『Wii Fit Plus』
Vol.1 独立行政法人 国立健康・栄養研究所 宮地元彦先生 篇
- 岩田
- 今回の『Wii Fit Plus』では
宮地先生に、アドバイザーとして関わっていただきましたが、
具体的にどのようなことをなさったのか
お訊かせ願えますか? - 宮地
- わたしが関わったことでいくつかあるんですが、
ひとつは、やせたい人とか、ゆっくり眠りたい人とか、
その人の望むことに対して
こういうトレーニングの組み合わせでやるといい、
という提案内容を監修しました。 - 岩田
- たとえば肩こりや腰痛で悩んでいる人には
こういうトレーニングをしたらいいという、
「おすすめメニュー」を提案してくれるんですね。 - 宮地
- はい。
そういったことは、フィットネスクラブで
インストラクターみたいな人が、
お客さんに対して情報提供するようなサービスと
似たようなものなんですね。
でも、家にいながらにして、『Wii Fit Plus』で
それを体験できるというのは
かなり価値があるのではないかと思います。 - 岩田
- なるほど。
- 宮地
- それからもうひとつ。
僕がいちばん価値があると思ってるのは、
バランスWiiボードに乗ってトレーニングをすると
消費カロリーに換算できるようになったことです。
しかも、毎日それがグラフで表示され、
データを積み上げていくということが
できるようになったということですね。
人間のカラダというのは非常に正直で、
余分にカロリーを使えば、それに応じて脂肪が燃えて、
体重は必ず減っていくものなんです。
具体的に言うと、7000キロカロリーを余分に使えば
1キロ減るようなことが
ものすごくキチッと反応するんですね。 - 岩田
- それは、ちゃんと守られる法則なんですね。
- 宮地
- 守られる法則です。
どうあがいても、抗いようのない法則なんです。 - 岩田
- 太る傾向にある人は、
「水だけ飲んでいても太る」とかよく言いますけど(笑)、
そんなことは絶対にないんですね。 - 宮地
- そんなことは絶対ないです。
- 岩田
- 余分なカロリーをとって、
それを消費してないから・・・。 - 宮地
- 太るんですね。
- 岩田
- 逆にやせるためには、とにかく入る量を減らして、
消費する量を増やすしか他に方法はないんですね。 - 宮地
- そうです。
なので、体重がどのように落ちていき、
それと同時に、使った消費カロリーとの関係を
グラフで見ることができますから、
本人の気づきをより促す仕組みになっていると思います。
要するに体重が増えた原因がわかって、
気づきに導けるというのは、
ひとつの新しいポイントだと思いますね。
- 岩田
- トレーニングごとの消費カロリーを
きっちりデータ化するために
先生には運動強度の測定をしていただきました。 - 宮地
- はい。
国立健康・栄養研究所にはメタボリック・チャンバー(※6)という
運動強度を計るための特別な部屋がありまして、
そこで各トレーニングの測定をしました。
メタボリック・チャンバー=ホテルの1室のように密閉された空間で、人が日常生活に近い環境で過ごすときのエネルギー消費量を、長時間にわたり測定することができる画期的な装置のこと。別名ヒューマンカロリーメーター。
- 岩田
- 昔は運動強度を計るというと、
いわゆるランニングマシーンに乗った人が
戦闘機を操縦するときにつけるようなマスクをつけて、
なんかすごく苦しそうな格好で、ハアハア言いながら走って、
それで調べている映像を何度も見たことがあるんですが・・・。 - 宮地
- 戦闘機のようなマスクをつけて何をやってるかと言うと、
人間の吐く息を直接大きなバッグのなかに詰めて
吐き出した息を分析して、
酸素をどれだけ取り込んでいるかを調べると、
脂肪や糖を燃やし、何キロカロリー使いましたね、
ということがわかるという原理なんです。
- 岩田
- 吸い込んで消費した酸素を計ってるんですね。
- 宮地
- はい。
ところが、マスクをしてると、
それこそ歩いたり、走ったり、自転車に乗ったりという、
とても単純な活動しか計ることができないんです。 - 岩田
- なるほど。
- 宮地
- たとえばうつぶせになって、姿勢を保持するとか、
あるいはヨガのような姿勢をとるとなると・・・。 - 岩田
- マスクがじゃまになるんですね。
- 宮地
- そうなんです。
しかも、いつも『Wii Fit』をするように
自然な感じで、楽しくもできないんです。
ところが、国立健康・栄養研究所にある
メタボリック・チャンバーは、
6畳間と4畳間の部屋になっているので、
ふだん家のリビングでやってるのと
同じような感覚でプレイして、
データを測定できるんです。 - 岩田
- つまり、よりリアルなデータが得られるんですね。
- 宮地
- はい。
- 岩田
- その部屋はどんな仕組みになってるんですか?
