『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』
4. お客さんの立場でプレイ
- 岩田
- 王道のゲームとして、堀井さんが
絶対に押さえなきゃいけないと考えることは
どんなことなんですか? - 堀井
- なんとなくですけど、
“ゲームの安心感と温かみ”ですかね。 - 岩田
- “安心感と温かみ”というのは
実際に遊んでいても、すごく伝わってきますね。 - 堀井
- それに、何をやっても許してあげるみたいな
“自由に遊べる”ところですね。
やっぱり、いろんなことができるようにしたいですし
「ああ、こういうこともできるんだ」
みたいなことがあると、やっぱりうれしいですよね。
それに“わかりやすさ”も大事にしています。
「何をしていいのかわからないよ」と言われるのが、
作り手としてはいちばんツライですし。
そういったわかりやすさを基本にしながら
あとは“雰囲気”だったりとか、
“面白さ”ということになるんでしょうけど、
とにかく触っていて、何をしていいのかわかんないんだったら、
面白さすらわかってもらえないですからね。 - 岩田
- ただ、作り手としては、
ついつい独りよがりになることも多いですよね。
堀井さんはどうやって、
お客さんにとってわからないようなことが
起きないようにしているんですか? - 堀井
- 僕自身が実際にやってみるんです。
それで「あ、これじゃわかんないな」と確認したり。
- 岩田
- 堀井さんが自分で触ることこそが、
最大のチェックなんですね。
しかも、ゲームシステムをつくった人としてではなく、
堀井さんがお客さんの気持ちになって
チェックしてるんですね。 - 堀井
- そうです。
- 岩田
- それは堀井さんのすごく特別なところかもしれないですね。
自分が送り手としてつくったものは、
なかなか受け手の視点では見られないですから。 - 堀井
- 雑誌の記事とかを見ても思うことなんですけど、
記事を書く人は基本的なことがわかってるので、
ついつい飛ばして書いちゃうんですよね。
そのことに書いてる本人も気づかないことが多いんですよ。
だから「いきなりそこから書いちゃあダメでしょう」
と思ったりするんです。 - 岩田
- そういったモノの見方は、昔から得意だったんですか?
- 堀井
- そうだったかもしれないですね。
自分がいちばんのユーザーだったので。 - 岩田
- 世の中には、よくできてるゲームもあれば、
よくできてないゲームもありますよね。
堀井さんは、昔からたくさんのゲームを遊んできて、
そういった差が敏感にわかるんでしょうね。 - 堀井
- そこはもう、肌感覚ですよね。
なかには惜しいゲームもけっこうあるんですよ。
やりこめば面白いんだけど、
やりこむ前にたぶん飽きちゃうだろうなとか。 - 岩田
- わかると面白いゲームは
世の中にいっぱいあふれてますからね。
だけど、その大半は面白さがわかるところまで
なかなか到達できないんですよね。 - 堀井
- そう、敷居が高すぎるんですよ。
そこは、もったいないなと思うんですけどね。 - 岩田
- そういった、堀井さんがものづくりに関して
すごく大事にされているところに
わたしたち任天堂としては、
すごくシンパシーを感じますね。 - 堀井
- そういった感覚は、僕もすごく近いと思います。
僕はマニュアルをあんまり読まない人なんですけど
やっぱり宮本(茂)さんがつくるゲームは、
そういったものを読まなくても
触れば感覚的にわかっちゃうんですよね。
「こうやればこうなるんだろうな」ということで
実際にやってみると「ああ、やっぱりそうだった」と。
そういったことの繰り返しで
ずっと遊んでいけるようなところがあって。 - 岩田
- そもそも、わたしたちのつくったもので
お客さんがどうしていいのかわからないことがあると、
それは説明書を読まないお客さんが悪いんじゃなくって、
わかりにくいゲームをつくった
わたしたちに責任があるわけですからね。
