『ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 〜光と影の英雄〜』
4. マルスのことを知らない人にも
- 岩田
- そうやって、今回の『エムブレム』では、
一度倒れた仲間が復活するようなモードも
お客さんの好みで選べるようになったわけですが、
そのことについて成広さんはどのように考えていますか? - 成広
- もちろん、一度倒れたら二度と復活しないという
『エムブレム』独特のシステムは、いい意味の緊張感を生み出し、
それを熱く支持してくださったお客さんのおかげで
シリーズを重ねることができたのは間違いないと思います。
でも、一方でその独特のシステムが、
新しいお客さんに対して「難しそう」という印象を
与えていたことも事実だと思うんです。
でも今回は、倒された仲間が次のマップで復活する
「カジュアルモード」というかたちで
新しいチャレンジがようやくできましたし、
『ファイアーエムブレム』の未来を考えると、
今回の決断はとてもよかったのではないかと思っています。
それと、そもそも「カジュアルモード」を選んでも、
遊びとしては絶対にぬるくならないんです。
マップ単位で考えると、そこでは仲間を失ってしまうので、
戦力は落ちてしまうんです。 - 岩田
- ですから、「大切な仲間を失いたくない」という気持ちは
変わらないということなんですね。 - 成広
- そうなんです。
ですから、「ああ、またここでやり直しか」というのではなく、
本来、『エムブレム』がめざしていたプレイスタイルに、
今回は近づくことができたと思っています。 - 岩田
- 4カ月間、議論を続けた前田さん、
最後は納得した上での結論だったんですか? - 前田
- はい、もちろんです。ファンの方だけでなく、
やっぱり初めての人にも遊んでいただきたいですし。 - 成広
- 実は今作をつくっているときに、
樋口の奥さんが、初めて『エムブレム』を遊んだそうなんです。 - 樋口
- あ、実はそうなんです(笑)。
結婚して10年くらい経つんですけど、
これまで『エムブレム』をまったく触ったことがなかったんです。
ところが突然「やりたい」と言い出しまして・・・。 - 岩田
- 何がキッカケでそうなったんですか?
- 樋口
- どうも友だちからすすめられたようなんです。
そこでWii版の『暁の女神』を渡したんですけど、
僕がインテリジェントシステムズに入社して
初めて『エムブレム』を触ったときとは逆の状態で、
今回は僕が後ろから嫁のプレイを見ていたんです。 - 岩田
- ああ、で、「そこはこうしろ」とか
今度は樋口さんがうるさく言う番になったんですね(笑)。
- 樋口
- はい(笑)。
たとえば「離れたところから弓で攻撃して、
相手のヒットポイントを減らしてから
剣でとどめをさすといいよ」とアドバイスすると、
嫁は素直にそればかり繰り返しているんです。
しかも、ひとり倒しただけですごく喜んでいたりして・・・。 - 岩田
- 「そんなことでうれしいの?」って思うんですよね(笑)。
- 樋口
- そうなんです(笑)。
それにマップで遊ぶ前に、最初に誰を出撃させるかという
「進撃準備画面」をまず最初にチェックするのがふつうなんですが、
嫁はそれも見ないでそのままスタートするんです。
そんなプレイを見ていると・・・すごく新鮮でした。 - 岩田
- 14年前の自分に戻ることができたんですね。
- 樋口
- はい。初心者の人はこんなプレイをするのかと、
いろんな発見がありました。 - 前田
- で、それ以来、樋口は初心者に対して素直になったんです。
- 成広
- これまでは、僕の言うことは
なかなか受け入れてくれなかったんですけど、
奥さんがプレイすることで
受け入れてくれるようになりました(笑)。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- それと、今作では「カジュアルモード」だけでなく、
初心者のお客さんのためにいろんな工夫を徹底したんですよね。 - 前田
- はい。たとえばプレイしたことのない人でも、
ストーリーとか世界観について
自然に楽しめるようにしました。
たとえば、わたしたちはこのゲームの主人公が
