『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第1回:「Wiiモーションプラスがもたらした新操作」篇
- 岩田
- Wiiモーションプラスでつくるにあたって、
どのようなことが壁になっていくんですか? - 小林
- 『Wiiスポーツ リゾート』の場合は
キャラクターがMiiなので、
つくりがシンプルなんですけど、
リンクはリアルな人型ですから・・・。 - 岩田
- しかも、盾とかも装備していますしね。
- 小林
- そうなんです。それに、
『Wiiスポーツ リゾート』の「チャンバラ」は棒なので、
どんな向きで斬っても、軌跡さえ合えば問題ないのですが、
リンクが持っているのは剣ですから、
平たいところでペタンと叩くわけにはいかないんです。 - 岩田
- ああ、そうか。
刃先がちゃんと、斬る方向に向いていないと
二枚目リンクがかっこ悪くなってしまうんですね。 - 青沼
- そうなんです。
リンクがかっこよく剣を振ってくれないと困るんです。
手の先に剣がくっついていて、
それをただ動かすだけじゃあダメなんです。
そこで、最初の頃は、いろいろ実験をして。 - 小林
- 実験は何度も繰り返しましたよね。
- 藤林
- ヒジとか、骨格の研究もずいぶんしました。
- 青沼
- 当初は、人の動きを忠実に表現しようと、
すごくマジメにつくろうとしていたんです。
すると、リンクがなかなか、かっこよくならなかったんです。
そこで、あるところではウソをつくことも必要だろうと。 - 岩田
- つまり、動きのある部分にウソが入っても、
脳のほうでちゃんと補完してくれるんですね。 - 青沼
- そうなんです。
むしろ、そのほうが自然な動きになって、
それで「これで剣戦闘はなんとかなる」と。
しかも、思った方向に剣が振れるようになって、
敵と戦うときも、「どういう方向で斬ろうか?」と
意識しながらプレイできるようになりました。
ところがギラヒムという、とんでもないボスがいて、
こいつはそれを読むんですよ。 - 岩田
- 「読む」というのは、
どんな方向から斬りつけられるのか、
そのボスが先読みするということなんですか? - 青沼
- そうなんです。
しかもギラヒムは素手なんですけど、
「よし、こっちから斬ろう」とすると、
それを読んで、リンクの振った剣を
手でピシッと止めたりする敵なんです。 - 岩田
- 宮本さんが任天堂カンファレンス(※7)で、
「僕も苦しめられました」と言ってたヤツですね。
任天堂カンファレンス=「ニンテンドー3DSカンファレンス 2011」。2011年9月13日に開催された、ニンテンドー3DSの発表会のこと。
- 青沼
- そうです。宮本さんからは
「こんなん倒せるかっ!」って何度も言われました(笑)。 - 岩田
- “プレイヤー宮本、怒る”ですか(笑)。
- 青沼
- 怒るというか、猛烈に抗議されました(笑)。
でも、「ダメ」とは言わないんです。
だから、手ごたえは悪くなかったんでしょうね。
「どうしたら、倒せるようになるのか、
もっと直感的にわかるようにしてほしい」と。
- 岩田
- フェイントをすると倒せるんですよね。
- 青沼
- ええ、そうなんです。ギラヒムは
リンクの剣の動きに合わせて素手を動かすので、
そこでフェイントをかけるんです。
細かくはここでは言えませんが
「こいつをどうごまかして斬ればいいんだろう?」と
考えながら戦ってほしいんです。
あと剣の動きといえば、それよりも前に、
剣を「止める」というアイデアが出てきて・・・。 - 岩田
- つまり、剣というのは振って敵を倒すものだけれども、
止めて使うことができるようになった、ということなんですね。
その「止める」というアイデアは
誰が考えたんですか? - 青沼
- 宮本さん・・・だよね?
- 藤林
- 僕、いまだによく覚えているんですが、
夜中に突然、宮本さんに呼ばれて、
「止めたらええねん」と言われたんです。
「え、何をですか?」と聞いたら「剣」だと。
「止める」と聞いて、「そんなバカな」と思ったんですけど、
「止める・・・? ああ止めるんや。なるほど!」と、
しばらくして納得したんです。
で、深夜の話にはまだ続きがあって、
宮本さんは「止めたらええねん」と言ったあと、
「それでWiiリモコンを上にあげるんだ。
そしたら止めてる間にエネルギーがたまっていって・・・
そんで・・・剣ビームだ」と言われたんです。 - 岩田
- 「止める」が「剣ビーム」のアイデアに?
