『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル クリスタルベアラー』
4. リアルタイムな『ファイナルファンタジー』
- 岩田
- さて、それでは今回の
『FFCC クリスタルベアラー』の話に入りましょう。
Wiiの最初の発表(※19)のときに
新しい『FFCC』をつくるという話でしたが、
どのように開発がはじまったんですか?
Wiiの最初の発表=Wiiが初めて公開されたのは、2006年にアメリカで開催されたE3。会場では『FFCC クリスタルベアラー』など、多数のWii用ソフトが公開された。
- 河津
- まず、最初に考えたのは
1人用の『FFCC』をつくりたいということでした。 - 岩田
- これまでの『FFCC』は
マルチプレイが楽しいと評価されたゲームでしたが・・・。 - 河津
- マルチに関しては、
すでにDSなどで実現(※20)させていますし、
Wiiという新しい据置機が登場するということで、
これを機会に新しいことをやりたいと。 - 岩田
- また新しいことに挑戦ですね。
河津さんのチャレンジスピリットが騒いだんですね(笑)。
DSなどで実現=DS版は、2007年8月に『FFCC リング・オブ・フェイト』が、2009年1月に『FFCC エコーズ・オブ・タイム』が発売されている。
- 河津
- ええ。そこで
「これがWiiの『ファイナルファンタジー』」
「自分がいま、『ファイナルファンタジー』をつくるとすれば
こうなる」というものをつくろうと思いました。 - 岩田
- とはいえ、最初にWiiを見て
「コントローラを振るんです」と聞かされて、
のけぞったりしませんでしたか(笑)。 - 河津
- ・・・正直に感想を言いますと、
最初にWiiリモコンを見たときに
「どうすりゃあいいんだ」と(笑)。 - 岩田
- (笑)
- 河津
- 魚釣りのゲームとかはすぐに思いつくけど、
それ以上はどうしたらいいんだろうと。 - 岩田
- 魚釣りだけができてもRPGはつくれませんからね(笑)。
- 河津
- そこで、スタッフに対しては、
「無理にWiiの機能を使わなくてもいいから、
とりあえず面白くなりそうなアイデアやデザインを出してくれ」
という指示を出したんです。
すると、いろんなアイデアが出てきまして。 - 岩田
- 最初は釣りしか思いつかなかったのに(笑)。
- 河津
- ええ(笑)。
- 岩田
- で、どのようなアイデアだったのですか?
- 河津
- たとえば、置いてあるモノをポイントして
それを動かせるようにしようとか、
Wiiリモコンを振ってアクションが起こったりとか、
もちろん、ふつうにAボタンを押すような操作も
当たり前のように入っていました。
そこで、それは入れよう、あれも入れようということで
とりあえずテスト版をつくってみたんです。 - 岩田
- 実際にやってみるとどうでしたか?
- 河津
- Wiiリモコンにすごく手ごたえを感じました。
そのテスト版には、ふつうのアクションRPGにあるような、
Aボタンを押して何かが起こるような仕様も入っていたんですけど、
Wiiリモコンの特徴を活かして、
そこに特化したカタチでゲームをつくったほうが
「面白いものになるよ、これは」と思ったんです。
- 岩田
- でも、河津さんがそのように思っても、
開発チームの人たちがみんな
すぐに同じ気持ちになったわけじゃないですよね。 - 河津
- もちろんそうです。
今作の主人公はレイルというんですけど
彼は遠隔操作的なパワーの使い方をするんです。
そのような操作は「ボタンでいいじゃん」と言う人が
けっこう多かったですね。
でも、そんな意見を言われれば言われるほど
「そういうのって、どこかにあるゲームでしょ」と。 - 岩田
- 人と同じことをやってもつまらないと。
河津さんらしいですね。 - 河津
- せっかくWiiという新しいハードで
新しい『ファイナルファンタジー』をつくろうとしてるんだから、
他のソフトと同じようなことをやってもしょうがないでしょうと。
そのような気持ちがどんどん募ってきまして、
「Aボタンで操作するようなことは全部はずそう」と。 - 岩田
- なかなか、あまのじゃくですね(笑)。
- 河津
- かもしれません(笑)。
でも、これまでにないものをつくるのが
我々の仕事だと思うんです。
それに、わたしは『FFCC』を
“リアルタイムな『FF』”と捉えていまして。 - 岩田
- リアルタイムですか?
