Vol.5 『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』編
第5回「120%の『ゼルダ』を」
- 宮本
- スタッフの取材はどうでした?
とんでもない話が飛び出しました(笑)? - 岩田
- 宮本さん、同席されてもよかったのに。
けっきょく、いらっしゃらなかったですね。 - 宮本
- いや、いないほうがしゃべりやすいかなあと思って。
どんな話が出るやろうって楽しみにしてたんですけど。 - 岩田
- おもしろかったですよ。
宮本さんの「ちゃぶ台返し」について
いろいろな見方があったりして(笑)。
「ちゃぶ台返しは今回はなかった」と言う人から、
「いや、小さく順番に茶碗が返っていって、
気がついたら全部変わっていた」という人まで(笑)。 - 宮本
- 今回はぼくはちゃぶ台返しはしてないと思う。
青沼さん、ちゃぶ台返し、してないよな? - 青沼
- うーん……そうですねぇ(笑)。
- 岩田
- 星一徹風にガーッとはやってないけど、
気がついたら全部裏返ってたという意見が
多かったですけどね(笑)。 - 青沼
- うん。今回はわりと丁寧にひっくり返してましたね。
- 宮本
- いや、今回は、もう立派にできてたんで、
並べ替えるだけでよかったので。 - 青沼
- また、そういうことを言う(笑)。
- 岩田
- ちゃぶ台を返したんじゃなくて、
茶碗を並び替えた(笑)? - 宮本
- そう、並び替えた。
「ご飯はこっちだろう、おかずはこっち」って。
- 青沼
- ま、どうとらえるかは、人それぞれですよね。
ぼくみたいにもう慣れちゃってる人は
もう、抵抗がなかったりしますし。 - 岩田
- 「オセロ」と言ってる人もいました。
パタパタパタパタとこうひっくり返って……。 - 宮本
- ああ、オセロ。そうそう、わりとね、そんな感じ。
でも、本当にひっくり返してないですよ。
ひっくり返すときは、ほんと、
「リンクは女でした!」
みたいなことを言うときですし(笑)。 - 青沼
- そんなアホな(笑)。
- 宮本
- 「もう、これを解決させるには
リンクを女にしたほうが早い!」とかね(笑)。
それはなかったもんね。 - 青沼
- うん、それはなかったですね。
(『トワイライトプリンセス』のデモ画面を見て)
あ、Wiiを触りながら取材したんですか? - 岩田
- ええ。開発者のお気に入りのシーンを
実際に見せてもらったんです。
でも、公開できない場面がほとんどでしたが(笑)。 - 青沼
- これは、最終バージョンかな。
あ、そうですね。よかった。 - 宮本
- ぎりぎりまで修正してたからね(笑)。
- 岩田
- あ、いい機会だから、
最初に起動時間についてお話ししておきましょうか。
Wiiの電源を入れてから『ゼルダ』が遊べるまで、
最終バージョンでどのくらいの時間がかかるんですか? - 宮本
- ええと、Wiiを起動させると、
コントローラの持ち方の解説とか
そういう注意文を読んでもらう時間もあるので、
一概に何秒というのは言いにくいんですけど、
体感的には快適に始まると思います。
ちょっと試してみましょうか。
特に最近のゲーム機はメモリーが大きくなった分
ロードに時間がかかるのが当たり前になってきて
ますけど、それに甘えないように作ってるつもりです。
(動画をご覧ください)
- 岩田
- 起動してからディスクを入れると
ディスクの認識に少し時間がかかりますが、
ディスクが入ったまま電源を切って
次回に続きを遊ぶための起動では、
より快適に起動しますよね。 - 宮本
- ええ、さっきまで遊んでいたディスクのままで
次に遊び始める時は、フラッシュメモリを使って
少しでも起動を早くできるようにしたり、スタッフの
こだわりを見て欲しいですね。
(動画をご覧ください)
- 岩田
- 快適に始まるというのは
私も実感しているんです。
でも、Wiiの開発コンセプトを決めたときから、
『3秒で起動することを目指そう』と
二人で開発陣に言い続けていましたけど、
まだまだ達成できてないですね。 - 宮本
- そうですね。
チャンネルからWiiメニューに戻ったり
違うチャンネルと行き来するのに
思ったより時間がかかっていて
テレビのチャンネルを行き来するより遅いやないかって、
気になってるとこなんです。
(動画をご覧ください)
これからシステムをアップデートする機会に
もっと快適になるように、詰めていきたいとこですね。
今でもパソコンの起動を考えたらすごく快適ですけど
僕としてはまだ満足できてないですからね。
テレビのチャンネルを切り替えるようなスピードに
少しでも近づけていかないと。
- 岩田
- はい、このWiiメニューに戻るときの時間は、
私も特に気になっているところです。
今回はインターネットやディスクソフトを通じて、
システムをアップデートする機能を用意しましたから、
先に買ってくださったみなさんも
常に更新してもらえると思います。 - 宮本
- でも、実際、今の状態のままだとしても
電源を入れてからこのスピードで
ウェブブラウザが立ち上がるというのは
なかなかないことだとは思いますけどね。 - 岩田
- ゲーム中の読み込み時間についてはどうですか?
