『NHK紅白クイズ合戦』
開発スタッフ 篇
- 岩田
- NHKエンタープライズさんのどんなところが
輪をかけてマジメだったんですか? - 齋藤
- 先ほどのリスのエピソードだけでなく、
たくさんの映像をひとつひとつ検証して、
「ためしてガッテン」に関しても
この言い回しでいまも通用するのかとか、
すべて裏取りするようなこともして、
大学教授や専門家の方に
再度確認するようなこともしていただいたんです。 - 岩田
- とくにあのような番組は、正確さが命ですから、
何千とあるなかで、もしひとつだけでも間違えたら、
「グラッときたらNHK」という信頼性が
揺らいでしまうということなんですね。 - 齋藤
- ところが、正確性を求めようとするあまり、
それで説明をしようとすると
テキストがものすごく長くなってしまうんです。 - 岩田
- すると、ゲームとしては
どうなんだということになるんですね。 - 齋藤
- テンポが悪いんです。
で、もっとさくさく遊べて、言ってしまえば
いいとこ取りをして楽しみたいにも関わらず、
伝えようとしていることは正確かもしれないけど、
テンポが悪くて楽しめないんですね。そこで
「情報は正確に、かつ楽しめるテンポで」というところで、
「これでいいのか」という検証を、かなりの回数重ねました。
それは「ためしてガッテン」に限った話ではなく、
いろんな番組のサンプルをまずつくってみて、
それを、江幡さんたちに実際に遊んでいただいて
「たしかにテンポが悪い」ということをわかっていただいたうえで、
情報をどこまで伝えたらいいかを、考えていくようにしました。
- 江幡
- 問題をつくるときは
まず表計算ソフトを使ってテキストを書きまして、
それに静止画をつけた段階で
われわれとしては「これで完璧だ」と。 - 岩田
- 「もうできた」と思われたんですね(笑)。
- 江幡
- そうなんです。
ところが実機にかけて、実際に自分でやってみると
ぜんぜん違うんです。 - 岩田
- 印象が違うんですよね。
- 江幡
- 違いました。
齋藤さんのおっしゃる通り、
テンポが悪いことが実感できて
「何とかしなきゃ」と思ったんです。 - 齋藤
- 今回のソフトはクイズ問題の数だけでなく、
いろんな意味で物量の多いソフトでしたから、
会議の回数を増やしてテンポの問題を解決していきました。
それと、テンポをよくするほかに、
“クイズの難易度”という問題も持ち上がってきました。
そもそもNHKエンタープライズさんは
クイズ問題をつくるプロではないですし、
かといって、任天堂側にも作問のプロはひとりもいませんでした。
ちなみに、これまでいろんなクイズゲームがありましたが、
そのほとんどが、難しさがどんどんエスカレートしていって、
ストイックに知識だけを問うようなものが多かったように思うんです。 - 岩田
- 「こんなの誰が知っているんだろう?」
という問題もあったりしますからね。 - 齋藤
- そうなんです。
ところが今回も、サンプルでつくった問題が
あまりにも難しいものが多かったんですね。
しかも実際にやってみて、ぜんぜん楽しくなかったんです。
ですから、このままじゃ、
勝ち抜きクイズ番組みたいなゲームにはなるけれども、
おじいちゃん、おばあちゃんも含めて
家族みんなで遊べるものには決してならないと思いまして、
問題の難易度をグッと下げました。 - 岩田
- でも、問題の難易度を下げるというのは
勇気がいりませんでした?
というのも、ふつうのゲームもいっしょで、
難易度を下げると、いろんな人に
遊んでいただけるのはわかっているんですけど、
下げすぎると、いちばんそのゲームで遊びたい人から
「こんなヌルいゲームはいやだ」
と言われるんじゃないかという恐怖がありますので、
開発者はどんどん難しくする方向に行くんですね。
だから、今回もそれと同じような恐怖が
あったはずなんですけど。 - 齋藤
- その通りです。みんなに答えられてしまうと、
クイズゲームではなく、単純な・・・。 - 岩田
- ボタン早押しゲームになってしまうんですよね。
- 齋藤
- そうです。
そこのバランス調整に関しては、
かなり念入りに打ち合わせをしました。
そもそも、クイズ問題というのは、
自分は「知っている」とは思うけど、
実はマイナーな問題だったりすることが往々にしてありますので、
「簡単・難しい」をジャッジする基準が
けっこう難しかったんです。 - 岩田
- 「ふつうは知っているだろう」というのが、
人それぞれに違っているんですね。
- 齋藤
- それで、悩んでいるときに
菅田さんが「家族でプレイするソフトなんだから、
家族の誰かが知ってるような問題にしませんか?」
とおっしゃったんですね。 - 岩田
- なるほど。
- 齋藤
- たとえば、子どもには難しい問題であっても、
お父さんがパッと答えられて
「お父さん、すごい。それ知っているんだ!」
と言ってくれればうれしいんじゃないかと。 - 岩田
- みんなで早押しを競うのではなく、
家族の誰かが簡単に答えられるような問題にすれば、
それぞれのストライクゾーンがちょっとずつ違うので、
補い合うことができるということなんですね。 - 齋藤
- ちょっとは家族に自慢してみたいですよね(笑)。
- 菅田
- もともと「連想ゲーム」も
「ジェスチャー」(※5)も「面白ゼミナール」も、
おじいちゃん、おばあちゃんの番組というわけではなく、
家族みんなで楽しめていたわけですから。 - 岩田
- 「ジェスチャー」や「連想ゲーム」といった番組で
とても興味深いのは、家族のなかで
正解を言う人が、必ずしも同じ人ではないことなんですよね。 - 菅田
- そうなんです。
「ジェスチャー」=『NHK紅白クイズ合戦』に収録されている、クイズゲームのひとつ。本放送は、1953年2月から1968年3月まで、15年間放送されたモノクロ放送のクイズ番組。歴代の司会はNHKアナウンサーがつとめ、白組キャプテンは柳家金語楼氏、紅組は水の江滝子氏だった。
- 岩田
- あるときは、お母さんがわかって、
あるときはお父さんがわかって、
あるときはお子さんが先に言い当てて、
ということが起こるから、
家族みんなが楽しく見られるわけで、
いつもお父さんが一番なら、いつもお子さんが一番なら、
ほかの人はなんとなくつまらないでしょうし。 - 菅田
- 原点に戻って言いますと、もともとNHKは
あらゆる世代向けの番組をつくっておりますので。 - 岩田
- そこが「みなさまのNHK」でもあるんですね。
- 菅田
- その通りです(笑)。