『モンスターハンター3 (トライ)』
4. Wiiリモコンとにらめっこ
- 岩田
- 藤岡さんがおっしゃった
“負けたくない”という気合いは
いろんなところから伝わってきます。 - 辻本
- そもそも、はじめに書いた企画書には、
「Wiiでナンバー1のグラフィックをつくる!」
と書かれてありました。
その企画書にはいろんなところに、
「Wiiでナンバー1の○○に」
ということが書かれていて、
現場が覚悟を決めてつくろうとしてるのがわかりました。
で、映像に関しては、任天堂さんの発表会で
最初に出させていただいて・・・。 - 岩田
- 2007年の任天堂カンファレンス(※3)ですね。
任天堂カンファレンス=任天堂カンファレンス2007.秋。2007年10月にマスコミや流通など業界関係者向けに開かれた発表会のこと。幕張メッセで開催され、ステージ上では『モンスターハンター3(トライ)』などの映像が流されたほか、『Wii Fit』の実演なども行われた。
- 辻本
- はい。あのときに、
実機であのような絵が出せるようになりましたので
僕はもう「これで勝てる」という確信が持てたんです。
あとは、「あの絵をちゃんと出してね」と
現場に言うだけ(笑)。 - 藤岡
- (笑)。
実際、あの任天堂カンファレンスのあとも
何度もデザイナーとのせめぎ合いがあったんです。
ただ、すでに1度発表してますので、
あの映像とまったく違うものには
絶対にできなかったですし、
「こういう絵をつくりたい」というイメージを
デザイナーがずっと保ってくれましたので、
崩れるようなことがなかったんです。 - 岩田
- 最初にハードルを高めに設定して、
それを目標にがんばることができたんですね。 - 辻本
- だから、結果的に
最初の印象から変わらずにすんだのかなと思ってるんです。
- 岩田
- そういうことができたのは
藤岡さんがかつてドットを打っていた時代の経験も含めて、
あちらを立てるとこちらが立たずという関係が、
たぶん普通のディレクターの方より深くわかっているから
そういった話がしやすかったということなんでしょうね。 - 藤岡
- そうかもしれませんね。
まあ、僕がデザイナー出身であることを、
ずっと振りかざしているものですから(笑)。 - 岩田
- (笑)。
現場の人たちに「オレは騙されないよ」と。 - 藤岡
- やっぱり「騙されへんぞ」と(笑)。
それに「もっとできるやろ」と平気で言ってしまうので。 - 岩田
- わたしも似たようなことを
プログラム分野ではよく言ってます(笑)。 - 辻本・藤岡
- (笑)
- 藤岡
- だから「これ以上は無理です」と言われても、
「ここを削ったらできるやろう」と言ってしまうんですね。
そういう仕事の進め方をしていましたので
デザイナー側にも、とてもいい緊張感が生まれて
その結果、納得できるものになったと思っています。 - 岩田
- わたしは客観的に見て、
絵に関して突き詰めていけば
Wiiではここまで表現できるんですよ、ということの
代表的なもののひとつになったと感じてるんです。 - 藤岡
- ありがとうございます。
- 岩田
- 『ゼルダ』チームも
かなりプレッシャーを受けていると思います(笑)。 - 藤岡
- そんな(笑)。
- 岩田
- 刺激の与え合いですからね、
わたしたちの仕事は。 - 藤岡
- はい。なので、そこでちょっといいものを出せたというのは、
開発チームにとっても自信になっていると思います。
- 岩田
- さて、満足のいく絵が出せるようになった一方、
Wiiのコントローラを最初に見たとき
これでどうやって『モンスターハンター』やるんだって
途方に暮れませんでした? - 藤岡
- (笑)。
ただ、もともと僕は
まったく新しい形状のデバイスを見ると
すごくワクワクしてしまうようなタイプなんです。
DSやWiiが発表されたときもそうだったんですけど、
これまでにないような新しい遊びができそうだし
すごくいいなあと思っていたんですね、客観的には。 - 岩田
- 客観的には(笑)。
- 藤岡
- はい、客観的に(笑)。
でも、いざ取りかかってみると、
「むむむ・・・」となってしまいまして(笑)。
さらに本当に言葉を選ばずに言いますと・・・。 - 岩田
- 正直にどうぞ(笑)。
- 藤岡
- まずボタンが・・・。
- 岩田
- 足りないんですね(笑)。
- 藤岡
- そもそも『モンスターハンター』というゲームは
コントローラにたくさん付いてるボタンのすべてを使って
それで遊べるようにつくってきたんですね。
だから、Wiiでつくることが決まったとき
ずーっとWiiリモコンとにらめっこしていました。 - 辻本
- まだ画面に何も映っていないような頃から、
藤岡は四六時中、Wiiリモコンを握りしめて、
じっと考えていましたからね。 - 岩田
- 「どうやって『モンスターハンター』をつくろう、
ボタンの少ないこのWiiリモコンで」と。
- 辻本
- そもそも、任天堂カンファレンスで
Wiiで出すことを発表したとき、
みんなから「振るの?」とすごく言われましたし。 - 藤岡
- 僕は身内からも言われてましたからね。
「今度はWiiで出すんでしょう。操作とかどうなるの?」って(笑)。 - 岩田
- Wiiリモコンで大丈夫なの?と(笑)。
- 藤岡
- 「やっぱり振るの?」とか言われて。
- 辻本
- ただ、僕らの間では、
Wiiリモコンを振って狩りをするようなことは
当初からまったく考えにはなくって、
「疲れにくい操作にしよう」と言ってたんです。 - 岩田
- 長く遊ぶ人は、
ものすごく長く遊ぶゲームですからね。 - 辻本
- そこで、モーションセンサーのことは考えずに
Wiiリモコンとヌンチャクを
1つのコントローラとして見ることにしたんです。
どういう操作にして、ボタンをどのように割り当てれば
気持ちいいんだろう? 楽なんだろう?と
まず、そこからはじめたという感じでしたね。 - 藤岡
- そもそも『モンスターハンター』は、
シリーズを通じて、クセのある
操作形態に挑戦してきたところがあるんです。 - 岩田
- レバーを微妙に倒しつつボタンを押すみたいに
高度な指使いが求められるゲームだったんですね。 - 藤岡
- はい。
でも、もともとはシンプルに遊んでほしいと思って
つくってきたゲームでもあるんですね。
そこで今回、操作性に関してもゼロから見直すことになって。 - 岩田
- それは、さきほどの
更地からつくった話とつながりますね。 - 藤岡
- そうなんです。
そこで、このボタンを押すと何が出るという
自分たちのなかにある常識をまずなくすようにして、
Wiiリモコンとヌンチャクで
『モンスターハンター』を遊ぶことを考えたときに、
なにが生理的に気持ちいいのかを
徹底的に繰り返して検討しました。