1. ダメもとでアプローチ 岩田 つんく♂さん、はじめまして。 今日は、ご足労いただいてありがとうございます。 任天堂は、社長が製品の開発スタッフにインタビューをするという、 「社長が訊く」というちょっと変わった企画を展開しているんですが、 『リズム天国ゴールド』の開発スタッフから話を訊いてみて、 やはり、つんく♂さんから直接お話を訊かないと、 開発の背景は本当には見えてこないのではないかと感じ、 無理をお願いして、お付き合いいただくことになりました。 本日はよろしくお願いします。 つんく♂ こちらこそ、よろしくお願いします。 岩田 今回、つんく♂さんと任天堂が いっしょにゲームをつくるという 不思議なご縁ができたわけですが、 まず、そもそものはじまりのところから お聞かせいただけないでしょうか。 つんく♂ わかりました。 ま、ぼくも、けっこうゲームが好きで、 いろんなゲームをやらせていただいたんです。 いわゆる「音ゲー」というものが流行りましたよね。 音楽に合わせて、ボタンを押していくという。 ぼくもいくつかやってみたんですけど、 音楽をやっている立場からすると、 どうもフラストレーションを感じるんです。 「ここがボタンを押すところ?」という感じで。 つまり、あれは、リズムにのるというよりも、 けっきょく、目押しをしてるんですよね。 岩田 そうですね。 だから、いわゆる「音ゲー」というのは 目で見て、譜面に合わせて、 指定されたところでボタンを押すだけであって、 リズムではないんじゃないかと、 感じられたわけですね。 つんく♂ そうなんですよ。音、関係ないんですよね。 そんなふうに、当時は感じてまして、 でも、まぁ、そんなことをね、いちいち、 ぼくらが言ってもしゃあないというか、 こういうもんなんやなということで そのときは終わってたんです。 で、数年前になりますけど、任天堂さんから 『ドンキーコンガ』というゲームが出て、 ぼくの楽曲をたくさん使っていただいたこともあって サンプルを送っていただいたんですね。 それで、家でそれをやってみたときに、 「あれ? ここはこうじゃないんじゃないかな」と。 で、その夜に、最初の企画書みたいなものを バーッと書きはじめたんです。 これはなんか伝えなあかん、という気がして。 ゲームをつくってる人たちになにか伝えないと、 ぼくにとっても、世間にとっても、 「音ゲー」というものが 曲がっていくような気がしたんです。 で、書き上げたんですけど、 それをどうするかというのは はっきりとは決めてなかったんです。 うちの社員たちに話したんですけど、 「いや、ゲームつくるなんて無理ですよ」 「何曲つくらなきゃいけないと思ってるんですか」 みたいな反応ばっかりで、軽く説教されて(笑)。 岩田 (笑) つんく♂ 当時、いくつか、つき合いのある ソフトメーカーさんはあったんです。 社員は、とりあえず、そこへ相談してみる、 ということを考えていたみたいなんですけど、 ぼくとしては、もう、 「ダメもとでいいから、任天堂に送ってくれ」と。 それは、なんていうかな、 ソフトをつくる会社じゃなくて、 「遊びそのもの」をつくる会社じゃないと ダメだと思ったんです。 それで企画書を任天堂さんに送って、 それがそもそものきっかけですね。
岩田 私はその話を聞いて、 つんく♂さんの考えをもっと知りたい、 と思ったんですね。 で、やりとりをするなかで、あらためて つんく♂さんからメッセージをいただいて 「ああ、これだけはっきりと やりたいことがおありなんだな」と はじめて理解できたんです。 やっぱり、私たちにも最初はわからなかったんですよ。 音楽をされている方のなかで ゲームをつくってみたいという人は、 まあ、少なからずいらっしゃるわけで、 「自分のつくってる音楽の出口が増えればいい」 と思ってらっしゃる方から、 「とにかくゲームをつくりたい」という人まで、 ダイナミックレンジがとっても広いんです。 