『ラストストーリー』
その1:坂口博信さん 藤坂公彦さん
- 岩田
- ここからは『ラストストーリー』の世界観に触れるお話ですが、
ひとつの街を舞台に設定されたんですよね。 - 坂口
- そうですね、基本的には「ルリの街」がひとつあるだけなんです。
- 岩田
- その街のつくりこみの細かさと深さには、本当に仰天しました。
それはどのような意図で生まれたのでしょうか? - 坂口
- その街での滞在期間が長いので、
街そのものを好きになってほしいなと思ったんです。 - 岩田
- そこで思い出したのが、
『Wii Fit Plus』(※10)や『Wii Sports Resort』(※11)で登場する
「ウーフーアイランド」という島のことです。
『Wii Fit Plus』=2009年10月に、Wii用ソフトとして発売されたフィットネスソフト。『Wii Fit』のディスクの内容が新しくなり、いろいろな要素がプラスされた。
『Wii Sports Resort』=2009年6月に、Wii用ソフトとして発売されたスポーツゲーム。Wiiモーションプラス対応ソフト。
- 坂口
- はい。
- 岩田
- ウーフーアイランドは、
「みんなが知っている場所にいったら、そこで遊んでいるだけで楽しいんだ」
という宮本さんの意図のもとで、生まれた島なんです。
要するに、何度もおとずれることで、入り組んだ地形など、
その場所に関してさまざまなことが見えてくるんです。 - 坂口
- まさにそのとおりです。
知った場所だと、微妙な反応の違いを感じてもらえるんですよ。
だから、さらに細かいニュアンスを伝えやすくなるという利点があるんです。
たとえば、はじめは通行人に肩がぶつかると「何だ!」と言われるんです。
でも主人公が少しえらくなると、
「あ、すみませんでした」とあやまってくれます。
それがすごく快感なんですね。
ただ、とても広くて、いろんなことが起こる街ですので、
僕でさえ、いまだに隅っこの路地裏で迷うんですが(笑)。 - 岩田
- 坂口さんでも迷われるんですか?(笑)
- 坂口
- なかなかたどり着けない場所があるんです。
それに、路地裏に行くとずーっと洗濯している人もいて、
それを見るとつい反応させたくなります。 - 藤坂
- 街の人が踊っていたり、アコーディオンを弾いていたり、
噴水に腰かけていたりといった、
街なかだけの専用モーションもあります。 - 岩田
- 普通は行かないようなところでも、かなりつくりこまれていますよね。
そのへんは坂口さんがいろいろと指定されるんですか? - 坂口
- さりげなく、スタッフに言います。
デバッグの目的で街なかを歩きながら、
「ここさあ、普通、何か起きない?」とか(笑)。
- 岩田
- そう言って、坂口さんは立ち去っていくわけですね(笑)。
- 坂口
- するとスタッフはやらざるを得ないんです(笑)。
そのくりかえしで、密度が高まるんですよ。 - 岩田
- 街が妙にリッチな感じがするのは、その蓄積なんですね。
- 藤坂
- 逆もありましたよね?
「言ってないのに、こんなことになっていた」って。 - 坂口
- あるよね。
- 藤坂
- 実際、開発チームのスタッフも、
喜んでつくりこみをしていくようなところもありましたし。 - 岩田
- それはきっと、藤坂さんが先ほどおっしゃった「坂口さんを驚かせたい」
という気持ちが、街をつくっているスタッフにもあるからですね。
けっきょく、われわれのようにものづくりをする者は、
基本的に「他者にウケる」ものをつくりたいんですよね。
そして、みんながウケたい欲求の向かう方向がピッタリそろったときに、
その集合体が大きな力となり、いい感じに仕上がるんだと思うんです。 - 坂口
- そうですね。
- 岩田
- 逆にバラバラな方向に主張されると、世界観がこわれてしまいます。
- 坂口
- そのとおりだと思います。たったひとつの街でも世界観があるので。
いい意味で遊んで、スタッフ同士で驚かせ合ったほうが、
きっとよりステキな街になるんでしょうね。 - 岩田
- 今回、坂口さんがユーザーさんに対して
「ここを見てほしい」というところはどこですか? - 坂口
- 「見てほしい」というのは・・・あまりないですかね。
- 岩田
- あまりない?
