『マリオ&ソニック AT ロンドンオリンピック™』
4. 日本と欧米の違い
- 岩田
- いま、笠原さんから、
「海外の関係者にプレゼンした」
という話がありましたけど、
この商品は、日本での販売は任天堂で、
海外ではセガさんが担当されているという、
ちょっと珍しいタイプの商品なんですよね。
なので、日本の営業関係者には任天堂の開発スタッフが、
海外の関係者にはセガさんの開発チームのみなさんが
プレゼンされるわけですけど、
そのときにそれぞれ、どんなことがウケていたのか、
という話をちょっと訊いてみたいです。
山根さん、そのあたりはどうでしたか? - 山根
- 日本ではやっぱり協力プレイのウケがいいんです。
たとえば「バドミントン」をふたりでプレイしたり、
「ビーチバレー」や「サッカー」もそうですね。
だから、みんなで遊べる場を持つというのが、
このソフトのいちばんいいところで、
あとは「100m走」のように、ストイックに記録を
どんどん突き詰めていけることもできるのが
いいバランスだと評価されていると思います。 - 岩田
- このソフトは、家族や友だちといっしょに
楽しむことができる一方で、
ひとりでストイックに記録更新を狙う、
という遊び方ができるのがいい、ということですね。 - 山根
- はい。ひとりで遊んでも、
Wi-Fiにつなげば、世界の人を相手に
ランキング上位を狙うような遊びもできますし。
ただ、ちょっと気になることがありまして、
日本人のお客さんを対象にしたアンケートを見ますと、
「キャラクターゲームとパーティゲームの組み合わせ」
みたいなところがウケているということが、
結果として出てくるんです。 - 岩田
- 『マリオパーティ』のオリンピック版、
といった感じなんですね。 - 山根
- はい。でも、
セガさんが海外の方から聞く印象は違うんですよね。 - 大橋
- 海外でももちろん、マリオやソニックが大好きで
キャラクターゲームとして遊ばれる人もいるんですけど、
パーティゲームというより、純粋なスポーツゲームとして
認識される傾向が、日本より強いと思います。 - 岩田
- タイトルに「オリンピック」と付いているわけですしね。
- 大橋
- そうです。それに日本でも
オリンピック好きの人は多いですけど、
欧米では、とくにヨーロッパでは、
それに輪をかけて、オリンピック好きの方が多いんです。 - 岩田
- 本当に、ヨーロッパの人たちの
オリンピック好き度はものすごいですよね。 - 大橋
- はい。なので、ヨーロッパの人たちには、
「オリンピック競技をもっと増やしてほしい!」
という声が多かったりするんです。 - 岩田
- 「ドリーム競技よりオリンピック競技を」ということですか?
- 大橋
- そうです。そういう声が出てくるのは、
たぶん文化の違いもあると思うんですけど、
たとえば「馬術」という競技がありますよね。
日本では、この競技のことを詳しく知っている人は
そんなに多くないと思うんです。 - 岩田
- 「馬術」という名前は知っていても、
ルールまで知ってる人は少ないでしょうね。 - 大橋
- でも、ヨーロッパの人たちは大好きなんです。
実際に馬術だけのゲームが
向こうでは出ていたりするくらいですから。 - 岩田
- ああ、それで思い出したんですが、
『nintendogs』(※5)をつくったときのことで、
発売したあと、日本では「ネコは?」と聞かれたのに、
ヨーロッパでは「馬は?」だったんです(笑)。 - 大橋
- そんなことがあったんですね(笑)。
『nintendogs』=2005年4月発売のニンテンドーDS用ソフト。お気に入りの子犬たちとの触れ合いを楽しむコミュニケーションソフト。2011年2月にはニンテンドー3DS用ソフトとして、2作目の『nintendogs + cats』が発売された。
- 岩田
- ヨーロッパの人たちにとって、
馬はそれほど親和性の高い存在なんですね。 - 大橋
- そうなんです。
- 岩田
- だから、「馬術」に対して、
こっちが生半可な知識でつくると、
向こうの人から返り討ちにあったりしますよね、きっと。 - 渡辺
- 実際に、セガさんがつくられた
