2. リズム感は鍛えられる 岩田 『リズム天国』、 あるいは『リズム天国ゴールド』において つんく♂さんが強く打ち出してらっしゃった コンセプトというのは 「リズム感は鍛えられる」というものでした。 そのあたりについて、教えていただけますか。 つんく♂ そうですね、たとえば、 「英語がしゃべれない」というのは、 日本人が抱きがちなコンプレックスですよね。 それと同じように、「踊れない」とか、 「リズムにのれない」というのもあると思うんです。 で、これは、いつもぼくが思うことなんですけど、 いまからネイティブな英語を しゃべるのは無理かもしれないけど、 鍛えればある程度までは たどり着けるんじゃないかと。 とくに、リズムに関しては、 鍛えればある程度の領域には、 全員、行けるんじゃないかなと思うんです。 岩田 それは、やっぱり、 モーニング娘。の人たちをレッスンしていくうえで はっきりと確信したことなんでしょうか。 つんく♂ そうですね。もう、みんな、 最初はぜんぜんできないですからね。 それでもなんとか踊れるようになりますから。 岩田 つまり、つんく♂さんには、 「リズム感は鍛えられる」ということについては すでに実績があるわけですね。 つんく♂ そうですね。ぼくのなかでは証拠も実績もある。 歌のピッチをよくするよりも、 リズム感をよくするほうがよっぽど簡単です。 ですから、若い子だけではなく、 おじさんやおばちゃんも含めて、 「英会話でも習ってみようか」 という気持ちと同じくらいの感覚で、 リズム感を鍛えてもらえればなと。
岩田 リズム感というのは 先天的なものじゃなく、鍛えられるんだ、と。 それはもう、つんく♂さんにとっては 確信なんですね。 つんく♂ そうですね、実証済みというか。 それは、モーニング娘。を教える以前に、 自分自身の経験から、知ったんです。 岩田 ということは、つんく♂さんも、 もともとはそんなにリズム感はよくなかった? つんく♂ いえ、ぼくは、いいほうだとは思います。 ただ、ふだんはできることが、 できなくなる瞬間があって、 「それはなんでやろ?」って考えていたんですね。 それは、リズム感だけの話じゃなくて、 たとえばサッカーをやるとき、 ふだん、友だちとやるときはできるのに、 試合になるとミスをする。とくに、PKを外す。 バレーとか卓球でも、サーブをミスする。 これ、リズムが止まるからなんですよ。 ふだんの流れのなかだったらできるのに、 止まってスタートするとできなくなってしまう。 岩田 ああ、連続動作のなかに 組み込まれているとできるのに、 1回止まっちゃうとできなくなるんですね。 つんく♂ そうなんです。 1、2、3、4、1、2、3、4‥‥と 続いてるんだったらできるんですけど、 ゼロから1にしようとするときに、 おかしくなっちゃうんです。 なわとびに入れなかったり、 エスカレーターに乗れなかったりするのと 同じような感覚で。 岩田 なるほど(笑)。 つんく♂ そんなような失敗を自分で経験して、 「なんで失敗するのかな」と考えたのは そもそものはじまりですね。 わかりやすいところでいうと、 ぼくらが新人のころに、 はじめてレコーディングをしたとき。 アマチュアのころに散々やってきた曲を こう、ブースのなかで歌うんですけど、 歌い出しのときに、入れないんですよ。 「あれ? オレ、いままで どうやって入ってたっけ?」ってなるんです。 いちおう歌うんですけど、それを家に帰って聞くと ものすごく不自然な感じがするんですよ。 岩田 はーーー。 つんく♂ なんでこうなるのかなと考えてるうちに、 リズムをずっと刻んでないからだ ということに思い当たったんです。 岩田 つまり、まずご自身が 思い通りにならないということを体験して それを克服するうえでわかっていった。
つんく♂ そうです。 で、まず自分に対するカルテというか、 レシピというか、メソッドみたいなものをつくって 自分用のものとしてずっと持ってたんです。 といっても、べつに、本とかメモのかたちで 残してあるわけじゃないんですけど。 で、プロデュースをはじめて、 教える立場になったときに、 「オレ、どうやってたっけな?」って思ったんです。 そこでいろんなことを思い返しながら、 「あ、そうや、こうやったらええねやって思ったな」 ってことをひとつひとつ教えていったんです。 岩田 それで、スッとできるようになるんですか? つんく♂ できる子もいるんですけど、 思った以上にみんなできないんです。 つまり、ぼくは最初からそこそこできてたんです。 だから、もっとできない子に教えるためには、 という意味で、よりわかりやすい かみ砕き方をしなきゃいけなかったんですが。 岩田 入門者用というか、初心者用というか、 より簡単なコースを開発して。 つんく♂ はい。それはある意味、ぼくも学びながら。 「そうか、1、2、3、4すら数えられへんのか」 というとこからはじまっていくんです。 でも、それがあったからこそ、 モーニング娘。がああやって集団化していって、 ディレクターや環境が変わっていっても 同じような教え方をさせられるように なっていったんですね。 岩田 なるほど、なるほど。 そういう、基礎的なリズム感の修得に 焦点を当てたメソッドというのは、 音楽の世界では一般的ではないんですか。 つんく♂ いや、あんまりないと思います。 岩田 本来リズムというのは 音楽の中のすごく重要な要素のひとつなのに、 そこにスポットライトが 当たってこなかったのはどうしてなんでしょうね。 つんく♂ やっぱり、譜面に載ってないからでしょう。 さっきの小さな「ン」を入れるというのは、 まぁ、譜面に乗せられなくはないんですけど、 基本的には、自分で見出していくことですから 最初から譜面に書いてあることではないんです。 岩田 そうですね。 つんく♂ 覚え方があるとしたら、 うまい人の歌なり演奏なりを人が聞いて、 まるごと覚えて、ノリを再現していく。 本来、「譜面がない音楽」というのは、 そうやって、丸ごと覚えて まねることによって伝わっていくんですね。 日本の雅楽や舞踊や民謡なんかも、 簡単な譜面はありますが、基本的には師匠から 「♪ちとんしゃんとしゃーん」って言われたのを 丸ごと暗記していくわけです。 それは、子どもがことばを覚えるときも同じですよね。 で、そういう、丸ごと覚えていくものって 「教えてください」って言われても困るんですよ。
岩田 ああ、たしかに、そうですね。 つんく♂ たとえば外国の方のものすごいダンスや パーカッション、リズムというのは、 当然、譜面があるわけでもないし、 あの人たちの体に染みこんでるものですよね。 もう、ふつうにリズムを刻むだけで、 「♪ドンスタスタ、ドンドットスタタ」 とかなるんですよ。 あれを「教えてくれ」って言っても あの人たち、困ると思うんですよ。 「え? なんで?」って。 「いや、だって、こうやってさ」としか 言いようがないんじゃないかなと思うんです。 岩田 最初からできている人たちは、 できない人の立場に立てないし、 できない人がどこでつっかえるかも わからないから教えられないんですね。 つんく♂ そうですね。 だからやっぱり、リズム感を教えることって、 譜面化されてないというか、 メソッドができていなんだと思います。 逆に、譜面どおりにやるのは、 日本人って得意なんですよ。 ただ、それだとやっぱり ノリというかグルーヴが出ない。 岩田 うーん、なるほど。 3. 「ノリ」ってなんだ?
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