『モンスターハンター3 (トライ)』
2. 有名マンガを最初にイメージ
- 岩田
- もし、このゲームのことをまったく知らない人が
いきなり藤岡さんの前に現れて、
「『モンスターハンター』とはどんなゲームですか?」
と聞かれたら、ひとことで何と答えますか? - 藤岡
- ひとことですか?
何なんでしょうね。難しいですね。
やっぱり、「狩りをするゲーム」・・・、
と言ってもピンと来ない人も多いでしょうね・・・。 - 岩田
- 「狩りのゲーム」と言われると
ちょっと殺伐とした印象があったりしますしね。 - 藤岡
- そうなんです。
狩りをするというと
どんどんストイックなイメージになってしまうんです。
僕がこのシリーズをつくりながら
いちばん気にしていることは、
殺伐とさせたくないところなんです。 - 岩田
- ゲームがひたすら殺伐としていたら、
すごくしんどい世界になってしまいますからね。
居心地がいい場所にはなりえませんし。 - 藤岡
- ただ、このゲームのなかでやってる行為自体は
それなりにヘビーなこともあるんです。
そういう世界でありながらも、
自分に楽しみがいろいろと返ってきて、
殺伐としない世界を実現したいなあと思いながら
つくっているんです。 - 岩田
- 何をしていてもいいので
殺伐としたものが薄められていくような。 - 藤岡
- そういう感じのイメージです。
もちろん大きなテーマは“狩り”で
それにぶら下がってみんなは動くんですけど、
なんかもうちょっとゆるくて自由というか・・・。
- 岩田
- 釣りをしててもいいわけですしね。
- 藤岡
- とくに据置機のシリーズがそうなんですけど
とにかくゆる〜いんです。
そもそも恐竜って、子どもだけでなく
大人さえもワクワクさせられますよね。
それをキッカケにこの世界に入ってきて、
するとそこには、けっこう楽しい世界がある、
そういう感じがいいなと思ってるんです。 - 岩田
- なるほど。
- 藤岡
- 別の言い方をしますと、
僕はいつもこのゲームを
テーマパークのようなものだと思っているんです。
そこに入ると楽しい世界があって、
その世界で何かをするだけで楽しいと。 - 岩田
- テーマパークで狩りですか?
- 辻本・藤岡
- (笑)
- 藤岡
- テーマパークで狩りをすると怒られますね(笑)。
でも、僕はテーマパークが大好きなんです。
入場すると異空間があって、
何かの利益が得られるわけでもないんですけど、
そこにいるだけでも楽しいじゃないですか。 - 岩田
- なるほど。
まるでテーマパークのように
居心地のいい世界がまずあって、
そこにはモンスターが住んでいる。
それらを狩ってもいいけれど、
狩りをしたくない人は釣りをしててもいい。
ひとりでは倒せないような強いモンスターは、
みんなで力を合わせると倒すこともできる。
倒したあとはご褒美がもらえて、
それが面白いのでやり続ける人がいっぱいいる。
『モンスターハンター』とはそういうゲームなんですよね。
- 辻本
- ありがとうございます。
そこまで説明していただいて(笑)。 - 岩田
- だいたい合ってますか?
- 藤岡
- 合ってます(笑)。
僕が言いたいのはそういうことなんです。 - 岩田
- でも、たぶんぜんぜん知らない人にとっては
いつも強制的に狩りをしていなければいけないと
そんなイメージがあるかもしれないですね。 - 藤岡
- まったくそうじゃないんですけどね・・・。
あ、そうそう、思い出しました。
『モンスターハンター』をつくりはじめたとき
イメージした世界があったんです。
昔、「はじめ人間ギャートルズ」(※2)という
マンガがありましたよね。 - 岩田
- ああ、あの骨肉が出てくる・・・
- 藤岡
- はい(笑)。
- 岩田
- 原始人マンガですよね。
- 藤岡
- はい(笑)。
「はじめ人間ギャートルズ」=小学館の学年誌に1974年から連載された、原始時代が舞台のギャグマンガ。園山俊二原作。同年にはテレビアニメ化された。
- 岩田
- へえ〜、それは意外ですね(笑)。
- 藤岡
- あの世界もすごくゆるいじゃないですか。
マンモスがドンドンと歩いていて、
その肉を輪切りにして食べたりしてますけど
そんなに殺伐としていないんですよね。 - 岩田
- 殺伐どころか、ほのぼのとしてますからね。
- 藤岡
- スパッと肉を輪切りにして、
うまそうに食ってる、みたいな。
そういった大らかさが
すごく人間らしいなあと思うんです。
食いたいから食ってるというあの感じがいいなあと。
そういったことが楽しいんだよという雰囲気を、
このゲームでも表現できたらと思ってるんです。 - 岩田
- だから、みんなで
大らかに狩りを楽しみましょうということなんですね。 - 藤岡
- はい、そうです。
- 岩田
- ちなみにどうして
『モンスターハンター』というタイトルを
付けることになったんですか? - 辻本
- もともとは開発コードだったんです。
- 藤岡
- ただ商標がとれるかどうかわからなくて。
- 辻本
- というより、
絶対にとれないだろうと思ってたんですね。 - 岩田
- 普通、そう思うでしょうね(笑)。
- 藤岡
- すごくシンプルなタイトルですから(笑)。
だから、いつかはちゃんとした名前を決めないといけないよね
と言いながらも、なかなか新しい名前が思いつかなくて、
ずっと『モンスターハンター』と呼んでたんです。
そこで、とれないだろうと思いながらも、
「いちおう確認してみてください」と頼んだら・・・。 - 辻本
- 「とれました」と(笑)。
- 藤岡
- 「じゃあそれで行きましょう!」と(笑)。
開発をはじめた頃からずっと
『モンスターハンター』と呼んできましたので、
僕たちがつくりたいゲームのイメージが
この名前に込められているところもあるんですね。
もちろん愛着もありますし、
その意味でもそのままタイトルにできたのは
すごくよかったですね。
一度聞くとずっと残るような感じもありますし。 - 岩田
- 耳に残りますよね。
- 藤岡
- やっぱり語感とかは、すごく大事ですよね。
- 岩田
- わたしも宮本(茂)と何度も話していたんです、
「すごくいい名前だね」と。
覚えやすくて印象に残りますし、
何をするゲームなのか、パッとわかりますから。 - 藤岡
- ありがとうございます。
『モンスターハンター』というタイトルが付けられたのは
すごく幸運だったと思います。