『New スーパーマリオブラザーズ Wii』
- 岩田
- マルチプレイで4人で遊べるとは言っても、
なかには「足手まといになるのはイヤだ」という人もいますよね。 - 宮本
- そんなときはシャボンに入ればいいんです。
マルチプレイでミスをすると
シャボンに入った状態でコースに復帰するようになっていますけど、
たとえばおばあちゃんが「わたしゃ、ここ行けない」
というような難しい場所になったときは、
Aボタンを押せばシャボンのなかに入れるんです。 - 岩田
- それで、うまい人に
最後まで連れて行ってもらうこともできる。 - 宮本
- そうです。
シャボンに入ってぷかぷか浮いた状態で、
Wiiリモコンをさわらなくても
ずーっと連れて行ってもらえます。
だから、いままで『マリオ』を遊んだことのない人でも、
最後のコースについて語ることもできると思います。
「最後のボスの3回目の攻撃はきつかったねー」とか(笑)。 - 岩田
- (笑)。
うまい人とそうでない人が
いっしょに関われる感じがうれしいですね。 - 宮本
- はい。うれしいですよ。みんな仲良くなれますから。
そのように和気あいあいとマルチプレイをするのも楽しいんですけど、
4人で遊べる「コインバトル」も熱くなります。 - 岩田
- 「コインバトル」ってなんですか?
- 宮本
- うまい人どうしが遊ぼうとすると、
基本的にはつぶし合いになりますよね。 - 岩田
- つぶし合いのほうが面白かったりしますよね(笑)。
- 宮本
- つぶし合いはつぶし合いのルールがあったほうがいいので、
2009年のE3(※24)から帰ってきてから
「コインバトル」をつくりまして。
2009年のE3=『New スーパーマリオブラザーズ Wii』のほか、『スーパーマリオギャラクシー2(仮称)』や『ゼルダの伝説 大地の汽笛』などの新作が発表された、アメリカのゲームイベント。E3はElectronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテイメント エキスポ)の略。
- 岩田
- どういうルールなんですか?
- 宮本
- ひとつのコースのなかで
コインを何枚とるかで勝負が決まります。
ふだんのマルチプレイというのは
どちらかと言うと角が立たなくて
みんなが楽しめるような・・・。 - 岩田
- 「みなさん、よくがんばりました」と。
- 宮本
- そう、そんな感じ(笑)。
でも、「コインバトル」のほうは徹底して、
「オレのほうが1枚勝った」というガチンコ勝負なんです。
- 岩田
- 気心知れ合ったどうしでやったりすると
熱くなるんでしょうね。 - 宮本
- 熱くなります。
たくさんコインを集めたほうが勝ちなので
とにかく何をしてもいいんです。 - 岩田
- コインをひたすら取り、
ほかの人が取りそうならジャマをする。 - 宮本
- で、そうやって遊んでいても
コインの枚数は最後までわからないんです。
で、「今回はオレがいけてたよな」とか思いながら、
最後の結果発表をみんなドキドキしながら見るんです。 - 岩田
- なんだか、そういうのを遊んでいる
騒がしい開発室の空気が
なんとなく想像できますね(笑)。 - 宮本
- そうですね。
コインバトルのコースには昔のマリオのパロディ面もあるので、
そこで遊ぶのも盛り上がるんですよ。 - 岩田
- そうやって盛り上がったとはいえ、
開発がすべて順調というわけではなかったんでしょう? - 宮本
- そうですね。
今回もディレクターが何人かいるんですが、
『マリオ』に対する考えのレベルがどうしてもまちまちなんです。
だから「これが『マリオ』の常識なんだ」ということを
現場に入って伝えることが必要になりまして・・・。
でも、それって客観性のあることではなくて
すべて僕の独断になるんですけどね(笑)。 - 岩田
- はい。
- 宮本
- 今回も、スタッフとわたしの感覚での
「自然・不自然」の判断基準について
話をすることが多かったと思います。
たとえば水中でファイアボールを放つと、
ファイアボールはまっすぐ進んでいきますよね。 - 岩田
- ええ。
- 宮本
- あれってファミコンの頃につくったルールなんです。
ファミコンの頃は、水中と地上は別コースだったんですね。
ところが今回は、地上と水中がセットになって出てくる。
