『罪と罰 宇宙の後継者(そらのこうけいしゃ)』
5. もっと難しく
- 岩田
- 大変長らくお待たせしました。
任天堂側のスタッフ、服部さんと松下さんは
どのタイミングで今回の開発に加わったんですか? - 山上
- まず服部さんは、僕はすごく意外だったんですけど、
今回の『罪と罰』の企画書をトレジャーさんからいただいたとき、
それを見て「わたしはこれをやりたい」と自ら立候補したんです。 - 中川
- ええーっ!
- 前川
- そうだったんですか!? それは初耳です。
- 山上
- ハッキリ言って、
服部さんが自らやりたいと言うのは思いもしなかったので。 - 岩田
- ・・・わたしもちょっと衝撃です。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- 服部さんは、前回の「社長が訊く」では
『ガールズモード』(※12)
で登場いただいてますから、
すごいダイナミックレンジですね(笑)。 - 服部
- (笑)
『ガールズモード』=『わがままファッション ガールズモード』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2008年10月に発売された、わがままコーディネートゲーム。
- 岩田
- 本当に言ったんですね?
「関わらせてほしい」と。 - 服部
- そうです。自分から言いました。
たぶん入社して初めて、自分から
「コレやりたいです」と言ったと思います。 - 山上
- たぶん服部さんは、『罪と罰』の世界観に
めちゃくちゃ興味があったんだと思うんです。 - 岩田
- なるほど。
もともと服部さんは前作を遊んでいたんですか? - 服部
- NINTENDO64のときは難しすぎて、
実はできなかったんです。 - 中川
- ・・・(つらそうな表情に)。
- 岩田
- (笑)。
「これができないヤツは、うちのチーム員じゃない」
と言われるような人だったんですね(笑)。 - 服部
- そうなんです(笑)。
でも、パッケージだったり世界観だったりとか、
まわりの人からも話を聞いたりして
すごく魅力を感じてたんです。
ただ、自分ではちょっと入れなくて・・・。
でも、こんなに魅力的なのに、
すごく悔しかったんです。 - 岩田
- なるほど。
魅力的とか言われると、
やっぱりうれしいですか、鈴木さん。 - 鈴木
- 女性から言われると(笑)。
- 服部
- うふふ(笑)。
なので、そのような悔しさと同時に
「もったいない」という思いもすごくありまして。
そこで、「浅くする」ということではないんですけど、
入り口を入りやすくすることはできるんじゃないかと。
- 岩田
- 深さはそのままに、入口を入りやすくして、
一見さんお断りじゃなくしたいと。 - 服部
- そうです。おそらくそれは
『ガールズモード』も同じなんです。
あのゲームもすごく深いんですけど・・・。 - 岩田
- 服部さんがチームに加わったあと、
終盤の調整段階で
取っつきやすくなりましたよね。 - 服部
- はい。その同じような感覚を
『罪と罰』にもぜひ応用したいと思いました。 - 岩田
- なるほど。
松下さんの関わりはどうだったんですか? - 松下
- 実は僕はもともと担当じゃなかったんです。
ただ、ある程度カタチになったものがあがってきたときに
触らせてもらってはいたんです。
で、トレジャーさんに感想を伝えに行くとき、
たまたま僕も東京にいまして・・・。 - 山上
- 「おいで」と言ったんだよね。
- 松下
- それでいっしょに行ったら
山上さんから「担当です」と紹介されて、
いろいろお話してたら、
ほんとうに担当に決まってしまったんです(笑)。
- 一同
- (笑)
- 前川
- いや、でも助かりました。
松下さんはアクションシューティング系のゲームにも
かなり詳しいので、
そういう人に見てもらえて本当に助かりました。 - 山上
- 松下さんは究極に近いところまでプレイできますし、
入口の部分は服部さんが見てくれるので、
その意味でいいバランスになったと思います。 - 岩田
- 服部さん、入口のところでは
どんなやりとりがあったんですか? - 服部
- チュートリアルをしっかりつくるとか、
初心者の方でもちゃんと遊べる難易度にするとか、
基本的な部分をまず押さえていきました。
ただ、開発に関わっていくにつれて、
気軽に難易度を下げちゃいけないと思うようになったんです。 - 岩田
- それを気軽にやってしまうと
このゲームが台無しになると思ったんですね。 - 服部
- はい。それに前作のファンの方だったり、
トレジャーさんのファンの方がたくさんいらっしゃって、
その方たちがあってこそのゲーム、という部分を
絶対に揺るがしてはいけないと思いました。 - 岩田