- 宮本
- 場面にもよると思うんですが、
まあ、だいたい2秒から4秒くらいの時間で
どんどんつぎのシーンに移っていくんで、
ゲームを始めてしまうと非常に快適だと思います。
『Wii Sports』や『はじめてのWii』も
そういう点では非常に快適ですよ。 - 青沼
- ゼルダの場合には、ローディングバーみたいなものが
必要だと思うようなシーンは一切ないです。
もしそういうものが必要であれば
出さなきゃいけないなと思ってましたけど、
けっきょく必要なかったですね。 - 岩田
- ああ、それはなによりですね。
ファンの方々にも喜んでいただけるのではないかと思います。
さて、じゃあ本格的に取材を始めさせていただきます。
よろしくお願いします。 - 宮本
- よろしくお願いします。
- 青沼
- ちょっと緊張しますね(笑)。
- 岩田
- いつもは最初に自己紹介していただくんですが、
おふたりの場合は必要もないですね(笑)。
『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』で
ディレクターを務めた青沼英二さんと
プロデューサーの宮本茂さんです。
じゃあ、まず、青沼さん。
今回の『トワイライトプリンセス』の
出発点はどこだったんですか? - 青沼
- まず、『時のオカリナ』以来となる
リアルな『ゼルダ』を作るというのは、
当然、最初にテーマとしてありました。
ただ、そこだけにがっちりと入り込むんじゃなくて
もうちょっと発想を揺さぶってみたかったんですね。
それで、いちばん最初に、
「今回のリンクは狼になるんだよ」という話をしました。
やっぱり何か新しいテーマが必要だと思ったんです。
で、なぜ狼なのかというところは、
もう本当に思いついたというだけのことで、
本当の目的は、それが、みんなが何かを発想するときの
材料のひとつになればいいと思ったんです。
どれくらいみんなが食いついてくるのかな、と
そういう気持ちで「今回は狼だ」って提案しました。
あとで宮本さんにずいぶん怒られましたけどね(笑)。
「四本足の動物を作るのは、
二本足の人間を作るよりもよっぽど大変だぞ」って(笑)。 - 岩田
- そこから始まったものと、いまできあがったものと
比べてみると大きな違いってなんですか? - 青沼
- やっぱり、こんなに大きなプロジェクトになるとは
あまり想像していなかったですね。 - 岩田
- こんなに大きくするはずじゃなかった?
