『New スーパーマリオブラザーズ Wii』
- 岩田
- さて、無事にクリボーも登場することになって(笑)、
最初の『スーパーマリオ』ができあがりました。
そのとき、どんな手ごたえがありましたか? - 手塚
- 正直言いまして、
世界中でこれほど多くの人たちに
遊んでいただけるとは思っていませんでした。
ただ、発売前にいろんな人に
モニターをお願いして遊んでもらったんですけど、
そのときの反応を見て、宮本さんが
「『ドンキーコング』のときと似ている」と言ったんです。 - 岩田
- それほど盛り上がったんですね。
- 手塚
- ええ。宮本さんは『ドンキーコング』のときに
そんな体験をされていましたので、
「ひょっとしたら、すごいことになるかもしれへん」
と言っていたのは、すごく覚えています。 - 岩田
- ちなみに、『スーパーマリオ』ができた頃、
わたしは『F1レース』(※21)の仕上げで
任天堂に来ていたんです。
で、そのときに感想を聞きたいと言われて、
発売前の『スーパーマリオ』のロムを
おあずかりしたんです。
そのロムをHAL研に持ち帰ったんですけど、
それから2週間は、開発スタッフが
まったく仕事にならなかったんですよ。
スタッフ全員が『スーパーマリオ』を遊び続けたんです。 - 中郷・手塚
- (笑)
『F1レース』=1984年11月に、ファミコン用ソフトとして発売されたレースゲーム。
- 岩田
- だから「どえらいモノができたな」というのが、
発売する前のわたしの印象なんです。
ただ、その時点でも
これほどの社会現象になるとは思ってないんですが、
だけど、それまでに味わったどんなゲームとも違う、
強烈なものがあったという感じはしました。 - 中郷
- でも、できあがったとき、
わたしたちの間では、あんまり実感がないんですよね。 - 手塚
- つくってるとわかんないですね。
- 岩田
- わかんなくなるんですね。
- 中郷
- 「終わった!」というのだけですよね。
- 岩田
- もう、コースを直さなくていいと(笑)。
- 中郷
- もう、次の仕事の話をしてましたし。
- 岩田
- さあ、『ゼルダ』を仕上げなきゃと。
- 中郷
- 『ゼルダ』が同時にはじまりましたから、
次の日から『ゼルダ』の話をしてました。 - 岩田
- じゃあ、『スーパーマリオ』のロム出しをしたら、
そのことはすぐに忘れて
『ゼルダ』を必死につくっていたんですか? - 中郷
- 『スーパーマリオ』ができたとき、
宮本さんからクギを刺されたんです。
「うれしいとか、やった!とか言うのは、
できて3時間かなあ」と。
- 岩田
- 完成して喜ぶのはたった3時間(笑)。
- 中郷
- で、「次もがんばろう」と宮本さんに言われて、
「はい、そうしましょ」と、当時はそんな感じでしたね。 - 手塚
- そうでした。
- 中郷
- ですから、すぐに『ゼルダ』の仕事に
移っていきました。 - 岩田
- 今回は『マリオ』がテーマですので
『ゼルダ』についての質問は控えますが、
印象深いエピソードをひとつ挙げるとしたら、
それはどんなことですか? - 中郷
- 手塚さん、
ハートの器を4分割したときの話は覚えてます? - 手塚
- ・・・覚えてないです。
- 中郷
- (笑)。
『ゼルダ』のときは取れるアイテムがとても少なくて、
それで本当に困ってしまったんです。
で、手塚さんと1日中、パズルゲームを遊びながら、
その相談をしたことがありまして。 - 岩田
- パズルゲームを遊びながら、
アイテムを増やすための相談をしていたんですね(笑)。 - 中郷
- ええ。そしたら宮本さんは
何も言わないで帰られたんですよ。
で、翌日に宮本さんが来たとき、いきなり
「昨日の1日の成果はよくわかる」と言うんです。 - 岩田
- 皮肉を言われたんですか?
1日中、パズルゲームで遊んでいたから。 - 中郷
- いえいえ、実はパズルゲームを遊びながらも、
ホワイトボードに
十字に割ったハートの絵を描いていたんです。
すると、宮本さんは、僕らが何も説明してないのに、
その絵を見ただけで、ハートのかけらに
イメージを結びつけることができたようなんですね。 - 岩田
- ああ、なるほど。ハートを4分割することで
不足したアイテムも補えると。 - 中郷
- そうなんです。
ホワイトボードにちょこっと描いただけなんですけどね。
だから、不思議な人やなあと思いました。 - 岩田
- なるほど。
- 中郷
- 不思議な人やなあと思ったのは
手塚さんに対しても同じで。 - 岩田
- それはどんなところですか?
- 中郷
- しっぽマリオがいますよね。
『マリオ3』=『スーパーマリオブラザーズ3』。1988年10月に、ファミコン用ソフトとして発売されたアクションゲーム。
- 岩田
- マリオにしっぽと耳がつくと、
空を飛べるようになりましたよね。
- 中郷
- あれ、最初につくったときは
空中をずーっと飛んでいく仕様だったんです。
でも、そうすると、つくった地上のコースが
全部台無しになるので、
僕は「やめてほしい」と言ってたんです。
ところが、手塚さんはすごく気に入ってたんですよね、
あのしっぽマリオを。 - 手塚
- はい(笑)。
- 中郷
- それでミーティングをやっていたら
手塚さんがおもむろに手を動かしはじめて、
しっぽマリオが飛ぶ動きを再現しながら
「こうやって、こうなると飛ぶでしょう。
これ、すごく楽しそうって思わへん?」と。 - 岩田
- 「空」には熱い想いをもってる手塚さんが
とても熱く語ったんですね(笑)。 - 中郷
- 手塚さんの考えだけでいくと、
しっぽマリオはずーっと飛んでいくんですよ。
ずーっと飛んで、ゴールのところまで行って、
それで終わるんですよ。「そんなアホな」と。 - 岩田
- マリオは、飛び続けられたらゲームが成立しません(笑)。
- 中郷
- でも手塚さんは
「これだけは何とか実現させたい」と言うんです。
そこで、制限をつけようという話になりまして、
8キャラ分走ったら、はじめて飛べるようにしようと。 - 岩田
- 空を飛ぶためには
ある程度の平地を必要にしたんですね。 - 中郷
- 僕らは、誰が名付けたか
「滑走路」と呼んでました。
そこで、飛んでいい場所を再検討して、
マップを一気につくりなおして、
最終的には、「パタパタの羽根」というアイテムを取れば、
コースをずっと飛べるようにもしました。 - 岩田
- 手塚さんの「空」にかける
執念が伝わったんですね(笑)。 - 手塚
- はい(笑)。
- 中郷
- 僕もそうしてよかったと思っています。
飛んで早く先にいきたいお客さんも
やっぱりいらっしゃると思うんです。
それに、『マリオ3』のときの「パタパタの羽根」は、
今回の『New スーパーマリオブラザーズ Wii』の
「おてほんプレイ」にもつながりましたから。