『リンクのボウガントレーニング+Wiiザッパー』
2. “過程”そのものを“ご褒美”に
- 岩田
- そもそも、FPSの架け橋になるようなソフトにするために、
どうして『ゼルダ』の世界観を使うことにしたのですか? - 宮本
- かつて、『時のオカリナ』の開発が終わったあとで、
外伝のような『ムジュラの仮面』(※6)をつくりましたよね。 - 岩田
- ああ、わたしも、そのことを思い出しました。
『リンクのボウガントレーニング』の企画を聞いたとき、
『ムジュラの仮面』の登場の仕方にそっくりだなあって。
つまり、『トワイライトプリンセス』(※7)の世界観やゲームシステムを、
別の形で活かそうと考えたんですね。 - 宮本
- そうなんです。
あのソフトでつくった地形は膨大にありましたし、
正直な話、やり残したこともあって・・・。
これ、ゲーム開発ではいつものことなんですけど(苦笑)。 - 岩田
- (笑)。
『ムジュラの仮面』=ニンテンドウ64ソフトの『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』。『時のオカリナ』が登場して1年5ヵ月後の、2000年4月に発売。
『トワイライトプリンセス』=『ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス』。ゲームキューブとWiiで2006年12月に同時に発売された。
- 宮本
- そこで、『トワイライトプリンセス』の開発が終わって、
「外伝のようなソフトができないか」という話を
スタッフにしていたんです。
通常、『ゼルダ』のようなタイトルの場合、
新作を一度つくってしまうと、その次が出るのは、
3年後とか5年後とかになってしまいます。
でも、『トワイライトプリンセス』を遊んだ方に、
同じ世界で新しい遊びができるようになれば
きっと楽しいんじゃないかと思ったんですよね。
小気味よいテンポで商品が出てきて、
それを遊ぶことができるのは大事なことだと思ったんです。
- 岩田
- 一方で、作り手の側にとっても、
テンポよく新しい商品をつくることも大事ですしね。 - 宮本
- そうなんです。そこで『ゼルダ』のスタッフに、
『トワイライトプリンセス』のエキストラストーリーとして、
何か新しい企画を考えてみたら、というお題を出したんです。
ところが、いざはじめてみると、
どうしてもふくらみ気味のアイデアばかり出てきてしまって・・・。
そうなると「外伝」とは呼べなくて、
「大作」になってしまうんですね。 - 岩田
- そこで、また3年とか5年待たされることになると。
- 宮本
- もちろん「大作」をつくることも大事なんですけど、
ただふくらませただけのゲームがおもしろいかと言えば、
僕は必ずしもそうじゃないと思ってるんです。
たくさんの飾り付けをすることによって、
本質的なおもしろさが見えにくくなってしまうこともありますしね。
そんな感じで、企画が迷走しかけた時期があったんです。
一方でWiiザッパーを活かしたソフトをつくりたいという想いもあって、
思い切って、『トワイライトプリンセス』のベースを使った、
Wiiザッパーのゲームをつくろう、という提案をしてみたんです。 - 岩田
- Wiiザッパーについては後ほど訊くことにして、
その提案をしたとき、スタッフの人たちの反応はどうだったのですか? - 宮本
- やっぱりショックですよね。
それまで考えてきたことがいったんボツになってしまうわけですから。
一方、「お客さんに対して申し訳ないんじゃないか」って
考えたスタッフもいました。
一度つくったソフトを再利用するようなことは、
申し訳ないんじゃないかと。 - 岩田
- 最初のころ、わたしも端から見ていて、
スタッフのみなさんが納得しきれていないような空気を感じていました。 - 宮本
- だから、とりあえずWiiザッパーで遊べるものをつくってみて、
モニターの反応を聞いてみよう、と言ったんです。
「おもしろくない」と言われれば、やめればいいわけですし。 - 岩田
- モニターの反応はどうだったのですか?
