『GO VACATION』
1. スキーと言えばユーミン
- 岩田
- 今日は、バンダイナムコゲームスさんにお越しいただきました。
実は、YouTubeのバンダイナムコチャンネルで
このゲームの動画が大量に載っているのを観て、
「こんなにたくさんつめこむエネルギーはすごいなぁ・・・」と感じて、
どのようにして、この『GO VACATION』という
大変な力作が生まれたのかを、ぜひお訊きしたくなり、
こちらからお声がけをさせていただきました。
今日は、どうぞよろしくお願いします。 - 一同
- よろしくお願いします。
- 岩田
- 坂上さんには以前、
社長が訊く『ニンテンドー3DS』
ソフトメーカークリエーター篇の
『リッジレーサー3D』(※1)の回でお目にかかっていますが、
今作でのお立場と自己紹介をお願いします。
『リッジレーサー3D』=2011年2月、ニンテンドー3DS用ソフトとして発売されたレースゲーム。
- 坂上
- はい。統括プロデューサーとして開発に携わりました、
バンダイナムコゲームスの坂上です。 - 小林
- バンダイナムコゲームスの小林です。
『GO VACATION』のプロデューサーを担当しています。
よろしくお願いします。 - 岩田
- はい、よろしくお願いします。
バンダイナムコさんは『GO VACATION』より以前に、
『ファミリースキー』シリーズ(※2)を出されていますよね。
そもそもレースゲームをつくっているチームが、
なぜ「スキー」を題材にゲームをつくったのか、非常に興味深いんですが、
どのようにして『ファミリースキー』は生まれたんですか?
『ファミリースキー』シリーズ=『ファミリースキー』と『ファミリースキー ワールドスキー&スノーボード』の2作。『ファミリースキー』は2008年1月、『ファミリースキー ワールドスキー&スノーボード』は2008年11月に、Wii用ソフトとして発売された。
- 坂上
- はい。ちょうど、
『リッジレーサー』シリーズの作品をひとつつくり終えたころ、
「Wiiで何かつくらないか」という話をいただいたんです。
実は会社からは「レースゲームはどう?」
と言われていたんですけど、
Wiiの直感的操作を活かしたゲームにしたくて、
気がついたらレースゲームがスキーになっていました(笑)。
- 小林
- Wiiでゲームを制作することになって、
「本当にレースゲームがベストなんだろうか?」と
思ったんです。Wiiのメインユーザーが
お子さんと30〜40代のお父さん、お母さんでしたので。
そこで、直感的な操作で家族全員が楽しめるもの、
というテーマで考えた結果、浮かんだのが「スキー」でした。
- 岩田
- それはいまの30代、40代の人たちの青春時代は
スキー三昧の世代だった、ということも含めてですよね。 - 小林
- はい、そうです。
おそらく、多くの方の青春時代のすてきな思い出として、
スキーが原体験として残っていると思うんです。
だからお母さんやお父さんが、
「わたしのほうがうまいはずだから、子どもには負けたくない」
と一緒になって一生懸命に遊んでくれると思ったんです。
また、僕らはずっとレースゲームをつくってきたので
3D空間を高速で疾走するノウハウはありましたから、
それを活かせるということもあります。
その方向で、会社の上層部にプレゼンテーションを行いました。 - 岩田
- レースゲームがでてくると思っておられて
プレゼンテーションを受けたみなさんは、のけぞったでしょうね。 - 坂上
- そうですね(笑)。
ただ、意見は二手にわかれましたけど、
「スキーはいいよね、ユーミン(※3)だよね!」
なんていう話題で盛り上がったんです。 - 岩田
- ああ、そのときすでにユーミンさんが登場するんですか。
ユーミン=松任谷由実さん。『ファミリースキー』のBGMに、松任谷由実さんの楽曲が使用されている。
- 坂上
- そうです。
プレゼンのときもユーミンの曲を流しました。 - 小林
- そうでしたね。ゲームの雰囲気やイメージを伝えるのに、
ユーミンはピッタリでしたから。 - 坂上
- それに当時、Wiiのゲームは
Wiiリモコンをタテに振る動作が多かったんですが、
スキーの場合は、ストックを動かすように
ななめに振る動きなので、
このストックに見立てた振り方が
空間にスッととけ込んでいく感覚だったんです。
そこが新しい面白さを持っていると思いました。 - 岩田
- ただ、実際にそうは言っても
車一筋でやってこられたチームですから、
スキーゲームをつくることに対して、
最初から全力で突っ走るのは
難しかったんじゃないですか? - 小林
- ええ。最初にスタッフに説明したときは、
