『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』
2. 「毎日、遊ばなくていい」
- 岩田
- “オンラインゲームでは常識”
と言われていたことをひとつずつ洗っていかないと、
みんなが遊べるオンラインには化けない気がするんです。
『X』では、そのプロセスにエネルギーを注がれたんですね。 - 堀井
- そうですね。
たぶん「オンラインゲームを遊んだことがない方が
いっぱい入ってこられるだろう」と想定していたので、
そこにいちばん気をつかったよね。 - 藤澤
- はい。僕がよく覚えているのは、
「4×2のメインコマンドのオンラインゲームなら、
ボクはできる気がするんだよなぁ」
と堀井さんがおっしゃっていたので、
「これはそうしなきゃいけないんだな」
って、プレッシャーを感じたことですね(笑)。 - 堀井
- オフラインをやっているつもりでゲームをはじめたら、
「あ、なんだよ、オンラインにつながってたんだ」
と気づくようなものが理想的だと思ったんですよ。 - 岩田
- だけど当然、ほかの人は
好き勝手に遊んでいるわけですから、
どうすればいいのか、かなり頭の痛い話ですよね。 - 堀井
- でも、『ドラゴンクエスト』って長い歴史があるので、
ある意味、文法ができているんですね。
それを知っている人は説明書を読まなくても、
新しい『ドラゴンクエスト』がすぐ遊べるんです。
だからオンラインでもそうなるように、
みんなに頑張ってもらいました。 - 齊藤
- ベータテスト版を遊んでいるお客さんの反応で、
「ここまで『ドラゴンクエスト』になっているとは思わなかった」
という声がすごく多いんですよね。 - 岩田
- でも、『ドラゴンクエスト』の作法と、
オンラインゲームの常識をすり合わせるには、
一筋縄ではいかなかったはずですよね。 - 藤澤
- そうですね。
僕は長年、『ドラゴンクエスト』の開発を担当してますけど、
「何が『ドラゴンクエスト』なのか?」ということや、
「どこに向けて、どうつくれば『ドラゴンクエスト』になるのか?」
ということって、ちゃんと言語化されていないんです。
堀井さん自身は自分の中で言語化されてますか? - 堀井
- なんか、感覚だよね。感覚(笑)。
- 藤澤
- そうなんですよね。
僕も感覚で、ちゃんと言語化できていない部分が多いので、
人に説明するときにとても困るんです。 - 岩田
- でも、もしそういったことが簡単にできるなら、
誰でもつくれるはずなのに、
多くのゲームが“『ドラゴンクエスト』のようなゲーム”を目指しても、
ひとつも『ドラゴンクエスト』にならなかったということは、
そういうアプローチではつくれないってことでしょうかね。 - 堀井
- ルールじゃないんですよ、たぶん。
微妙な感覚なんだと思います。 - 齊藤
- わたしは、堀井さんと打ち合わせをしていて、
「面白ければいいじゃん」という感覚的なものの積み重ねで
ちゃんと『ドラゴンクエスト』になっていくのが、
客観的に「すごいな」と思っていました。 - 堀井
- 面白さが浮かんだとき、それをわかりやすく伝える
“敷居の低さ”みたいな部分も大切なんです。
「このゲームは、この面白さを出したかったのかな」
と思うことがよくあるんですけど、そこまでたどり着けない、
“おしい”っていうゲームがけっこうあるような気がします。
プレイヤーが、面白さにたどり着ける前に、なにをどうしたらいいのか
わからない迷路に入り込んでしまうとか。
プレイヤーを不安にさせてしまうとか。 - 岩田
- 堀井さんは、普通の人が
怖がる部分へのセンサーが特別敏感で、
長い間、ゲームをつくりつづけていても
慣れることがないですよね。 - 堀井
- 自分自身がすごい怖がりなんだと思うんですよ。
だから人を安心させるために、
一生懸命やっちゃうんですよね。 - 藤澤
- 今回も、オンラインをはじめるときに
いくつか手続きがあるんですけど、
その説明の一言一句を、
堀井さんはとくにこだわられたんです。
それで圧倒的にわかりやすくなったんですが、
「ああ、ここをいちばん気にするんだなぁ」って、
思ったりしました。
- 堀井
- プレイヤーはね、けっこう、
いろんなことが不安なんですよ。 - 岩田
- オンラインゲームのつくり手は、
普通は深いところばかりをアピールしがちですけど、
「そういうところをアピールされても、不安に思うかもしれないよ」
というのが、堀井さんの視点なんですね。
そんな視点のオンラインゲーム作家は、
いないと思うんですよ。 - 藤澤
- いないと思います。
- 齊藤
- いないと思いますよ。
- 岩田
