Vol.5 『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』編
第4回 「つねに全員が『ゼルダ』らしさを意識している」
- 岩田
- さて、これは先に集まってもらった
若手の開発者の方にもうかがったんですが、
「あなたにとって『ゼルダ』とは何か?」
ということを訊いていきたいと思います。
じゃあ、まず河越さんからお願いします。
河越さんにとって『ゼルダ』とは? - 河越
- そうですね……。
私はムービー部分を担当してるので、
開発中、ダンジョンのことなどは
あまり詳しく知らなかったりするので、
開発が終盤になったころに
ユーザーさんに近い気持ちでテストプレイをさせていただいて、
ふつうに楽しんだりしているんですけど(笑)。
先日も、どうしても謎がとけなくて、
クリアーできないダンジョンがあって、
すごい、しかめっ面でプレイしてたんですが、
それがようやく解けた瞬間に、自分でもわかるくらい、
にやりとしてしまいまして(笑)。
まわりの人に見られてなかったと
ちょっと気になったくらい、にやりと。
その、にやりとする瞬間というのが
ものすごく『ゼルダ』だと思うんですね。 - 岩田
- それを味わいたくて遊ぶような。
- 河越
- はい。そのニヤリとする瞬間というのを
いちばん大切にしているソフトだな
という印象が強いですね。 - 岩田
- その「わかった!」という瞬間を
お客さんに楽しんでもらうがために、
あれほどリッチな世界を作る必要があるんですね。 - 河越
- そうですね。
シネマシーンディレクターの立場からいっても、
いろんな情報をユーザーさんに事前に与えておくというのが
私の重要な役割のひとつです。
ひとつのイベントをクリアーするというときに、
そのイベントにどれだけ一生懸命になれるか
というところを補強していくという意味で、
ムービーというのは重要だと思っています。 - 岩田
- ほかのソフトでのムービー作りとくらべて、
『ゼルダ』のムービー作りは何か違うことはありますか。 - 河越
- 『ゼルダ』のムービーに関しては、
ボタンを押さない時間をなるべく作らないように
ということがとにかく大切です。
これはもう、『時のオカリナ』のころから
ずっと一貫してこだわっているところです。 - 岩田
- それは、ムービーを作る立場から言うと、
かなり厳しい要求なんじゃないですか?
- 河越
- そうですね(笑)。
でも、お話が展開していって
字幕で長いメッセージが語られるような場面でも、
ユーザーがそれを何もしないで見ているという形には
なるべくしないようにしていて、
少なくとも、ユーザーがボタンを押して
メッセージを進めるまでは、
その先の場面にムービーが進まないように
という方式を一貫して守ってきました。
なるべく、ゲーム全体をユーザーの方が
自分でコントロールできるように、と。
それをやると、ボタンを押さないあいだ、
ムービーはどうなるのか対処しなくてはいけませんから、
作るのは非常に大変になってくるんですけど。 - 岩田
- メッセージが送られていない間を
どう持たせるんだ、という苦労がありますよね。 - 河越
- でも、そういう工夫も一応あるんですね。
シリーズを重ねるごとに、そういう工夫というか、
ノウハウもたまってきますので、
そのこだわりは今後も守っていきたいと思っています。 - 岩田
- そういったムービーのこだわりひとつとってみても、
『ゼルダ』らしさにつながっているように思います。
それでは、朝川さん。
朝川さんにとっての『ゼルダ』とはなんですか。
- 朝川
- 実際に体験したかのように感じること、
ゲームの中の出来事が実感できること、でしょうか。
冒険の中に入っていける……操作してるんじゃなくて、
自分が本当にブロックを押しているように感じたり、
ダンジョンの中で謎を解くことが
実感として伝わるゲームだなと思いますね。
それは、謎解きや戦闘に限らなくて、
誰かと出会って話をしたり、
どこか知らない場所を訪れたりというときも
不思議に実感をともなうような感じで……。
