『METROID Other M』
コラボレーション篇
- 岩田
- 北裏さんはまず最初に、
坂本さんが書いたシナリオを読まれたんですよね。 - 北裏
- そうです。坂本さんにお会いする前に、シナリオを読みこんで
絵コンテを用意させてもらったんです。
今回の仕事は長期にわたるので、相性が大事だと感じ、
コンテをご覧いただいて、いい評価をいただけないようであれば
辞退しようと、そんな覚悟で臨みました。 - 岩田
- そう思われるほどの自信作だったということですか。
- 北裏
- ええ、自分としてはそのつもりでした。
ところが実際に絵コンテを見ていただいたとき、
部屋のなかがシーンとなってしまったんです。 - 岩田
- まったく反応がなかったんですか?
- 北裏
- はい。坂本さんはずっと黙っていたんです。
だから、僕はもうダメだと思いまして、
すぐにでも帰ろうと思ったくらいでした。 - 坂本
- いやいや、そうじゃないんです!(笑)
あのときはあまりに感激して、言葉にならなかったんです。
自分の想像を遙かに超える絵コンテを出されたら
誰だって黙りますよ。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- 坂本さんが黙ってしまうくらい
期待以上の絵コンテだったんですね。 - 坂本
- はい。その絵コンテから
北裏さんの熱意がすごく伝わってきました。
そこで北裏監督には、映像だけでなく、ゲームの部分も含めて
演出をすべてお願いしようということになりました。
ちなみに実際にできあがったオープニングの映像は
そのとき見せられた絵コンテそのままなんですよ。 - 岩田
- そこで北裏さんは本格的に絵コンテの制作に入ったんですね。
- 北裏
- そうです。全部で300枚以上描いたでしょうか。
カット数でいったら約2,000カットですね。
この段階になるとカメラワークやアクションも計算した、
かなり緻密な演出コンテになるので、
すべて描き終わるまで半年かかったと思います。
- 岩田
- ちょっとした長編のスケールですよね。
- 北裏
- いやいや、ちょっとどころではないスケールでした(笑)。
しかも今回はアクションパートとムービーパートを
シームレスにつくることが重要でしたので、
映像だけが勝手に走ることはできなかったんです。
たとえば開発中のゲームを見せてもらいながら、
サムスの動きがゲーム上で速いんだったら、
映像のほうもそれに合わせるようにしなければなりません。
また、僕たちがつくるサムスのCGの
見た目がビカビカになっていたりすると、
坂本さんから「スーパーカーみたいだ」とか
言われてしまったり・・・。 - 岩田
- ピカピカしすぎたんですね(笑)。
- 北裏
- ですから、あえて汚しを入れたり、
空気感でなじませるようなこともやっていました。
しかも今回、坂本さんの書いたシナリオは
サムスの心理描写がとても多かったんです。 - 坂本
- 今作では、クールだけれども思いやりや優しさがあり、
さらに一途であるがゆえに、ちょっと未熟な部分のある
サムスの人間性を、魅力的に描きたかったんです。 - 北裏
- と、言葉で言うのはとても簡単なのですが、
人をCGで表現するときに、
いちばん難解なのは、その心理描写だったりするんです。
そこで、スタッフに対しては、映画を見るときに、
女優さんの目をよく観察するよう伝えました。 - 岩田
- 女優さんの目を観察するというのは
どういうことですか? - 北裏
- 感情を表現するのに、
眼球の動きがとても重要だと思ったんです。
なので、できあがった映像をご覧いただくと、
瞳がじっとしていなくて、揺れているのが
おわかりになるかと思います。 - 岩田
- 北裏さんがCGをつくるときは
いつもそこまでやっているのですか? - 北裏
- いえ、ここまでやったのは初めてです。
それに心理描写するうえでは、表情のほんとに細かな動きの
ひとつひとつがとても大切になってきますから、
今回はCGの顔のなかに入れる「リグ」という関節みたいなものを
いつも以上に仕込んで、
それに連動する筋肉の動きの設定にもこだわって
より生き生きとしたサムスの表情が
表現できるようにしました。
それとCGの制作には約10チーム、シーン別に依頼していましたので
いちばんいい映像表現ができたチームに対しては
「最高のものができた」とほめて、
ほかのチームにそれを見せるときは
「これが最低のラインだから」と言うようにしていました。 - 岩田
- なるほど(笑)。
全体の水準を上げるために、10チームに競争してもらったんですね。
- 北裏
- そうなんです。
もともと高度なことができるチームではあったのですが、
それぞれのチームが競うように
高いクオリティの映像にチャレンジしてもらいました。 - 岩田
- 坂本さんは実際に
モーションキャプチャーの撮影現場にも行ったんですよね。 - 坂本
- ええ。実際にCGができていく過程を
肌で感じることができましたし、
撮影現場はすごく勉強になりました。
北裏監督が役者さんに演技指導をしながら撮影するんですけど、
ハンディカメラのカメラマンがとくに腕のいい方だったんです。 - 北裏
- そうでしたね。
そもそもモーションキャプチャー撮影とは、
動きのデータを撮影する方法です。
今回52台の固定キャプチャーカメラと別に
コンテどおりのシーンを撮影するために
プロのカメラマンにシーンどおりの撮影を頼みました(※6)。
しかしセットも何もないところでのタイツ姿のサムスや
発泡スチロールでつくったクリーチャーなど、
仮の撮影なので、なかなか普通は頼みづらいんです。
シーンどおりの撮影=『METROID Other M』では、絵コンテ上の演出を忠実に再現するために、まずカメラマンが撮影した映像からビデオコンテを作成し、それをCGで再現するという手法を用いている。
- 岩田
- カメラマンの方が撮ったものが
そのまま作品として使われるわけではありませんしね。 - 北裏
- そうなんです。
あとからCGに加工されてしまうので、
どうしても一流と呼ばれるようなカメラマンには頼みづらいんですが、
今回は、もともと知り合いだったカメラマンが
「面白そうだからやらせてくれない?」と言ってきてくれたんです。 - 坂本
- その方はふだんはCMを撮っている方なんです。
- 北裏
- やっぱりバトルシーンなどでは
アングルやカメラワークのセンスが求められますので、
彼が撮ってくれて本当に助かりました。 - 岩田
- 撮影現場での坂本さんはどんな感じだったのですか?
- 北裏
- 仲良く並んでモニターをチェックしていました。
で、ある感動的なシーンを撮ったとき、
「坂本さん、どうですか?」と感想を聞いたんですけど、
また、じっと黙ったままだったんです。 - 岩田
- 初めて絵コンテを見せられたときのように
黙り込んでしまったんですか。 - 北裏
- そうなんです(笑)。
で、「気に入らないのかな」とすごく心配になって、
顔をのぞき込んでみたら・・・
目にいっぱい涙をためていたんです。 - 岩田
- へえ・・・。
- 北裏
- タイツ姿の映像なんですけどね(笑)。
- 一同
- (笑)
- 坂本
- え、でも、北裏さんも泣いてたじゃないですか(笑)。
- 北裏
- それは坂本さんの涙がうつったんですよ(笑)。