『モンスターハンター3 (トライ)』
1. 誰でも参加できるネットワークゲームに
- 岩田
- 今日はありがとうございます。
- 辻本・藤岡
- こちらこそ、よろしくお願いします。
- 岩田
- ひょっとすると、この記事をお読みになるみなさんには、
「任天堂の社長が他社の社員さんにまで訊いてどうするの?」
という印象があるかもしれませんが、
せっかくこれほど気合いを入れてつくられたタイトルですので、
いろんな方々に少しでも多く魅力を伝えたいと思いまして、
わたしが無理をお願いして、京都までわざわざお越しいただきました。
「ふだんとは異なる角度のお話ができるといいな」と思っていますので、
どうぞよろしくお願いいたします。 - 辻本・藤岡
- よろしくお願いします。
- 岩田
- まず、自己紹介をしていただこうかと思います。
辻本さんからよろしくお願いします。 - 辻本
- はい。
『モンスターハンター3(トライ)』の
プロデューサーをやってます、辻本です。 - 藤岡
- ディレクターをやっています、藤岡です。
- 岩田
- おふたりは『モンスターハンター3(トライ)』をつくる前、
どんな仕事をされてきたんですか? - 辻本
- わたしはアーケードゲームのプランナーとして
カプコンに入社しまして、
そのあと、コンシューマゲームに移ってからは
レースゲームなどの、どちらかと言うと
ネットワーク系のソフトのプランナーをやっていました。
- 岩田
- ネットワークゲームが走りの頃からですか?
- 辻本
- そうですね、はい。
それから、初代の『モンスターハンター』では
ネットワークまわりのプランニングや運営などを担当していました。 - 岩田
- プロデューサーになられたのはいつからですか?
- 辻本
- 2007年に出た携帯機のシリーズから
本格的にプロデューサーになりました。 - 岩田
- じゃあ、現場のことをよくご存じのうえで
プロデューサーをされてるんですね。 - 辻本
- はい。
- 岩田
- 藤岡さんは?
- 藤岡
- 僕も最初はアーケードゲームの
デザイナーとして入社しました。
当時はドット絵でアニメーションを描く仕事を
主に担当していました。
- 岩田
- ドット絵でアニメーションをつくってた時代と
いまとでは、隔世の感がありますよね。 - 藤岡
- そうですね(笑)。
まったく別のものでした。
ただ、僕はアニメーションを勉強させていただいていたので、
動きを表現するということに関しては
いまも昔もそんなに変わらないと思っているんです。
当時に教えてもらった動きの大事さとかは、
いまでも引き継ぐことができていますので、
基本的な勉強ができてよかったと思っています。 - 岩田
- たしかに、昔もいまも、両方体験してる人のほうが
引き出しが多くて、深さがあったりしますからね。 - 藤岡
- そうですね。
で、僕は主に対戦ゲームをつくっていたのですが、
会社の方針でネットワークタイトルを
本格的にはじめることになりまして、
当時はまだ、正式タイトルも決まっていなかった
『モンスターハンター』のチームに呼ばれたんです。
若いデザイナーの面倒を見てほしいということで。 - 岩田
- 最初はアドバイザーのようなカタチでの
参加だったんですね。
どうして、ディレクターに? - 藤岡
- 僕はゲームの中身とかに関しても
けっこううるさく言うタイプだったんです。
そしたら「そんなに言うならディレクターをやれよ」
みたいな感じになりまして(笑)。 - 岩田
- なるほど(笑)。
やる気さえあれば、若くて元気のいい人に
どんどん重要な仕事を任せていくと。
カプコンさんの社風ですかね。 - 藤岡
- そうかもしれません(笑)。
ただ僕としてはずっとデザイナーをやっていたかったんです。
それに、そもそもディレクターがどんな役割の仕事なのか
当時はまったくわかりませんでしたし。
でも、まわりから「やったほうがいいよ」と言われて
引き受けてみることにしたんです。
で、『モンスターハンター』は
大きく分けると2つのシリーズがありまして。 - 岩田
- 据置機と携帯機のシリーズですね。
- 藤岡
- はい。
僕は据置機のシリーズのディレクターをしつつ、
携帯機のほうは監修というカタチで参加させてもらっています。 - 岩田
- そもそもどうして
『モンスターハンター』をつくることになったんですか?
