『New スーパーマリオブラザーズ Wii』
- 岩田
- 「おてほんプレイ」を録る基準が決まっても、
最終的にマップが固まらないと、収録できないですよね。
特に『マリオ』というゲームは
マップをいじればいじるほど面白くなるところがあって、
そこには明らかに良くしたいという想いとの
葛藤があったと思うんですが。 - 向尾
- そうですね。せめぎ合いがずっと続いていました。
- 岩田
- やっぱり「ここはいじらないと言うから、
やっと録ったのに」ということが山ほどあったんでしょう? - 一角
- はい。本当に山ほどありました。
- 向尾
- 実際、最後の最後まで、
ほぼ毎日、全コース、全スタッフで録り直していました。 - 岩田
- ほぼ毎日、全コースを!?
- 向尾
- そうなんです。例えばマリオや敵、仕掛けの動きなど、
ゲームのなかのプログラムに少しでも変更があると、
お手本データを再生した時にズレてしまうことがあったので、
ちゃんと録り直す必要がありました。
でも最後のほうでは、みんながけっこううまくなっていて、
録り直しをお願いすると、
「ああ、やりますよ」という感じになっていました。 - 岩田
- イヤというほど苦行を繰り返したので、
もう突き抜けていたんですね。 - 向尾
- そうですね。
でもやっぱり、とてつもなく難しいコースもありまして、
そこを担当しているスタッフにはすごく申し訳ない思いでした。 - 岩田
- なるほど。
あと、「おてほんプレイ」のほかに、
マリオクラブ(※8)のデバッガーたちによる、
「おたからムービー」を見ることもできますよね。
あのような超絶なスーパープレイができるというのは、
つくっている人たちにとっても、驚きではありませんでしたか? - 一角
- 「こんなことできるんや!」と思いました(笑)。
- 向尾
- 僕は「あれを任されなくてよかった」と思いました(笑)。
- 一同
- (笑)
マリオクラブ=マリオクラブ株式会社。任天堂が開発しているソフトのデバッグやテストプレイを行う。
- 向尾
- 実は最初、スタッフで録ろうという話もあったんです。
そこで、プレイに自信のある人が何人かいたので、
実際にやってもらったんですが、
これは無理だという話になりまして。
- 岩田
- 泣きが入ったんですね。
- 向尾
- ええ。
- 足助
- 「おたからムービー」は
『マリオ』をやりつくしたスゴイ人が
そのムービーを見たときにでも、
「うわ、すげえ!」と思っていただかないといけないので、
ハードルをすごく高めにしたいと思っていたんです。 - 岩田
- スゴイ人にも「上には上がいるぞ」と
感じていただく必要があったんですね。 - 足助
- はい。でも、最初にマリオクラブにお願いしたときは、
ムービーを100個くらい録ってもらったんですけど、
そのすべてにダメを出したんです。
「レベルが低すぎるので」と。 - 岩田
- 足助さん、焚きつけましたね(笑)。
- 足助
- 焚きつけました(笑)。
彼らが録ってくれたのは、どれも
それなりにうまいプレイだったんです。
でも「こんなのじゃ、スゴイ人がすげえと言ってくれないぞ」と。 - 一角
- ただ単にうまいプレイだったんですよね。
- 足助
- なので、「ここでは、ノコノコを連続で踏んでくれ」とか、
「このタイミングでWiiリモコンを振ると
あそこまでワンジャンプで届くから」というように
具体的な提案をしました。 - 岩田
- でも、反発はありませんでしたか?
- 足助
- やっぱりありました。
最初は「そんなの録れないよ!」と言われたんです。
ところがマリオクラブの人たちはプライドがものすごく高いので、
その1時間後には「できました」と(笑)。 - 岩田
- たった1時間で!?
