『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』
第1回:「Wiiモーションプラスがもたらした新操作」篇
- 岩田
- 今回初めて登場した新しいアイテムについても
紹介してもらえますか? - 青沼
- たとえばカブトムシのかたちをして
飛んでいく「ビートル」はそのひとつです。 - 岩田
- あれは、虫型ロボット・・・
とでも言ったらいいでしょうか。 - 青沼
- ええ、そう呼んでいます。
でもあれ、最初はブーメランだったんです。 - 岩田
- え? ブーメランがカブトムシになったんですか?
- 青沼
- はい(笑)。
- 藤林
- 最初はブーメランがくるくるまわりながら、
ブーンと飛んでたんです。 - 青沼
- 「Wiiリモコンプラスを傾けて、
好きなように飛ばせると楽しいんじゃない?」
とか言って、実験をしていたんですけど、
「それってよく考えたらブーメランじゃないよね」
という話になって(笑)。 - 岩田
- 確かに(笑)。
- 青沼
- しかも、カメラも付いていくんですね。
そこで、その機能にふさわしいアイテムを、ということで
考えたのが、ロケットパンチです(笑)。 - 岩田
- ブーメランがいきなりロケットパンチ、ですか(笑)。
- 小林
- はい(笑)。そのとき、
モノをつかむ機能も付いていたんです。
なので「手のようなものを飛ばすといい」
ということになったんです。
- 藤林
- 最終的にビートルになりましたけど、
それを腕から飛ばすようになっているのは、
じつはロケットパンチの名残だったりするんです。 - 岩田
- なるほど(笑)。
- 藤林
- ただビートルは、リンクのいる場所から
どんどん先のほうまで飛ぶことができますので、
「やっかいなことになるだろうな・・・」と。 - 岩田
- ゲームシステムを著しく壊してしまうんですね。
- 藤林
- そうなんです。その時点で行ってはいけない、
見てはいけないものを、先に知ることになりますし。
それは最初からわかっていたんですけど・・・。 - 小林
- なので、地形スタッフからは、
ずーっと文句を言われてましたよね(笑)。 - 藤林
- そう、怒られまくっていたんですが、
怒りつつもスタッフが頑張ってくれて、結果的に
とても使い勝手のいいアイテムになったと思います。 - 岩田
- ただ、「『ゼルダ』の世界に、
なぜビートルのような文明的なカラクリが存在するのか?」
とか考えだすと、ちょっと不思議な感じがしますよね。 - 青沼
- でも、このようなカラクリが出てきたからこそ、
そこをふくらませていって、
今作の古代文明みたいな設定が生まれてきたんです。 - 小林
- そうですね。
- 青沼
- なので「発達した古代文明があった」という設定は、
じつは最初から考えていたわけではないんです。
だってロケットパンチなんですから(笑)。
- 岩田
- あははは(笑)。
じゃあ、ロケットパンチを考えなかったら、
古代文明という設定は
なかったかもしれないんですか? - 青沼
- 違うものになっている可能性はありますね。
- 岩田
- へえ〜。じゃあ、この章の見出しは
「ロケットパンチが生んだ古代文明」ですね(笑)。 - 一同
- (笑)
- 藤林
- でも、まさにそうで、
古代文明という設定が生まれることで、
「この人はロボットにしようか」とか、
「ここは古代遺跡にしよう」とか、
お話をどんどんふくらませることができたんです。 - 岩田
- 確かに『ゼルダ』というのは
先にお話ありきでつくるものではないですからね。
はじめにストーリーを考えて、
設定を考えて、企画書を書くというのと
真逆のゲームづくりなんですよね。
もちろん、どっちもありなんですけどね、世の中は。 - 藤林
- そうですね。
ただ、『ゼルダ』のようなつくり方は
パズルを解くような感じで、すごく楽しいんです。 - 田中
- そうなんですよね。
- 岩田
- みなさん、そういうことが好きなんですよね。
“身体をねじって着地する”みたいなことが(笑)。 - 青沼
- ああ、なるほど。
ぶかっこうに身体がねじれてても、
ピタッときれいに着地できると
すごく気持ちいいですからね(笑)。 - 藤林
- 確かにそうですよね。
あと、「まほうのツボ」も
3Dの『ゼルダ』では初登場のアイテムです。 - 岩田
- ああ、いろんなものを吹き飛ばす「まほうのツボ」ですね。
あれはどうやって生まれたんですか?
