『安藤ケンサク』
開発スタッフ 篇
- 岩田
- 残念ながら、このソフトの開発は
一時的にストップしてしまいましたが、
実はそのとき、「商品として芽はない」といったような、
悲観的な声は一切なかったんですよね。 - 西村
- はい。そういう声はまったく聞きませんでしたし、
自分のなかでも、面白い商品だという確信はありました。
ただ、いくつかあった問題のひとつに
Googleさんのような検索エンジンに
日頃から慣れ親しんでいる人にとっては
理解できる、とても面白いソフトになったけれど、
そうじゃない人にとっては
わかりづらいソフトになってしまっているんじゃないか、
ということがありました。 - 岩田
- そういう問題は、どのようなタイミングでクリアになり、
どんなかたちで光明が見えてきたのですか? - 油井
- まず、フレーズ検索(※7)を
試してみようということになりました。
フレーズ検索=たとえば「安藤ケンサク」で検索すると、「安藤」と「ケンサク」を別個の単語として、その語を含むページも検索されてしまう。そこで、「“安藤ケンサク”」のように囲んで入力すれば、ひとつのフレーズとして検索することができる。
- 征矢
- フレーズ検索を使うというのは
もともと西村さんたちから出たアイデアだったんです。
「“”(ダブルクォーテーション)」でくくると、
ひとつの言葉として検索してくれるというのがありまして。 - 岩田
- 先ほど、Googleの韓さんも話されていましたけど、
「東京」と「大阪」のヒット件数を比べた場合、
人口の多さなどから、圧倒的に「東京」が多い結果が出るんですけど、
「“東京名物”」「“大阪名物”」のように
ある言葉を足してフレーズ検索すると、
ちょっと意外な結果が出たりするということなんですね。 - 征矢
- そうなんです。
それが面白いので、使えたらいいという話は
以前からあったんですが、
その時点で、ソフトはかなりできていましたので、
いまさら新機能の追加ということは・・・。
- 岩田
- なかったことにしましょうと?
- 征矢
- はい。なかったことにしたんですけど。
- 岩田
- なかったことにしたものが、あとで復活したんですね。
- 征矢
- はい(笑)。フレーズ検索を使ったほうが
わかりやすい、ということになりまして、
開発を再開させました。 - 西村
- でも、たとえば「どちらが多い?」という問題だったら、
単なる二択ですので、システム自体は
すごくシンプルでルールもわかりやすいんですが、
フレーズ検索を採用した場合、
どんな問題をつくるかに負担がかかってくるんです。 - 岩田
- つまり、面白いフレーズの組み合わせを見つける能力が
求められるようになったんですね。 - 征矢
- その通りです。
それまでの開発ではGoogleさんのデータに頼りきっていまして、
ある程度は人力を使って分類したとはいえ、
基本的にはシステム側で解決して、
プログラムで自動生成していくというスタンスでやってきたんです。
でも、その段階から完全に人力が入ることになりました。 - 岩田
- 面白いフレーズの組み合わせを考える
“人力”が必要になったんですね。 - 西村
- はい。でも単に面白い単語を2つ持ってきただけでは
問題が成立しないんです。
やっぱり、興味を持ってもらったり、
面白いと感じてもらえるフックの部分をどうやって出すのか、
そこが大きな課題になりました。 - 油井
- そこで、放送作家の方に協力を仰いだり、
面白い言葉を見つけてくる能力に長けてそうな方に
メンバーに入ってもらうことにしました。 - 西村
- ものによってはダジャレに走った問題だったり、
ダブルミーニングと呼ばれる2つの意味を持つ言葉を使ったり、
あるいは東京と大阪を対比するような地域性を使ったり、
そういったいろんな問題のパターンを考えて、
そのなかからいいものだけを選ぶようにしました。 - 征矢
- ですから、問題をつくってはボツにされ、
つくってはボツにされ、ということを繰り返していたんです。 - 岩田
- ボツにしたのは誰なんですか?
- 征矢
- 西村さんです。
- 岩田
- ひどいことしますね。
でもわたしも、西村さんが出してきたタイトル案に関しては、
たくさんボツにしましたので
人のことはあまり言えませんけど(笑)。 - 西村
- そのタイトル案についても
実は岩田さんに提出したのはごくごくわずかだったんです。
山のようにいろんなタイトルを考えましたから。 - 岩田
- 西村さんが山ほど考えたなかから、
絞りに絞ったタイトル案をわたしに見せてくれて、
それを毎回、ボツにされたんですね。 - 西村
- ・・・はい。
- 岩田
- わたしとしては、今回は前例のないソフトだっただけに、
ゲームのタイトルとしてユニークで埋もれることがなく、同時に、
お客さんから親しみを感じていただけるようなタイトルにすることが
すごく大事なことだと考えていたんです。 - 西村
- そうですね。
そこで、親しみやすい名前とは何だろうと考えたとき、
このゲームに登場するロボットのことが頭に浮かびました。 - 征矢
- 「AND検索」をもじった、「安藤ケンサク」というロボットが
開発の早い段階から登場していたんです。 - 西村
- そのロボットの名前は
とても親しみやすいですし、
多くの人に愛していただけるようになると思いました。
そこで、最後の最後になって
このタイトル案を提案させていただきました。 - 岩田
- それでわたしは、ようやくOKを出すんです。
- 西村
- タイトルが決まったときに、
すぐにシフトさんに電話をかけまして・・・。 - 岩田
- OKが出て、その場で電話をかけたんですね。
- 西村
- はい。それくらいうれしかったんです。
すると、電話口の向こうから
ものすごい歓声があがりまして(笑)。 - 征矢
- そうでした(笑)。
- 油井
- あのとき、みんなの歓びが一気に爆発したんです。
タイトルが正式に決まったことは
もちろんうれしかったのですが、
それ以上に、発売ができるという歓びが大きかったんです。