『スーパーマリオギャラクシー 2』
開発スタッフ篇
- 岩田
- 宮本さんは、小泉さんと向き合って話したことで、
とても大事なことがわかって、
すごくスッキリしたと言ってましたよ。 - 小泉
- はい。僕もスッキリしました。
今回の「社長が訊く」で
宮本さんはどういう話をされたか知りませんけど、
今作のテーマやキーワードは“共感”でした。 - 岩田
- まったく同じことを宮本さんも言っていました。
- 小泉
- あ、そうなんですね。
宮本さんとは『マリオ64』からいっしょに仕事をしていますけど、
“共感”をつくることと、“違和感”をつくることと、
両面をやらなきゃいけないんですよね、この仕事は。
このバランスが崩れると、よくわからないゲームになってしまうんです。 - 岩田
- “違和感”がないと、感動がありませんし、
“共感”がなければ、誰もついていこうと思わないですよね。 - 小泉
- そうなんです。そこで、驚きを表現したいと思うと
“違和感”を重視しがちになるんですけど、
でも実は、入口の部分では“共感”の部分がとても大事で、
ゲームが先にすすんでいくうちに、
少しずつ“違和感”を増やしていくようにして、
お客さんに楽しんでもらうという作り方が大事なんだと、
そういうことが、今回宮本さんと話をしてたどり着いた結論なんです。 - 岩田
- その考えが、今作にも活かされているんですね。
- 小泉
- そう思います。
それに今回、宮本さんとじっくり話をして
自分で気がついたことがもうひとつあるんです。
最近僕はギターをはじめまして、
はじめた理由は、そこにもつながっているんですけど、
ゲームを1本のパッケージにしようとすると、
どうしても僕はお話という形でまとめようと考えるんです。
ところが、今回いろいろ突き詰めて考えてみたんですが、
『マリオ』はひとつの楽器なんじゃないかと思ったんです。 - 岩田
- 楽器、ですか。
- 小泉
- たとえば、1本の『マリオ』を渡されると
いろんな遊びができるんですけど、
初めての人は、ただ歩いたり、1回ジャンプするだけで、
それは1本の弦のギターを弾くようなものなんですね。
それで、ちょっとうまくなると、2本の弦で演奏するように、
カベキックができるようになったりして、
さらに同じ曲を何度も繰り返し弾いているうちに、
どんどんうまくなっていって、
しまいには6本の弦を全部使ってギターが
弾けるようになってどんどん楽しくなっていく。
そういったことと『マリオ』は同じなんじゃないかなと。
で、僕らの仕事は、楽しみながら上達するための
楽曲をつくることだと思ったんです。
- 岩田
- それがゲームデザインだったりマップづくりなんですね。
- 小泉
- はい。最後にゴールへたどり着くと曲が終わる、
それが誰にでもできるようにつくられている、
すごく手軽な楽器なんじゃないかなと思いました。 - 岩田
- 楽器をうまく弾けたときに
自分の頭のなかに感じられる快感と、
『マリオ』が思い通りのイメージで、ダッシュして、
跳んで、カベキックして、それがうまくいったときと、
きっと似てるんでしょうね。 - 小泉
- たぶんみんな、楽器を上手に弾きたい、
『マリオ』をうまく操作したいと思うんですけど、
すぐには、うまくできないんですよ。
できないんだけど、
うまくなりたいという気持ちはまったくいっしょで。
今作の『スーパーマリオギャラクシー 2』は
人によっては『New スーパーマリオブラザーズ Wii』(※15)よりも
難しそうなゲームに感じるかもしれないですが、
本質は同じ『マリオ』という楽器なので
弦の数が何本か多いかもしれないですけど、
手に馴染むまでプレイしてもらえれば
イメージどおりに弾けるようになるものだと思っているんです。 - 岩田
- なるほど。
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』=2009年12月に、Wii用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
- 小泉
- 『マリオ』はゴールにたどり着くのが目的のゲームで、
コースは音楽でいう、一小節とか二小節なんです。
ゴールまでをどうやってアレンジして弾くかはお客さんの自由で、
そこを縛らないようにつくることが
『マリオ』の作り方なんだなと、今回改めてよくわかりました。
それに、そもそもマリオというキャラクターは
アイテムを使ったアクション以外は
最初から何でもできるようになっているんです。 - 岩田
- 最初からカベキックもできれば、
ヒップドロップもバック宙もできますよね。 - 小泉
- はい。『ゼルダ』のリンクの場合は
アイテムを1個1個手に入れながらパワーアップしますけど、
はじめから全部できるようにつくってあるのがマリオです。
それは楽器といっしょです。
楽器も最初からどんなに高度な曲も弾けるようになっていますけど、
それを自分なりに触ってみて、弾けるものから、
だんだんレベルを上げていくような。 - 岩田
- 経験値はプレイヤーの手にたまるんですよね。
- 小泉
- そうです。
なので、まさにお話をつくるのが目的ではなく、
僕らは道具をつくっているんだとすごく実感しました。 - 岩田
- なるほど。ところで小泉さんは、
今回の『マリオギャラクシー 2』は
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』より
弦の数が何本か多いという、たとえ話をしましたけど、
それについて、みなさんはどう思いますか? - 元倉
- これは僕個人の印象なんですけど、
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』のほうが、
ゲームとしては難しいと思うんです。
実は、『マリオギャラクシー 2』では
1本や2本の弦しか扱えないような人でも、
けっこう簡単にクリアできるステージも少なくないと感じているんです。
実際、操作するボタンの数もそれほど多くはありませんし、
そこはやっぱり同じ『マリオ』のゲームですので
2Dマリオを遊ばれた方であれば、
3Dマリオの世界の面白さを見つけることができて、
この世界にどんどん入っていけるんじゃないかと思っています。 - 岩田
- たしかに、
『New スーパーマリオブラザーズ Wii』に関して言えば、
決してやさしくないゲームだと思うんです。
やさしくないんだけど、人はミスをしても納得して、
もう1回やってみようという気持ちになって、
するとだんだん指に経験値がたまり、
気づいたときにはいろんなプレイができるようになるから、
続けて遊んでいただけるわけですよね。
一方、『マリオギャラクシー』シリーズは、
実はシステムとしては、重力を使うという、
いままでとはぜんぜん違う方向に振ってはいるけれども、
そういう部分のハードルは下げてあって、
違いがあるとすれば、弦の本数だけで、
実は同じ『マリオ』のゲームなんですよ、ということなんですね。 - 元倉
- そうだと思います。