『Wii Fit』
Vol.1 はじめてつくるもの 任天堂は、なぜ健康をテーマにした「Wii Fit」を創ったのか。
- 岩田
- 『Wii Fit』はそれ自体がこれまでにないソフトですけど、
さらに新しい試みをしてますよね。
たとえば、1本のソフトのためにWiiチャンネル(※20)を使うのは
初めてのことです。
Wiiチャンネル=「似顔絵チャンネル」や「お天気チャンネル」など、家庭のテレビのように様々なチャンネルがある。
- 宮本
- 『Wii Fit』には、体重計に負けない利便性がありますけど、
テレビとWiiの電源を入れなきゃいけないというところで、
パッと乗って、すぐに量れる体重計に劣ってしまいます。
そこはしょうがないとしても、Wiiにディスクを入れて
起動させるのに時間がかかってしまうのは避けたいと。
そこで、『Wii Fit』のディスクを入れなくても、
Wiiチャンネルからダイレクトに立ち上げられるようにしました。
グラフを見たり、日々の“からだ測定”を行うには、
Wiiチャンネルをスッと立ち上げて、済ませられます。
この企画については、わりと早い段階から決まっていましたね。
- 岩田
- Wiiチャンネルを見ると、文字ニュースのように、
たとえばお父さんのMiiが出てきて「何日に量りました」って
流れるようになってるのは、とてもいいアイデアですね。
娘が「お父さん、今日は量っていないよ」って
言ったりするキッカケになるでしょうし。 - 宮本
- 体重を量るだけなら2〜3分で済みますし、
だから、面倒に思わずに、毎日量ってほしいんです。
あと、今回のもうひとつの新しい試みは、
「ながらモード」(※21)ですね。
「ながらモード」=テレビで他の番組を見ながらでも、Wiiリモコンの音声だけで遊べるモード。『Wii Fit』には「ながらジョギング」と「ながら踏み台」の2種類を収録。
- 岩田
- 「ながらモード」だと、ゲーム画面を見なくても、
普通のテレビ番組を見ながらプレイできるんですね。
実は、わたしが抱えている企画のひとつに「ながらモード」があって、
「先を越されちゃった」と思いました(笑)。 - 宮本
- 僕もずっと使いたいと思っていて、
これは今回使わない手はないなと思ったんです。
たとえば、「ながらジョギング」だと、
Wiiリモコンのスピーカーからピッピッと音がして・・・。 - 岩田
- 「残り5分です」とかWiiリモコンが言ってくれるんですね。
- 宮本
- この間の任天堂カンファレンス(※22)のときに、
司会の中井美穂さん(※23)に言われたんですけど、
「マラソン中継を見ながらすることもできるんですね」って。
たしかに、箱根駅伝とかを見ながら走れるとおもしろいだろうなって。
任天堂カンファレンス=2007年10月10日に幕張メッセで開催された発表会のこと。国内ではじめて『Wii Fit』をプレイすることができた。
中井美穂さん=フリーアナウンサー。任天堂カンファレンスのステージでは、司会をつとめた。
- 岩田
- ゲーム画面を見ないで、Wiiリモコンから出る音声だけを頼りに、
テレビゲームを遊ぶものがとうとう出てきたということですよね。
でも、さぼってると、Wiiにバレてしまうんですよね。 - 宮本
- ちゃんと走らないと、
「リズムは一定にしましょう。」って言われちゃいます。
それで、チャンネルをゲーム画面に戻すと、
ちゃんと走ってますしね。「おお、ちゃんと走ってる」と、
さぼっていないのを確認してから、また番組に戻るという。 - 岩田
- 違う画面がテレビに映っているのに、
自分はWiiリモコンを持ってテレビゲームをしているのは、
何とも不思議な感じがしますよね。 - 宮本
- Wiiは眠らないんです(笑)。
- 岩田
- こういうことはWiiのような低消費電力のマシンじゃないと
許されないんじゃないかとも思いますね。
それにしても、『スーパーマリオギャラクシー』をつくりながら、
一方で『Wii Fit』をつくっていたわけで、すごく大変だったんでしょう? - 宮本
- 大変というより、どちらもつくってて楽しかったですね。
でも、『Wii Fit』をつくってるほうが、初めてのことが多いので
新しい発見が多かったんです。
夜、家に帰ってからも、ちょっとおもしろいことを思いついて、
翌日会社に行って、みんなに言いたくてしょうがないみたいな。 - 岩田
- でも、スタッフの人たちは、翌朝にそのアイデアを聞いて、
「エーッ!」ってのけぞっちゃうと(笑)。
- 宮本
- 『Wii Fit』のチームは別の部屋にいるので、
僕がつかつかと行くと、仕事を一生懸命するふりをしながら、
僕と目を合わせないようにしている人もいましたし(笑)。
まあ、そういったエピソードは、2回目以降に登場する予定の
若いスタッフから話を訊いてみてください。 - 岩田
- それでは、恒例の
お客さんへのメッセージをお願いします。 - 宮本
- コントローラで遊んでいると、
ゲームが難しいという言い方をしますけど、
『Wii Fit』のようなフィジカルなものって、
できないと自分が悪いと思うんですよね。
それに、自分が体を動かしたという満足感が残るんです。
満足感があるから、もう1回やろうと思いますしね。
片足で立ってるだけでも、自分のためになったという気持ちになりますし。
しかもきれいに片足で立てると、妙な達成感が味わえるんです。 - 岩田
- 片足といえば、利き足とそうじゃない方で、
こんなに人って違うんだということを、
『Wii Fit』で認識させられました。これはすごい発見でした。 - 宮本
- そういう、自分の体に関して発見することが大事ですよね。
大事なことを言い忘れてましたけど、
『Wii Fit』で、健康になるということではなくって、
『Wii Fit』で、自分の体に意識を持つことが大切だと思っています。
だから、家族で話題にするというのも、
家族同士でお互いの体のことに意識しましょうということなんです。
両足でじっと立っていても、
「体がふらふらしています」って言われて、
トレーニング結果の画面を見ると、ぐらぐら揺れてるのがわかりますよね。
でも、普段の生活をしていて、ぐらぐら揺れてるなんて思わないですよね。
そのように、自分の体に気がつくのがけっこうおもしろいんです。
- 岩田
- わたしも自分で実際にやってみて、発見がいっぱいあるので、
発見をおもしろがってもらえればいいんじゃないかなと思いますね。
家族の間で、自分の体のバランスを語り、体重を語り、
それが家族だけでなく、まわりの人たちの間でも語られるようになって、
気がついたときには、体に対する意識が高まって、
それが健康に暮らすことにつながっていくといいなと思いますね。 - 宮本
- まずは、家族みんなが毎日体重を量ることを日課にしていただくと、
Wiiのない生活は考えられなくなると思います。 - 岩田
- 本当にお疲れ様でした。
それでは次回は、前代未聞のバランスWiiボードをつくった
開発スタッフのみなさんに、話を訊こうと思います。