『スーパーマリオギャラクシー 2』
宮本 茂篇
- 岩田
- それは一体どういうことなんですか?
- 宮本
- そもそも『マリオ』のような子どもが遊べるゲームは
放っておくと次第に子どもっぽくなっていく傾向があります。
つくる人たちが無意識にどんどんそうしてしまう傾向があるんですね。
たとえばセリフひとつをとっても、
「僕のママはどこに行ったの?」とかなるんですが、
そう言われると、50歳を過ぎた僕は、
ちょっと引いてしまうようなところがあるんですね。
もともと『マリオ』は子ども用ゲームじゃなかったですし、
「50代のおじさんも遊ぶんやから」と思って、つくっています。
それ以外にも「マリオはしゃべってもいいんでしょうか?」
「いや、マリオはプレイヤーなので、しゃべったらアカンよね」
とか議論になるんです。
ところが、「マンマミーヤ」とか言うてるわけでしょう。
「おいおい、しゃべってるやないか」って(笑)。 - 岩田
- (笑)
- 宮本
- でも、それはそれで悪くないんです。
だから、「子どもっぽい」とか「大人っぽい」とか
「しゃべるべき」とか「しゃべるべきじゃない」とか、
そういったところに・・・。 - 岩田
- そこには本質はないということですね。
- 宮本
- そうなんです。そこに本質がないというところに、
小泉さんと話すことでやっと気がついたんです。
遊んでいる自分が、その世界に“共感”できるかどうか、
それがいちばん大事なことだということで、説明がついたんです。
たとえば超大作の映画を観ていると、その映像の豪華さに
スゴイ!と思いながらも、ちょっと引いてしまうようなことがありますよね。 - 岩田
- “共感”できないから、ですよね。
- 宮本
- ええ。“共感”できないからその世界に入り込めないんです。
じゃあ、今度の『マリオギャラクシー 2』はどうなのかというと、
もちろん適度なストーリーとデモ映像が欲しいですし、
新しい敵もどんどんつくったんですけど、
このゲームにそった本質的な仕上げをしていきたいと考えたんです。
そうでないと、「どうしてこの敵がここにいるの?」と思うだけで、
遊ぶ人が引いてしまうんです。 - 岩田
- ああ、“共感”が得られないんですね。
- 宮本
- そもそも僕のものづくりは何かと言うと、
“共感のものづくり”だったのではないかと。
ストーリーがいるかとか、ストーリーがないとか、
そういうことをしたかったんじゃなくって、
遊んでいる人に“共感”していただけるように、
自分はものづくりをやってきたように思うんです。
- 岩田
- 『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※13)が
世界中でたくさんの人たちに受け入れていただいたのも
そういうことなんでしょうね。 - 宮本
- 自分に関係のあるものだと
たくさんの人たちに感じていただけたからじゃないかと思います。 - 岩田
- そこには“共感”があったということですね。
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年12月に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
- 宮本
- そうだと思います。
敵に対しても“共感”を持つことで、
自分でその敵に関わってみようかとか、
この敵は怖くなかったけど
次に出てきた同じような敵の色がちょっと違っていて、
しかも、さっきとは違って岩を2個吐くから
きっと手強いぞ、と思ったりだとか。
そのように自分で推理して、
推理したことを自分で試してみるという、
このやりとりが面白くて、そのやりとりが増えれば増えるほど、
“共感”につながっていって、
そこにいる必然性みたいなものも感じるんだと思うんです。 - 岩田
- はあ、なるほど。
ずいぶん“共感”という言葉で説明できる範囲は広いですね。 - 宮本
- そう考えると、
面白いTVドラマがあって、一方で面白くないTVドラマがある、
その違いは何かと言うと、面白いあらすじとかというよりも、
本当にそこにいそうな人が出てくることが大事ですよね!? - 岩田
- どんなシチュエーションに
どんな登場人物が出てくるかが大事だということですね。 - 宮本
- だから、ある境遇を描いたドラマがあって、
その境遇に興味のない人にとっては
ぜんぜん関心がないはずなんですけど、
そこに出てくる人たちが
自分の周りにいそうな人であれば、
“共感”が持てるのでその話に入っていけるんですね。
ゲームもそれと同じだと思います。 - 岩田
- 深いですねえ、今日の話は(笑)。
- 宮本
- 僕が最近、夢中になっているテーマなんです(笑)。
ゲームがインタラクティブという特殊なものだということもあるんですが。 - 岩田
- で、そうやって
“共感”してもらえるようにつくったことで、
印象はどのように変わりましたか?