- だから、オンラインゲームと無縁で生きてきた方が、
恐る恐る入ってみたら居心地がよかった、
ということが起こりうるのが、
今回の可能性という気がします。 - 堀井
- あと、「入り込みすぎないように」っていう工夫もですね。
- 齊藤
- そうですね。
- 藤澤
- その葛藤は大きかったですね。
- 岩田
- つくっている人が「入り込みすぎないように」(笑)。
そんなメッセージを出すオンラインゲームって、
聞いたことがないんですけど。 - 堀井
- オンラインに入ってない時間もワクワクできて、
気持ちよくログアウトできるように、みたいなね(笑)。 - 藤澤
- はい。わりと最近のカジュアルなゲームでは、
「毎日遊んでほしい」というメッセージを
ゲーム側が出しているものが多いと思うんですが、
『ドラゴンクエストX』は逆で、
「毎日、遊ばなくてもいいよ」というメッセージを出しています。 - 堀井
- 遊ばないと、ある程度、
得をすることもあるんだよね。 - 藤澤
- はい。これは最初に堀井さんから、
「お客さんが、自分の生活を破綻させてまで
遊んでしまうゲームにだけはしないでほしい」
と言われまして、その答えとなるシステムをつくりました。
そのひとつめは「サポート仲間」です。
自分が遊んでいないときは、ほかのプレイヤーのお供として
自分のキャラを使ってもらって、
経験値やゴールドを稼ぐことができます。 - 岩田
- 自分が遊んでいない間もプレイしていたかのように、
自分のキャラが成長していくシステムですね。 - 藤澤
- はい。ふたつめは「元気玉」です。
これはログインしていない時間をチャージできるシステムで、
一定時間がたまると、ひとつもらえるアイテムです。
これを使うと30分間、経験値とゴールドが2倍になるので、
週末しか遊べない人は元気玉がたまっているので、
ずっと2倍で遊べるわけです。 - 齊藤
- 遊んでいなくても置いてけぼりにならないので、
ゆっくり寝てください、と。 - 岩田
- 「寝る間を惜しまなくてもいいよ」ということですね。
うーん、これも聞いたことないです(笑)。
- 藤澤
- 最後は「サポートゴールド」で、
ゲーム進行上で特定の場所まで行ければ、
以降1週間ごとに、ゴールドが支給される仕組みです。
この3つは「毎日遊ばなくてもいいよ」という
メッセージを具体化したシステムなんです。 - 岩田
- 一方で、たくさん遊べる方もいるわけですけど、
そういう方と長時間遊ばない方とのバランスは、
どうやってとっているんですか? - 藤澤
- バランスをとるのではなくて、
究極的に言えば、
“人といっしょに遊ばなくてもいい”という提案に変えたことです。 - 岩田
- え? 人と遊ばなくていいんですか?
- 藤澤
- はい。けっきょく、なぜ人といっしょに遊べなくなるかといえば、
グループから1人だけ遅れてしまったときに、
孤独感や、疎外感を味わってしまうからだと思うんです。
だからそういう方でも遊べるように、
“1人でも遊べるオンラインゲーム”にしようということを
『X』では最初から言いつづけてきました。 - 堀井
- ボクは人見知りだから、懇意になるのが苦手なんですよ(笑)。
だから『FFXI』も、ずっとソロでプレイしていました。 - 岩田
- 今度のベータテストでも、
堀井さんに話しかけると逃げるらしいって、ウワサがありますよね(笑)。 - 齊藤
- それ、本当です(笑)。
- 堀井
- でも、オンラインで感じられる、
人の存在は好きなんです。
だから『IX』(※8)のすれちがい通信(※9)みたいな
軽い人間関係が「いまどきでいいんじゃないかな」と思う。
『IX』=『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』。2009年7月、DS用ソフトとして発売されたRPG。『ドラクエ』シリーズ9作目。
すれちがい通信=電源を入れたまま本体を持ち歩くことで、すれちがった人とデータのやりとりができる通信機能。
- 岩田
- じゃあ「何時に集合な」という関係になるのは、
重すぎるわけですね。 - 堀井
- そう、束縛されちゃうからね。
- 齊藤
- でも、たまにはいいんですよね。
- 堀井
- うん、たまにはいい。
- 岩田
- たまにはいいんですか(笑)。
- 齊藤
- 堀井さん、ベータテスト版でも、
テスターさんと待ち合わせしていましたよね。
わたしたちはそれを聞いてびっくりしましたもん。 - 堀井
- そうそう、その人といっしょに、
あるクエストをクリアしたんですけど、
なんか相手にすごく感激されてね。 - 岩田
- 堀井さん・・・それは感激されますよ(笑)。
- 一同
- (笑)