まあ、ファンタジーとひと言でくくるのもなんですが、
実際にはない世界を体験できるということが、
映画を見るときなどともまた違う、
『ゼルダ』ならではの感覚だと思います。
あと、メインの部分とはちょっと違うかもしれませんが、
脇役としてちょっと変な人が出てきたりとか、
「こんなキャラ、ふつうは作らへんよね」
というのをどんどん登場させていくのも、
『ゼルダ』っぽいところじゃないかなあと思いますね。 - 岩田
- そうですね。
シリアスなテーマの本格派ゲームに、
チンクルのような、
違うゲームソフトの主役として
ソロデビューしたりするまでの
アクの強いキャラクターが登場するのは、
やっぱりふつうのゲームでは
なかなかないことかもしれません(笑)。 - 朝川
- 作っているときに、どうしてもそういうキャラクターに
力を注いでしまうんですよね(笑)。
でも、それによって、そこでのイベントとかも
いっそう印象が強くなったりもするので、
「あ、なんかすごく変なイベントやったけど、
なんかおもしろかったな、心に残ったな」
とか思ってもらえるようなものを
作っていきたいという気持ちが強いですね。
「なんだったんだ、あいつは?!」
みたいなとこでもいいんですけど、
何かちょっと引っかかるものがイベントとかにあると
『ゼルダ』っぽいんじゃないかという気はします。
王道というところをちょっと外すみたいなところが
けっこう好きなんですよね。 - 岩田
- 『ゼルダ』はゲームとしては王道なんだけども、
外すこともしっかりやってるということでしょうか。 - 朝川
- そうですね。それも『ゼルダ』だと思うんです。
- 岩田
- なるほど。
高野さんはいかがですか? - 高野
- あの、昔、糸井重里さんがコピーで
「おもつらい」って言ってたじゃないですか。 - 岩田
- ああ、はい、バス釣りのときですね。
- 高野
- はい。
おもしろくて、つらくて、でもやっぱりおもしろい。
『ゼルダ』をプレイするときって、そうだと思うんです。
すごくつらい瞬間もあるんだけど、
最終的にはやっぱりすごくおもしろい。
それは作っているときもそうなんです。
つらい作業も多いんだけど、
最終的にできあがったものをやってみると
ものすごくハイな気持ちよさがある。
あと、『ゼルダ』らしさという点で重要なのは、
作る側だけではなくて、プレイする側にも、
『ゼルダ』というものについて
強い思い入れを持ってもらえていることだと思います。
遊ぶ人の数だけ『ゼルダ』があるともいえますから、
作るほうも、作りながらしょっちゅう、
「これって『ゼルダ』っぽくないんじゃない?」とか
「『ゼルダ』っぽいって、どういうこと?」
みたいな議論になっていって、
つねに『ゼルダ』と真剣に向き合うことになるんです。 - 岩田
- 『ゼルダ』っぽいとは何かというのは
きちんと言語化されてはいないんだけど、
何かしらの共通認識があるんでしょうね。 - 高野
- ほんとにそうなんです。
とくに「これは『ゼルダ』っぽくない」という言葉は
開発中にいろんなところで耳にする言葉で、
たまに、誰かがキレて、
「じゃあ、何が『ゼルダ』っぽいんだ!」
みたいなことを言ったりするんですけど(笑)、
やっぱり、誰も答えることはできないんです。
でも、いいものがフッと生まれたときは
「あ、『ゼルダ』っぽいね」
「うん、『ゼルダ』だね」っていう感じで、
はっきりと定義されていないにもかかわらず、
スッと「『ゼルダ』らしさ」が共有されるんですよ。
そういうふうにして、最終的にできあがっていく、
なんとも不思議なソフトなんですよね。 - 岩田
- なるほど。
少なくともいえることは、『ゼルダ』というのは、
ひとりの頭の中から
すべてが生み出されるようなものではなく、
いろんな人が悩みながらアイデアを出し合って、
それぞれの『ゼルダ』らしさをクリアーしたものが、
また新たな刺激となってアイデアを生んでいく、
そんなふうにして『ゼルダ』らしさが
作っている人たちの中に、
だんだん作られていくのかなというふうに思いますね。
滝澤さんはいかがですか?