- 宮本
- 手塚さんに遊んでもらって印象を聞いたんです。
すると、即答で「テンポが良くなりましたね」と。 - 岩田
- 過剰な演出がそぎ落とされたということなんでしょうか。
- 宮本
- おそらく素直にその世界に入っていけた、ということだと思います。
- 岩田
- なるほど、まさにその世界に“共感”できたんですね。
ちなみに、宮本さんは今回の『スーパーマリオギャラクシー 2』を、
どんなふうにお客さんに遊んでほしいですか? - 宮本
- 今回は『スーパーマリオギャラクシー 2』という名前にしたとおり、
まず前作を遊んだ人が楽しいと感じてもらえるようなゲームを目指しました。
で、今3Dのアクションゲームが抱えている課題は、
覚えてもらわないといけないことが多いために、
序盤はチュートリアルが多くなってしまうことなんです。
チュートリアルというのは、
初めて操作を覚える人に対しては親切なんですけど、
操作を知っている人にとっては、面倒くさいんです。 - 岩田
- 「それはわかっているから、もっと早く先を遊ばせて」と
言いたくなることもありますね。 - 宮本
- そう。けど、それはつくらなあかんという。
- 岩田
- そのことはいつも感じているジレンマなんですね。
- 宮本
- ええ。新しい『マリオ』をつくるたびに
いつもそのようなジレンマを感じているんですけど、
『マリオギャラクシー 2』は前作を遊んだ人に
すぐに遊んでほしいと思いましたので、
チュートリアルは見たい人だけが見られるように、
ヒントテレビという形で最小限に抑えたんです。
ですので、最初からアクセル全開のようなゲームになりました。
しかも、前作と比べても20パーセント増くらい
手ごたえの感じるゲームになったと思います。
僕自身、夜遅く、ひとりでやっていると
机を叩きながら叫んでしまうくらいですから。
- 岩田
- へぇ。それ、ちょっと見たいですね(笑)。
- 宮本
- (笑)。それでも、もう1回挑戦してみたくなるような
骨太のゲームになったと思います。
ですから究めたいと思っている人には、
かなり歯ごたえのあるゲームになりました。
でも、もちろん初心者の方にも、『マリオ』らしい
これまで味わったことのないような
不思議な世界や感覚を楽しんでいただけると思います。
たとえば、マリオが小さい球面で幅跳びをしたら、
いつまでも球の周りをくるくる回ったりしてます(笑)。 - 岩田
- ああ、それは楽しそうですね。
- 宮本
- でも難しいです。簡単ではありません。
けど、それを乗り越えたときの快感こそが
アクションゲームの醍醐味ですから。
とはいっても、これまで3Dアクションに触ったことのないような
まったくの初心者の方にとっては
戸惑ってしまうところがあると思うんです。
正直、そこをどうしようかと最後まで悩みました。 - 岩田
- わたしも何かできないかなと思ってしまうくらい、
すごく葛藤して悩んでいましたよね。 - 宮本
- ええ。でも、岩田さんから
「初心者の方にもヒントになるような
『はじめてのスーパーマリオギャラクシー 2』という
DVDを付けるのはどうでしょう」
という提案があって、助かりました。
あの段階であそこまでのチュートリアルを
ゲーム中に入れるのは実現できませんでしたから。
前作を遊んだ人がサクサク遊べるようにと
薄めにしたチュートリアルの部分を、
そのDVDでたっぷり補えますし。 - 岩田
- それと、開発スタッフの上手なプレイも
スペシャル映像としてDVDに収録しましたから、
腕に自信のある人もご覧いただく価値はきっとあると思います。 - 宮本
- それから、2つめのWiiリモコンを使う
アシストプレイが前作より強化されて、
2人で協力すると、かなり便利になりましたので
ぜひ試していただきたいですね。 - 岩田
- ところで、宮本さんは今回、
『マリオギャラクシー 2』を仕上げるにあたって、
自分でテキストを打つようなことまでしたんですよね。 - 宮本
- そうなんです。『マリオ64』以来、
久しぶりに自分でテキストを打ちました。
最初にテキストの本数を聞いたら5000もないという話で、
「それくらいだったら全部に手を入れようか」と
最初はすごく鼻息が荒かったんです。
でも、開発の終盤になると
「大事なところだけにしとこ」みたいになりまして(笑)。 - 岩田
- (笑)
- 宮本
- でも「あとは任せたから」とか言ったりしてたんですけど、
「このセリフは、『〜だ』より『〜ね』のほうがいいよね」
みたいなことを久しぶりにやりました。 - 岩田
- 宮本さんがそこまでやるというのは、
すごく面白いですね(笑)。 - 宮本
- やっててすごく楽しかったですよ。
- 岩田
- 楽しかったんですか?
- 宮本
- たぶん現場は迷惑したと思います。
「どっちでもいいやないですか」とか(笑)。 - 岩田
- あははは(笑)。
- 宮本
- でも、そこまでこだわったのは、
やっぱり“共感”してほしかったからなんです。 - 岩田
- それは、50代のおじさんにも、ですよね。
わたしも、去年の12月に仲間入りしたところですけど(笑)。 - 宮本
- もちろんです(笑)。