そんななかで、つんく♂さんは、 「日本人のリズム感って、やりようによっては もっともっとよくできる」という ある意味、ダイナミックレンジを 振り切ったようなところから考えておられて、 その視点と、真剣さが、私にとっては驚きでした。 それで、どうなるのかは、わからないけれど、 とにかく真剣に向き合って話してみようと。 つんく♂ はい、そうですね。 岩田 つんく♂さんは、ダメもとでアプローチしたと おっしゃってましたけど、 思いのほか、扉は簡単に開いたな という印象だったんでしょうか。 つんく♂ そうですね。 話をちゃんと聞いてくださったのが、 いい意味で予想外だったというか、 たんに「こういうゲームはどうですか」みたいな 話にならないのがありがたかったです。 当時の「音ゲー」に対するフラストレーションと、 リズムに対するぼくの思いというのを きちんと聞いていただけましたから。 あの、いろんなゲーム会社さんから、 「いっしょにゲームつくりませんか?」っていう オファーはたくさんくるんですよ。 で、いちばんよくあるパターンは、 「バーチャルな世界で、 プレイヤーがプロデューサーになって 女の子のアイドルたちを育てていきます」 みたいな企画で、それはまぁ、 モーニング娘。のヒットなんかがあるから、 わからないわけじゃないんですけど、 なんとなく、乗り気じゃなくて、 いくつも断ってたんですよ。
岩田 どうしてやる気になれなかったんでしょうね。 つんく♂ ま、それはべつに、 ぼくがいなくてもつくれるというか。 単にぼくの名前とモーニング娘。の設定だけが 欲しいんじゃないかなと思って。 だから、たぶん、それをつくったとしても、 キャラクターだけがかわいい、みたいな 雰囲気だけのゲームになりそうで、 それはぼくがつくりたいものじゃないと思ったんです。 その点、任天堂の方たちは、最初から、 「どういうゲームをつくりたいんですか?」という きちんとした聞き手になってくれたんで、 うれしかったですね。 岩田 ちなみに、私たちは、今回のお話をいただいて、 『メイド イン ワリオ』シリーズをつくっていた チームの人たちに担当してもらうことに決めたのですが、 任天堂からつんく♂さんのところに お邪魔した人たちの 第一印象ってどんな感じでした? つんく♂ ええと、もっとゲーム開発者っぽいというか、 技術屋さんみたいな人が来るかと思ったんですけど そうでもなかったというか(笑)。 あとは、いきなり契約書というか誓約書というか そういう書類を持ち出されるわけでもなく。 岩田 ああ、「まずこれにサインしてください」 というような(笑)。 つんく♂ ええ、そうです。 「開発するまで口外しないでください」 みたいなことをいきなり言われるのかな と思ってたんですけど、そういうこともなく。 ま、やっぱり、いちばんうれしいかったのは 「関西弁で話し合いができた」ということですね! 岩田 (笑) つんく♂ 東京の、うちの小さいオフィスで、夏の暑い日に、 「クーラー直接当たると寒いな」 「消すと暑いな」「当たると寒いな」言いながら、 関西弁でお話できたのは、よかったです。 音楽に詳しい人も何人かいらっしゃって、 突っ込んだ話ができたのもよかったな。 あ、それから、あのころ、ぼくはたまたま 『メイド イン ワリオ』にハマってたので、 その『ワリオ』のチームが動いてくださったのも 話が盛り上がるきっかけになりましたね。 岩田 逆に、うかがったうちの社員たちも、 ものすごく刺激になったみたいでしたよ。 東京から帰ってきたあとに、 つんく♂さんのお話をうかがってよかったと ──このことばをあの男たちに 使うのは抵抗がありますが── 「目をキラキラさせて」語ってましたから(笑)。 つんく♂ (笑) 2. リズム感は鍛えられる
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