- 滝澤
- 自分のやってる職種から言いますと、
やっぱり箱庭だと思ってるんです。
その箱庭がしっかりとできていれば、
何をやろうが『ゼルダ』なんだろうと思います。
箱庭の中をひとつの世界として、そこでの冒険が、
体験としてプレイヤーの中に蓄積していって、
それによって行動範囲が広がっていく。
その、大きなお約束さえ守っていれば、
何をやってもいいんじゃないかと思っていて、
だからこそ、その大前提である箱庭を
しっかりと作ろうと思っているんです。 - 岩田
- デザインの面から大きくとらえると、
そういう幅の広い概念になるんですね。
ほかに、『ゼルダ』のデザインにまつわることで
気をつけていたことはありますか? - 滝澤
- リンクのデザインで心がけているのは、
かっこよくしすぎないこと、多少、もっさりとした、
「ダサさ」があるくらいでいいということです。
というのは、『ゼルダ』におけるリンクというのは
いわゆる「ハンサムなヒーロー」ではありえないような
さまざまな表情やアクションを見せるんですね。
釣りをして、小さな魚を釣ったときの顔とか、
何かにすごく驚いたときの表情とか……。
箱庭の中で自由に行動できるのが
『ゼルダ』の大きな特長のひとつですから、
表情やアクションも、操作に応じて、
多彩になっていなければ成り立たない部分があるんです。
ですから、「リアルな人間としてはおかしな動作」も
ときには出てくるんです。というときに、
「8等身の超美形キャラクター」では困るんです。
それで、ゲーム中のリンクのデザインというのは、
かっこいいけれども、ぎりぎりのかっこよさ、
というあたりを目指してチューニングしています。
たとえば、イラストのリンクにくらべて、
ゲームの中のリンクの足が短めだったりするのも、
操作したとき、「地面を踏みしめる感触」が
プレイヤーに伝わるぎりぎりの長さだったりするんです。 - 岩田
- ああ、なるほど。非常に興味深いですね、それは。
- 滝澤
- しかも、『ゼルダ』っぽいという点で
すごくおもしろいのは、
ゲームの中心にそういうリンクを置いたことで
敵キャラクターやノンプレイヤーキャラクター、
その他のアクション、イベントの演出や、
そのまわりを取り巻く世界にいたるまで、
ゲーム中に登場するほとんどのものが、その「もっさり感」を
微妙に含んだものになっているということです。
そういった、大きなデザインの指示というのを、
ぼくはとくに出していないんですよ。
自分がデザインをチェックするときの指針としては
つねに頭の中にあったんですけど、
ほかの人にそれを強制してはいないんですね。
なのに、それぞれをデザインする人が、
中心にあるリンクのデザインに共感して、
ゲーム全体の雰囲気を崩さないように
ぎりぎりの「ダサさ」でデザインを調整している。
そういった、世界全体に対するこだわりの意識が、
『ゼルダ』っぽさを作っているんじゃないかなあと
今回の開発を通じて感じたんですけれども。 - 岩田
- デザインのみならず、ということですね。
『ゼルダ』っぽさが何かははっきりわかりませんが、
『ゼルダ』っぽさを、開発に関わる全員が
つねに意識しているということこそが、
いちばんの『ゼルダ』っぽさなのかもしれませんね。
宮永さんは、いかがですか?
- 宮永
- おっしゃったように、
みんなの意見が合わさって作られていくのが
本当に『ゼルダ』らしい部分かなと思います。
じつは先日、頭からエンディングまで
通してプレイしたんですけど、
最後まで遊び終わって痛感したのは
ゲームがすごく「人間くさい」ということなんですよ。
「人間くさい」という言い方が
正しいかどうかわからないんですけど、
なんというか、ドライじゃないんですね。
たとえば謎ひとつ解くにしても、
「このアイテムとこのアイテムを組み合わせると
ここの石盤がこう動いて……」
という感じではなくて、ひとつひとつが人間くさい。
その感覚は、ほかのソフトを遊んでいるときには
得られないものだと思うんです。 - 岩田
- その「人間くささ」ってなんでしょうね?