そこを乗り越えない限り、
たくさんの人に受け入れてもらえることはないですし。 - すぎやま
- それは、すべての商品に言えることですよね。
ゲームにしても、デジカメにしても、家電製品にしても、
マニュアルを読まなきゃ使えないものは、
商品としてはダメなんだと、僕は思うんです。
でも、堀井さんのゲームや、『スーパーマリオ』なんかは、
マニュアル読まなくても遊べますしね。 - 堀井
- 『マリオ』とかで、自分の好きなように遊んでいると
自分が思わないことも起こったりするんですよね、
「うひゃあ」という感じで。 - 岩田
- (笑)
- 堀井
- そういう意外性が『マリオ』にはすごくあるんですよ。
それに後ろから見ていても面白いですし。
思いがけず、すごいワザを使ってしまったりとか、
「いまの見た? すごかったでしょ」というのが
起きるというのがすごいなと思いまして。 - すぎやま
- 僕はアクションが苦手ということもあって
『マリオ』は自分でやるより、
後ろから見てたほうが多かったくらいでしたから。
『マリオ』の名人を家に呼んで
やってもらったりしてたんです(笑)。
- 岩田
- やっぱり面白いゲームは
後ろから見ているだけでも楽しいんですよね。 - 堀井
- そこは重要だと思いますね。
- 岩田
- さきほど堀井さんは、
「自分で触ってわかる」と言いましたけど、
そう断言できるのはすごいですね。
たとえば初めてプレイする人を観察して
それをゲームづくりに活かすようなことは
よくあることなんですけど、
「自分がアンテナなんだ」と、
そう言い切れるのはすごいなあと思いますね。
やっぱり堀井さんの場合、
お客さんの立場でゲームを触って、
そのときに感じてたことが、
実は全部、ものづくりに生きてるんですね。 - 堀井
- それでも漏れはありますけどね。
- すぎやま
- 堀井さんはゲーマーだから、ゲーム大好き人間だから。
やっぱり理屈ではなくって、感覚的に面白いもの、
楽しいもの、それを感性で判断してるんですよね。 - 岩田
- 変な話、生理的に気持ちいいか、よくないかということは
すごく大事じゃないですか。
「うーん、なんか気持ち悪いなあ」とか。 - 堀井
- ありますあります。
実際に触ってみると、
なんとなく触り心地が悪かったりとかして
それがすごくイヤだったりするんですね。 - 岩田
- それこそ延々と何十時間もつきあうものが、
生理的に気持ち悪いと、いい記憶になるはずがないんですよね。
だけど、その感触の違いを感じる人と感じない人の差は格段に大きくて、
ちょっと触って一発で「あ、これダメ」と判断できる人と、
「え? どこが悪いんですか?」という人が
ハッキリ分かれるんですよね。
こういったことは残念ながら、
なかなか教えられないような気がするんですが。
- 堀井
- そこはもう、すごく感覚的なことですからね。
- すぎやま
- それは、音楽も同じだと思いますね。
- 岩田
- そうなんですか。
- すぎやま
- 理屈で、理論でいくら立派な音楽を書いても、
聴いてつまらなきゃ、それはつまらないんですよ。
やっぱり音楽も感覚的にいい音楽じゃないと。
だから僕は、たとえばダンジョンのなかの曲でも
恐いけど、どこか美しい、
恐いけど、心地よい、
そんな音楽を心がけてつくってますし。 - 岩田
- 恐いけど、不快なものじゃいけないんですよね。
- すぎやま
- そう。不快じゃいけないんですよね。
だから、世の中ですごい音楽理論で、
理屈だけでつくった音楽というのはね、
だいたいダメですね。
聴いていて楽しくないですから。
ゲームでもそうでしょう、きっと。 - 堀井
- だからこそ、
最後のさじ加減みたいなものが
大事になってくるんですね。 - 岩田
- ああ、おんなじですね(笑)。
- 堀井
- おんなじとは?
- 岩田
- いまの堀井さんのその言葉、
社内で口癖のように言う人がいるんですよ。
- 堀井
- それって宮本さん?
- 岩田
- はい(笑)。