- 藤岡
- 先ほども話が出ていましたが、
会社として本格的にネットワークゲームに
取り組むことになったんですね。
そこで、辻本も関わったレースゲーム、
それに『バイオハザード』の外伝的なもの、
そして、いちばんアクションゲーム性が強い
『モンスターハンター』を立ち上げることになったんです。 - 岩田
- 据置機で最初に出たのが
5年前の2004年でしたけど、
企画を立ち上げたのはいつからだったんですか? - 藤岡
- 7年前になります。
- 岩田
- 最初につくりはじめたときのコンセプトで
この7年間、ずっと変わっていないのは
どのようなことですか? - 藤岡
- 大きなモンスターをみんなで協力して倒す
というコンセプトは
最初からずっと変わっていないですね。 - 岩田
- ひとりではできないことを
みんなで力を合わせれば、ということですよね。 - 藤岡
- そうです。
モンスターが環境に適応しながら動いてるところを、
みんなで協力しながら討伐して、
そこから皮や牙などさまざまな素材を獲て、
それを自分たちの装備などに跳ね返らせていくというのは、
開発初期段階からあったコンセプトなんです。 - 辻本
- そもそも最初のコンセプトには
“ネットワークアクションゲーム”と掲げていました。
ただ、その前に付いていた言葉がありまして、
“誰でも入れる”“誰でも参加できる”。
それはすごく重要なポイントでした。
一般にネットワークゲームというと
どうしてもドップリと浸かって
ガツガツと遊ぶような印象がありますよね。
でも、このゲームでめざしたのは“ゆるさ”なんです。
ですから、たとえばとりあえず釣りをしてるだけでも楽しいですという人がいても
それはそれでいいと考えてつくったんです。
- 岩田
- 「釣りだけでいいんです」と聞くと、
なんか『どうぶつの森』みたいですね(笑)。 - 辻本・藤岡
- (笑)
- 岩田
- もちろん見た目やゲームシステムは
まったく違うものですけど、
基本的な考えの部分では近いところもありますよね。 - 藤岡
- そうですね。
ネットワークにつないで
みんなが同じ世界に入っていくんですけど、
メンバー全員が同じことをしなくちゃダメなんじゃなくって、
それぞれが思い思いのことをしながらも、
目的が達成されて、成果がみんなに返っていくと。 - 岩田
- 思い思いのことができる“ゆるさ”がある。
- 藤岡
- はい。
しかも、あまり長い時間をかけなくてもいいように、
長くても1時間単位くらいで1回のクエスト(※1)が
終わるような仕組みにしました。
というのも、当時のネットワークゲームは
どうしても長く遊ぶ傾向にあったんです。 - 岩田
- 長く遊ぶ人が強い人になり、
長く遊ぶ人がすごい人というふうに評価される。 - 藤岡
- ええ。だから僕らとしても
そういった空気を少しでも変えたいと思ったんですね。
1回のクリア時間を短くしたのもそのためですし、
たとえば、4人でいっしょにクエストに行くんですけど、
メンバーの1人が「僕は今回、釣りだけをしたい」と言っても
他の3人がそれを了承してくれれば
それでいい、という割り切りですね。 - 岩田
- 1人がクエストに参加しなくても
ゲームが成立するようになってるんですね。 - 藤岡
- そういったことをゲームの基本設計にして
『モンスターハンター』というタイトルをつくってきました。
クエスト=モンスターの討伐のほか、モノを運搬したり、アイテムを採取するといった、ハンターへのさまざまな依頼のこと。クエストを達成すると多額の報奨金がもらえる。