『New スーパーマリオブラザーズ Wii』
- 岩田
- ある意味、手塚さんの執念深さが
『マリオ3』のしっぽマリオを生んだんですね。 - 中郷
- ええ。でも、執念深いということでは
宮本さんのほうが何枚も上なんです。 - 岩田
- それは具体的にどんなことですか?
- 中郷
- 宮本さんの机のまわりには
いろんなメモとか絵が貼ってあるんですけど、
『マリオ3』をつくっていたときから
恐竜に乗る絵があって、それがずっと貼ってあったんです。 - 岩田
- 恐竜というのはヨッシーのことですよね?(笑)
- 中郷
- ヨッシーです(笑)。
でも、そのときは恐竜に乗った絵だったんです。
で、『マリオワールド』(※23)で初めて恐竜に乗りまして。
『マリオワールド』=『スーパーマリオワールド』。1990年11月に、スーパーファミコンと同時発売されたアクションゲーム。シリーズ4作目。
- 手塚
- 宮本さんはカントリーウエスタンが大好きなので、
馬に乗るとか、そういうことにすごく憧れをもっていたと思うんです。 - 中郷
- そうなんですよね。
いまはなくなってしまいましたけど、
会社の近くにカントリーウエスタンのパブがあって、
そのお店に連れていかれることも多かったですし。 - 岩田
- ああ、なるほど。
ウエスタン好きからヨッシーは生まれているんですね(笑)。 - 手塚
- たぶん、そうだと僕は思ってるんですけど(笑)。
- 中郷
- きっとそうでしょう。
- 岩田
- この2人が言うんだから、きっと間違いないですね(笑)。
- 中郷
- そもそも『エキサイトバイク』のとき、
バイクに人が乗ってましたよね。 - 岩田
- ええ。
- 中郷
- ヨッシーに乗るのはそこからつながっています。
でも、ファミコンではそれができなかったんです。
たぶん、『マリオ3』のときも
恐竜にマリオを乗せたかったと思うんですけど、
それがハードの制約上、できなかったものですから、
手塚さんがカエルとか、
マリオが単体でパワーアップできるものを考えたんです。 - 岩田
- タヌキやカエルに変身したり、
しっぽがはえて、空を飛べるようになったのは
マリオが恐竜に乗れなかったからなんですね(笑)。 - 手塚
- (笑)
- 中郷
- で、スーパーファミコンが出ることになって
「よっしゃー、コレや!」と。 - 岩田
- よっしゃー、ヨッシーに乗れると(笑)。
でも、本当に宮本さんが
「よっしゃー、コレや!」と言ったんですか? - 中郷
- いや、あくまでイメージです。
- 一同
- (笑)
- 中郷
- でも手塚さん、そんな感じでしたよね?
- 手塚
- ふふふ(笑)。
- 岩田
- (笑)。
それにしても宮本さんは
「これは」というものを見つけたときに、
いつか必ず時が来ると思うんでしょうか。
あそこまで諦めないでいられるというのは・・・。
実際、似顔絵の「Mii」も、実に長い間、
執念深く追いかけてましたし。 - 中郷
- Miiもすごく長かったですね。
- 岩田
- 5年レンジのものはザラですよね。
でも、今頃くしゃみしてるでしょうね、きっと(笑)。 - 中郷・手塚
- (笑)
- 岩田
- 執念深いことで言えばマルチプレイもそうですね。
今回の『New スーパーマリオブラザーズ Wii』で実現しましたけど。 - 中郷
- 『マリオ3』のときも、
「やっぱり2人で遊びたいよね」
「多人数でやりたいよね」というのがあって、
でも、実際、2人になってしまうと・・・。 - 岩田
- 収拾がつかなくなってしまうんですね。
- 中郷
- そうなんです。それでけっきょく
『マリオブラザーズ』系統の、
1画面で戦うというミニゲームに全部変えたんです。 - 岩田
- だから、毎回あげられるテーマのひとつなんですよね。
わたしも、ずいぶん前の話になりますが、
『星のカービィ スーパーデラックス』(※24)の提案を
宮本さんにしたことがありまして、そのとき、
「毎回『マリオ』でチャレンジしてもできないので、
『カービィ』でマルチをやってみませんか?」という
お題を与えられたことがあるんです。 - 中郷
- 提案に行ったのに、
宮本さんから逆提案されたんですね(笑)。 - 岩田
- そうなんです。
それがきっかけで、当時はカービィのディレクターで
いまプロジェクトソラで仕事をしている桜井さんが、
2人で遊ぶヘルパーシステムを発案して
実現することになったんです。
『星のカービィ スーパーデラックス』=1996年3月に発売されたスーパーファミコン用ソフト。シリーズ初の2人協力プレイ(ヘルパーシステム)を実現。
- 手塚
- ああ、そういうことだったんですね。
- 中郷
- なるほど。
こちらは『マリオ3』のときにチャレンジしてダメで、
スーパーファミコンが出てきたとき、
「モード7」(※25)と言われるものができるようになりまして。 - 岩田
- 画面を拡大縮小したり回転したりできる機能ですね。
これで、画面を引いてみることができるようになったんでしたよね。
「モード7」=背景の拡大・縮小・回転の機能をサポートするモードのこと。読み方は「モードセブン」。
- 中郷
- はい。
「これならそこに2人がいても画面を引けるやん」と。
そこで、『マリオワールド』のときに、
コースのマルチプレイをさんざんテストしたんですけど、
処理時間がぜんぜん足りませんでしたし、
ヨッシーに乗ることになったので諦めたんです。
で、それから15年くらいたって
DSが出てきたので、「これや!」と思ったんです。
2画面になりましたし、これでマルチプレイで
コースでいっしょに遊べるようになると、
テストをはじめたんです。
- 岩田
- ところが、DSの『Newマリオ』(※26)でも
実現できなかったんですよね。
DSの『Newマリオ』=『New スーパーマリオブラザーズ』。2006年5月に、ニンテンドーDSで発売されたアクションゲーム。
- 中郷
- そうなんです。
コースがすごく複雑になりましたので、
やりたくても、できなかったんです。
そこで、専用ステージをつくりまして、
マリオとルイージの対戦プレイ
ができるようにしたんですけど、
やってみたら、やっぱりマルチで遊ぶのは面白いと。
- 岩田
- そうして今回の『New スーパーマリオブラザーズ Wii』で、
ようやく4人プレイを実現することができたわけですね。 - 中郷
- ひとつの画面だけでなく、
スクロールするコースを4人で遊べるようになりました。
だから『マリオ3』から数えると
およそ20年越しに実現したと言えますね。 - 岩田
- だから、似顔絵にも匹敵する長い期間、
ねばってきたんですね。 - 中郷
- 本当にねばりました(笑)。
- 岩田
- 手塚さんには、
4人同時プレイに対するこだわりは
宮本さんのようにあったんですか? - 手塚
- やっぱり「実現できたら」という思いはありました。
でも、ずっと前から何度トライしてもダメだったので、
「今度こそは」というほどではなかったんです。 - 岩田
- いつかチャンスが来たら使える
スジのよいネタであるという意識だけがずっとあったと。 - 手塚
- はい、その通りです。
- 中郷
- でも、DS版でテストしたことが
今回の『New スーパーマリオブラザーズ Wii』での
マルチプレイの実現にすごく役立ったんです。 - 岩田
- そのときは捨てたように見えても、
いずれは役に立つチャンスが
必ずやってくるということなんですね。 - 中郷
- 本当にそう思います。