坂口博信×坂本賀勇
4. 坂口家で流行っているゲーム
- 岩田
- 坂本さん、開発の後半は楽しそうでしたけど、
開発のはじめの頃は、お話をつくるために、
のたうち回っていましたよね(笑)。 - 坂本
- はい(笑)。苦戦しました、そうとう。
- 岩田
- 自分のなかで物語がキレイに整理できなくて、
苦しんでる過程を、わたしはずっと見ていました。 - 坂本
- お話というのは、書けるときはスッと書けるんですけど、
書けないときって、ホントに書けなくなって、
それは僕がプロの小説家ではないというのもあると思うんですけど、
今回は本当にまったく書けなかったんです。
ネタは全部揃っているんですけど、
「こことここはちゃんとつながっているんだろうか」とか、
「何かおかしいんじゃないだろうか」と疑いはじめると、
どれもがハズレのような気がして・・・。 - 坂口
- はいはい、わかります、それ。
- 坂本
- これは言いすぎかもしれませんけど、
一時はちょっとノイローゼ気味になりまして。 - 岩田
- それは言いすぎだと思いますけど、
弱ってるのは明らかでした(笑)。 - 坂本
- 自分の書いていることが全部がウソというか、
間違いに見えたんですよ。
- 坂口
- そういうこと、ありますよね。
伏線と謎が入り込み出すと、
大筋で自分で思っていたことが見えなくなってきて、
ねじれちゃっている気がしてくるんです。 - 坂本
- そうなんですよ。冷静になって見なおしてみると、
実はそうでもなかったりするんですけど。 - 坂口
- 意外とOKだったりするんですけどね。
でも、なんとなくこっちの線のほうが太く見えちゃったりとか、
そういうことがけっこうあります。 - 坂本
- そうそう。あるんですよ。
それのいちばんひどい状態に陥ったのが今回でした。 - 岩田
- まあ、坂本さんはその苦境から抜け出してからは、
現場のミクロなところにまでどんどん入っていって、
バリバリと細かいタイミングの調整とか、
何から何までするようになったんですけどね。
今回の『METROID Other M』で、
ゲームとして面白くしたいという部分と、
お話を表現したいという部分をうまく融合させようと思ったのは、
坂本さんの頭のなかでは、どういう流れがあって、
どんなことを考えたからなんですか? - 坂本
- 『スーパーメトロイド』(※19)をつくったときに
ちょっとストーリー的な演出を盛り込みまして、
最後の最後のシーンで、サムスがもうやられる!というときに、
ベビーメトロイドが助けに来るというシーンを入れたんです。
そうしたら、それはプレイヤーのコントロールを
完全に奪ってしまうことになるんじゃないか、ということで、
スタッフみんなでかなりもめてしまったんです。
『スーパーメトロイド』=1994年3月に発売された、スーパーファミコン用アクションゲーム。シリーズ3作目。
- 岩田
- 「ゲームなのに操作できなくていいのか?」ということなんですね。
- 坂本
- はい。「ひどい、それはお客さんも怒るやろう」とか
言われたんですけど、それでも思い切ってやってみたら、
なかなか反響が良かったんです。
そのときに手ごたえを感じまして・・・。 - 岩田
- そのシーンは、今作の冒頭でもムービーとして入っていますけど、
坂本さんはそのとき、アクションゲームでも
ストーリーが語れると思ったんですね。
- 坂本
- その通りです。
でも、その後『METROID』シリーズは間が空いちゃったんですが、
「ストーリー性をもっと色濃く出したものを」と思ってつくったのが、
9年ぶりに関わることになった『メトロイド フュージョン』だったんです。
そのときも、自分で言うのもなんですけど、
けっこうイケたといいますか・・・。 - 岩田
- 手ごたえがあったんですね。
- 坂本
- はい。かなり重厚というか、
しっかりしたお話を入れることができて、
アクションゲームの『METROID』としても
ちゃんと成立するものができた、という手ごたえを感じたんです。
そこで、「この方向はありだな・・・」と思ったんですが、
一方で2Dの横スクロール型『METROID』に対する限界といいますか、
「これ以上、アクションゲームとして伸びようがないのではないか」
といった手詰まり感があったんです。 - 岩田
- お話をつなぐ手段としてのアクションゲームが、
これ以上のものにはならないんじゃないかと? - 坂本
- その通りです。
時代と共に、お客さんから「あまり難しいのはいやだ。
ゲームオーバーもあまりしたくない」と、快適さを求められる傾向が
強くなってきたように感じていました。
だからといって、やたらセーブルームをたくさん用意したり、
ものすごいダメージを受けたあとに
それを上回るエネルギーがすぐに出てくるようにしたら、
結果的に「それじゃぁプラスマイナスゼロやん」と。 - 岩田
- ご都合主義ですね(笑)。
