『New スーパーマリオブラザーズ Wii』
- 岩田
- まさに機能から考えて、
カメ・・・ノコノコはできたと。
そこからどんなふうにして開発は進んだのですか? - 宮本
- まず、カメの絵を描こうと。
そのとき僕はちょっと楽をして
手伝ってくれていたデザイナーに絵を頼んだんです。
そしたら、それがすごくリアルなカメで(笑)。 - 岩田
- 『マリオ』の世界には合わないですよね(笑)。
- 宮本
- そこで「こんなに顔の大きなカメはおらんよな」
とか言いながら自分で描いたんです。
あとから考えると、陸ガメに似てたりするんですけど、
そしたらそれを見た、当時はサウンドをやっていて
いまはクリーチャーズ社長のヒロカッちゃん・・・。 - 岩田
- 田中宏和さん(※12)。
- 宮本
- 田中宏和さんと話をしているとき
「カメの中身はどうなってるのかな・・・」
という話になって。 - 岩田
- カメの中身?(笑)。
田中宏和さん=任天堂在職中に『バルーンファイト』や『Dr.マリオ』『MOTHER』など、数多くのゲームミュージックを手がける。現在、クリーチャーズ代表取締役社長。
- 宮本
- もともと僕も、カメが起き上がるタイミングを
わかりやすくしたかったんですよ。
ひっくり返ったカメが、ピクピクピクっと起き上がっても、
どのピクで起きるのか、お客さんにはわからないでしょう。
カメを下から叩いたら、
中身が飛び出して、トコトコと歩いて戻ってくる。
それでコウラに入ったら復活するのはどうよ。
とか言って盛り上がって。 - 岩田
- 田中さんはノリのいい人だから。
- 宮本
- 「それはすごくいい!!」という話になりまして、
中身を出すことにしようと。 - 岩田
- でも、ヤドカリじゃないんだから(笑)。
- 宮本
- そんなアホなって(笑)。
カメは背骨が発達してコウラになったわけだから、
中身が飛び出すわけがなくって、
それは子どもにウソをついてしまうことになるけれど
「わかりやすいし、そういう生き物ということにしよう」と。 - 岩田
- じゃあ、あれはカメに見えるけど、
実はカメではないんですね。 - 宮本
- カメではないんです。ノコノコです。
- 岩田
- (笑)
- 宮本
- そうやって、
けっこう機能を考えながらつくっていったんです。
- 岩田
- カメの話もユニークですけど、
『マリオブラザーズ』には土管があったり、
コイン集めがあったり、さらにマルチプレイも楽しめて、
今日の『スーパーマリオ』につながるモチーフが
満載のゲームでしたね。 - 宮本
- そうですね。
うまく続編につなげることができました。 - 岩田
- そもそも、どうして土管なんですか?
- 宮本
- 土管はマンガなんです。
- 岩田
- マンガ?
- 宮本
- 昔のマンガを読むと、
空き地が出てきて、そこには土管が必ず放ってあったでしょ。 - 岩田
- 確かに(笑)。
- 宮本
- だから、土管があれば中に入る、みたいなことが
昔から自然に身についていたんですよね。
それで、『マリオブラザーズ』をつくっているとき、
次から次に湧き出してくるカメが
下に落ちちゃって、どんどん底にたまるんです。
それじゃ困るなあと。 - 岩田
- 底がカメだらけになっちゃいますね(笑)。
- 宮本
- そこで、あのような閉じ込められた空間で
同じカメが行ったり来たりしている必要があると。
で、画面の右と左はつないだんですけど・・・。 - 岩田
- 画面の右に進んだマリオは
左から出てくるようになっていましたね。 - 宮本
- ええ。かと言って、
それと同じように、上と下をつなぐと変ですよね。
で、会社の帰り道の住宅地にあるコンクリートの壁から
排水用の土管がいくつも突き出していたんです。
その土管、使えると(笑)。
何かが土管から出てきて、土管に入っていくのは
よくあるパターンですし。 - 岩田
- それで上の土管からノコノコが出てきて
下の土管に入っていくようになったんですね。
ちなみに、どうして緑色なんですか? - 宮本
- え?
- 岩田
- ふつうは灰色ですよね。
緑色の土管ってあまりないと思うんですけど。 - 宮本
- ・・・そんな質問されたの、初めてです(笑)。
緑色にした理由はよく覚えてないんですけど、
ビデオゲームで使える色はすごく少なかったんですよ。 - 岩田
- 少なかったですね、当時は。
- 宮本
- そのなかで、青は輝いてキレイなんです。
緑はトーンを2色使ったときにキレイでした。
そういうことがデザインイメージにあったんでしょうね。 - 岩田
- なるほど。
- 宮本
- だから、2色でまとめるんやったら緑やと。
あれは、カメの色を使わなきゃいけないから
緑にしたわけじゃないんですよ。 - 岩田
- 結果的にカメの色にも都合がよかっただけで。
- 宮本
- 2色でまとまりのいい色なんですね。緑は。
- 岩田
- なるほど。
- 宮本
- ちょっとデザイナーっぽい答えでしょ?
- 岩田
- (笑)。
- 宮本
- 『ドンキーコング』をつくっていた頃は
冬になるとスキー旅行に行くことが多かったんです。
それで、高速道路を走るバスの窓から
暗闇に浮かぶバスやクルマのライトをじっと見て、
「何色がキレイかな?」とか考えていたんです。
そうやって、観察しながら・・・。 - 岩田
- 観察しながら?
- 宮本
- デザイナーに憧れていた時代があったんです。
- 岩田
- (笑)。
やっぱりあの頃は、ハードの制約のなかでどうつくるのかが、
ビデオゲームづくりでしたからね。
- 宮本
- そうですね。そういう技術も覚えながら、
絵ともうまく組み合わせていけるので
「これはけっこう面白い仕事やな」と
自分で思いはじめていました。 - 岩田
- あの時代だったからこそ、
いろんな世界観みたいなものが
不思議な導きでできていったんでしょうね。
ではそろそろ、
今回の『Newマリオ』にもつながる
『スーパーマリオブラザーズ』(※13)の話に移りましょうか。 - 宮本
- そこからは手塚(卓志)さん(※14)といっしょに
つくるようになりまして、あるとき、
空中をピョンピョン飛ぶキャラクターが
欲しいと思ったんですけど、
容量的に新しいキャラクターを入れる余裕がなかったんです。 - 岩田
- 確か、『スーパーマリオブラザーズ』の容量は
プログラムとグラフィックのデータを合わせて
わずか40キロバイトしかありませんでしたよね。
『スーパーマリオブラザーズ』=1985年9月に、ファミコンで発売されたアクションゲーム。
手塚卓志=『スーパーマリオ』シリーズや『ヨッシー』シリーズ、『どうぶつの森』シリーズなど、数多くのゲーム開発に携わる。現・任天堂情報開発本部 制作部部長。
- 宮本
- だから、どうしようかと。
そしたら「カメに羽根をつけてみましょう」って(笑)。 - 岩田
- ノコノコに羽根を(笑)。
- 宮本
- 「それはないやろう」と言いながらも、
羽根をつけたらけっこうかわいらしくて(笑)。
これはパタパタしてるからパタパタと呼ぼうと。 - 岩田
- 「カメに羽根をつけてみましょう」と言ったのは
手塚さんなんですか? - 宮本
- 手塚さんだったと思います。
『マリオ3』(※15)では、クリボーにも羽根をつけて
パタクリボーとか呼んでましたし、
当時は本当に好きなことをしてましたね。
『マリオ3』=『スーパーマリオブラザーズ3』。1988年10月に、ファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。