- 宮本
- それが、すごくよかったんです。
モニターは、NOA(任天堂アメリカ)のチームに頼んだんですけど、
熱烈な『ゼルダ』ファンがたくさんいるんです。
彼らからは「こんなの『ゼルダ』じゃない」なんて言葉はひと言も出ず、
すごく盛り上がって遊んでくれました。
それで「これはいける」と。
しかも、毎日のようにレポートを送ってくれましたので、
その意見を聞きながら、調整していきました。 - 岩田
- 実は『リンクのボウガントレーニング』の企画は
わたしがアメリカに出張したときにNOAの人たちに伝えたのですが、
彼らは最初、とても不安がっていたんです。
「大事な『ゼルダ』で、こんな展開をしてもいいの?」
という感じだったんですけど、
試作品がアメリカに届いてからは、
そういった不安な声はまったく聞かなくなりました。
- 宮本
- やっぱりみんな、ゲームが好きなんですよね。
「ゲームはこうあるべき」と頭の中では考えていても、
実際にゲームが目の前に置かれて、
それがおもしろいものであれば、全く問題ないんですよ。
だから、おもしろさをとことん追求するために、
今回はあえてたくさんの“しばり”をかけました。 - 岩田
- “しばり”って?
- 宮本
- 余計なものを足したらアカンとか、
ムービーをつくったらダメとか、
1回3分で終われるようなものにしてほしいとか。 - 岩田
- それは思い切った“しばり”ですね(笑)。
- 宮本
- もし仮に、1回10分かかるようなものにすると、
もう一度トライしてみようとは思わなくなってしまいますよね。
プレイ時間が長くなれば、遊びの要素が分散してしまいますし。
でも3分だと、もう一度遊びたくなると思うんです。 - 岩田
- たしかに、もっとうまくできるんじゃないかとか、
何度もプレイしたくなるでしょうね。 - 宮本
- ゲームを遊ぶ理由として、
もっと次のコースを見たいからだとか、
次に出てくるボスが楽しみだからとか、
遊んだ結果の“ご褒美”が大事だって、よく言われますよね。
でも、僕はそうじゃないと思うんです。
『リンクのボウガントレーニング』に限らず、
いつも言ってることなんですけど、
“ご褒美”までの“過程”がおもしろいからこそ、
みんなが遊んでくれると思うんです。 - 岩田
- “過程”さえおもしろければ、
“ご褒美”はそれほど重要なものではないと。 - 宮本
- ええ。
おもしろい“過程”そのものが、実は“ご褒美”であるべきなんです。
でも、“ご褒美”が作り手の逃げ場に
なっているところもあるような気がして・・・。
たとえば、とても豪華な“ご褒美”が用意できたら、
その時点ですっかり安心してしまって、
“過程”はほどほどにつくってもいいという。
でも、それって、本末転倒ですよね。
だから、今回の『リンクのボウガントレーニング』では、
“ご褒美”に逃げられないように、
逃げ道をしっかりふさぐことが僕の役目でした。
「ボスもつくるな」と言ったくらいですしね。
- 岩田
- ボスもダメだったんですか?
- 宮本
- 豪華なボスをつくることにエネルギーを注ぐよりも、
“過程”をおもしろくするために、全力投球しなさいと伝えました。
それでも、最終的にはボスを1体つくってきましたけどね。
でも、最初は3体のボスをつくりたかったようなので
「よしよし」と(笑)。
しかも1体だけなので、そのボスに全力投球できましたし。 - 岩田
- それにしても、“過程”そのものが“ご褒美”というのは
今作のキーメッセージという感じですね。 - 宮本
- 最近思いついたフレーズなので、
ぜひ使ってみたかったんです(笑)。 - 岩田
- “過程”そのものを楽しくするためには、
具体的にどんなことをしたのですか? - 宮本
- Wiiザッパーで操作するソフトですので、
「Wiiザッパーってすごく快適だなあ」
と感じていただくことが、まず基本にありました。
そこで、標的をねらい撃ちすればいいのですが、
それだけでなく、実はデモ映像のなかにも
いろんな仕掛けが隠されていたりします。
ですから、プレイするたびに新しい発見があって、
「もう1回」という気持ちにさせられると思います。
高得点を出すには、そういった隠れた要素を
どれだけ発見するかにかかってるんです。 - 岩田
- やみくもに的を撃つだけでは
高得点は得られないんですね。 - 宮本
- どうすれば得点が伸びるんだろうと
考えてしまうんです。 - 岩田
- そういうところが、まさに『ゼルダ』っぽいですね。
- 宮本
- 普通のシューティングで終わらせたくないということで、
スタッフたちは、こだわりを持ってつくってくれました。
たとえば、「ここで分岐するとうれしいよね」という場所には
あるものが置いてあって・・・。 - 岩田
- ああ、それ以上の話は、買ってからのお楽しみということで(笑)。
ではWiiザッパーの話題に移ることにしましょう。