- 藤林
- はい。もともと宮本さんの頭のなかでは
「止める」ということと「剣ビーム」のアイデアは
まったく別だったと思うんです。
ところが、剣を自在に操るアイデアとして
「止めたらええねん」と言ってから、
「それで剣ビームだ」と、
その場で、別のふたつのことがつながったのが、
話を聞いている自分にもよくわかったんです。 - 岩田
- アイデアがその場でつながったということですね。
- 青沼
- そんなときはすごくうれしそうな顔になるんですよね(笑)。
- 藤林
- ええ、どや顔をされてました(笑)。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- まさにひとつのアイデアが
複数の問題を解決するという、とてもいい例ですね。 - 青沼
- そうなんですよね。
しかも、剣ビームが出せるようになって、
剣を振った方向に輪っかみたいなものが飛んでいくので、
「そういう方向に剣を振った」ということが
視覚でハッキリわかるようにもなりました。 - 岩田
- なるほど。
- 青沼
- それに、天に剣を掲げられるようになって、
『スカイウォードソード』というタイトルになりました。 - 岩田
- 「スカイウォード(SKYWARD)」というのは
「空のほうへ」という意味ですが、
それだけでなく、もう少し深い意味があるそうですね。 - 青沼
- そうです。
NOA(※8)のローカライズチームから聞いた話によると、
「Ward」という言葉には「何かを保護する者」という意味もあって、
「スカイウォード(SKYWARD)」というのは、
「空の保護者」または、「空に守られる者」の意味合いも
あるんだそうです。
NOA=Nintendo of America(任天堂のアメリカ現地法人)。
- 岩田
- へえ〜、深いですね。
それにしても、
高速に反応するWiiモーションプラスを使って
高速に動かす遊びを実現するだけではなくて、
「止める」ことを遊びにすることを考えた人は
すごいなと思ってたんですが、
宮本さんが言い出したことだったんですね。 - 藤林
- そうなんです。
- 岩田
- ちょっと悔しいですね、みなさん(笑)。
- 藤林・小林・田中
- はい。
- 青沼
- あー・・・悔しいなあ・・・。
- 一同
- (笑)
- 岩田
- で、今回は「止める」が画期的だと思ったんですが、
もうひとつは「Aボタンが空いた」。 - 青沼
- はい、空きましたね(笑)。
- 岩田
- これまでのシリーズでは、
Aボタンで剣を振るのが当たり前になっていましたけど、
Wiiモーションプラスを使うことで
「Aボタンが空いた」ことも今回の重要なポイントですよね。 - 青沼
- ええ、Aボタンを押さなくても
剣が振れるようになりましたから。 - 岩田
- その空いたAボタンを
どうやって活かそうと思いましたか?
- 藤林
- 新しい『ゼルダ』をつくるときは、
毎回、宮本さんから課題が出されるんです。
「何か1個、新しいアクションを追加しなさい」と。
で、僕は開発にかかわっていないんですけど、
たとえば『夢をみる島』(※9)では、羽根でジャンプすると。 - 岩田
- はいはい。
- 藤林
- で、『神々のトライフォース』(※10)では、
草を持ち上げられるようになりました。
そんな感じで、新しいアクションを追加することが、
新しい『ゼルダ』をつくるときのお題になっていたんですけど、
今回は、宮本さんから「今回はどうなの?」と言われる前に、
何かひとつ入れておこうと思って、
「ダッシュ」ができるようにしようと。
『夢をみる島』=『ゼルダの伝説 夢をみる島』。『ゼルダ』シリーズとしては初のゲームボーイ用ソフト。1993年6月発売。また、1998年12月には、ゲームボーイカラー用ソフトとし て、リメイク版の『ゼルダの伝説 夢をみる島DX』が発売された。
『神々のトライフォース』=『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』。1991年11月に、スーパーファミコン用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- それを空いたAボタンに割り振ったんですね。
- 藤林
- はい。もともとリンクは
ダッシュができても、壁や障害物に当たると、
ピタッと止まってしまうところがあったんです。 - 岩田
- 『神々のトライフォース』のときは
木や家にドシーンとぶつかって、
ひっくり返ったりしていましたよね。 - 藤林
- そうなんです。
そうなると、そこでゲームの流れが止まってしまうので、
「今回はどこに当たっても、何かしらリアクションができたり、
スピードを殺さない動きにしたい!」と強く思っていましたので、
「駆け上がり」というアクションをつくりました。 - 青沼
- その結果、剣で敵と戦闘したあとにすかさず、
Aボタンで壁を駆け上がるというようなアクションも、
ふだん剣でAボタンを使っていないからこそ
スムーズにできるようになったんです。 - 岩田
- 実際、映像なんかで、敵の上を駆け上がって、
背中に回り込むのを見たりすると
カッコいいですよね。 - 青沼
- 小さな崖や急な坂道を、タタタタッと
軽やかに駆け上がることもできますし。 - 藤林
- ただ、エネルギーが切れてしまうと、
リンクは息切れして、
肩でゼーゼー息をするんですけど(笑)。 - 岩田
- (笑)