『斬撃のREGINLEIV』
4. すべてが同期するWi-Fi協力プレイ
- 岩田
- さて、サンドロットさんはそうやって
日々、シナリオの物量や増え続ける武器と戦いながら、
今度は任天堂からの聞いたこともないリクエストとも、
戦わなければならなくなりましたよね?
その話は山上さんから訊くことにしましょうか。 - 山上
- はい。やっぱり3年にもわたってつくっていますと、
時代の変化と、お客さんの変化もあって、
「どうも時代はこっちだぞ」みたいな部分が見えてくるわけです。
で、そうこうしているうちに
「やっぱりWi-Fiを使って離れた人とプレイしたい」
という声が聞こえてくるようになったんです。
そこで、わずか1年前の2009年に入ってからなんですけど、
まず、吉川さんに「Wi-Fi協力プレイをやりたい」と言ったら、
ムキになって「そんなん無理っすよ!」と言うんです。
「いや、無理かどうかは任天堂が決めるんじゃなくて、
まずは本間さんに相談してみないか?」と言ったら、
「・・・激怒されるんじゃないでしょうか?」と。
「いや、あの人たちは、いいと思ったことは
どんなに大変でも必ず実現しようとしてくれるはずだから、
とりあえず相談してみよう」
ということで、実際に提案してみたら、
「何を言ってるんですかっ!」とズバッと言われて
最初は全否定されたんです・・・。
- 岩田
- それはそうでしょう(笑)。
開発がはじまって2年以上たっていて、
いきなりそんなことを言われても困りますよね。 - 本間
- はい(笑)。
- 吉川
- でも、あのときのやりとりは
いまでもハッキリ覚えているくらい面白かったんです(笑)。
山上さんが必死になって
なぜWi-Fi協力プレイをやりたいのかを説明したんですけど、
何を言っても、最初は「いや、だから無理ですって」ばかりで、
何言ってるの、この人みたいな反応だったんです。 - 山上
- そんなやりとりがずっと続いていたんですが、
にっちもさっちもいかなくなったので、
「とにかくWi-Fiができればいいんです。
とにかく雰囲気だけでも協力プレイができませんか? 」と
ちょっと条件をゆるくしたんですね。 - 吉川
- そこで、確か僕が
「お互いの姿は見えなくてもいいですから」と言ったんです。
「お互いの姿は見えないんですけど、
なんとなく相手がピンチみたいなことがわかる、
というようなものでもいいですから」という話をしたんです。 - 山上
- すると、まず本間さんが
任天堂側に寝返ったんです(笑)。 - 岩田
- 寝返ったんですか、本間さん(笑)。
- 本間
- ・・・はい(笑)。
- 山上
- 「それくらいだったらできるかも」と。
すると、それまではずっと後ろ向きだった本間さんが、
一転して前向きになりまして
「協力プレイが実現することによって
どんなにお客さんによろこんでもらえるか」と
とくとくと話をはじめたんです。 - 本間
- (笑)
- 山上
- それで、本間さんと僕との間で、
話がはずむようになったんですね。
すると、今度は五十嵐さんが
「そういう考え方もありだね」と言い出しまして。 - 五十嵐
- (笑)
- 吉川
- で、最後の野口さんのセリフがいまでも忘れられないです。
「うわあ、やることになっちまった」と(笑)。
- 一同
- (笑)
- 本間
- そこで、サンドロットのなかで
Wi-Fi協力プレイについて検討することになったのですが、
吉川さんから提案された、
お互いの姿が見えないかたちでの協力プレイはどうなのか、
という話になったとき、
野口さんともうひとりのプログラマーさんが、
「それはごまかしでしょう」と口をそろえて言ったんです。
「Wi-Fiをやるんだったら、
正々堂々とちゃんとしたものをつくりましょう」と。 - 野口
- 実際に、相手が見えない状態で遊んで
それで本当に面白いのかと、疑問を感じたんです。 - 岩田
- 中途半端に感じたんですね。
- 野口
- たとえば仲間が敵にやられそうになったとき、
「友だちがピンチです」というメッセージしか出ないとします。
でも、それだけだと、いっしょにプレイしている感覚は
たぶん得られないだろうと思ったんですね。
すると、パッケージに「Wi-Fi対応」というマークが
ただ単につくだけのものになっちゃうんじゃないかということで、
さすがにそれはイヤだと思ったんです。 - 岩田
- プログラマーとしてのプライドが許さないと思ったんですね。