- 坂口
- はい。
- 岩田
- それはある意味、注ぎこんだ達成感があるからこそ、
その言葉が出たということですよね。
逆に、わたしは今、ゾクッとしました。 - 坂口
- ああ・・・そうですか(笑)。
まあ、実際に触れてもらえばわかるんですが、
全体的な“ノリ”がうまく出たんですよね。
それはとくに設計したものではなく、
キャラ同士の会話や町の活気・・・そういった細かいものが、
たまたまうまく連鎖しているんです。
そんな“ノリ”が、僕に元気をくれるんですよ。
自分たちがつくったものなのにね(笑)。
それが『ラストストーリー』の面白いところです。
「このゲーム、何だかノってるよね」と、感じてもらえたらうれしいですね。 - 藤坂
- たしかに、全体的に“ライブ感”がありますし。
- 岩田
- プレイヤーをワクワクさせる“ライブ感”は、どこから生まれるんでしょう。
バトルの仕組みやキャラクター同士の掛け合いなどからでしょうか。 - 藤坂
- プレイするときに「これが正解だ」という答えがとくにないことが、
ワクワク感を感じさせる要因でもあるかなと思います。
もちろん根幹となるストーリーはありますが、
「まあ、こんな感じでプレイすればいいよ」という・・・。
- 岩田
- 決められた道筋ではなく、適度にドキドキしながらプレイすると、
乗り越えた達成感が生まれますね。
自分で道を切りひらいていくプレイスタイルに加えて、
街の雰囲気や仲間との会話から感じられる自由な“ノリ”が、
ゲーム全体に“ライブ感”を生むんでしょうか。 - 坂口
- はい。それからバトルで楽しめるノリとして、
敵キャラが自分と同じようなモーションをとれるようになっています。
すると、ときどき敵のガイコツが、
味方の頭上をバーン!と飛び越えるんですよ。 - 岩田
- へええ。
- 坂口
- それが敵なのにかっこいいんです!
で、僕もやってみようとマネをするわけです。
このシステムのおかげで敵がかっこよく見えて、惚れますね(笑)。 - 岩田
- ただ、やられるためだけに敵が出てくるわけじゃないんですね。
- 藤坂
- 敵の動きや、先ほど話題に出たカメラアングルもそうですけど、
全体的にわりとカチッとしておらず、自由な感じですよね。
じつはキャラクターの着せ替えもできるので、
重要な見せ場で、とんでもない服装になっていることもあります(笑)。 - 岩田
- ああ・・・。
- 坂口
- 藤坂くんは衣服にすごく凝るんですよ。
だから最初に「着せ替え可能」という大目標を立てたときは
ものすごく苦労していたんです。 - 藤坂
- 「困ったなあ」と思いましたね。
でも、開き直ったら「まあいいか」って(笑)。 - 岩田
- 開き直ったんですか(笑)。
- 藤坂
- はじめは「このキャラはこの格好でしゃべってほしい」と思って、
衣装をデザインしていたんです。
でも、つくっていくうちに、着せ替えも何だか面白いなあと(笑)。 - 坂口
- 着せ替えの組み合わせづくりは
まるでパズルのようでしたね。 - 岩田
- それから、わたしが意外に感じたシステムは、
見せ場シーンを倍速で見られる「早送り」です。
「ドラマ重視というイメージだった坂口さんが、早送り!?」って・・・。
- 坂口
- はい、早送りもできます。
物語が一瞬途切れるスキップとは違い、
早送りは字幕を見ながら
ストーリーについていけるので、好きなんです。 - 岩田
- それは、もっと前からやりたかったことなんですか?
- 坂口
- ぜひやりたかったですね。
そうそう、いちばんユーザーさんに見てほしいのは、
この「早送り」機能です(笑)。
いちばん僕が好きなところです。
あれ、サイコーです。 - 岩田
- サイコーですか(笑)。
- 藤坂
- かなり早い段階から考えられていましたよね。
- 岩田
- これは・・・わたしの今回、最大の衝撃かも(笑)。
- 坂口
- ストーリーを強制的に見せたくはないんです。
だから自分のペースで好きなように見るためには・・・。 - 藤坂
- 早送りがいちばん、ですね(笑)。