そこで、空中を飛んできたファイアが
そのままの状態で水のなかを進んでいくと、
自然の景色としてはなんか変なんですよ。
「いったい、何でできている火なんだ?」と。 - 岩田
- (笑)
- 宮本
- 水中で放ったファイアが
そのまま飛んでいくのならいいんです。
けど、空中を自然に飛んでいたファイアが水中に入ると、
泡を出しながらジュジュジュとなるのが“自然”ですよね。 - 岩田
- 確かに。
- 宮本
- それができないのなら
そんな場所ではファイアが使えないようにしようと。
でも、過去のシリーズを見て
そのまま信じてつくっている人は、
それを“不自然”だとは思わないし、そのほうが遊びやすい。
僕としても開発現場に入ってみると、
自分が過去についてきたウソが、ここにもある、
あそこにもある、と気になって。 - 岩田
- 過去の自分のウソにいま気づくんですね(笑)。
- 宮本
- だから「これは実はウソやったんよ」
と説明するわけですよ。 - 岩田
- 事情があってこうなっていると(笑)。
- 宮本
- たとえば空中にブロックが
1個だけ浮いていますよね。
これも、最初につくったときは
とんでもない話やと思ったんです。 - 岩田
- 自分でつくっておきながら(笑)。
- 宮本
- 『ドンキーコング』のときでさえも、
床をつくれば、そこにちゃんと柱をつけて
どこで支えられているのか、という構造を
きっちり描こうとしていたんです。
ところが『スーパーマリオブラザーズ』のときは
空中にブロックが1個だけ浮いていて、
「これ、どうやって吊ってあんの?」と。 - 岩田
- (笑)
- 宮本
- だから、映画化(※25)すると言われたときは
すごくドキドキしました。
「空中に浮いているブロックはどんな映像になるの?」と。
ゲームをつくったときには
もともとはたくさんのブロックがあって
マリオがそれをどんどん割っていき、
最後に残ったものだけが浮いているという流れにして、
この結果、1個だけ浮いていても不自然に感じないみたいに、
そこはこだわってつくっていたんです。
映画化=ハリウッドで映画化された実写版『マリオ』。マリオ役を演じたのはボブ・ホプキンス。「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」のタイトルで、1993年に公開。
- 岩田
- でも、なぜ落ちないんですか(笑)。
- 宮本
- 実はあれ、奥のほうにつながっているんです(笑)。
- 岩田
- (笑)
- 宮本
- 今回の『Newマリオ』でも、
ペンギンマリオがアイスボールを投げて
水中でブロックを凍らせることができるんですけど、
それが水中の1ヵ所にとどまってじっとしているのは
どうしてもおかしいと思ってしまうわけです。 - 岩田
- “不自然”ですよね(笑)。
- 宮本
- 水中で凍らせた場合は、
やっぱり氷は浮くもんやろうとか。
「でも、空中で凍ったヤツは落ちないとおかしい?」
と言うので、「凍るとしばらく止まってから落ちる」と。
でも、そこにファイアボールを当てたら
溶けなアカンやろうとか、どんどん話が発展していって、
そうするとすごく複雑なゲームになるんですね。
そこで、どれくらいつくりこめば自然に感じ、
しかもわかりやすいルールか?という判断なので
そこはもう僕がやらないと・・・。 - 岩田
- 他の誰にも決められないんですね(笑)。
- 宮本
- 決められないわけです。ディレクターたちも
「もう勝手に決めてくださいよ」と内心思っている(笑)。
- 岩田
- (笑)
- 宮本
- そうすると、プロデューサーだったはずが、
その頃になるとディレクターみたいになって
仕様書を書いているんです(笑)。
で、岩田さんに言いましたよね、
「最近は僕、仕様書を書いているんです、エライでしょ?」と。 - 岩田
- 言っていましたね(笑)。
- 宮本
- そういうもので、もともとウソを書いた人間が・・・。
- 岩田
- ウソの責任をとりつつ。
- 宮本
- “自然”になるように固めたと。
- 岩田
- 『マリオ』界の“自然”について仕様書を。
- 宮本
- だから、これからも
シリーズをつくるたびに関わっていかないと
全部を言い伝えることはできないと思っていて・・・。
でも、これを続けていくのが幸せかなあと・・・。 - 岩田
- 頼りにしてます(笑)。