「馬術」をはじめて触ったとき、
馬があまりにもゆったり走ってるので、
「もっとスピード出してください。
もっと馬に乗る気持ちよさを出してください」と
お願いしたんです。
そうしたら笠原さんから、
「いえ、馬術競技はそんなものじゃないですから」と。
単純にスピードだけを競うものではないので・・・。
- 岩田
- 正確性を競うんですよね。
- 渡辺
- はい。やっぱり、
馬術競技の知識がないものですから、
こちらはどうしてもゲームっぽくしよう、
としてしまうんです。 - 岩田
- だから、欧米では「オリンピック競技」が、
日本では「ドリーム競技」が
好まれる傾向にあるということなんですね。 - 大橋
- でも、一概にそうとは言えないところもあるんです。
ヨーロッパの流通関係者の方を集めて、
実際に4人で「ドリーム競技」を遊んでもらうと、
ウケはすごくよかったりするんです。 - 岩田
- もともとWiiはホームパーティ系のゲームで
実績があるのは、世界的に共通のことですからね。 - 大橋
- そこで今回は、「オリンピック競技」も「ドリーム競技」も
『北京』から大幅にボリュームを増やして、
両方の人たちに満足してもらえるようにしました。
でも、「ドリーム競技」のネタを考えるのは
楽ではありませんでした。
「すべての競技を、4人で1画面で遊ぶ」
という条件もありましたし。 - 岩田
- 画面を4つに分割しないようにということですね。
山根さん、それはどうしてなんですか? - 山根
- 画面を4つに分割してしまうと、
みんなで遊んでいるという感覚が
薄くなってしまうんです。
それに後ろから見ている人たちも、
誰が勝ってるのかわかりにくいところもありますし。
- 岩田
- でも、そうすると、遊びのバリエーションを出すのが
ちょっと難しくなりますね。 - 大橋
- はい、そのとおりです。
- 笠原
- そもそも最初に任天堂さんから言われたのが
「4人同時で1画面」「基本は戦い、ときには協力」
「ルールはオリンピック競技の延長線上」っていうことでした。 - 岩田
- ああ、また、無茶ぶりをしてますねぇ(笑)。
- 山根・渡辺
- すみません(笑)。
- 笠原
- しかも、いろいろ考えた案を持っていくと、
「これ、普通の競技とあまり変わらないですよね?
もっと独自性を出してもらえませんか?」
って言われてしまったり・・・。 - 大橋
- だから、新しい「ドリーム競技」を考えるのに、
ものすごく時間がかかりました。
任天堂さんに企画の提案を出すときも、
東京から京都に向かうまでの間、
新幹線のなかでもずーっと考えたりしていました。 - 岩田
- 新幹線のシートに座って
「うーんうーん」と唸ってたんですか。 - 大橋
- そうです(笑)。
京都までの2時間20分くらいの間も
思いついたアイデアをどんどんメモして、
京都に着くと、さっと喫茶店に入って、
そのネタをまとめるようなこともしていました。
そのときのネタが、実際に
競技の原型になったりもしました。
- 岩田
- 新幹線のなかで生まれた
「ドリーム競技」もあるということですね。 - 大橋
- そうです。
- 岩田
- 「ドリーム競技」のなかで
みなさんオススメのものは何ですか?
ひとりずつお訊きします。
まず、渡辺さんから。 - 渡辺
- わたしは「ドリーム馬術」ですね。
「馬術」というのは、通常では馬の上に乗って
障害物を越えたりする競技なんですけど、
「ドリーム馬術」では、4頭の馬が荷車を引いていて、
その上にはヨッシーのタマゴがいっぱい載ってるので、
4人で4頭の馬をうまくコントロールしていかないと・・・。 - 岩田
- バランスを崩して、タマゴが転がってしまうんですね。
- 渡辺
- そうです。
すると、ヨッシーが残念、という競技なんです。 - 岩田
- どうして「ヨッシーが残念」なんですか?
- 渡辺
- ゴールすればヨッシーが生まれるんですけど、
荷車がひっくり返ってしまうと・・・。 - 岩田
- なるほど(笑)。
- 渡辺
- このゲーム、すごく盛り上がります。
みんなで楽しめますし、
すごく一体感が生まれるゲームなので、
わたしは大好きなんです。