- 青沼
- あれは藤林さんが昔、
『ふしぎのぼうし』(※11)をつくったときに
初めて登場したアイテムなんです。
『ふしぎのぼうし』=『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』。2004年11月に、ゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された、アクションアドベンチャーゲーム。
- 藤林
- 何でもできるんですよ、まほうのツボって。
僕、まほうのツボが大好きなんです(笑)。 - 岩田
- 確かに「困ったときは、まほうのツボ」
みたいに使えそうですしね。 - 藤林
- 「こんなこともできるんだよ。
だって、まほうのツボだもん」と言えますので。 - 岩田
- (笑)
- 藤林
- やっぱり摩訶不思議なものがあると楽しいですし、
いろんなことができる器を
はじめから用意しておいたほうがいいだろうと。 - 青沼
- なので、まほうのツボは、
いろんなものを「吹き飛ばす」ことができるんですけど、
最初は「吸い込む」こともできたんです。 - 小林
- ああ、そんな実験もやってましたね。
- 藤林
- 吸ったり吐いたりする、まほうのツボだったんです。
- 小林
- で、ホースの水勢を調整するような感じで、
ツボの口を絞ることもできたんです。
なので、ツボの口をひねると、
遠くのほうまで吹くことができたんですけど・・・。 - 田中
- リンクの背中から見ると、
ツボの口がまったく見えないので、
「どうなってるのか、よくわからん」と(笑)。
- 青沼
- まったく見えないんです(笑)。
そこで「吹く」だけにして、
それでも十分いろんなことができることがわかったんです。
そこで、モノが吹き飛んでいく手ごたえを
どんどん磨いていこうという方向に絞り込んでからは、
すごくいいアイテムになったと思いますね。 - 藤林
- あとムチもありますよね。
- 青沼
- そうそう、ムチね。
2010年のE3(※12)のときに
岩田さんから「ムチ、いいですよね」と言われて。 - 藤林
- あのひとことで決まりましたね。
- 青沼
- そう。あのひとことで
ムチをどんどん磨いていくことになりましたから。 - 岩田
- え、わたしのひとことでそうなったんですか?
- 藤林
- そうなんです。
もちろんムチは『大地の汽笛』(※13)にも
出てきたアイテムなので以前からつくっていたんですが、
正式に採用するべきか迷っていたんです。
で、E3前に岩田さんに、
開発中のものを見ていただける機会があったので、
「せっかくだから、ムチも見られるようにしておこう」
という話になって、そしたらものすごく反応がよくって・・・。
2010年のE3=Electronic Entertainment Expo(エレクトロニック エンターテインメント エキスポ)の略で、年に1度、米国のロサンゼルスで開催されるコンピューターゲーム関連の見本市のこと。2010年のE3では、来場者が『スカイウォードソード』を初めて体験することができた。
『大地の汽笛』=『ゼルダの伝説 大地の汽笛』。ニンテンドーDS用ソフトとして、2009年12月に発売されたペンアクションアドベンチャーゲーム。
- 岩田
- だって、うれしかったんですよ(笑)。
- 田中
- じつはあのE3まで、ムチって、
そんなにフィーチャーされてなかったんです。 - 小林
- 生まれたてのアイテムでしたし。
- 岩田
- そしたら妙に食いついた人がいたと(笑)。
- 青沼
- そうですそうです(笑)。
なので「これはやるしかないな」と。 - 藤林
- 「これはかなりいけそうだ」と、手ごたえを感じ
そこからムチを本格的につくりはじめたんです。 - 田中
- それで、Wiiリモコンプラスを振ると、
モノを引っ張ったりできるようになりましたし。 - 青沼
- 敵からカギを奪うとか、
そういうこともできるようになりましたしね。 - 小林
- あ、そうなんですけど・・・。
- 青沼
- え?
- 小林
- それって、ネタバレ・・・大丈夫ですか?
- 青沼
- うん、大丈夫。
だって、最初に岩田さんが言ったように、
今回の『ゼルダ』は、「ネタ密度が濃い」から。 - 小林
- 確かにそうですね(笑)。