坂口博信×高橋哲哉
3. スタッフとの“共感”
- 岩田
- 昔に比べて、ひとつの作品をつくるのに必要な
やるべきことが、ものすごく増えましたよね。
だからこそゲームは発展していろいろなものを得たんですが、
同時に、昔のよかった何かを失っている感じもしています。 - 坂口
- それはありますね。“職人魂”というか。
- 岩田
- いまは職人魂だけでは戦えないというか、職人魂プラス、
近代の工業的手法もうまく取り入れなきゃいけないんです。 - 坂口
- 実際、魂そのものも薄れてきているのかもしれないですね。
- 岩田
- いままでゲーム業界を切り開いてきた人たちの“職人魂”が、
若い人たちにどのくらい引き継げてきたんでしょうね。
昔は自分の手で左右できる幅が大きかったので、
つくり手にはある種の万能感があったんです。
だから自然と、こだわりと粘りが生まれたんですよ。
それが、“職人魂”の正体だと思うんです。
だけどゲームのつくり方が変わって
ひとりでできることが少なくなってくると、
若い人たちとの間で考え方に壁ができますよね。
むしろ、昔からやっている人の役割としては、
若い世代にどれだけ信じられているかってことが
大きいように思うんです。
- 坂口
- それはありますね。昔からやっているからといって、
個人の技術が秀でているわけではないんですよね。
代わりに“粘り気”があるんですよ。
それがチームの接着剤となって、若い人の技術がくっついてくれば、
ゲームそのものが変容していきますよね。 - 岩田
- 今回も、その“粘り気”によって
『ラストストーリー』や『ゼノブレイド』(※8)が化けていくさまを
感じられたので、わたしたちもしっかりとおつきあいして
最後まで仕上げられたような気がしているんです。
『ゼノブレイド』=2010年6月に、Wii用ソフトとして発売されたRPG。高橋哲哉氏が総監督を務めた。
- 坂口
- そういえば両方とも発売日が延びたんですよね。
- 高橋
- どっちが先に出るんだろうって話はよくありました(笑)。
- 坂口
- 昔は僕のほうが早かったのに、今回は負けました(笑)。
- 高橋
- 最近思うんですが、僕らの世代は
すでにプロデューサーになっている人も多くて、
現場を引退するのが早すぎるかなと思うんです。
転じて映画やアニメーションの世界ではバリバリ、
50〜60代の方が活躍していますよね。
引退してしまったらせっかく僕らが培ってきた“職人魂”が
伝わらないので、現場の仕事は続けたほうがいいと思うんです。 - 坂口
- ああ、今回現場に戻ってみて、それは感じます。
やっぱり現場に戻ったほうが自分の“粘り気”みたいなものが
現場により活用されるので、チームがいままでとは別の
くっつき方をしたのかもしれないですね。 - 岩田
- 少なくとも坂口さんがディレクターでなかったら、
あるいは高橋さんがもっと現場から身を引いていたら、
どちらもいまのような作品にはなっていなかったと思います。
おふたりの“職人魂”や“粘り気”に突き動かされて、
若い人たちが得たものはたくさんあると思います。 - 高橋
- 『ラストストーリー』プレゼンテーションで、
藤坂さん(※9)がおっしゃっていたエピソードで、
「夜中に仕事をしていたら、酔っ払った坂口さんが戻ってきて
ロゴの修正点を指摘してふらっと帰っていった」
というお話は、その場面をすごく想像できました。
坂口さん、昔からそういうところがあるじゃないですか(笑)。
言われたほうは、やんなきゃいけないのかな・・・って。
でもそれが大事なんだと思います。
藤坂さん=藤坂公彦氏。キャラクターデザイナー。『ラストストーリー』のキャラクターデザインを担当。
- 岩田
- それは坂口さんへの信頼が根底にあるからこそですね。
ボスの意見だから仕方なく、では本気でやれないんです。
どこかで「この人は自分より考えている」
と思うからこそ、たとえ意見が違っても、
最終的には喜んで手伝っている感じがするんですよね。 - 坂口
- 何だか、いろいろな事実が明らかにされていきますね(笑)。
- 岩田
- そのへんは、無意識にされているんですか?