- 宮永
- うーん、なんでしょうね……。
爆弾で岩を壊すときひとつとってみても、
デジタルな感じがしないというか……。
うまく言葉にできないですけれども、
やっぱり、それぞれのセクションを担当する人が
それぞれのパートを作るときに、
ものすごく思い入れを持って
作っているように思えるんです。
それが、できあがったゲームにも反映されていて、
最終的にひとつにまとまっていくことによって
はっきりと目で見えるわけではないけれども
すごく大きな効果になっているというか。 - 岩田
- 作り手にしろ、遊び手にしろ、「自分」というものが
すごく投影されるゲームなのかもしれませんね。 - 宮永
- ああ、そうかもしれません。
- 岩田
- 池松さんは、いかがですか。
いったい何が『ゼルダ』らしいのか。
- 池松
- うまく言えそうもないので
すごく具体的な例を挙げてみようと思うんですが、
あの、ゲーム中に、敵がたくさんいる砦の中に
リンクが侵入していく場面があるんですね。
そこをテストプレイしていたときのことなんですけど、
自分がそこへ突っ込んでいくと、
目の前に敵がいて、その敵は、
イノシシを丸焼きにして食べようとしていたんです。
自分は弓を持っていましたので、
その敵を狙って撃とうとしたんですが、
ふと、「イノシシを撃ったらどうなるかな?」
って思ったんです。で、イノシシを撃ったところ、
そこからハートがパッと出てきたんです。 - 岩田
- それは『ゼルダ』っぽい(笑)。
- 池松
- そうなんですよ(笑)。
だから、ゲームをプレイしながら、
「こういう状況だから、もしかしたら、
こういうことやったら何かいいことがあるかも?」
と思ってゲームの中でそれを試してみると、
『ゼルダ』って、ちゃんと応えてくれるんです。 - 岩田
- ああ、そうですね。
- 池松
- もちろん、何もかも全部、
リアクションが用意されているわけじゃないですけど、
ここぞ、という場面では、ちゃんと、
なにかうれしいことが仕込まれているというか。
作った人たちが、遊ぶ人の立場で考えて、
「ここはこうだよね」という感じで
そういうことを入れていってるような気がするんですよ。 - 岩田
- はい、よくわかります。
そういったことが、さきほど宮永さんが言った
「人間くさい」ということにつながるのかもしれません。
いや、どうもありがとうございました。
それでは、つぎの質問に移ります。
ひょっとしたらこれは開発における、
もっとも『ゼルダ』っぽい話かもしれませんが(笑)、
宮本(茂)さんの「ちゃぶ台返し」について
訊いてみたいと思います。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- ええと、これは、誰がいちばんに語るべきですかね?
- 池松
- 高野さんじゃないですか?
- 一同
- (笑)
- 岩田
- はい、じゃあ高野さん、お願いします。
- 高野
- はい。じゃあ、私から(笑)。
やっぱり、今回の『ゼルダ』も最後の数ヵ月間で
急激にブラッシュアップされてよくなるんですが、
内容がもう、恐ろしいほど変わるんです。
細かい仕様も、ストーリーも、すべて。
で、それはもちろん、宮本さんが
現場に入ってくるからなんですけど。 - 岩田
- はい(笑)。
- 高野
- 今回の『トワイライトプリンセス』でいうと、
とくにゲームの序盤ががらりと変わったんですね。
宮本さんは昔からそうなんですが、ゲームの序盤、
出だしの部分にものすごくこだわるんです。
で、それはぼくらもわかっているので、
宮永さんたちといっしょに、いろいろ考えて、
序盤のところを作ってはいたんですけど……
まあ、作りながらも、なんとなく、
「変わるんだろうな」という予感はあって(笑)。 - 宮永
- ぼくも、その予感は感じてました。
- 一同
- (笑)
- 高野
- とくに今回の『ゼルダ』では、
ゲームの約束事はもちろん、Wiiのリモコンのことまで、
とにかくすべての要素がその冒頭に詰まっていて、
そこをプレイすればすべて体験できるという
基礎にしたかったので、もう、妥協は何ひとつなくて。 - 岩田
- 見事にちゃぶ台が返ったわけですか。
- 高野
- 結果的には、そうなんですが……。
あの、宮本さんの「ちゃぶ台返し」というのは、
いわゆるお膳をポーンと
ひっくり返すようなものではないんですよ。
いや、そういうものもありますが(笑)。
でも、たいてい、宮本さんのやり方というのは、
今回の『ゼルダ』の序盤がとくにそうだったんですが、
ちゃぶ台ごとバーンっとひっくり返すのではなく、
こう、ちゃぶ台の上の茶碗を、
(茶碗を順々にひっくり返す仕草をしながら)
ひとつひとつ、ひっくり返していくんですよ。 - 一同
- (爆笑)
- 高野
