『New スーパーマリオブラザーズ Wii』
- 向尾
- シャボンに関して、僕からもいいですか?
- 岩田
- はいどうぞ。
- 向尾
- 開発の最初の頃は、
シャボンになると画面のなかを単に漂っているだけで、
それを他のプレイヤーが叩いて
復活させるというだけの仕様だったんです。
それがあるとき、シャボンに入っているプレイヤーが
Wiiリモコンを上下に振ることで、
他のプレイヤーに近づくことができるようになりまして。 - 岩田
- 「助けて」というときに、
それが目に見える反応として返ってくるようになったんですね。 - 向尾
- そうなんです。
両手でWiiリモコンを握りながら、
それを振るというアクションと、
「助けてほしい」という気持ちが
一体化したような感じがして、
感触がすごくよくなったと思いました。 - 岩田
- なるほど。
内田さん、シャボンの音に関しては
どう工夫されたんですか? - 内田
- シャボンの中にいるときは、
いつもとちょっと違う感じを出すために
声をWiiリモコンから鳴らすことにしました。
その声なんですが、
最初シャボンの仕様が入った画面を見たときに
フラフラと画面を漂っていて
「早く出して!」というような印象でしたので、
シャボンになっている間ずっと
「ヘルプ・ミー」という声を鳴らしていたんです。
でも後で「シャボンのままでいる」という
遊び方もできることを知りまして。
そうすると、シャボンのままでいたいという人にとっては
「ヘルプ・ミー」という声は変だなと思ったんです。 - 岩田
- 確かにそうですね。
なかには「いま割られても困ります」という人もいますからね。 - 内田
- はい。
でも、先ほど向尾さんがおっしゃっていたように、
Wiiリモコンを振って他の人に近づくという仕様が入ったことで、
そのときに「ヘルプ・ミー」と言うようにできるなと・・・。 - 足助
- そうすると、早く割ってほしいときは
Wiiリモコンを一生懸命に上下に振ると、
手元からは「ヘルプ・ミー」と聞こえてくるので、
プレイヤーの気持ちと動作が
うまくシンクロするような感じになったんです。
- 岩田
- なるほど。Wiiリモコンを振ると、
仲間に近づくと同時に、
「割ってほしい」というメッセージになるんですね。
でも振らずにじっとしていたら
それは「割らずに連れて行って」ということになるんですね。 - 足助
- そうなんです。自分の気持ちと動作が合ったことで、
より一体感が感じられるようになったと思います。 - 岩田
- 内田さん、割ってほしいときに出る声は
「ヘルプ・ミー」だけなんですか? - 内田
- 割ってほしいときは、3種類の声があって、
それをランダムで鳴らしています。
なかには「イデオロギー」と聞こえる方もいらっしゃいますが・・・。 - 足助
- 「ヤキオニギリ」とかも。
- 岩田
- 「ヤキオニギリ」?(笑)
- 一同
- (笑)
- 内田
- 割ってほしいときに鳴らしている声は
「ヘルプ・ミー」「ハロー」、
それに「ゲット・ミー・アウト・オブ・ヒア」なんです。 - 足助
- 「ゲット・ミー・アウト・オブ・ヒア」は
「出して」という意味ですね。 - 内田
- たぶんそれが「ヤキオニギリ」に
聞こえてしまうんだと思います。 - 一角
- コースに入るときは
「ヘキサゴン」と聞こえる人もいるようですね。 - 岩田
- 「ヘキサゴン」?(笑)
- 内田
- 本当は「レッツ・ゴー」なんですけど、
たぶん、マリオはイタリア人なまりの英語でしゃべっていますので、
そんなふうに聞こえるんじゃないかと思います。 - 岩田
- なるほど。
じゃあ、シャボンの話はそろそろ終わりにして、
一角さん、身の回りで起こった話があったら
訊かせてもらえますか? - 一角
- 先ほど足助さんが話していた
うまい人とそうでない人がいっしょにプレイすることにつながる話で、
会社の人から聞いた話なんですけど。 - 岩田
- はい。
- 一角
- その人には、小学生の息子さんが2人いて、
長男はゲームがとても上手なんですけど、
次男はあまりうまくないそうなんですね。 - 岩田
- うまくなくても『NewマリオWii』で遊びたい?(笑)
- 一角
- みたいです(笑)。
でも、足を引っ張りがちなので、
お兄ちゃんに怒られたりしていたようなんです。
見かねたお父さんがいっしょになって
3人で砦のステージをプレイしはじめたのですが・・・。 - 岩田
- でも、次男はついていくことができないんですね。
- 一角
- そうなんです。
お父さんと長男が上に昇っていっているのに
下のほうでうろちょろしていたみたいなんです。
ただ、そこは難しいステージだったので、
うまい2人でも道中で手こずっていたらしいんです。
すると突然、ぱっ!と画面が切り替わって、
ゴール画面が現れたんです。 - 岩田
- ゴールにたどり着いてないのに、ですか?