- 坂口
- 意識的にはやらないですね。
たとえば、先ほど話題に出た魔導アーマーのように
僕にはない発想から生まれたものについては、
何も言うことがないんです。
そうではなく、僕と同じベクトルにいるときが重要で、
たとえばジグソーパズルのピースの形が違っていたら、
早めに修正しないと、完成してからでは大変ですよね。
僕は、作品全体の流れから外れているものに対しては、
瞬間的にピッとわかっちゃうんです。
そういうときは結構強めに言って、プイッと帰る感じですかね。
・・・わからないですが(笑)。 - 高橋
- でもグラフィックには、わりと寛容でしたよね。
- 坂口
- そうですね。まあ、自分が絵を描けないので
僕の発想のなかだけだと、かたい世界になっちゃうんです。
やっぱり生き生きした、命を感じる世界がほしかったので、
それには専門の彼らがのびのびと描くのがいちばんですから。 - 岩田
- それは最終的に高橋さんのフィルターを
通して出てくるものを信用していたからこそでしょうね。 - 坂口
- そうですね。ずっと不思議に思っていることですが、
やっぱり描ける人と描けない人っているんです。
上手い下手は関係なく、描ける人はちょっと方向性を変えても、
生き生きとしたものをつくるんですよ。
これはなぜなのか・・・わからないです。
高ちゃん、絵描きとしてこの差は何で生まれるんでしょうね? - 高橋
- 多分、想像力だと思うんです。
少なくとも僕自身の経験上、まず坂口さんがつくっている
お話が最初にあって、どこへいこうとしているのか、
何を目標にしているのかを想像するんです。
その想像の枠のなかで自分たちができることを提案していく・・・。
- 岩田
- 坂口さんが出すヒントをもとに、その世界にあれば
魅力的だと思うものを提案する、ということですか? - 高橋
- はい。それができないと別のものが上がってしまう。
僕も会社で言っていることなんですが、すべてのパートに対して、
相手が何を考え、どこにいこうとしているのか、
想像することが大事なんです。
“共感”という言葉に代えてもいいです。 - 坂口
- ああ、なるほど。“共感”はわかりやすいですね。
- 岩田
- 人にウケるものは、ちゃんと共感できるように
つくらないと入り込めないですよね。
それはお客さんとつくり手の間だけではなく、
つくり手の中心人物とスタッフの間でも同じなんですね。 - 坂口
- 逆にいえば、はじめに“共感を得たい”という
気持ちがなければダメなんでしょうね。
そうか、まずはスタッフとの間に共感が発生するのか。
おお〜、高ちゃん、いいこと言ったなあ(笑)。
共感があれば、ちゃんと僕がやりたい世界観のなかで、
僕の想像を超えたものが出てくるんですね。
だからこそ、いっしょに上を目指せるんでしょうね。 - 高橋
- ・・・だと思います。
当時は社内でデバッグをやっていて、必ず最終日に
みんなで集まって通しプレイをやっていたじゃないですか。
あれはすごく楽しかったんですよね。 - 坂口
- ああ、あれはよかったねー。
仕事がおわってビールを飲みながら、
最後はみんなで泣くっていう。
- 高橋
- 植松さん(※10)がいちばん泣いていました(笑)。
- 坂口
- よく泣いていましたね(笑)。
でもああいう状況でできた作品は、だいたい外れなかったよね。
それも共感なんですかね。
全員が共感できたから、一体感が生まれて・・・。 - 岩田
- 作品自体に、そのエネルギーが乗り移ったんでしょうね。
植松さん=植松伸夫氏。ゲームミュージック音楽家。『ラストストーリー』ではサウンドを担当。