『じぶんでつくる ニンテンドーDS ガイド』
2. 手軽で汎用的な『DSガイド』を
- 岩田
- 一方、ハードとソフトの接点にあるような仕事をするとき、
宮本さんがいつも相談するのは、おとなりの澤野さんですね。 - 澤野
- あ・・・では、自己紹介を(笑)。
情報開発本部で、技術制作部の部長をしている、澤野です。
- 岩田
- はい、以前『Wii Fit』(※12)のときにも
「社長が訊く」に出ていただきました。
『Wii Fit』=バランスWiiボードに乗ってプレイする、フィットネスソフト。2007年12月発売。2009年10月には、『Wii Fit』のディスクの内容が新しくなった『Wii Fit Plus』も発売された。
- 澤野
- 実は宮本さんと同期入社で、人生の半分くらいは・・・、
ずっと、宮本さんと仕事をしています(笑)。 - 宮本
- ああ、そうか・・人生の半分か・・・(笑)。
澤野さんと僕は、本来、一番新しい製品の設計とか、
計画を立てる立場にあるのに、
“パブリックスペース”という、直接はお金にならないことを
ここしばらくの間はやっているんです(笑)。
澤野さんは面白がってやってくれるんで、
いろんなことを頼みながら・・・もう、3年以上経つよね。 - 澤野
- 「時雨殿」(※13)からやっていますね。
「時雨殿」=2006年1月に京都・嵐山にオープンした「小倉百人一首」をテーマにした展示施設。財団法人小倉百人一首文化財団が運営。来場者は“時雨殿ナビ”と呼ばれるDSを片手に、百人一首の世界を体験できる。
- 岩田
- 澤野さんは、宮本さんからどんなお題を提案されたんですか?
- 澤野
- わたしは、宮本さんがつくる新しいソフトに対して、
技術的なサポートをする役目なんです。
それが本当にできるのか、どの程度まで可能か、
ということを技術的に検証して、裏づけを取るんです。 - 岩田
- 『Wii Fit』のときは、澤野さんがWiiに体重計をつなぐという
お題に対して、バランスを測るということを提案されて、
宮本さんがその案に“食いついた”んですよね。 - 澤野
- ええ。だから宮本さんとは、二人三脚みたいな感じですね。
イクスピアリのほうは、清水さんがとても精力的に
取り組まれていたので、お任せしていたんです。
僕のほうでは、美術館や学校など、
いろいろな公共施設で使える
DSガイドのシステムを模索していました。 - 岩田
- イクスピアリのように特定の場所にカスタマイズせず、
さまざまな場所で、比較的簡単に使っていただけるような
ガイドシステムを研究されていたんですね。
- 澤野
- そうです。まずは、1台のDSから、何台のDSに
音声データが送れるのかを調べるところからはじまりました。
それからDSを親機として、音声ガイドを配信するとしたら
どの程度の間隔でDSを置くべきかも検証しました。 - 宮本
- イクスピアリのときは、DSを使ったサービスがどこまで可能か、
という実験だったので、イクスピアリ内にものすごい密度で
無線LANアクセスポイントを置いていたんです。
でも、もともとは美術館をテーマにしていたので、
もっと手軽で汎用的なものにしたかったんです。
だから、DSの技術だけで音声ガイドをつくったら、
どの程度のことができるか、ということに挑戦したんです。 - 岩田
- それがお題だったんですか。
- 宮本
- お題というか、澤野さんと相談しながら決めたというか・・・。
そこで音声ガイドのプログラムを配信するDSと、
実際につくった音声を配信するDS、
この2つのDSを部屋に置いてサービスを配信したら、
何台くらい受信できるだろうかと考えはじめたんです。 - 澤野
- だいたいDS1台の親機に対して7台に配信できて、
電波の利用上、同じ場所に親機が最大3台まで置けるので、
結果、20台ほどの同時配信が可能なことがわかったんです。
そこで実際に会社のなかでテストしようと・・・。 - 宮本
- 会社のなかを美術館に見立てて、壁に絵などを貼って、
みんなで見て回ることをしました。 - 岩田
- それは「時雨殿」の展示を開発したときと同じノリですね(笑)。
- 澤野
- そうです。会社で検証した後は実証実験ということで、
京都の美術展示施設で行うことになりました。
いまから1年〜1年半ほど前、常設展で展示されているものを
実際に説明できるように、データ化して実験したんです。
そこでいい結果が出まして、我々の考えてきたシステムは
美術館などで問題なく使えることが実証できたんです。 - 宮本
- ただ、その実証実験で、意外なことが2つあったんですよ。
ひとつめは、学芸員さんの反応でした。
僕は美術館の音声ガイドはよく利用するほうで、
あれを使うのと使わないのとでは、
美術館に行ったときの価値が4倍くらい
違うと思っているんです。
- 岩田
- 宮本さんは美術館によく行かれますが、
行って音声ガイドを借りないのは、
もったいないと思われていたんですね。 - 宮本
- ええ。たまに見かけるツアーで、
学芸員さんが小学生たちに説明しているところも見かけます。
内容も、結構面白いことを言われているんですよ。
だから僕はね、学芸員さんというのは、
本来はお客さんにひとりずつ説明したいんだろうと思っていたんです。
「音声ガイドも自分たちで手軽につくれるようにすれば
歓迎してもらえるんじゃないか?」と思ってたんです。
ところが、今あるガイドの貸し出しの仕組みを変えるのが大変だとか・・・、
そういう抵抗もあることがわかってきました。 - 岩田
- その反応は、宮本さんにとっては、予想外だったんですね。
- 宮本
- 予想外でした。もうひとつは、特定の目的がない日には
みんな意外とDSを持ち歩いていないということもわかったんです。
だから、博物館やイクスピアリでテストをしても、
かなり事前に告知をしないと持ってきてもらえないわけなんです。 - 岩田
- そうやって、「パブリックスペース利用はそんなに甘くなかった」
ということを思い知らされるわけですね。
わたしたちは、「携帯型ゲーム機は、どこでも遊べるのが特徴なので
お客さんはDSを外に持ち歩いて遊んでおられるのが普通」と
思い込んでいるわけですが、
実際、DSのお客さん全員にアンケートを取って調べると、
自分たちのイメージよりも、「DSを外に持っていく」と
答える方が少ないんです。
もう少し深く理由を調べてみると、
DSで遊んでいる方は、DSの所有者と、
DSを家族から借りて遊んでいる方の2種類の方がいて、
借りて遊んでいる方は勝手に持ち歩けないので、
結果的にDSを外で使ったことがないと答える人の割合が
多くなるみたいなんですね。 - 宮本
- 実際にDSを持ってこられている人は1割にも満たない感じでした。
- 岩田
- もっと携帯ゲーム機を持ち歩く習慣ができれば、
いろいろとお役に立てることがあると思うんですよね。
そういう意味で、ゲーム機と人との関係が変わるためには、
“ゲーム機を外に持ち出していただく”ということを実現するために、
こういった活動は、とても意味のあることだと思いますね。