- (なおも茶碗を順々にひっくり返す仕草をしながら)
こう、端から、茶碗を一個一個ひっくり返していって、
お皿もひっくり返して、お椀もひっくり返して、
最後に、必要があるなら、
ちゃぶ台そのものもひっくり返す、と。
ですから、結果的に、最後の状態だけを見ると、
いかにもちゃぶ台がバーンっと
ひっくり返されたように見えるんですけど、
じつはそうではないんですよ。 - 岩田
- じゃあ、星一徹のあれとは違うんですね(笑)。
- 高野
- 違うんです。
バーンっとちゃぶ台を蹴っ飛ばして、
「やり直しだ!」と言うんじゃなくて、
(またしても茶碗をひっくり返す仕草をしながら)
こう、ひとつひとつの茶碗を、こう、順々に。
こう変えて、こう変えて、こう変えて……。 - 岩田
- 気がついたら全部が変わっている(笑)。
- 高野
- はい。最後だけ見ると、見事に「ちゃぶ台返し」です。
でも、じつはすごく細かい返しなんですよ。
それはもう、本当に、アニメーションからスクリプトの
ひとつひとつにまで、すべて手を入れていきます。
最終的には、「もう、これで変更はないよね?」って、
本人が自分で止めにかかるまで続くんですが、
「もう終わりだね」って自分で言った2時間後に
「ここ、セリフ変えたいんだけど……」
っていうメールが届いたりして。それも深夜に。 - 岩田
- 自分で部屋のカギを閉めておいて、
自分でまた開けて、という(笑)。 - 高野
- もう、本当にすごいですよ。
まわりが「もう時間的に無理ですよ」って言って、
ようやく本人が「もうないから。もう大丈夫だから」
と言っても、夜中になると必ずプランナーあてに
メールがちょこちょこちょこっと来て、
「ここ変えたいんだけどなあ……
まあ無理だったらいいけど……」
みたいなことが書いてあるんですよ。
「無理だったらいいけど」って、
もうとっくに「無理です」って言ってあるんですけど、
それでもそういうメールが何度も来るので、
そりゃもう、やるしかないので、
そういうことがくり返されるうちに、
スタッフもみんな、居酒屋の店員さんのように、
「ハイ、よろこんで!」みたいな状態になるんです。 - 一同
- (爆笑)
- 高野
- で、間違いなく、それがあるから、
最終的に『ゼルダ』は引き締まるんですよ。 - 朝川
- でも、ヒヤヒヤしますよね。
本当に最後の1週間はどうなることかと(笑)。 - 高野
- こう、宮本さんが通路を歩いてきて、
どこの角で曲がるかというのが見所なんですよ。
曲がったところのチームが作っているものが
変わることになるので(笑)。
だから、慣れてるスタッフは、宮本さんが歩いてくると、
それを遠くから見ながら、
「どこに行くんだろう?」ってニヤニヤしてます。
もう、そういう風景は恒例ですね。
あれを見ると、「『ゼルダ』作ってるなぁ」って(笑)。 - 岩田
- それも、重要な『ゼルダ』っぽさのひとつ(笑)。
- 滝澤
- 恒例です(笑)。
- 高野
- 恒例ですねえ(笑)。
- 宮永
- 今回は、メールでの指摘が多かったですよね。
1時間くらい席を外したあとで、
届いているメールの中に宮本さんからのものがあると、
「ああ……開こう、かな」みたいな(笑)。 - 高野
- この人はいつ帰ってるんだろうと思うぐらい、
夜中までメールが来ますからね。 - 宮永
- そうそう(笑)。
- 高野
- 新しく入ってきた子たちは、
やっぱりその洗礼を初めて受けるんで、
けっこうビックリしますよね。
「もう変更はないって言ってましたよね?」
とかって、ぼくらに恐る恐る確認しに来るんですが、
ぼくらも答えられないんですよ(笑)。
「それは、わからないなあ」みたいな感じで。 - 岩田
- でも、今回、宮永さんは序盤のところを、
宮本さんにひっくり返されないようにって
すごく注意しながらまとめていたと思うんですけど、
それでもやっぱりひっくり返されるものなんですか。 - 宮永
- 油断してる部分をうまく突いてくるんです。
- 一同
- (笑)
- 高野
- とにかく手応えのないものは絶対に言われますね。
- 宮永
- 言われますねえ。「あ、そう来たかー」みたいな。
「絶対ここはこう来るから、ちょっとガードして、
ちゃんと前もって作っとこう」と思ってるんですが、
そう思ってたところの中でも、
気づいてないところをスッと突いてくるんですよ。
「ここ、なんでこんなんなん? できてへんやん」と。
例えばサウンドのことだったりアニメーションだったり。 - 朝川
- すごく細かいとこを見てはりますよね。
- 高野
- しかも、その細かいところが、効くんですよ。
そのサウンドがひとつ入るだけで、
ものすごく手応えが変わるんです。
それはもう、宮本さんならではですね。 - 岩田
- ダンジョンも、いろいろあったんですか?