- 野口
- はい。そこで、
まずはキャラクター同士の同期(※10)はとらないけど、
相手のプレイヤーは見えるかたちにして、
それができるようになると、じゃあ次はという感じで
次々に同期をとらせるようにしていったんです。
同期をとる=すべてのプレイヤーから見て、画面内のモノの位置や状態を同じにすること。
- 本間
- そうやって、段階的に同期をとるようにして、
最終的にはほとんどのものと同期がとれるようになったんです。
敵もたくさん出てくるんですけど
それらも全部同期をとってるんですね。 - 岩田
- 最初は「仲間が見えなくてもいい」と
言われたのにもかかわらず(笑)。 - 野口
- だから、かなり無茶をしました(笑)。
- 本間
- それが実現できたことによって、
Wi-Fiの協力プレイでも
1人プレイのときと同じように
プレイヤー独自の戦略がとれるようになりました。
どのプレイヤーから見ても、敵が同じ位置にいますので、
たとえば、魔法使いが広範囲を攻撃する魔法を使って
相手に大ダメージを与え、
剣を持ってる人が斬りに行くといった
戦略がとれるようになったんです。
- 岩田
- でも、Wi-Fi協力プレイのような仕様は
いちばん最初の設計でやっておかないと、
ふつうは入らないですよ。 - 本間
- そうなんです。
あれを途中で入れられたというのは、
すさまじいウルトラCだったと思います。 - 山上
- そうやって、わたしたちの期待以上のことを
サンドロットさんが実現してくださったんですけど、
それから間髪入れずに、新しい話が営業部署から持ち込まれたんです。
「クラシックコントローラPRO(※11)というのが出るんだけど」と。 - 岩田
- はい。
クラシックコントローラPRO=2009年8月に発売。Wiiの対応ソフトやバーチャルコンソールソフトをプレイするときに使用できる拡張コントローラ。
- 山上
- 「これに対応できないか」と
相談をされたんですけど、もともとこのソフトは
Wiiリモコンを活かすことで生まれた企画でしたので、
「そもそもコンセプトが違います」と言ったんです。
ところが、「これに対応させない理由もないでしょう」と
営業は食い下がってきたんですね。
で、「もしかしたらWi-Fi協力プレイよりも
こっちのハードルのほうが高いな」と思ったんですけど、
そのまま断ってしまうよりは、
まずは本間さんに相談しなきゃと(笑)。 - 本間
- 山上さん、そのとき
すごく言いにくそうに電話をかけてきましたよね。 - 山上
- それはそうですよ。
だって、Wi-Fi協力プレイを無理にお願いして、
その熱も冷めないうちに、また新たにお願いするわけですから。 - 本間
- 「詳しい話は会ってお話ししましょう」と言われて
その電話は切れたんですけど、
僕としてはWi-Fi並みにすごい難題が与えられると思って、
ドキドキしながら待ってたんです - 岩田
- で、会って話を聞いたとき、
本間さんはどう思ったのですか? - 本間
- Wi-Fi協力プレイに比べたら、それはもう(笑)。
- 岩田
- クラシックコントローラに対応させるなんて
かわいいものだと?(笑) - 本間
- かわいいものですよ。
Wi-Fiのほうが“海”だとすれば、
“池”とか“田んぼ”レベルです。ぜんぜん比較にならないです。 - 山上
- でも、僕らの感覚で言うと、
そもそもWiiリモコンで斬るというコンセプトではじめた企画を
クラシックコントローラでプレイするということには、
やっぱり抵抗があって・・・。 - 吉川
- 山上さんは行く前から、
「どうしよう、どうしよう」とずっと言っていましたからね(笑)。
「何年か前に自分は、サンドロットさんに
『Wiiリモコンを最大限に活かした、
究極の1人用のゲームをつくってください』とお願いしていて、
いまさら自分で自分を否定するようなことを言えるのか・・・」みたいに。 - 岩田
- 珍しく弱気になったんですね、山上さん(笑)。
そんなこと、あんまりわたしの記憶にないですよ。 - 一同
- (笑)
- 山上
- ですから、Wi-Fiの話を持っていったときと比べると、
すごくしんどい思いをしながら、
サンドロットさんの最寄りの駅に降り立ったのですが、
あっさりとOKが出たものですから、
帰りはすごく軽快な気分で帰ることができました(笑)。
ところが、間髪入れずにまたまた新しい話が・・・。 - 岩田
- はい。