピアリ専用になって、
他では転用できないつくりになっていきますよね・・・。
はじめはいろいろなショッピングモールで使用する、という
構想だった宮本さんは、この動きをどう見ていたんですか? - 宮本
- まあ・・・いまはイクスピアリでの仕様に全力を注いで、
ツール開発をしながらほかに応用していこう、と思っていました。
あの時期、東京に行くたびにイクスピアリで実験していました。
僕みたいなおじさんが、DSを片手にうろうろと・・・(笑)。
そしたらあるとき、ゲームファンの方に見つけられて、
サインをすることになった、ということもありました(笑)。 - 岩田
- なぜ、宮本さんがDSを持って
イクスピアリのなかをうろついていたか・・・?
そのナゾがいま、明かされたわけですね(笑)。
- 宮本
- ええ、そういうことを半年くらいやっていました(笑)。
- 清水
- 本当にいろいろ試しました。
ニンテンドーゾーンビューア(※8)でできる遊びということで、
その場所に行けばクイズに挑戦できる
イクスピアリを舞台にしたゲーム(※9)をつくったりだとか。
宮本さんの意見も組み込めるように、
僕らは必死に4メガバイト(※10)という少ないメモリーと戦っていたんです。
ニンテンドーゾーンビューア=ニンテンドーゾーンのサービスを利用するためにダウンロードするソフト。DSiやDSi LLでは内蔵されているため、ダウンロードは不要。
イクスピアリを舞台にしたゲーム=『イクスピアリ・ニンテンドーDSガイド』のサービス。イクスピアリの所定の場所でクイズや妖精探しなどを楽しめる。
4メガバイト=「DSダウンロードプレイ」でサービスを実現するには、DS本体のRAM容量の4メガバイトのなかにプログラムとデータをおさめる必要がある。
- 宮本
- でも、はじめは、すごーく操作が複雑になったんですよ(笑)。
- 清水
- あ〜、そうでした。
何でもできるように欲張りすぎました!
ガイドのなかに、フレンド同士でメモを送りあえる
伝言板(※11)という機能があるんですが、
イクスピアリで実験しているとき、宮本さんがわざわざ、
仕様のクレームをこれで送ってきたりしたこともありました(笑)。
伝言板=『イクスピアリ・ニンテンドーDSガイド』のサービス。最大16人の仲間の位置表示と、タッチペンを使った手書きの情報交換が可能。
- 宮本
- 伝言板の機能は、多人数に送信できて便利なんですよ。
それが意外なところで役立ったということです(笑)。
伝言板と、位置推定によるナビゲーションと、簡単なゲーム、
さらにお店の人が、最新情報を登録できる機能もあるんです。
とくにナビは、トイレや車椅子のルートなどもガイドしてくれて、
多機能で便利です。 - 清水
- イクスピアリの施設は結構複雑なので、
これは本当にうれしいだろうな、と。
細かいところでは、トイレの個室の数までわかるんですよ。
急ぎのトイレのとき、女性の方は便利だと思います。 - 岩田
- あ〜、混んでいるときは外まで長い行列ができますから、
それはそのとおりでしょうね。 - 清水
- 自分では調べにいけないので、
個室の数を女性のスタッフに数えてもらいました(笑)。
まあ、何でも発信できるぶん、情報の更新をどうするのかって
問題もありまして、結果的に、いろいろ勉強できました。 - 岩田
- 『イクスピアリ・ニンテンドーDSガイド』っていうのは、
いわば“ひとつのロケーションに特化するとしたら、
DSでどこまでつくり込めるのか”という実験だったんですね。 - 宮本
- そう思います。