- 宮地
- その部屋のなかの空気は
毎分60リットルのペースで
ずーっと入れ替わっています。
で、その部屋に入ると、僕たちの吐いた息が希釈されて
一定のスピードでずっと吸引されているんですね。
そこで僕たちが一生懸命運動すると、
酸素が減って・・・。 - 岩田
- 酸素濃度が減って、二酸化炭素の濃度が上がると。
- 宮地
- はい。その変化で
エネルギー消費量を計るという仕組みなんです。 - 岩田
- それで『Wii Fit Plus』の
全種目のデータを調べていただいた。 - 宮地
- 『Wii Fit Plus』だけでなく
前作の『Wii Fit』、それに『Wiiスポーツ』の
全種目を2ヵ月で調べました。 - 岩田
- 2ヵ月で、全種目。
それで、どんなことがわかったのですか? - 宮地
- 実は、国際的に見ると
『Wiiスポーツ』のエネルギー消費量を計った文献は
2つ、3つあるんです、イギリスとかアメリカに。
ところが測定方法があまりよくなくって、
酸素強度が低めに見積もられていたんですね。
たぶん僕たちが測った値よりも、2〜3割低く出ていまして。
それはやはり、動きが阻害されてるので・・・。 - 岩田
- 動きが阻害されてるから、
そのぶん、運動量が落ちていたと。
- 宮地
- 落ちていたんです。
- 岩田
- それがもっとダイナミックに自然にやれれば・・・。
- 宮地
- メタボリック・チャンバーを使えば
ダイナミックに自然にプレイできますので、
『Wii Fit』や『Wiiスポーツ』でも、
3METs(メッツ)以上の活動が
かなりあることがわかったんですね。 - 岩田
- METsというのは
一般的に聞き慣れない言葉だと思うんですけど、
先生からちょっとご説明していただけますか? - 宮地
- はい。
METsというのは、運動したり
カラダを動かしたときの強さの単位です。
動かずにじっとしている状態のことを1METといい、
たとえばエアロバイクに乗ると
その3倍のエネルギーを使いますので、
3METsになるんですね。
で、アメリカの心臓学会だったり、
あるいは僕たちが作成している
日本の健康づくりのための運動指針では、
3METs以上の活動をやりましょうと提言しているんです。 - 岩田
- そこで、『Wii Fit』などの種目を調べていただいたら
3METs以上の活動がかなりあると。
つまり、健康づくりのためには
『Wii Fit』でも十分にお役に立つんですね。 - 宮地
- 十分なんです。
3METs以上の活動が、
『Wii Fit』や『Wiiスポーツ』でも
かなりあることがわかって、
そのことはアメリカとかヨーロッパの人たちにも
とてもインパクトがあったようなんですね。
だから、アメリカのガイドラインのなかにも、
『Wii Fit』や『Wiiスポーツ』をやるだけでも
十分に対応できる運動が可能であるということが
記述されるようになると思います。(※注)
※注インタビュー時のご発言に基づき、
「記述されるようになってきているんです。」
と記載していましたが、その後の調査の結果、
事実と異なっていることがわかりましたので
訂正して、お詫び申し上げます。
(2009年10月9日)