『New スーパーマリオブラザーズ Wii』
- 中郷
- 先ほど、手塚さんが
最初は「陸・海・空を舞台に」という話をされましたけど、
実は「空」がなくなりかけたことがあったんです。 - 岩田
- あの空のステージがなくなりかけたんですか?
- 手塚
- ええ。空のシーンは
雲に乗ったマリオが出てくることになっていて、
途中までつくっていたんです。 - 中郷
- ところがメモリの関係もあってやめたんです。
ところが、手塚さんには
「空」に対する熱い想いがあって、
ツルで復活することになったんです。 - 岩田
- ツルを考えたのは手塚さん?
- 手塚
- はい。「ジャックと豆の木」みたいなことが
『スーパーマリオ』でもできないかなと思ったんです。
そこで、「豆の木を登っていったら、
空の世界に行けるようになるといいね」と、
ただそれだけの話を僕がしたんです。
すると、そのアイデアを宮本さんが拾ってくれて、
ブロックを叩いたらツルが出てくる仕様に
まとめてくれたんです。 - 岩田
- まさに共作なんですね。
- 中郷
- ところが、空に行ったはいいけれど、
どうやって降りるかという問題が新たに発生しまして。 - 手塚
- 空の面から下に降りる手段がないので、
最初は飛び降りるようにしようと。
でもふつうは、
自分から飛び降りようなんて思いませんよね。 - 岩田
- 飛び降りるとミスになっちゃいそうですから(笑)。
- 手塚
- そうなんです。
それで、みんなですごく悩んだんですけど
若いスタッフがいいアイデアを思いつきまして。
空中にコインを置いておけば・・・。 - 中郷
- 飛びつくだろうと(笑)。
- 岩田
- あははは(笑)。
- 手塚
- いまから考えると何でもないことなんですけど。
- 中郷
- でも、コインを置けば
コインにつられて飛びついて、
みんなちゃんと地上に戻れるようになったんです。 - 岩田
- 空中のどんなに高い場所でも、
そこにコインがあって、それに飛びついたら
悪いようにはされないという信頼が
『スーパーマリオ』にはあるんですよね。
そういったことを、もしイジワルな人たちがつくると、
プレイヤーをおとしめるために、
コインを置くようなことをするかもしれないですし、
そうすると、いくら欲しいコインがそこにあっても
飛びつこうとはしませんよね。
だけど、『スーパーマリオ』の場合は
「飛びついて悪いようにされるハズがない」
という信用があるから、
遊んでくださるお客さんたちは
迷うことなく地上に戻ることができたんですね。
- 手塚
- はい。
- 中郷
- だから、開発中は
「お客さんを裏切ってはダメ」という話をよくしていました。 - 手塚
- 「せっかく苦労してこんなところまで来たんやから、
何か仕込んでおかないと、かわいそうや」とか・・・。 - 中郷
- そんなことも言ってましたね。
それに「気持ちよくないことはやめよう」ということも。 - 岩田
- 「裏切らない」と「気持ちよくないことはしない」というのは
シリーズを通して、徹底してつくられてる印象がありますよね。
でも、ファミコンの時代ですから
いろいろ制約が多くて、試行錯誤も多かったんでしょう? - 中郷
- もちろんそうです。
たとえば、画面に表示するグラフィックは、
256個のパーツで、すべてを表現しなければいけませんでしたし。 - 岩田
- そうなんですよね。
のちに、新しいICができて、
使えるパーツは増やせるようになりましたけど、
『スーパーマリオ』の頃のファミコンは
全部で8×8の部品が、256種類しか
カセットのなかに入れられなかったんですよね。 - 中郷
- そうなんです。
だから、アイテムなんかは
できるだけ小さく収めるようにしたりとか。 - 岩田
- 手塚さんは、ノコノコに羽根をつけて
パタパタと呼ぼうと言ったりとか(笑)。 - 手塚
- (笑)
- 中郷
- 雲と草は同じ絵を使って
色だけを変えてみせたりとか。 - 岩田
- 雲と草は別のものに見えますけど
実は同じパーツを使っていたんですよね。 - 手塚
- ええ。そういうことを
考えるのが面白かった時代でしたね。
- 中郷
- キノコとかフラワーにしても、
パーツを節約するために
片方の半分しか描いてなくって、
それを反転させて表示しているんです。 - 岩田
- だからシンメトリーなんですね。
- 中郷
- 星もそうですね。左右対称です。
半分しかパーツを使っていなくても、
2倍の大きさになるというメリットがあったんです。 - 岩田
- そうしたのも
すべてはパーツの節約のために。 - 手塚
- そうです。
そうやって節約しながらいろいろつくったんですけど、
最後の最後でクリボー
をつくることになりまして。
- 岩田
- ええっ!クリボーは最後なんですか?(笑)
- 手塚
- はい。あんなメインで使ってるのに、
実は最初はノコノコしかいなかったんです。
で、実際に人に遊んでもらうと
最初の出会うのがノコノコだと
ちょっと難しいという話になったんです。 - 岩田
- ノコノコは2段構えでやっつける敵ですからね。
- 手塚
- そこで、踏むだけでカンタンに
1度で倒せる敵がほしい、ということになりました。
そこで、最初に遭遇するのは、クリボーでしょうと、
最後の最後でつくることにしました。 - 中郷
- ところがクリボーをつくることになったとき、
使えるパーツがほとんどなかったんです。 - 手塚
- しかも敵ですから
キャラクターの動きも必要になるんです。 - 中郷
- そこで、左右を反転させたら
歩いているように見えるものにしようということで、
クリボーの体はちょっと斜めになってるんです。 - 岩田
- なるほど、2枚絵なんですね。
- 中郷
- 2枚絵でトコトコ歩くように見せたんです。
- 岩田
- ところでクリボーが
キノコと似ているのは偶然ですか? - 手塚
- あれ、“しいたけ”なんですよ。
- 岩田
- “しいたけ”なんですか(笑)。
“くり”じゃないんですね。 - 手塚
- はい(笑)。
- 岩田
- それにしても・・・
(しみじみと)クリボーはいちばん最後にできたんですか・・・。 - 手塚
- ふふふ(笑)。
- 岩田
- これはけっこう衝撃です。
これもわたしは知りませんでした(笑)。