- 足助
- 僕は2つくらいしか注文していなかったんですけど、
「できました」と言って渡されたムービーには
プラス5個くらいスーパープレイが入ってたんです。
- 岩田
- やりますねえ(笑)。
- 足助
- それを見てすごく驚いたんですけど、
だったらもっといけるんじゃないかと。 - 岩田
- 1時間でここまでできるのなら、
時間があれば、もっとすごいプレイができると思ったんですね。 - 足助
- そうです(笑)。そこで、期待半分で
「もう少し、ここはこうならない?」とか言って焚きつけると、
さらに上、もっと上という感じで録れるようになって、
さすがに「これでもう十分だ」と思って
僕は「OK」を出したんです。
ところが彼ら、やめないんです(笑)。 - 岩田
- あははは(笑)。
最初は遠慮がちに焚きつけた火が、
マリオクラブのなかで燃え上がってしまったんですね。 - 足助
- そうなんです。
「もっといいのが録れたから、差し替えてくれ」とか。
で、いつの間にかスーパープレイがたくさん集まりまして。
そもそも「おたからムービー」は
30本とか40本くらいでいいだろうと思っていたんです。
ところがどんどんいいものが録れたので、
最終的には65本を入れることになりました。 - 岩田
- わたしも見ましたが、
ただただ唖然としてしまうようなムービーばかりですね(笑)。 - 足助
- はい。ピーチ城で見られるようになっていますので、
遊んでいて、ちょっと息抜きしたいなと思ったときに
寄り道して見ていただけるとうれしいですね。 - 岩田
- あと、「コインバトル」の話もしましょう。
ちょうど日本一決定戦(※9)も開催されることになりましたしね。
コインバトルはどうやって生まれたんですか?
日本一決定戦=「NewスーパーマリオブラザーズWii コインバトル日本一決定戦」。全国7地区で予選が開催され、2010年3月27日に、東京で決勝大会が開かれる「コインバトル」のイベント。
- 足助
- そもそも、ふつうに協力プレイで遊んでいても、
うまい人が集まってくると、ちょっと競争してみたくなるんです。
「オレが最初にゴールするんだ」とか、
「オレが先にスターコインを集めるんだ」みたいに、
競争要素が出てくるんです。
だったら、それ専用のルールとコースで競争したほうが、
もっと面白いんじゃないかということになったんです。 - 岩田
- コインバトル用のコースは専用につくったものが・・・?
- 足助
- 5つあります。
- 一角
- 最初は「専用コースは2つでいい」という話だったんです。
ところが、コインバトルステージの選択画面がバッと出たときに、
アイコンが10個並ぶのですが、
「専用コースは2個だけなの?
せめて上1列は、専用コースにしようよ」という話がありまして。
- 岩田
- 誰がそんなことを言ったんですか?
- 一角
- 宮本さんと手塚さんです。
- 岩田
- やっぱり(笑)。
- 足助
- コインバトルに向いているコースや
『マリオブラザーズ』のコースもつくりたかったようです。
それで上1列の5個がコインバトル専用コースで、
下の5個をおすすめコースにしようというふうになったんです。 - 一角
- それが決まったのが、何週間前でしたっけ・・・?
- 足助
- 2週間前でしたね。
- 岩田
- 何の2週間前ですか?
- 足助
- 完成の2週間前です。
- 岩田
- ええ?
- 一角
- そこで急遽、レベルデザイナー1人1コースずつ、
計5つの専用コースをつくろう、ということになりまして。 - 岩田
- それが2週間前?(笑)
- 足助
- はい。
- 岩田
- もう笑っちゃうしかないですね(笑)。
- 向尾
- 「おてほんプレイ」を録ったのもその時期でした。
- 岩田
- 完成のわずか2週間前に、
一方では「おてほんプレイ」を録っていて、
もう一方では、専用コースをつくっているなんて、
「そんなのあり得ない」と言われませんでした? - 足助
- 言われました。
- 一角
- 言われました。
・・・いや、僕の場合「言われました」ではなく、
「そんなのあり得ない」と言うほうでした(笑)。 - 足助
- この時期にコースを制作すると、
それに合わせて「おてほんプレイ」も
新しく録らないといけないので厳しいのですが、
「コインバトル専用コースには、
おてほんプレイは要らないから・・・」と
宮本さんに説得されてしまいました。 - 一同
- (笑)
- 岩田
- でも、最後の最後にそうやってがんばって入れなければ、
日本一決定戦もどうなっていたか、わかりませんでしたね。 - 足助
- そうですね。日本一決定戦はなかったと思います。
だから、無茶をした甲斐はあったと思います。