『スーパーマリオギャラクシー』
Vol.3 サウンドスタッフ 篇
- 岩田
- さて、今回は京都本社に戻り、
『マリオギャラクシー』のサウンドを担当した、
スタッフのみなさんから話を訊くことにしましょう。
それでは、『マリオ』や『ゼルダ』シリーズの音楽でおなじみの
近藤さんから自己紹介をお願いします。 - 近藤
- 情報開発本部制作部サウンドグループの近藤です。
今作は、東京制作部でつくられたということもあって、
『マリオ』らしいサウンドのためのアドバイザーとして参加したほか、
新しい『マリオ』のために、4曲を担当しました。 - 横田
- 東京制作部の横田です。
わたしは、『マリオギャラクシー』のほぼ全曲の作曲、編曲を担当しました。
また、オーケストラでの収録がありましたので、
オーケストラアレンジも担当しました。 - 川村
- 東京制作部の川村です。
今作では、サウンド関係のプログラムと、効果音の制作を担当しました。 - 岩田
- 横田さんの話にもありましたが、
今回のサウンドはオーケストラを使ってるんですね。 - 近藤
- はい。オーケストラ収録の様子を録画してきましたので、
さっそくですがご覧ください。 - 岩田
- 壮大な冒険をイメージさせられる曲になってますね。
それにしても、映像に映っていた宮本さんのあんな表情は、
あまり見たことがありません。 - 近藤
- 収録したあと、「やってよかったなあ」って言ってました。
- 横田
- 今回は50人くらいの規模だったんですけど、
聴いたこともない曲を演奏するわけですし、
譜面もその場で初めて見てもらっていきなり演奏に入るので、
もちろんはじめはあまりうまくないんです。
でも、演奏はどんどんうまくなっていって、しかも曲の完成までが早いんです。
ガラス越しで、くぎ付けになって見ていた宮本さんも
「音が変わるもんだなあ」って、ビックリしていましたね。
- 岩田
- その体験は『Wii Music(仮称)』(※1)にも
きっと活かされるんでしょうね。
宮本さんが「これはおもしろい」と思ったものは、
必ずゲームの形になって出てきますから(笑)。 - 一同
- (笑)
『Wii Music(仮称)』=色々な楽器の演奏をWiiリモコンで簡単に楽しめるWii専用音楽ソフト。2008年発売予定。
- 岩田
- ところで、オーケストラを使うことになったのは、
どんな経緯からですか? - 横田
- 宮本さんに会うたびに、
「オーケストラはどうでしょうか?」って言ってまして。 - 岩田
- 「いいよ」って返事が返ってくるまで、
言い続けたわけですね(笑)。 - 横田
- わりとそういう感じです(笑)。
オーケストラをやるとなると、やっぱりお金がかかりますし、
はたして『マリオ』のゲームのテンポに合うのかという、
根本的な問題もありました。
最近のゲーム音楽は市販の音楽CDのように、
とてもクオリティの高いサウンドになってきているんですけど、
それがゲームにハマっているかというと、
ちょっと疑問に感じるところがあるんです。 - 近藤
- まるで、ゲーム機とは別のCDプレイヤーから聴こえてくるような
音楽に合わせて、ゲームをプレイしているような感じがするので、
任天堂としては、生演奏の音楽はあまり使ってこなかったんです。
- 横田
- 自分としても、ただオーケストラをやりたかったわけではありません。
オーケストラの生の音を入れることで、スケール感を出すことができても、
ゲームのテンポが悪くなれば、逆効果だと思っていて。
ゲームをプレイしていて、ストリーミング・・・、
ストリーミングってわかりやすく言うとどういったらいいんでしょう。 - 岩田
- 事前に録音した音楽を垂れ流すこと。
- 横田
- そうです(笑)。 今作では、
サウンドを垂れ流す方式を採用したのにも関わらず、
ゲームのテンポはよくなり、プレイに集中できるようになっています。
でも、その裏にはものすごい努力がありました。 - 岩田
- そこで、プログラマーの川村さんの登場ですね。
どんなことをしたんですか? - 川村
- 『マリオギャラクシー』の制作の前から、BGMに合わせて
自動的に効果音が鳴るような実験をコツコツと続けていました。
『風のタクト』(※2)では、敵に攻撃が当たると、
BGMに合わせてジャンと鳴ったりとか、
『ジャングルビート』のときは、ジャンプするたびに
BGMに合わせてサウンドが鳴るようにしたりとか。
今作では、そのシステムをさらに進化させ、
ストリーミングのサウンドにも応用できないかと実験を続けていました。
そこで、オーケストラの生データをもらって、ゲームに入れてみたら、
「これ、いける!」ということになったんです。
『風のタクト』=『ゼルダの伝説 風のタクト』。ゲームキューブ用ソフトとして、2002年12月に発売されたアクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- ストリーミングのデータ波形を読み取って、
効果音が鳴るタイミングをとるようにしたんですか? - 川村
- ちょっと専門的な話になりますが、
MIDI(※3)データを
ストリーミングデータに同期させるようになっていて、
これを処理のタイミングに使っています。
たとえば、マリオがスターリングを飛び出すときに、
「♪タララララーン」ってハープが鳴るようになっています。
このハープの音が、BGMの曲にピッタリ合うように鳴るんです。
これは、なかなか気づいてもらえない技術なんですけど。
MIDI=「Musical Instruments Digital Interface」の略。電子楽器でデータをやりとりするための規格のひとつ。
- 岩田
- ハープ音のメロディが、
まるでBGMにとけ込んでいるかのように聴こえるんですね。 - 横田
- その技術を実現させるために、
今回はオーケストラの方々にもかなりムリをお願いしました。
そもそも、ストリーミングの生の音楽は、
スタジオ内でのテンポで演奏されますので、
マリオの走るテンポとは、微妙にずれていくことが多いんです。
ゲームのテンポとは関係なく、音楽を流すようなことは、
どうしても避けたかったんです。
そこで、「カチッ、カチッ、カチッ」って鳴るような、
ゲームのテンポに完全に合わせたメトロノームのようなものを用意して、
「100パーセント、このリズムに合わせて演奏してください」
とお願いしました。 - 岩田
- そもそも、オーケストラを演奏するときは、
メトロノームを用意したりしませんよね。 - 横田
- 生っぽさを出すためには、そういうしばりがない方がいいんですけど、
今回は、そのような環境でも最高の演奏ができるミュージシャンの方に
集まってもらって収録しました。
演奏後にみなさんが、「すごく楽しかったです」って言ってくれて
ホッとしました。
- 岩田
- でも、オーケストラの音楽を使うとは言っても、
ゲームの中身が固まってからでないと、なかなか録音できませんよね。 - 横田
- そこ、そこがいちばん大変だったんです!
宮本さんは最後の最後で変えちゃうところがありますからね。 - 一同
- (笑)
- 横田
- いやあ、ホントに綱渡りでした。
宮本さんが「GO!」と言うまでは、収録時期を決められませんから、
「このステージの曲はこれでいいですか?」と、
1曲1曲、念を押すように確認するようにして、
全28曲をオーケストラで録音しました。 - 岩田
- 28曲も編曲するのは大変だったでしょう。
- 横田
- 大変でしたけど、「自分でやる」と言った以上は・・・。
- 岩田
- 「やらせてください」と言って、予算もとったことだし、
やっぱり自分で頑張るしかないですよね(笑)。 - 横田
- 宮本さんも「予算を通すのはすごく大変だったんだぞ。
楽しみにしてるからな」って言ってて、
それがすごいプレッシャーでした(笑)。