- 河津
- ゲームの世界で起こってる時間の進行があって、
一方では、プレイをしている人の時間の進行がある。
その時間がぴったり一致することで
ゲームの面白さや感動にもつながると思っているんです。 - 岩田
- それはつまり、
自分とゲームとのシンクロ感がより強くなるから、
面白さや感動につながるということですね。
そういう触り心地は、いわゆるターン制のRPGでは
なかなか味わえないと・・・。 - 河津
- そうなんです。
ターン制だと間があって、時間が一致しないんです。
そういうことに気がついたのは
今回の『FFCC クリスタルベアラー』の
開発に関わってからなんです。
よく「リアルタイム」という言葉を使いますけど、
何がリアルタイムなのかというと、
けっきょくはゲームの時間と自分の時間の一致、
それがリアルなんだ、だからリアルタイムなんだ、と
そこにようやく気がついたんです。 - 岩田
- 気がついたキッカケは何だったんですか?
- 河津
- Wiiリモコンを振るとき、
振りはじめてから、振り切るまで
ほんのわずかですけど時間が生じますよね。 - 岩田
- ボタンのオン/オフだと一瞬ですけど。
- 河津
- でもWiiリモコンを振ると、
その時間感覚と画面に表示されている時間感覚が一致するので
よりシンクロ度が高まっていくことがわかってきたんです。
そこで、実際につくっていくと、カラダを動かすことで
その時間が主人公の動きと一致するという、
そういった感覚がすごく感じられるようになりました
- 岩田
- これまでのようにボタン操作だと
主人公をただ操作する感覚だったのが、
Wiiリモコンを使えば
主人公との一体感が増すということですか。 - 河津
- はい。
「Wiiには“身体性”がある」と言われますけど、
つまりそれは、人が体の動きで感じてる時間と
一致することなんだということがわかってきて、
それは大きな発見でした。 - 岩田
- なるほど。
そもそもゲームづくりというのは
風呂敷をどんどん広げるフェイズと、
どんどんたたむフェイズがありますけど、
たたむときに、必ずどっかで捨てる必要が出てくるわけですね。
で、今回は、そのような発見があったので
その捨て方に河津さんの意図がかなり反映されたんですね。 - 河津
- そうです。この木は育てよう、
でも、ほかのいらない木はぜんぶ切っちゃいましょうと。
モーションセンサーの機能にしろ、
ポインティングの機能にしろ、
ゲームとして楽しくなる方向に
うまく使えるという手ごたえを感じましたので、
そこをできるだけ活かして、
いわゆる既存のゲームを遊ぶ面白さは
捨ててしまってもいいものだったので・・・。 - 岩田
- そういう遊びは他のゲームでもできるからですか?
- 河津
- そうです。
- 岩田
- とは言え、チームから抵抗はなかったですか?
ハッキリお訊きして申し訳ないですけど(笑)。 - 河津
- まあ、そこは操作系だけでなく、
いろんな意味で抵抗がありました(笑)。
これまでの『FFCC』は、マルチで遊んで
ちょっとかわいらしいキャラクターたちが
かわいらしく動きまわるみたいな、
そんなイメージを、つくる側も持っていたんです。 - 岩田
- 3頭身だったキャラクターが
今回は6頭身になりましたしね。 - 河津
- だから、スタッフからは「なぜ?」と言われました。
- 岩田
- そんなのは『FFCC』じゃないと
言われたりするんですか? - 河津
- はい(笑)。
「でも今回のゲームはそこを狙っていないから」
そう説明するしかないんです。
スタッフはみんな『FFCC』をすごく愛してるので
そういうことを言われるのはよくわかるんです。
でも、すごく愛してるからと言っても、
それだけじゃ新しいものはできませんし。 - 岩田
- 新しい挑戦をするために心を鬼にして・・・。
- 河津
- やっぱり自分がリーダーですし、
そのような方向を示すことも自分の役割ですから。 - 岩田
- みんなが愛している『FFCC』があって、
それを別に否定しようというのではなくて、
今回はそこを狙わないだけなんですよね。
新しい『FFCC』をつくろうということで
「そこに徹底しよう」ということなんですね。 - 河津
- その通りです。