『スーパーマリオギャラクシー 2』
開発スタッフ篇
- 岩田
- わたしは今回の『マリオギャラクシー 2』を見て、
遊びの密度がとても濃いという印象を持っているんです。
序盤からいろんな要素が詰まっていますけど、
そうするために、どのような試行錯誤があったんですか? - 林田
- 『2』をつくるわけですから、
新しいキャラクターを登場させるだけでなく、
もっと新しい軸が必要だろうと思いました。
最初は“もっと”という軸ではじめたのですが、
そのあとに“スイッチング”という軸で考えることにしたんです。 - 岩田
- “スイッチング”というのはなんですか?
- 林田
- スイッチを押すとか、何かのタイミングで
その世界がガラッと変わるというものです。 - 岩田
- ああ、なるほど。
スイッチによって世界が変わる。
それもちょっと変わるのではなく、
大きくダイナミックに変わるんですね。 - 林田
- そうです。
- 岩田
- なぜ“スイッチング”を軸にすることにしたんですか?
- 早川
- 前作とは大きく違う印象になる遊びの軸が
必要ではないかと思ったんです。
最初に「前作の土台となるシステムを使って」
という命題が与えられた時点で、みんなの頭のなかには
『ムジュラの仮面』のイメージがあったと思うんです。 - 小泉
- 『時のオカリナ』のあとに『ムジュラの仮面』をつくって、
そのときに「3日間システム」(※11)を採用したんですけど、
あれが、世界をガラッと変えるシステムなんですね。 - ※11「3日間システム」=ゲーム中で設定された3日間が過ぎると世界が滅んでゲームオーバーになるため、プレイヤーは先にすすめては初日に戻るということを繰り返すシステム。
- 岩田
- ああ、『マリオギャラクシー 2』も何かのキッカケで
世界の全体を変えるようなシステムで考えようとしたんですね。 - 林田
- そうなんです。
でも、実際にやろうとすると大変で、
とてもまとめられないということになってきて・・・。 - 小泉
- あれはすべて要素を合わせなきゃいけないので、
ものすごく大変なのはゼルダの経験からわかっていたんです。
それまでつくってきたものをやめたりとか、
あきらめたりしないといけないですし。 - 岩田
- いろんなものを失っていくことになるんですね。
- 小泉
- そういう恐れがやっぱり出てきたので、
あまりシステムで軸をつくることにとらわれすぎずに
「マジメに面白いネタをつくっていけばいいんだ」と
そういう話を林田さんにしました。 - 林田
- そうでした。そもそも『マリオ』というゲームは、
いろいろな実験をして、それで面白い遊びが結果的に残って
それをまとめたものが商品になっているんです。
そういう話を小泉さんや宮本さんから聞かされて、
“スイッチング”という軸に縛られずに、
とにかく面白いものをつくっていこうと、
方針を変えることにしました。 - 岩田
- “スイッチング”の時代に考えたネタは
最終的な製品に残っているんですか? - 林田
- いろいろな部分で展開されています。
全体がガラッと変わるイメージでは
時間によってブロックが切り替わるとか、
あのあたりは“スイッチング”の時代に考えたネタなんです。 - 早川
- それに、池が氷ったり
溶岩がいきなり氷に変わるのもそうですね。 - 林田
- そこで方針を変えてやっているうちに、
「いろいろあるのが『マリオ』じゃないの?」
という話になっていったんです。
それで生まれたのが雲マリオです。 - 岩田
- なるほど。それでは、ここからは
マリオの新しいアクションについて訊かせてもらいますね。
まずドリルというネタはどうやって生まれたんですか? - 林田
- 前作のときから「穴に入って反対側に抜ける」というのが
宮本さんのこだわりのネタだったんです。
で、ああいうものを・・・。 - 岩田
- 「ああいうものをもっとやらないと、
球状地形を活かしたことにならない」とでも言われたんでしょう? - 林田
- はい(笑)。
- 小泉
- それはもう宮本さんから与えられた
宿題のようなものだったんです。 - 林田
- 「穴に入って反対側に抜ける」というのは
前作からの宿題でした。
で、なんとかならないかと思って
ドリルのアイデアが生まれたんです。
ところがさっそく実験をはじめて、
ドリルで潜って球状地形の反対側に行くようにしてみたんですけど
それだけだとぜんぜん遊びにならないんですね。
- 岩田
- たしかに、ただ反対に行くだけだと遊びになりませんよね(笑)。
- 林田
- そこで、どうやって遊びにつなげるかと、
それを解決するのに1、2ヵ月かかってしまいました。
そこで、いろいろテストをして、
ジャンプしても登れないような高い山があっても、
反対側からだったら行けるようになるということで、
パズルのような遊びにしました。 - 岩田
- あのドリルは見た目にも面白いですし、
ゲーム的にも面白いギミックになってますよね。 - 元倉
- ただ、デザイナー的には別の議論があったんです。
「ドリルマリオをつくるべきか?」という・・・。 - 岩田
- ドリルマリオですか?
- 元倉
- やっぱり変ですよね(笑)。
それで変身とは違うんじゃないかということになって、
ドリルのアイテムを使うようにしました。
ちなみに、ゴロ岩マリオをつくっているときは
小泉さんからかなりいろんなことを言われました。 - 岩田
- それはどうしてなんですか?
- 小泉
- 『ムジュラの仮面』に出てくる
ゴロンリンク(※12)の操作をつくったのは僕なんです。
ですから、ゴロ岩マリオの操作に関しては、
僕が納得するまで、不満をいろいろと言ってました。
ゴロンリンク=『ムジュラの仮面』に登場したキャラクター。リンクがゴロンの仮面をかぶると変身し、高速で転がりダッシュをすることができた。
- 岩田
- (笑)。
あと、雲マリオはどうやってできたんですか? - 林田
- もともと雲マリオは、
スピンをしたら足場ができるという実験をしていて、
それで生まれたキャラクターなんです。
で、足場は何がいいかということで雲にしたんですけど、
スピンをするたびに雲ができて
それを無限に繰り返していると
ものすごく高いところまで行けちゃうんですね。 - 岩田
- それだとゲームになりませんね。
- 林田
- はい。そこで、
雲の足場は3個限定でつくれるようにして。 - 元倉
- ほかにも、足場の雲は動いたほうがいいんじゃないかとか、
いろんな声があったんですけど、
出したその位置でとまっているのがポイントなんです。
というのも、じっとしていると急がなくていいので
落ち着いてゆっくり遊べるんです。 - 岩田
- なるほど。
- 林田
- ただ、3個限定とは言え、雲がつくれてしまうと
いろんなところに行けるようになりますので、
それが面白いところではあるんですけど、
制作者としてはすごい悩みの部分だったりしました。 - 岩田
- 行かれたら困るような場所もあったりするでしょうからね。
- 林田
- はい。でも、いろんな遊び方にチャレンジしたい人にとっては、
雲はものすごく強力なアイテムだと思います。 - 岩田
- ショートカットもできるんですか?
- 林田
- はい、できるようなっています。
それに、まさかという場所に
1UPキノコがちゃんと置いてあったりします。
「ここまでよく来てくれました」というご褒美ですね(笑)。