- 池松
- けっこう、ありましたね。
わかりにくいところ、遊びにくいところというのに
宮本さんはすごく敏感なんですよ。
「これ、遊んでる人は、わかってくれるよね?」
みたいな感じで作っているものには必ず指摘が入ります。
で、言われるところというのは、気にはなっていて、
それでももう期限が来てるからいじれなくて
作業を止めていたりするものもあるので、
宮本さんが指摘してくれると逆にそれを利用して
「やっぱりここ、変えてくれる?」
というふうにスタッフに頼めるというのもあります。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- じゃあ、ここにいるリーダーの方たちは、
被害者でもあり、加害者でもあるという(笑)。 - 池松
- そうですね。
正直、来てほしいなと思うときもありますね。
代わりに言ってくれたら助かるな、みたいな(笑)。 - 岩田
- 滝澤さん、デザインの部分ではどうでしたか。
- 滝澤
- 今回、終盤のテコ入れはほとんどなかったんですけど、
2005年のE3にプレイヤブルな状態の
『トワイライトプリンセス』を出展したときに、
期限ぎりぎりにひとつ、言われました。
こちらとしては、従来のリンクのモーションでいうと
まったく問題がないと思っていたところだったんですが、
ショウに出展するバージョンのソフトを宮本さんが見て、
「今回、リンクをこれだけリアルにしてるのに、
ハシゴをのぼるときと、ツタをのぼるときと、
同じアニメーションでやってるのはどういうこと?」
と言われまして……たしかにそうなんですよ。
でも、これまでは、そのふたつのアクションは
共通のアニメーションだったんですね。
だからこっちは「うん、これでOK」と
ついつい思ってしまったんですが、
それって、理由にはなってないんですよね。
で、そこから一週間で、担当者と全部を見直しまして。
「あ、ここも絶対突かれる。ここも突かれる。
これ絶対ヤバイわ。そういう目で見るとヤバイヤバイ」
というのを洗い出して、ガッと直したことはありました。 - 岩田
- そういう「気づき」を与えてくれる、
新鮮な目線なんですね。 - 滝澤
- そうですね。
冷静な眼で見れば、と思うんですけど、
やってると全然気づかないんですよ。 - 岩田
- 河越さん、ムービーでは、指摘はありましたか。
- 河越
- やっぱり、序盤のところが大きく変わったので、
それにともなっていくつか変更がありましたね。
最初の村に住んでいる登場人物の関係を、
ムービーの中でさりげなく説明したりとか。
でも、大きな変更というのはなかったです。 - 岩田
- でも、宮本さんって、ダメ出しをしながらも、
素材をムダにしない工夫というのはすごいですよね。
私はいつもそれに感心するんですけど。
ちゃぶ台を返すようなタイプの人って、
素材をバンバン捨てていくことが多いんですけど、
宮本さんは「素材を捨てたらもったいない」
というところが徹底してるんですよね。
そこで使えなくなった素材があっても
ちゃんと覚えていて、
別のところで使うことを
提案してきてくれたりしますよね。 - 河越
- そうですね。
ムービーも、捨てられたものはなかったです。 - 岩田
- そういうところも、
「ちゃぶ台返し」という言葉のイメージとは
ちょっと違うところですね。 - 宮永
- でも、今回は、従来の『ゼルダ』にくらべると、
大きなひっくり返しというのはなかったかもしれません。 - 高野
- ああ、根本的なものはなかったですね。
- 宮永
- なんか一つ一つがきちんとこう……
さっきの茶碗の話ではないですけど。 - 高野
- うん、ひとつひとつなんですよね。
こう、うまい人とやるオセロみたいな感じで、
最初は「勝ってるかな?」と思ってたら、
いつの間にか真っ黒になってる、みたいな。 - 岩田
- 気がついたら全部裏返し(笑)。
- 朝川
- うん、オセロですよ、あれは本当に(笑)。
- 高野
- ですよね。で、最後だけ見た人は、
「うわっ、ボロ負けじゃないですか!」って思う。
でも、過程としては、角をひとつひとつ、
的確に取っていってるんですよね。 - 岩田
- よくみんなが言うのが、
「まず相手を動けないようにしておいて、
それから急所を的確に突いてくる」と。 - 一同
- (笑)
- 滝澤
- 黙っちゃうようなとこ突いてきますね。
- 高野
- よく、古い開発者は、
「宮本さんとは長いつき合いなので、
どういうことを言われるかは
だいたいわかってるんです」
みたいなことを言いますけど、