- そもそもシューティングというゲームは
一時期はビデオゲームの王道として
すごくたくさんのお客さんが遊んでいたんですけど、
たくさんの人が落ちこぼれてしまったというか、
遊ぶ人が減ってしまった典型的なジャンルなんですよね。 - 服部
- はい。
- 岩田
- かつてシューテイングゲームを楽しんでおられたたくさんの人が
今はほとんどやらなくなってしまっているんですが、
でも、「実はあれ、気持ちよくて好きなんだよね」、
という想いをお持ちの人は少なからずいらっしゃるので、
その人たちが入りにくくならないようにだけは
したかったということでしょうか。 - 服部
- そうです。
そういった方たちが楽しくプレイできればいいと。
あとは、納得ができないだったりとか、
よくわからないままやられちゃうとか、
そういうことだけは避けなきゃいけなくて。
ある意味、覚えて遊ぶ、覚えて上達していくことが
気持ちいいタイプのゲームだと思うんですけど、
でも、どうしてやられたのかもわからないままに
進んでいったりとか、
気持ち悪さの部分を解消するというところを中心に
お話をしました。 - 岩田
- 中川さんは今回、
任天堂からこういった話が来たとき、
どういうふうに聞こえていたんですか? - 中川
- 僕は前作のとき、すごく苦労しましたので、
難易度に関しては「このへんがほどよいな」ということは
たっぷり勉強させていただいてました。 - 岩田
- 山上さんとたっぷりやりとりしたからですか。
- 中川
- はい。ただ今回も開発スタッフにコアゲーマーが多いので、
みんなWiiリモコンではなく、
普段慣れているゲームキューブのコントローラを
中心に開発していたんです。 - 岩田
- はい。
- 中川
- それで好きにつくってるんですよ、
すんげー難しいやつを。 - 岩田
- トレジャーさんらしく(笑)。
- 中川
- 僕はそれを横目で見ながら
「これはあとから直してくださいと言われるよなあ」と・・・。
そう思いながらも、僕が「直せ」と言うと角が立つんで、
任天堂さんが言ってくれるのを待ってたんです。 - 岩田
- 自分が言うと角が立つので
言われるのを期待して待っていたんですか(笑)。
- 中川
- はい。そしたら、逆のことを言われてしまって・・・。
- 岩田
- はい?
- 中川
- 「カンタンすぎる」と・・・。
「なんですかこれは」と。 - 一同
- (笑)
- 中川
- 「敵をすぐに全滅できます」と言うので
「ええーっ、すごく難しいはずですけど?」と答えたら
「こんなにカンタンだとファンは納得しません」と、
そんなことまで言われまして・・・。 - 岩田
- 任天堂からトレジャーさんに
そんなことまで言ったんですか・・・。 - 中川
- で、話を聞いてみると、
Wiiリモコンだと狙いやすいので
敵を全滅できるんです。 - 岩田
- ああ、なるほど。
- 山上
- そもそもWiiリモコンは
シューティングに向いたコントローラですから。 - 岩田
- だからカンタンに敵を倒せるんですね。
でも、こともあろうにトレジャーさんに
「もっと難しく」と言ったんですか(笑)。 - 松下
- はい。開発の終盤になって
「もっと難しくしてください」という話をしました。 - 服部
- 「わたしごときが、やられずにクリアできてどうするんですか?」
みたいなことも言いましたし(笑)。 - 岩田
- へえ〜、それはちょっと衝撃の事実(笑)。
- 松下
- 前作は右の敵と左の敵は同時に狙えなかったんです。
でもWiiリモコンだと、右を撃ってすぐに左も撃てるので
画面上の敵をほぼ同時に狙えちゃうんですね。
だから、コントローラに合わせた調整を
どうしてもやる必要がありまして・・・。 - 岩田
- でも、難易度のバランスを調整するのは
カンタンなことではないですよね。
Wiiリモコンで遊びたい人もいれば
ゲームキューブのコントローラで遊びたい人もいて、
さらにクラシックコントローラにも対応してますし。 - 山上
- 結果的には、場所場所によって、
Wiiリモコンが有利な箇所や、
ときにはゲームキューブのコントローラや
クラシックコントローラが有利な場所をつくりました。
だから、トータルでやってみると、
どのコントローラで遊んでも変わらず楽しいんです。
ただ、場所場所で、ここはWiiリモコンでとか
コントローラを細かく変えてプレイすれば、
どれも有利ということになるかもしれませんが。 - 岩田
- まあ、そんなことをしても面白くないですよね(笑)。
でも、けっこういまの話は驚きました。
任天堂がトレジャーさんに「もっと難しく」と言ったというのは。
これは「社長が訊く」をやらなければ
わたしも絶対に知らないままだったと思います。 - 一同
- (笑)