- 一角
- 次男が隠しゴールを見つけたんです。
- 岩田
- ああなるほど!下のほうの隠しゴールを見つけたんですね。
- 一角
- そうなんです。
うろちょろしていた次男だからこそ、それを見つけられたと。
そしたらお父さんと長男から「すごいすごい!」とほめられて。 - 岩田
- いままでいちばん足手まといだったのが、
一躍ヒーローになったんですね(笑)。 - 一角
- 次男は「どうだ!」という表情をして
それはもう大きなガッツポーズをしていたそうです(笑)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- うまい人とそうでない人がいっしょに遊んだときに、
常にうまい人がうまくない人を助けるだけじゃないことが起こるのが
このゲームの面白いところでもありますね。
そもそも一角さんは、どんなことを考えながら
レベルデザインをしたのですか? - 一角
- 基本は1人用で遊ぶことを考えてつくりました。
すべてのコースが、ダッシュなし、
壁キックなしでクリアできるようになっています。
スターコインは、ダッシュや壁キック、
パワーアップアイテムを駆使しないと取れません。
ところが、2人以上でプレイすると、
誰かがシャボンになれるので、
1人がもう1人を担いでポイッと投げて、
スターコインを取った瞬間にシャボンになる技が使えるんです。 - 岩田
- 2人で協力するとスターコインが簡単に取れるんですね。
- 一角
- はい。ですから、1人プレイでスターコインを集めることに関しては、
難しくする方向でつくるようにしました。 - 岩田
- 今回の『NewマリオWii』は、宮本さんが
DS版の『Newマリオ』(※2)が「カンタンすぎる」という
お客さんが少なからずいらっしゃったことに対して、
闘志を燃やしていたような気がしませんでしたか?
わたしはすごく“メラメラと燃える宮本茂”を感じていたんですけど。
DS版の『Newマリオ』=『New スーパーマリオブラザーズ』。2006年5月に、ニンテンドーDSで発売されたアクションゲーム。
- 一角
- それはすごく感じました、はい(笑)。
- 岩田
- 「もっと難しくして」とか言われたんでしょう。
- 一角
- はい(笑)。
それは、手塚(卓志)さん(※3)も同じようなノリで、
手塚さんの意見を聞いてゲームに反映させると、
ミリ単位の超絶プレイが求められるようになって、
「いくら何でもマズイでしょう」というところまで行ったんです。
手塚卓志=今作のプロデューサー。『スーパーマリオ』シリーズや『ヨッシー』シリーズ、『どうぶつの森』シリーズなど、数多くのゲーム開発に関わる。任天堂情報開発本部 制作部部長。
- 岩田
- どんどん難しくなっていったんですね。
- 足助
- あのう、手塚さんって・・・。
- 岩田
- はい?
- 足助
- ・・・ゲームがあまり上手じゃないんです。
- 岩田
- すごく遠慮気味に言いますね(笑)。
- 一同
- (笑)
- 一角
- でも、自分でもそうおっしゃっていますしね。
- 足助
- そんな手塚さんが
「もっと難しくても、オレはいける」っておっしゃるんです。
さらに、「それくらい難しくしたほうが、クリアしたときに
歯ごたえが出るし、そのほうがずっとうれしい」と。
だから、もっと「難しくしよう」とずっとおっしゃっていました。 - 一角
- そんな感じで手塚さんは
どんどん難しくしようとするんですけど、
それを抑えるブレーキ役が中郷(俊彦)さん(※4)だったんです。
中郷さんは開発初期から「簡単にして」とずっと言い続けてましたから。
だから、手塚さんから「ここは難しくして」と言われて、
その指示通りに調整すると、後から中郷さんがやってきて、
「あそこ、なんで難しくしたん?」と。
中郷俊彦さん=今作のマップ&レベルデザイン担当ディレクター。ファミコンの時代から現在まで、『マリオ』シリーズや『ゼルダ』シリーズなど、任天堂ソフトの開発を支える。株式会社SRD代表取締役社長。
- 岩田
- あははは(笑)。
- 一角
- 板挟みになって大変でした(笑)。
- 岩田
- でも、立ち位置の違う人が見たからこそ、
いいバランスが取れたんでしょうね。