『スーパーマリオギャラクシー』
Vol.1 プロデューサー・ディレクター 篇
- 岩田
- 3Dアクションゲームって、3D酔いのほかに
どっちの方に進めばいいのかわからなくなって、
迷ってしまう人も少なくないですよね。
それに、3Dアクションそのものに
苦手意識を持ってる人も少なくありません。
今回、『マリオ』の3Dアクションを出すにあたって、
そんなお客さんに向けて、『マリオギャラクシー』では、
どんなことを試みたんでしょうか? - 小泉
- 最初にWiiリモコンを見たときに、
新しいチャレンジをするにはいいチャンスだなと思いました。
とにかく使うボタンは2つだけにしようと。
マリオの基本アクションというと、Aボタンでジャンプですよね。
ところが球状地形だと、ジャンプして敵を踏んだりするのは、
結構むずかしかったりするんです。 - 清水
- そもそも小泉さんは
「3Dのゲームでジャンプさせるなんて、とんでもないことじゃないか」
って言ってたくらいなんです。 - 小泉
- そこで、スピンというワザを考案し、
カメラが真上に来ていても、相手との距離感がわかって、
簡単に倒すことのできるアクションを加えることにしました。
しかも、おおらかな当たりにして、敵とも戦いやすいようにしました。
スピンで敵を気絶させて、
そのあとジャンプでゆっくり踏めば、簡単に倒せます。
開発の当初は、ヌンチャクのコントロールスティックを回転させて、
スピンさせるようにしていたんです。
でも、開発の途中で、リモコンに傾きセンサーが入ることになって、
リモコンをちょこっと振るだけで、スピンできるようにしました。
その方が、ゲームを普段やらない人でも、
直感的にプレイできるんですね。
- 清水
- そもそも3Dアクションでは、走ることが基本になりますよね。
その走った状態で、いちばん攻撃を加えやすいのが、
ジャンプではなくてスピンだったんです。
だから今回の『マリオギャラクシー』では、
「走ってスピン」が基本のアクションになります。 - 岩田
- ジャンプゲームではないと?
- 小泉
- すべてのステージが球状ではありませんし、
もちろんジャンプアクションを楽しむステージもあります。
それができないと、『マリオ』ではなくなってしまいますから(笑)。 - 清水
- もともと、スピンは連続でできるようになっていたんです。
リモコンを振り続ければ、
どんどん敵が倒せるようになっていたんですね。
ところが宮本さんから、
「スピンを一度使うと、ちょっとの間、使えないようにしようよ。
そうすると、タイミングを考えてリモコンを振るようになるし、
スピンができない間は、敵からの攻撃を受けたりして、
きっとおもしろくなるから」と言われて、
現在の形になりました。
そこから敵やボスのバランスを調整するのがたいへんで(笑)。
- 小泉
- でも、宮本さんからのアドバイスで、
きれいにまとめることができたと思っています。 - 清水
- 今作では、キラーから追いかけられたマリオが
走って誘導し、キラーをモノにぶつけて壊すという
アクションもキーになっています。
この操作はヌンチャクのスティックを動かすだけで簡単に遊べます。
そこにジャンプボタンを同時に押させるようなアクションが入ってくると、
敷居が少し高くなってしまいますよね。
そんなところも、はじめて遊ぶお客さんのことを考えて
つくりました。 - 岩田
- マリオ系のゲームには全般的に言えることですけど、
おもしろさが体育会系なんですよね(笑)。
「さあ、このアクションにチャレンジしよう!」と言われても、
最初はやってもなかなかできないわけです。
すると、天から「根性でもう1回!」という声が聞こえてくるんです(笑)。
そこで、根性でもう1回、もう1回とやっていたらいつか成功して、
ものすごい達成感が得られるわけですね。
でも最近は、すぐに「もうダメ」って諦めてしまう人が
すごく増えちゃったと思うんですね。
その上、3Dアクションに対して、食わず嫌いな人も増えてるわけですけど、
そのようなお客さんに向けて、なにか取り組んだことはありますか?
- 清水
- 2人同時プレイで協力して遊べるようにしたことが、
その問いに対する解答かなと思います。 - 岩田
- アシストプレイですね。
じつは、2人同時プレイに関して、
わたしにとってはとても深い縁があるんです。
宮本さんは『マリオブラザーズ』(※8)をつくった人ですから、
『マリオ』の新作をつくるたびに、
「2人同時プレイで、なにかおもしろいことはできないかな」
と考えてきたようなんです。
だけど、なかなかうまくいかないと。
で、当時、ハル研究所(※9)にいた、わたしに言うわけです。
スーパーファミコンの『星のカービィ スーパーデラックス』(※10)を
つくっていたときの話なのですが、
「『カービィ』は、『マリオ』よりもテンポがゆっくりなので、
2人同時プレイをするには合ってる気がするんだよね」って。
それで、いまは『スマブラX』をつくっている
桜井(政博)くん(※11)といっしょに
「どうして宮本さんは自分で解けないお題を出すの?」って
思ってしまったくらい(笑)。
そのときの苦労を思い出すと、
今回もたいへんなチャレンジだったんだろうなと感じました。
『マリオブラザーズ』=1983年9月に発売されたファミコン用ソフト
ハル研究所=『星のカービィ』や『スマブラ』シリーズなどを手掛けてきたソフトメーカー。
『星のカービィ スーパーデラックス』=1996年3月に発売されたスーパーファミコン用ソフト。シリーズ初の2人協力プレイ(ヘルパーシステム)を実現。
桜井政博=『星のカービィ』や『スマブラ』シリーズのディレクター。ハル研究所から独立し、現在は、Wii用ソフト『大乱闘スマッシュブラザーズX(エックス)』を開発中。
- 小泉
- そうなんです。想像以上に大変でした。
アシストプレイは、ポインターで転がってくる岩や、敵の動きを止めて
うまくない人をアシストできますし、
うまくない人がアシストにまわっても、
スターピースを集めるだけでも楽しめるんですね。
しかも、「こっちに進んだ方がいいんじゃない」とか、
ポインターで方向を示しながら、会話を楽しむこともできるんです。 - 清水
- 最初は、2人で同じようなことができるようにしたいと考えていたんです。
でも、そこの割り切りがとてもむずかしくて…。
ところが、宮本さんがそこをうまく整理してくれて、
ゲームの初心者の人が参加するのに、とても便利な機能になったんです。
うちのスタッフの中にはアクションゲームが苦手な人がいるんですが、
「アシストプレイはものすごく楽しい」って言うくらいなんですね。 - 岩田
- 宮本さんは、どんなところを整理したんですか?
- 清水
- 「1人プレイではできないことを
2人同時プレイでできるようにしようよ」って。
そこは「割り切ってつくりましょう」と言ってくれたんです。
じつはそれまで、1人プレイでもポインターを使って
岩を止めたりすることもできるようになってたんです。
でも、そういったことは
2人同時プレイでしかできないようにしたら、
バランスがとれて、とてもいい感じになったんです。
- 岩田
- もし1人プレイでも岩を止められるようになっていたら、
まったく違うゲームになっていたんでしょうね。
でも、「割り切ろう」という話になる前は、
かなり整理がつかなかったんでしょうね。 - 清水
- ぜんぜんダメでした。
「割り切ろうよ」のひと言で、いろんなものが整理されていったんです。 - 岩田
- 宮本さんがよく口にする
「アイデアというのは、複数の問題を一気に解決するものである」
ということば、そのものですね(笑)。