みんな頭の中に「?マーク」が浮かんでいる感じでした。
口で説明してもなかなか伝わらなくて・・・。
試作版をつくったときにようやく、
みんなの気持ちがひとつになりましたけれど。 - 岩田
- ああ、つくってみせて、やっと納得してもらえたんですね。
- 小林
- はい。それから、開発途中でリフトに乗って
移動できるようにしたことも大きいと思います。
本当はリフトに乗るなんて、ゲーム性もないし、
一見、かったるい行為なんです。
でも、あえてリフトに乗せて雪山を登ったら、
急に「ゲレンデ体験をしている感じ」が
ガッと伝わってきたんです。 - 岩田
- そこで、スキーと言えば「ユーミン」の音楽が
BGMで流れるところにつながるわけですね。 - 小林
- そうです。
- 坂上
- プログラマーのメイン担当も含めて、
みんなスキーが大好きでしたから、
そういう空気ができてくると順調に進みました。 - 小林
- 本来はプログラマー全体を管理しなければ
いけない立場なんですが、
「挙動は俺がきっちり監修するから!」って、
ほっといたら自分でつくり出しそうな剣幕で(笑)。 - 岩田
- 脳内にあるスキーの面白さを
自分の手で表現したかったんですね。
確かに、感覚がわかっている人がやったほうが
圧倒的によいものになりますから。 - 小林
- 実際にみんなでスキーへ出かけたりして
ゲレンデ体験を共有し合いました。 - 岩田
- そうして『ファミリースキー』は世に受け入れられて、
2作目『ワールドスキー&スノーボード』が登場して、
その後『GO VACATION』をつくる流れが生まれると思うんですが、
今作をつくるにあたってどんなことからスタートしましたか?
『Wiiスポーツ リゾート』(※4)に出てくる
ウーフーアイランド(※5)の4倍も5倍もありそうな超広大な場所で、
50種目もつくるという途方もない目標は
どうやって決まったんだろうと感じたんですけど(笑)。
『Wiiスポーツ リゾート』=『Wii Sports Resort』。2009年6月に発売されたスポーツゲーム。12種目のレジャースポーツが楽しめる。
ウーフーアイランド=『Wii Sports Resort』の舞台となる島。
- 坂上
- 確かに、そうですね(笑)。
- 岩田
- 1個1個のゲームがもっと単純なら50個という目標もわかるんですが、
相当苦労されたと思えるものも含めて50個もつくっているんですよ。
あえて言いますが、この「無謀とも言える方向」に
みなさんが走っていかれた理由について、
わたしは今日、いちばん訊いてみたいんです。
- 坂上
- ひとつあるのは、
『ファミリースキー』をつくったあと、
お客さんにアンケートをとってみたら
「大雪原感とか、その場の空間がすごくよかった」
という意見が多かったんですね。 - 岩田
- きっと楽しかった記憶がよみがえって、
すごくやりたかったことができたんでしょうね。 - 坂上
- そうなんです。
それを受けて、僕らの反省点としては
もっと冬をまるごと感じさせるものがよかったのでは、
という話が挙がりました。でも
「冬だけじゃなく夏もあったほうがいい」
「いや、どうせつくるなら1年中遊べるような
決定版みたいなゲームがいい」
・・・というふうに、どんどん話が広がっていったんです。 - 岩田
- そうなると、
「遊びの環境を味わうソフトの決定版」
みたいな方向性に進んでいきますよね。
つくるのに必要な労力を考えなければ
すごく正しいと思うんですけど、
実現するのは、ものすごく大変ですよね。 - 坂上
- そう、大変なんです。
でも、となりの小林くんが気軽に受けたんです(笑)。 - 小林
- 気軽ではなかったと思いますが、
比較的すんなりと・・・(笑)。 - 岩田
- そのときは大変なことになることを
覚悟して受けたんですか? - 小林
- いや、これほど大変だとは、
正直思っていなかったです(笑)。 - 岩田
- あ、思っていなかったんですか(笑)。
- 坂上
- 『ファミリースキー』から2作目までは
比較的ハイペースなスピードでつくっていたので、
小林くんは「まあ、フィールドがあと3つ増えるけど、
いけるんじゃないか」くらいの
軽いスケジューリングだったんですよね? - 小林
- はい(笑)。
ゲレンデ体験がすごくご好評をいただけたので、
今度は「リゾート体験」にグレードアップして、
雪原もビーチも高原も街も全部含めた
オールシーズンのリゾートが楽しめる究極のゲームを
目指そうということになりました。
もちろんその時点でも、『ファミリースキー』の
ざっくり4倍くらいの労力はかかるだろうとは想定していましたが、
そこからはまぁ、長い長い、苦難の道のりがつづくことになります・・・。