マルスということはよく知ってるんですけど・・・。 - 岩田
- シリーズをずっとつくり続けていると、
マルスはこういう人なんだということが
お客さんも全員知っているかのような仮定のもとで
つくられてしまうことがあるんですよね。
もちろん『スマブラ』(※13)を遊んだ人なら、
『エムブレム』を遊んでいないとしても
マルスのことを多少は知っているかもしれませんけど、
『スマブラ』も『エムブレム』も遊んだことのない人は、
「マルスって誰?」というのは、本来当たり前なんですよね。 - 前田
- 実際に、任天堂さんから
「マルスがどんな人なのかがわかりにくい」と
指摘を受けたこともありました。
ですから、物語を描くにしても
まずその説明から入る必要があると思いまして、
今作で初めて導入した「マイユニット」をうまく活かすことにしました。
「マイユニット」というのは、
自分の好きな顔にエディットできる
ようになっていまして、
自分自身を投影するような、もうひとりの主人公なのですが、
その「マイユニット」がいろんな人と交流することで
マルスをはじめとするキャラクターたちの人となりや、
『ファイアーエムブレム』の世界観といったものが
わかるようにしました。
『スマブラ』=ゲームキューブ用ソフト『大乱闘スマッシュブラザーズDX』とWii用ソフト『大乱闘スマッシュブラザーズX』に、マルスはプレイヤーキャラとして登場している。
- 岩田
- その「マイユニット」に関しても
議論があったんじゃないですか?
昔からの『エムブレム』ファンからは逆に
「これ、誰?」って思われそうですよね。 - 前田
- もちろん議論はありました。
『紋章の謎』が好きな人にとっては、
それ自体が完成された物語ですので、
「これは必要ない」という意見もたしかにありました。
でも、元の『紋章の謎』をなぞるのではなく、
新しい面白さを入れたいと考えたんです。
それに今回は、単純なリメイクではなく、
『紋章の謎』を土台にしながらも、
新しいシステムを乗っけるくらいのつもりでつくりました。
- 岩田
- たしかに、『紋章の謎』を遊んだことがある人も、
昔の『紋章の謎』を単になぞるだけでなく、
「ああ、ここが変わってる」という楽しみ方が
できるということの方がちょっと面白いですよね。 - 前田
- そう思います。
- 岩田
- ちなみに、樋口さんの奥さんの話にもあったように、
「離れた敵には、まず弓矢で攻撃して、
弱らせてから、最後に近づいて一撃で倒す」
ということすらご存じないような、
タクティクス系のゲームの経験がないお客さんに対しては、
どのようなケアがしてあるんですか? - 前田
- 今作ではまず「マイユニット」をつくって、
マルスの軍に入隊するための試験を受けることが
プロローグになっているんです。 - 岩田
- つまり、その試験を受けることによって、
いろんな戦術が自然に学べるようになっているんですね。 - 前田
- そうです。プロローグの遊び自体が、
それをめざしたつくりになっています。
それと、『エムブレム』をよくわかっている人でも
遊んで面白いと思えるような、ひとつのステージにしました。
ですから、遊びとして成立させつつ、
わからない人も自然に学べるようになっています。 - 岩田
- それはとても難しいチャレンジなんですよね。
初心者の方に対して、チュートリアルを通じて
何もご存じないところから遊んでもらえるようにするということと、
よく知っている人に最初から楽しく遊んでもらえるようにすることの
両方を共存させることはなかなか難しいんですけどね。 - 前田
- 今回はそれをめざしました。
どうしても、チュートリアルみたいなかたちにすると、
知らない人にとっては、いろいろ学べるんですが、
知ってる人は「こんなこと、わかってる」となるんですね。 - 岩田
- ていねいなチュートリアルは、
知ってる人には逆に苦痛だったりしますよね。 - 前田
- そこで、プロローグは
あくまでゲームとして遊んで楽しいものにしました。
そこではマルスがどんな人かもわかりますし(笑)。 - 岩田
- つまり今作は、初心者にはとても易しく、
シリーズのファンの人たちにもたっぷり楽しめる、
新しい構造になっているということなんですね。 - 前田
- はい。