- 青沼
- 少なくとも当初のぼくのイメージでは
これほどの規模になるとは思わなかったですね。
でも、スタッフの頭の中では、
かなり大きな『ゼルダ』になっていたみたいで、
実際、開発が進むにつれてプロジェクトは
どんどん大きくなっていったんですね。
だから、途中で「ちょっとまずいかな」と感じて
軌道修正するためにいろいろやったんですけど、
なんていうか、自然と大きくなっていくものって、
歯止めが利かないところがあるんですよね。
じゃあ、もう、とにかくそこに遊びを詰めていって
埋めていくしかないだろうということで
どんどんいろんな遊びを入れていったんですが、
最後までその大きさには苦労しましたね。
もちろん、それが悪いというわけではなくて、
結果的にスケール感のある『ゼルダ』になりましたし、
大きいことは大きいけれど、
その世界にしっかりと存在する
手応えのある大きさになったと思います。
いま、『ロード・オブ・ザ・リング』とか、
ああいう娯楽大作を見てふつうに過ごしている世代が
リアルな世界を描こうとしたときは、
やっぱりこのくらいのスケール感が必要なのかなと
終わってみて感じているところです。
ただ、まとめるのに苦労したというか、
自分の未熟さを感じたのも事実ですね。 - 岩田
- それは最終的にまとまらなかったってことを
言いたいんじゃなくて──。 - 青沼
- じゃないです。
自信を持ってお届けできるものに仕上がりました。
ただ、いろんな人に助けてもらったということですね。 - 岩田
- 青沼さんとしては、
また宮本さんの手をわずらわせてしまったな、と。 - 青沼
- そういうことですね(笑)。
本当は、ちゃぶ台の上は
きれいにしておきたかった(笑)。
ただ、プロジェクトが大きくなっていって、
予期せぬ問題が予期せぬ形で起こっていくなかで
なかなか全部に対応することができなくて。
宮本さんが入ってきて、いろいろと直し始めたときに
「ああ、そこは直したかったんだけど……」
ということがけっこうあったんですね。
ただ、最終的にまとまってきたものは、
いろんな人の手助けがあってこそですけども
非常にいいものができたと思ってますので、
その部分ではとても満足しています。 - 岩田
- 『トワイライトプリンセス』は、
当初の予定よりも発売を1年延ばしましたよね。
じつはあれは、「1年延期しませんか?」と
私のほうから宮本さんに提案した
初めてのケースだったんですよ(笑)。
それくらい厳しい状況だなという
認識があったのも事実なんですけど、
なにより私は、つぎに出る『ゼルダ』は
史上最高傑作の『ゼルダ』に
しなければいけないと思っていたんです。 - 青沼
- 「120%の『ゼルダ』を」という
キーワードがありましたよね。
- 岩田
- ああ、言ってましたね(笑)。
具体的に何が100%で何が120%なのかと
言われると困るんですが、
とにかく最高の『ゼルダ』にしてもらいたくて
『120%』なんて無茶も言ったうえで
私から1年発売を延ばしてもらう提案をしたんです。
青沼さんは、あの延期をどう受け止めていました? - 青沼
- 待ってもらっているユーザーさんには
本当に申し訳なかったですけど、
正直、ありがたかったっていう気持ちがありましたね。
延期が決まった当時というのは、
おもしろそうな材料は豊富にあったんですが、
まとまりきっていなかったんですよね。
もちろんできている部分もありましたけど、
これじゃまだ遊べないぞ、というところも
たくさんあるような状態でしたから。 - 岩田
- E3にプレイヤブルなものを出展したときに、
すごくいい材料がそろっていることはわかったんですが、
それらがまだバラバラでつながっていなくて、
どうまとめようか、という状態だったんですよね。 - 青沼
- ですから、ぼくにとって1年はありがたかったです。
スタッフたちはどう受け止めてるかわかりません。
ここまでやったのに、まだ1年間やるのか、
みたいなことになったのかもしれないですけど、
彼らが作ってきたものをうまく活かすためにも、
それぐらいの期間は必要だったんだろうと
ぼくは思っていますけれど。 - 岩田
- いや、これまで合計12人のスタッフから
話を聞きましたけれど、
全員「延びてよかった」でした。 - 青沼
- あ、そうですか。よかった(笑)。
- 岩田
- たしかに大変な時間が続くという
印象を持った人がいなかったわけではないし、
延ばすならもっと前からわかっていればって
感じてた人もいたようですが、
でも、よかったというニュアンスでしたね。 - 青沼
- ああ、そうでしたか。
でも、ほんとうに難しいんですよね、
延ばすにしても、延ばさないにしても。
「120%の『ゼルダ』を!」というのも、
ユーザーの方からの期待を考えれば、
大げさではないと思いますし。
それだけの期待に応えなければならないとしたら、
単純に延びるということだけを喜んではいられない。 - 岩田
- 発売の延期が決まったころ、
宮本さんはそれまでにできあがっていた
『ゼルダ』をどんなふうに感じていましたか?