- 坂本
- そうなんです。
そこで、ずっと「『METROID』に何ができるんだろう」と考え続けて、
今回の『METROID Other M』に行き着いたんです。
まずお約束に縛られず、アクションゲームとしてのメトロイドを
いちから再構築しようと考えました。
複雑な遊びが望まれていないと思ったのがキッカケなので、
3DゲームなんだけどWiiリモコン1本で
2Dと同じような感覚で遊べるようにしたんです。
そんなシンプルな操作なら、
テキストアドベンチャーのコマンド選択みたいに
お話を紡いでいく手段になれそうだから、
ムービーをうまくつないでいけば
テキストアドベンチャーみたいなアクションゲームが
できそうだと考えました。
周囲には「今回のは『メトロイド探偵倶楽部』なんですよ!」
とか半分冗談で言ってました。 - 岩田
- 『メトロイド探偵倶楽部』ですか(笑)。
- 坂本
- はい(笑)。
- 岩田
- そんな冗談が出ちゃうほど、
坂本さんがこれまで関わってきたソフトを振り返ってみると、
作風に一貫性がないというか、妙に変だったりするんですよね。 - 坂本
- (笑)
- 岩田
- 同じ人が『METROID Other M』をつくるかと思えば、
『トモダチコレクション』(※20)や
『メイドインワリオ』シリーズ(※21)をつくり、
しかも大昔は『ファミ探』をつくって、
坂口さんといっしょに『トキメキハイスクール』をつくってきたわけで、
誰がどう見ても「このダイナミックレンジは何なの?」と思いますよね(笑)。
『トモダチコレクション』=2009年6月に、ニンテンドーDS用ソフトとして発売された、そっくりトモダチコミュニケーションゲーム。
『メイドインワリオ』シリーズ=プチゲームを多数収録した瞬間アクションゲーム。これまで、各ハードで『あつまれ!!〜』『まわる〜』『さわる〜』『おどる〜』などが発売されており、初代『メイドインワリオ』は、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして2003年3月に発売された。坂本はプロデュースを担当。
- 坂口
- 確かに幅が広すぎますね(笑)。
確かMiiも、坂本さんだったんですよね。 - 岩田
- そもそもMiiのはじまり(※22)は、
Miiの仕組みを使って、坂本さんが上手に似顔絵をつくってくれて、
わたしに見せてくれたことがキッカケなんです。
ハッキリ言ってあのとき、坂本さんはわたしに自慢しにきただけでしょう?
Miiのはじまりについて詳しくは、社長が訊く『トモダチコレクション』でご覧いただけます。
- 坂本
- はい、そうです(キッパリ)。
- 岩田
- (笑)
- 坂口
- そもそもMiiはWiiのためにつくられて、
それを使って『トモダチコレクション』がつくられた印象があるんですけど。
- 岩田
- 実は逆なんです。
- 坂本
- 最初は占いをベースにしたような遊びを考えていて、
何かできそうなんだけど、なかなか
商品としてはかたちが見えてこなかったときに、
スタッフが行き詰まった腹いせにつくったのが
モンタージュみたいなものだったんです。 - 岩田
- あれ、行き詰まった腹いせにつくったんですか?
- 坂本
- そうです(キッパリ)。
- 岩田
- (笑)。
最初は『大人のオンナの占い手帳』と呼んでたんです。
その『大人のオンナの占い手帳』は
のちに『トモダチコレクション』として陽の目を見ることになるのですが、
その原型はゲームボーイカラーで出た
『とっとこハム太郎 ともだち大作戦でちゅ』(※23)というソフトで、
この開発にも坂本さんは関わっていたんです。
『とっとこハム太郎 ともだち大作戦でちゅ』=赤外線通信対応のゲームボーイカラー用ソフトとして、2000年9月に発売された、なかよし発見ソフト。
- 坂口
- あー、はいはい、そのソフト、よく知っています。
うちの娘がよくやってましたから。 - 岩田
- あ、そうなんですか?
この相性診断や適職診断が妙に当たる(※24)んですよ。
適職診断が妙に当たる=『とっとこハム太郎 ともだち大作戦でちゅ』で占った、岩田の適職診断の結果はこちら。
- 坂口
- はいはい、それ、僕もよくやられたんです!
- 坂本
- (笑)
- 坂口
- 「パパ、占ってあげる」って娘が持ってきましてね。
そこに書かれた文章がものすごく面白かったんです。
そういうことをハッキリ覚えているくらい、
我が家では流行ってましたよ。
おばあちゃんとか、みんな占われてましたから。 - 坂本
- それはうれしいですね(笑)。
- 坂口
- 実は『トモダチコレクション』も娘が完全にハマっているんです。
それは『とっとこハム太郎』からの流れだったんですね。
我が家では坂本さんのソフトだとは知らずに・・・。
そうなんだ・・・それはちょっと驚きです。 - 坂本
- ありがとうございます(笑)。