ぼくは正直、いまだに、よくわからないですね。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- それでは、最後の質問になります。
みなさんが手がけたもののなかで、
いちばん気に入っているところ、思い入れがあるところを
教えてもらえますでしょうか。
まあ、内容にもよりますが、
公開しても問題がなさそうなところは
動画をつけて公開していきたいと思っています。
じゃあ、河越さんからお願いします。 - 河越
- 自分の担当パートはムービーなので、
どこを選んでも公開できなさそうなのですが……。 - 岩田
- まあ、それはあとから判断しますので、
気にせず挙げてみてください。 - 河越
- 純粋に気に入っているところとしては、
後半の●●●が▲▲を××するところのムービーですね。 - 岩田
- それは……公開は、絶対無理ですね。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- まあ、今日はここに実機を用意してますので、
一応、その場面を見てみましょうか(笑)。
(ムービー鑑賞中) - 河越
- 背後で馬がいなないているのですが、
このシーンが作っているほうが照れてしまうような
非常にゼルダっぽくないシーンだったので、
その気恥ずかしさが馬のいななく姿として
形になったものです(笑)。 - 岩田
- ああ、なるほど、いいですねえ。
でも……公開は、無理です。 - 河越
- そうですね(笑)。
- 岩田
- ありがとうございます。はい、朝川さん。
- 朝川
- いろいろあるんですけども(笑)、
私の中でけっこう力を入れて作ったのは、
とあるショップなんです。
このお店は、最初に登場したときは、
すごく高級なものばかりを売っている、
ちょっとお高くとまっているお店なんですが……
まずそれをお見せしますね。
(高級ショップの様子を鑑賞中)
こういう感じなんですけれども、
後半、あるサブイベントがありまして、
それをクリアーすると……こうなってしまうんです。
(こうなってしまう様子を鑑賞中)
- 岩田
- こ、これは(笑)。
このために全部を用意したんですか? - 朝川
- はい(笑)。
- 滝澤
- ぼくはやりすぎだと言ったんですよ(笑)。
- 朝川
- 高野さんとふたりで
ものすごく力を入れてしまって(笑)。 - 高野
- はい。コラボレーションが
おかしな方向に炸裂してしまいました。 - 岩田
- つまり、これ、どうしてもこのネタがやりたくて、
両方の店をこれだけ作り込んだんですか(笑)。 - 高野
- はい、そうです。
- 岩田
- (作業として割が合わないという意味で)
……高いなあ(笑)。 - 朝川
- とくに高野さんはこの店員の動きにすごくこだわってて、
「このポーズはダメだ、こうだ!」って、
実際にこの動きをしながら(笑)。 - 岩田
- この動きを、ですか(笑)。
- 高野
- はい。
- 河越
- ここは作曲も高野さんですよ。
- 岩田
- 作曲もしたの?
- 高野
- あ、いえ…。
- 河越
- 高野さんが鼻歌で歌ったものを
サウンドの峰岸さんが譜面に起こしたんです(笑)。 - 岩田
- (作業として割が合わないという意味で)
……高いなあ(笑)。 - 高野
- これ、動画で公開できますかね?
- 岩田
- …………無理でしょう。
- 一同
- (笑)
- 朝川
- じゃあ、公開できそうなところでもうひとつ。
今回、「アゲハ」という、
虫が大好きな女の子がいるんですけど、
その子のデザインがけっこう気に入っています。
ちょっとゴスロリっぽい格好をしてるんですけど、
女の子から見てもかわいいと思えるような
意外とこれまでのゼルダには
出てこないようなキャラクターなんですが、
みんなに好かれたらうれしいなと思っています。 - 岩田
- それは、公開しても大丈夫そうですね。
じゃあ、高野さん、お願いします。 - 高野
- はい、ぼくがおすすめしたいのは、
「隠れ里」という場所なんですけど。
あの、今回の『ゼルダ』で
ぼくがやってみたかったテーマのひとつが
「西部劇」なんですよ。
なんていうんでしょう、弓矢で、
建物の陰にひそんでいる敵を
こう、つぎつぎに打ち落としていくという。
ええと、見てもらったほうが早いですね。
(「隠れ里」のイベント鑑賞中)
- 岩田
- ああ、これは「西部劇」だ(笑)。
- 高野
- 意外にハマるんですよ。
最初、「西部劇がやりたい!」って言ったときは、
みんなキョトンとしていたんですけど、
サブイベントのつもりで
作り始めたら意外にみんな乗ってくれまして。 - 岩田
- これ、サブイベントなんですか?