- 宮本
- まあ、おもしろいけどぜんぜんダメだね、
という感じでしたね(笑)。
残された時間で、どこを重点的に仕上げようか?・・
と考えると、ちょっと気が遠くなる気分でした。 - 青沼
- (苦笑)。
でも、まさにそういう状態で。 - 岩田
- 逆にそこから1年あまりで
よくもまとまったものだと驚くんですよ。
じつは私、今回のインタビューで
開発者のみなさんにきちんと話を聞くまでは、
さすがに『ゼルダ』クラスのゲームだと、
相当トップダウンで指示が下りるんだろうと
想像していたんです。そうじゃないと、
この規模のものはまとまらないだろう、と。
ところがみなさんの話を聞いてみると、
思いのほか、各自がそれぞれにネタを考えている。
どうやら、みんなの中に「『ゼルダ』っぽさ」という
言語化されていない概念のようなものがあって、
その未確定な概念をフィルターのように使って
個々のネタの最終的なすり合わせがなされて、
ひとつの形にまとまっていっているようなんですね。
しかし、20人30人という規模であればまだしも、
70人以上もの人が関わる大きなプロジェクトで
こういうことが行われているというのが
途方もないことのように思えるんですが、
青沼さんはそのあたりをどう思われますか。 - 青沼
- うーん、まさにそういう感じだと思うんですが、
やっぱり重要なのは「『ゼルダ』らしさ」
ということになってくるんですね。
もう、それが唯一よりどころとなる基準になりますから。
ところがおっしゃったように
それってはっきりと決まっているものではないんです。
僕自身、『ゼルダ』らしさみたいなものって
はっきりと言葉にできてなくて、
それじゃダメだなと思いつつ、答えはなかなか出なくて。 - 岩田
- いや、これまでの取材でも、
「『ゼルダ』らしさって、なんですか?」
という質問をみんなにしてみたんですけれど、
やっぱりみんなしどろもどろになって
全然言語化できないという状態だったんです。
でも、一方でやっぱり、全員が感じている
共通の価値観みたいなものが
ものすごくはっきりとあるようにも感じるんですね。 - 青沼
- うん、そうですね。
そういうものがないと作れないですからね。
ただ、なんていうのかな、方程式じゃないけど、
「『ゼルダ』はこうやって作りなさい」という
ガイドのようなものがあれば
そのとおり作るんだろうと思いますけど、
そんなものは絶対ないし、作れない。 - 岩田
- 「『ゼルダ』化ガイドライン」
なんてのは作れるわけがない。
- 青沼
- そんなものは作れるわけがないんです。
ぼくらがスタッフに何か言えるとすれば、
「まあ、これまでもいろんなことを悩みながら
『ゼルダ』を作ってきてるんで、
きみらも同じように悩んでよ」
みたいなことだったりするんです(笑)。
そういう意味では、自由に作ってもらってよくて、
もちろん任せっきりにするわけではないですけど、
そのときそのときの若いスタッフが
過去の『ゼルダ』にとらわれずに発想して、
ぼくらはそれをうまく吸い上げて、
ゲームの中に活かしていけばいいと思ってるんですけど。
ただやっぱり、最後にまとめるというときには、
手練れのスタッフがネジを締めていかないといけない。
どこまで自由にやってよくて、
どういうまとめ方をしたらユーザーが納得してくれるか、
みたいなところっていうのは、
やっぱり経験がないと難しいんですね。
アイデアを出して、ふくらますことはけっこうできる。
でも、それをきれいにまとめるというところは、
宮本さんがよく言う「センスが問われる」という部分で。 - 岩田
- うーん、なるほど……。
宮本さんは、
「『ゼルダ』らしさとは何か?」と訊かれたら、
なんと答えることにしてるんですか。
なにか、はっきりと言えることがあるんですか? - 宮本
- うん、ぼくにとって「『ゼルダ』らしさ」というのは、
「『マリオ』らしさ」ということと
ほとんど変わらないんですけどね。 - 岩田
- それは、なんですか?