ちょっともったいないですねえ。 - 高野
- いや、実はサブからメインの方になりまして…。
さっきの高級ショップもそうですけど、
どうも、そういうメインから外れたところに
力を入れてしまうんですよね(笑)。
たぶん、自分の仕事がストーリーの取りまとめという
けっこうマジメなところなので、
その反動でこうなってしまうんだと思いますけど。 - 岩田
- いや、でも、そういうところに
異常なパワーが込められているところが
『ゼルダ』の真髄でもあると思います(笑)。
じゃあ、滝澤さん、お願いします。
- 滝澤
- はい。じつは、徹夜続きの中で、
ある場面のライティングを設定していたんですけど、
設定したあとでそのデモを見直していたら、
不覚にも涙が出てしまった
というところがありまして(笑)。 - 岩田
- それは……公開できなさそうな予感がありますね。
- 滝澤
- ●●●が力を奪われた▲▲▲に
○○○を××するという場面なんですけど。 - 岩田
- 100パーセント無理ですね!
- 滝澤
- そうですよね(笑)。
- 岩田
- ま、そういう、グッとくる場面があるということを
楽しみにしていただくとして(笑)。
宮永さん、お願いします。
- 宮永
- ぼくが気に入っているのは
●●が目を覚ます場面なんですが。 - 岩田
- ●●? いましたっけ?
- 宮永
- あるダンジョンのボスなんですけど。
- 岩田
- ……それも無理ですねえ。
- 池松
- じゃあ、自分は、公開できそうなところを。
- 岩田
- はい、お願いします(笑)。
- 池松
- 今回の『トワイライトプリンセス』では、
これまでの『ゼルダ』にくらべて
一度に出せるキャラクターの数が多いんですね。
それがうれしくて、ついつい
こういう場面をつくってしまいました。
ええと、ここは、ダンジョンなんですけど。
敵が、かなりたくさん出ます。
(デモプレイ鑑賞中)
- 岩田
- あ、いっぱい出ますね。
うわ、けっこう、すごいですね。 - 池松
- はい、ここもすごいですよ。
- 岩田
- 確かに。
- 池松
- で、たくさん出るだけではなくて、
こういうふうに一度に撃退することもできます。 - 岩田
- おーーー、なるほど。
あれですよね、『ゼルダ』って、
じつは見ているギャラリーも楽しいゲームなんですよね。
横で見ててもおもしろい。 - 池松
- そうなんですよね。
あ、ここは、ちょっと気持ち悪いですよ。
虫系の敵が、わらわらと……。 - 岩田
- うわー(笑)。
- 池松
- ちょっと悪趣味かもしれないですけど(笑)。
- 岩田
- いや、こういうのもあっていいでしょう。
『ゼルダ』って懐が広いというか、
そういう趣味の幅がすごく広いですからね。
- 河越
- そういう意味でいうと、
ぼくはあの「おばちゃん」が好きですね。 - 朝川
- あ、「おばちゃん」ですね!
私もすごく好きです! - 岩田
- それは、なんですか?
- 河越
- 要するに、役割としては
ダンジョンから一時的に外に出ることができる
ワープ用のアイテムなんですけれども、
なんか、キャラクター仕立てになってまして、
なにしろ、絵が強烈なんですよ。
(デモプレイ鑑賞中)
- 朝川
- あ、これですね、「おばちゃん」。
ツボから顔を出しているやつです。 - 岩田
- うわぁ(笑)。
- 河越
- これのデザインを見たときはショックでした(笑)。
- 滝澤
- 今回の『トワイライトプリンセス』の
イラストを描いてくださっている中野さんが
会議中に描いた落書きがもとになっています。 - 岩田
- ……落書きが。
- 滝澤
- 「滝澤君、こんなん描いてみてんけど」
「……決定です」みたいなやり取りがありまして(笑)。 - 朝川
- もう、ひと目見た瞬間から、釘付けでしたね(笑)!
- 岩田
- ……はい、ありがとうございます。
- 朝川
- この「おばちゃん」には息子がいるんですよ!
- 岩田
- はい! ありがとうございます!
- 一同
- (笑)
- 岩田
- ……ところで、なんで「おばちゃん」なの?
- 池松
- 謎ですね、そこらへん。
- 岩田
- …………。
- 一同
- …………。
- 岩田
- まあ、きっと、
いまの一連のやり取りそのものが
『ゼルダ』らしさの一部なんでしょう! - 一同
- (笑)
- 岩田
- 今日は長時間、どうもありがとうございました。
- 一同
- ありがとうございました!